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天露の神  作者: ライトさん
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「勉強会一」

遅くなりました


 卯華姫様に笑われてしまい、雨子様がぐぬぬと言う顔をしているところに、祐二が戻ってきた。


 手に持った盆には三人分のお茶と、茶菓子が載せられている。

祐二はそれを机の上に置き、茶やお菓子を配りながら雨子様に尋ねるのだった。


「一体何だってそんな妙な顔をしているんです?」


 だが本人は、そう言われるほどおかしな顔をしているつもりは無かった。

だから一体何を言っているのだとばかりにむくれるのだが、美味いお菓子とお茶を口にすると、その機嫌もたちまちにして直ってしまうのだった。


 そして人心地したところで、雨子様は作業に掛かることにする。

まず最初、布の上で小山になっている部品の周りに、薄い青色のとばりのようなものを広げる。


「何なのこれ?」


 不思議に思った祐二が、早速に好奇心のままに聞いてみる。


「これは一種停滞空間じゃの。これを使用することで、内部にある様々な塵を一掃することが出来るのじゃ。その後こうやって全体に広げると…」


 帳に見えていた物がすっと広がり、内部の空間その物を薄い青色に染めていく。


「こうすることで静電気を抑え、清浄な状態で作業を行い続けることが出来る様になる。後は簡単じゃ」


 雨子様はその空間の中にひょいと手を突っ込むと、手近にあった部品の一つを掴み、簡単に殻を割って、中味のチップだけを取り出していく。


「え?そんなに簡単に割れるものなの?それに手でいじって大丈夫なんですか?」


「うむ」


 説明を続ける雨子様は実に楽しそうだった。


「この空間に手を突っ込んでいくと、外側の通常空間との境界が薄く広がり、丁度手袋のような役割をして、直接手が触れることを防いで居るのじゃ」


「おお!」


 祐二が感心してそう声を上げていると、卯華姫様がそんな彼のことを優しい目で見つめているのだった。まるで幼稚園児を見つめる、お母さん宜しく?


「後はじゃな、手先から気の力を放出して、その力で以て殻を割り、内部の部品を取り出せば良いのじゃが、その前に一度我らの使う力について、説明していこうと思う」


 そう言う雨子様の言葉に、祐二は実に嬉しそうに頷くのだった。


「いよいよ今日の本題と言うことですね?」


「うむ」


 そう言うと雨子様は、盆の上に載った自分の湯飲みを見るのだが、中味は既に空。

寂しそうにしていると、卯華姫様が笑いながら言う。


「うちは今のところすることあらへんみたいやから、お茶貰ってきて上げるね」


 そう言うと盆を掲げて部屋から出て行くのだった。

その後ろ姿を見送った後、雨子様は話の続きを始める。


「今までは話したところで、祐二には今一実感出来ないで有ろうということで、敢えて詳しく話してこなんだ。じゃが今はある程度必要なだけの修行を積み、気の流れなどに対する感覚も、それなりに掴んできて居るようで有るから、良い機会じゃと思うての。一度合理を以て話す故、ように聞くが良い」


 祐二はうんうんと頭を振ると、雨子様の次の言葉を待つのだった。


「まず最も低位のエネルギー、精についてなのじゃが、実はこのエネルギーは生きるということに密接に繋がって居って、生きて居るものそのほとんどがこのエネルギーを持って居る」


 それを聞いた祐二は不思議そうな顔をしながら質問をする。


「でもそれなら雨子さん達神様は、どの生き物からでもその精を貰えることになるよね?」


「うむ、端的に言えばその通りじゃ。だが先程言うたであろ?精は生きるということ、つまりは生命活動その物と密接に繋がって居ると。そうで有るが故、もし我らが無理に生物からこの精を取り上げたらどうなるか?結果はその生物の死で以て終わるのじゃ」


 ショックを受けた様子の祐二が尚も問う。


「そんな、全部取るとかじゃなくって、一部だけ分けて貰うとか出来ないの?」


「そうじゃの、我らもそう思うて居ったのじゃが、実のところ、この精のエネルギーは非常に強固に生命その物に結びついて居る。であるが為に、引き離そうとすると、いかに注意を払おうとも一気に引き剥がされてしまって、相手の命を奪うことを防げぬのじゃな」


