「紆余曲折」
大変遅くなりました。
どうにも据わりが悪い部分が有ったので、修正しました
祐二に対する一通りの説明を終えたところで、いよいよ卯華姫様の分霊を作る作業が始まった。性格や能力などのアウトラインは、昨夜の内に二柱の間で決められている。
だから後はその入れ物と成る部分を作成する訳なのだが、どうやら雨子様は、その工程を捉えて祐二に実地の知識を、教えていくつもりらしかった。
「さて祐二よ、これよりこの中味を取り出していかねばならんのじゃが、手伝うてくれるかや?」
そう言いながら雨子様は、青い空間の中に山積みにされているCPUを指差した。
先程、雨子様自身の手で少し作業を行っているところを見ていたので、何をやりたいかは分かる。
「で、どうすれば良いの?」
祐二がそう言うと、雨子様は手招きをしながら言う。
「まずはこの空間内に手を入れ、一つ掴み取るが良い」
言われるがままにまず、その空間の中にそっと手を差し込む祐二。
「なんだろう?少し圧迫感があるけれども暖かい?」
雨子様は微かに頷くと、その事象について説明してくれる。
「まずその圧迫感は、空間内外のエネルギーレベルの格差によるものじゃ、そして暖かく感じるのは、祐二の手が内部空間から完全に絶縁されて居ることを示して居る」
「絶縁されると暖かいの?」
不思議そうな顔をする祐二に、雨子様は丁寧に説明してくれる。
「一部情報伝達が行われる以外は、ほとんど全ての物を絶縁して居る。と言うことは熱に対しても同様なのじゃ」
その言葉に祐二はなるほどと頷く。
「そうか断熱されているのと同じことなんだなあ」
「然り」
「だとすると…」
そう言うと祐二は、一度手を空間から抜き去り、部屋から出て直ぐに戻ってきた。
「何をしに行って居ったのじゃ?」
訝しげに尋ねる雨子様に、祐二はタオルを掲げてみせるのだった。
「この中で作業をするのなら、汗対策にこれがいるかなって思って…」
だがタオルを見ても、雨子様には全くぴんとこなかったようだ。
「汗対策?何故にその様なものが必要なのじゃ?」
「だってこれ…」
そう言うと祐二は青い空間を指差す。
「断熱性の良いゴム手袋をしているみたいじゃ無い?さっきちょっと手を突っ込んでいるだけでも、もうじんわり手に汗をかいたんだよ」
そうやって祐二に説明された時点で、はっとする雨子様。
「成るほどの、ようやっと分かったのじゃ。考えてみれば人間には、汗の出る出無いをコントロールする術は無かったのじゃな」
思わぬところで祐二の身体との差異を感じる雨子様。その雨子様、何故かじっと自分の手の平を見つめているのだった。
「まあ良い、では続きじゃ、また手を差し込むが良い」
言われるがまま祐二は空間に手を差し入れ、傍らの雨子様がやっているのと同じようにCPUを手に持った。
「ではその構造物の上下に、それぞれ左右の手の平を押し当て、気の力で以て一気に上下に引き離してみるが良い」
言われるがままにやってみる祐二。一度目は気を生成するための集中が上手く行かずに失敗。しかし二回目はほとんど力を入れること無く、ぱかりと分けることに成功した。
「全く音がしないんだね?」
奇異な感じがするのでそう祐二が口にすると、雨子様は笑いながら言う。
「当然じゃ、音というものも、その境界にて途絶されて居るからの」
なるほどと感心する祐二。
「ではここからは二人で手分けして、全ての殻を割るぞ?良いかや?」
黙って頷く祐二、その後二人はただ黙々と殻割りに入るのだった。
その最中、卯華姫様はと言うと、にこにこしながら二人のことを見守っている、
だがそんな時間もそう長くは続かなかった。
成れてくると一つの殻割りをするのに、然程の時間も掛からないのだ。
「ふむ、やはり手があると助かるの?」
全ての殻を割り終えた雨子様は、嬉しそうにそう言うと、作業の終了を告げた。
「さてここからの作業は、祐二の手に負えるものでは無いものに成る。じゃがさわりだけでも見せてやろうと思うのじゃがどうする?」
気では扱えない領域に入るというので、これ以上はどうしようも無いのだなと少し諦めていたところに、この提案である。祐二は一も二も無く飛びつくのだった。
「見たい!見たいです!」
そうやって祐二が大いに好奇心を示してくれたことが、雨子様には余程嬉しかったのだろう。にこにこ顔で作業の手順を教え始めるのだった。
「取り敢えず見せるのは一個だけで良かろう」
そう言うと雨子様は部品を一つだけ手に、勉強机の前へと移動した。
当然部品はそれ一つのみでも、ちゃんと青い空間に包まれている。
そして椅子に腰掛けると祐二に側に来るように言う。
その後雨子様は、肩越しに部品を覗き込みながら、手を伸ばすようにと、祐二に指図する。
そこで祐二が言われた通りにしようとすると、丁度雨子様の肩に、祐二の顎がひょいと載っかるような感じになる。
当然のことながら雨子様の顔とはもう触れるか触れないかの距離。
祐二にしてみれば、雨子様の髪が頬に触れてくすぐったいやら、良い香りが立ち上って鼻腔をくすぐるやら、もしかするとこれはハグを試みるよりも密着度が高い?
そんな事を思えば思うほど高鳴っていく心臓。
別に何かふしだらなことを想起している訳でも無いのに、どんどん顔まで熱くなっていくし、喉がカラカラに干上がっていく。
「ぷっは~~~」
何だかもう我慢出来なくなって、そう声を上げると後ろに仰け反る祐二。
急に指示した場を離れる祐二に、お前は一体何をやっているのだとばかりに睨み付ける雨子様。
「ほれ、何をして居るんじゃ?早う教えた通りにせぬか?」
剰え叱責までされてしまう。
「そ、そんな事言われても~~~」
だがこんな時に限って、真正のにぶちんである雨子様は、容赦なく祐二に命令するのだった。
「ええい、時間の無駄じゃ、早う頭を持ってこぬか?でないと我の視野に祐二の視野を重ねることが出来んではないか?折角我が手取り足取り、作業の一部なりとも教えてやろうと思うて居るのに、やる気はないのかや?」
さすがにここまで言われてしまうと、祐二ももう必死で有る。
「わ、分かったよ…」
そう言うと必死の形相で、雨子様の肩に自分の顎を載せようとする。しかし余りに間近にある為、雨子様自身には、祐二がどんな表情をしているかなど分かりようも無いのだった。
「前に手を伸ばすが良い。我がその手を捉えて導く故、言うた通りに動かすが良い」
このスタイル、手の位置こそ違うが、有名な海洋スペクタクル映画に出てくる、とある男女の取るポーズに実に良く似ている。それはまあ祐二が照れまくったとしても、仕方の無いことなのだった。
「今から神力を展開して、必要部位の映像を拡大する」
そう言うと雨子様は、祐二の手指を操りながら、独特の動かし方をしていく。見る間に目の前の部品が拡大されていき、詳細な部品構造が手の平ほどの大きさに見えて来る。
「祐二よ、これがCPUの部品に当たる、素子とやら言うものじゃ。そして今からこの一つに、我らの持つ呪を書き込んでいくのじゃが…」
そうやって雨子様が説明している間にも、彼女の髪が祐二の頬をくすぐり、立ち上る香気がじわりと身体に染み込んで行く。お陰で祐二の心拍数は無限に跳ね上がっていく。
が、祐二は今度ばかりはと決意して、何が何でもとそんな状況に耐え抜いているのだった。
だがそうやって健気に耐えている祐二だったのだが、知らぬが仏とばかりに全力を尽くす雨子様が、懇切丁寧な説明と作業を終えた頃には、すっかりと限界を迎えているのだった。
「ガタンッ!」
と音をさせたかと思うと、後ろにひっくり返って白目を剥く祐二。
急に肩に有った圧が無くなったかと思うと、異様な音がしたことに驚く雨子様。振り返ると祐二が、その場に仰向けになって伸びてしまっている。