「それは…」


「うむ、我らも非常に困った。そして基本我らは他者の命を理由無く、それが自分の命の維持のためであったとしても、奪うことは出来ぬ様、一つの禁忌として条件付けされて居る」


「ああ、だからこそその辺が条件付けされていない付喪神達が暴走すると、恐ろしいのですね?」


「そうじゃ、ちゃんと理解出来て居るな?偉い偉い」


 そう言いながら雨子様は、ふと手を伸ばしかけて逡巡する。

それを見ていた祐二は思わず苦笑しながら言う。


「良いよもう、でも勉強会の間だけだからね?」


 そう言うと自ら頭をひょいと雨子様の前に差し出す。実のところ、雨子様に頭を撫でて貰えるのは自身も嬉しいのだが、そこは内緒の話なのだった。


 その頭のことを実に嬉しそうに撫でる雨子様。そのくせ時に確りと祐二に甘えるのだが、余りその辺ことは自覚に無いらしい。


「で、その精というエネルギーは、比較的低位なエネルギーのため、非常に効率が悪い。無理をすればそのままでも使えぬでも無いが、思いっきり集中させて、せいぜい僅かに病が治り易くなるくらいのものなのじゃ」


 そこへ卯華姫様が戻ってきたので、早速に雨子様は湯飲みを貰い、喉を潤す。

祐二もまた手づからに湯飲みを受け取ると、頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございます卯華姫様」


 そう言う祐二に、卯華姫様は目に染み込むような笑みを返すのだった。


「さてその精なのじゃが、誠に不思議なことに、そなたら地球人類、特にこの島に住まう日本人達は、何故か自らの命を危険に晒すこと無く、他者に与えることが出来るようなのじゃな。これがいかなる理屈なのかはように分からぬ、ただ可能性としてはその精神の在り様にあるのでは無いかと言われて居るの」


「精神、つまりは心の在り様?」


「うむ、正にその通りじゃな。そして元を辿れば病を得たものや、怪我をしている者に対する手当、その行為が発端に成って居るらしい」


「手当?」


 聞き慣れぬ言葉の使い方に祐二が少し首を傾げる。


「僕達が通常使う傷の手当てとは、少し意味合いが違うんだよね?」


「ちゃんと気がついて居るのじゃな?」


 そう言うと雨子様はひょいと手を伸ばして祐二の頭を撫でる。うん、とっても満足そうだった。傍らの卯華姫様はそれを見て失笑している。


「我の言う手当とは、それら弱った者の患部に手を当て…正に手当その物じゃな…その者が良くなることを願うという行為全体を言うて居る。そして即ちそれこそが我らの言う意味の祈りなのじゃ」


 そこまで言うと雨子様はお茶を一口啜り、ごくりと喉を鳴らした。


「実際その手当に於いては、施す側の身体から精のエネルギーが伸び出て、施される側に伝わり、そしてその部位にて解放される。その解放された精は直ぐさま相手の精に吸収され、その生命活動をより活発化させ、病や傷を癒やす速度を上げることに繋がるのじゃ」


「ほわ~~、痛いの痛いの飛んで行けも、あながち無駄では無かったんだなあ?」


 暢気な口調でそう言う祐二の言葉に、雨子様は思わず吹き出してしまう。


「ぷふぅう!祐二、其方…まあ良いは、らしいと言えば非常にらしいの」


 当の祐二は、何故に笑われているのか、今一良く分かっていない様子だったが、早々と理解することを諦めたようだった。


「まあ結果、そう言う手当から変化していった祈り、この行為によって、まみえたばかりの我ら神々は、そなたら人の命を奪うこと無く、その精のエネルギーを分けて貰えることに気がついたのじゃった。もっともその原初の状態では、貰える精のエネルギーの量が余りに少なかった。なのでもうちっと力強う生きていけるように進化を促したり、心の在り様に少しばかり干渉して、より良い形で祈って貰えるように、などと働きかけをしたのじゃ」


「で、その積み重ねが、今の僕達と神様の関係って言う訳なんだね?」


「まあそう言うことじゃな。じゃが現代に至って何も問題がない訳ではない。何故なら、そなたら人間は大いに科学技術を発展させ、色々な問題を自らの力で解決していくようになり居った。結果少しずつ我らへの信仰心が衰え、祈りの力が薄れていって居る」


「む~~~~」


 それを聞いた祐二は、何やら随分深く考え込むようだった。


「だが今後その問題も何とかなるじゃろう」


 そう言う雨子様に目顔で当祐二、傍らで卯華姫様もその答えを知ろうと見守っている。


「まず一つ目は、先達ての龍像の事件による、信仰心の回復じゃの」


 そこまで言うと雨子様は卯華姫様に向かった。


「卯華姫、其方、宇気田神社でその辺りの話は聞かなんだのかや?」


 すると卯華姫様は、普段の立ち振る舞いとは全く異なって、激しく頭を振るのだった。


「聞いた聞いた、何や偉い大変やってんねえ?祐二君は一遍死んでしまうし、雨子ちゃんも危なかってんてねえ。あ、ついでにちゃんと爺様の話も聞いているからね?」


 なるほどそうかと、話す手間が省けていることを喜ぶ雨子様。


「こほん、さて話を続けるかの。そうやって信仰心が回復したというのは、全国に居る我らの眷属にとって、大いに役立つこととなった。そればかりか丁度その頃、我によって偶々なのじゃがな、開発された疑似宝珠によって、食物から精を得ることが出来るようになったのは大きいの。これがあれば、もはや人の精に頼ることも要らぬ」


 そう言う雨子様に祐二が不安げに、そして寂しそうに言う。


「ねえ雨子さん。だからって神様方は、人と決別したりはしないよね?」


 すると雨子様はびっくり眼をしながら祐二に言うのだった。


「何じゃ祐二、その様なことを思うて居ったのかや?」


「だってそもそもの始まりは、神様方の生存に必要なエネルギーを、得るための結びつきなのでしょう?もしそれが不要になるのなら、僕達の願いを叶えることなんて、神様方にとっては不要なことになるのでは無いの?」


 祐二のその言葉に驚いた雨子様は、まじまじと卯華姫様と顔を見合わせる。


「でも雨子ちゃん、今の言い方やったら、ああ思われても仕方無い部分もあるのと違います?」


 卯華姫様にそう諭された雨子様は、頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。


「まあ確かに言われてみれば、舌足らずじゃったかも知れんの。確かに大本の始まりは、其方の言う通りで有ったのは否め無い事実じゃの。じゃがそれだけに終わったのは、あくまで本当に最初の頃だけのこと」


 そう言うと雨子様は、微かに不安げな表情をしている祐二の目を覗き込むのだった。


「そう言った大昔の頃から長い時間を掛けて、祈りを捧げる人間と、その祈りに応えて願いを叶える我ら神々は、精や祈りや願いの遣り取りをただ行うだけで無く、様々な思いでも繋がるように成って行き居った。色々行き違うことも偶にはあったが、我らにとって人は愛し子にも似て居るのじゃ」


 そう言うと雨子様は、これまでのものとは異なった思いを込めて、優しく祐二の頭を撫で付けるのだった。


「では神様方が、僕達人間の元を離れてしまうと言うことは無いのですね?」


 そう言う祐二に雨子様は大きく頷いてみせる。


「当然ぞ、まして誰よりも其方を愛おしく思う我が離れることなぞ、星が滅んだとしてもあり得ぬことじゃ」


 そう言うと雨子様はそっと祐二の元に近づき、その額に自らの頭をこつんとぶつけてみせるのだった。

 そしてそんな彼らのことを、卯華姫様は何とも好ましく思い、幸多かれと念じながら温かな思いで、満ち足りた笑みを浮かべるのだった。




今回、このまま書き続けると長くなりすぎるので、一端分けることにしました。

ちょっと面倒かなと思われるかも知れませんが、大切な事柄の説明回です




いいね大歓迎!


この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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