「ふへっ?祐二?一体どうしたと言うのじゃ?」
驚き慌て、狼狽えまくる雨子様。祐二の傍らに行くも、どうして良いか分からずにただおろおろするばかり。
「祐二、祐二」
必死になって名を呼びながら、その身体を揺すぶるのだが、此所に来て卯華姫様が動くのだった。
「雨子ちゃん、雨子ちゃん、そないに揺すぶったらあかんよ?慌てんでもええからそのままそっとしとき」
卯華姫様のその言葉にも、雨子様は半泣きになりながら言う。
「そうは言うがの?突然なのじゃぞ?突然この様に…」
そう言う雨子様に卯華姫様は優しく言う。
「何を慌てて居るのじゃ、祐二君はただただ、雨子ちゃんの色香に酔うただけなんよ?」
しかし雨子様にしてみると、丸でなんのことを言っているのか分からない。
仕方無く卯華姫様は、噛んで含めるように話して聞かせるのだった。
「元より大好きでたまらない女の子に引っ付けるだけ引っ付いて、剰えその香気を吸い続けていたら、年頃の男の子ならそうなってしもても、仕方が無いのとちゃいますか?」
と、卯華姫様がそんなことを言っている側から祐二が目を覚ました。
「あ~~~、死ぬかと思った…」
ボチボチと身体を起こす祐二のことを睨み付けながら雨子様が怒る。
「死ぬかでは無いわ!急に倒れた其方のことを見ていた我の方が、余程死ぬかと思うたわ!」
そう言いながら怒りの余り、起き上がってきた祐二の胸板を、両手を使ってぽかすかと殴りつける。
「いたたたた。な、何を怒っているの雨子さんは?」
目を覚ましたての祐二こそ良い面の皮である、何が起こっているのかさっぱりと分からないのだった。
「どうもこうも無いわ!我がせっせと其方に物事を教えて居ったというのに、気がつけば後ろにひっくり返っており、気を失うとは一体何をやっておったのじゃ?」
此所に来てようやっと祐二は自体を理解することが出来たのだった。
そして仕方なしにどうして自分がそう成ったかについて、渋々にでは有るが雨子様に説明し始めるのだった。
「だってね、雨子さん。その、あの、…に引っ付いて…」
もしょもしょと口の中で呟くように言うものだから、なんのことか全く分からない雨子様はじれったくて仕方が無い。
「何を言うて居るのじゃ?訳が分からぬわ!」
半分切れ加減になるのだった。
さすがに祐二もことここに至っては、きちんとした説明をしないことには、雨子様の怒りが収まらないかと思うのだった。なので自身の羞恥の思いは一端置くとして、真剣に話をし始めるのだった。
「だからさ、好きな女の子にこれでもかって言うくらいに引っ付いて、おまけにその女の子から良い匂いがしまくっていたら、これはもう、僕にとっての有る意味地獄だよ?それでも何とか息するの堪えて頑張っていたら、頑張り過ぎて…」
そこまで話していて祐二は、今度は雨子様の様子がおかしいことに気がつく。
「…好きな女の子って…良い匂いって…きゅぅぅ…」
今度は雨子様が目を回してひっくり返ってしまう。余りの恥ずかしさに、心と体のバランスが取れなくなってしまったらしい。
傍らでそれを見ていた卯華姫様、それこそ腹を抱え、仰け反りながら大笑いをしている。
「あはははははは、いくらなんでも面白すぎ~~面白すぎるわぁ~~~」
その卯華姫様の馬鹿笑いが納まるには結構な時間が掛かった。
結局その後、雨子様が目を覚まして、真っ赤になりながら祐二と和解し合うには、随分時間が掛かってしまったそのせいですっかりと気力を失ってしまった雨子様。何とか気を取り直して作業に取りかかれたのは、夜、日が暮れてからになるのだった。
ここ暫く書くのに手間取ることが多すぎ。
一体どうしたものか・・・
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