「お休みなさい」
子どもの頃から読むことが好きで、そして時折手慰み程度に書くこともやっておりました。けれどもそれだけでは飽き足らず、もし読んで下さる方が少しでも見つかるなら、読んで頂き楽しんで欲しい。
そう思ってここに載せるようになりました。
既に拙作品を読んで下さっている方ならお分かりだと思いますが、山は有るには有りますが、有る意味とても冗長かなと思います。
ただ、その辺りは少しばかり大目に見て頂くとして、より力を入れているのはごく当たり前の人間と、神様という特別な存在が一緒に生活したらどんなことになるのか?そう言ったところをより身近な目で捉えて書くようにしています
なので適うならそう言った人と神様のやることなすことw
そしてそこから派生する様々な感情、そう言った物を見て味わって楽しんで頂けたら、嬉しいかなと思います
あんまり肩に力を入れずに気軽に読んで下さい
日中の喧噪が収まり、家の中に居ると外からの音は何も聞こえない。窓の外は真っ暗で、その分室内の灯りが、よりいっそうの安心感を生み出している。
吉村家のリビングでは、皆がのんびりとした時間を過ごしながら、お茶を啜ったり、お喋りをしたり、本を読んだり、居眠りをしたりしているのだった。
そうやって穏やかな時間を過ごす内に、やがてに苦しいほどだったお腹も熟れ、雨子様は卯華姫様を伴って風呂へ向かうのだった。
小和香様に聞いた話しによると、宇気田神社の温泉については随分楽しまれたそうだった。だが個人宅のお風呂となると、色々と勝手が違うことも有るかと思い、今回だけと言って一緒に入ることにしたのだった。
令子も一緒にと思って居たようなのだが、いくら何でも三人だと手狭なので、渋々諦めたようだった。
ならばと祐二に、一緒に入る?と冗談で聞くと、ぎろりと雨子様に睨まれた祐二は、青くなりながら懇願するのだった。
「令子さん、勘弁して下さいよ~~」
その様子が余りに情けない姿だったので、ぷっと吹き出してしまう令子。
だがそんな令子が、ほんの一瞬見せた僅かな陰を見逃さなかった節子が、素知らぬ顔をしながら誘いを掛ける。
「なら令子ちゃん、私と入る?」
他から誘われるなどと言うことを、考えていなかった令子は、一瞬きょとんとした後、嬉しそうに言う。
「わぁ、嬉しい節子さん!」
そう言いながら令子は節子の元に行き、その首元にきゅうっとしがみつくのだった。
卯華姫様を伴って部屋を出かけていた雨子様が、その様子をちらりと目に収めて小さく呟く。
「良かったの、令子…」
そんな雨子様の言葉を耳聡く聞いて居た卯華姫様が言う。
「雨子さんは本当にお優しいのですね、けど今は何や特別感があるんですけど、最前令子さんと何か有りはったんですか?」
雨子様は卯華姫様のそんな言葉を軽く受け流すと、「まあの」と言いつつ小さく頷くのだった。
幸いなことに浴室内で然したる事は起きることも無かったのだが、敢えて言うなら卯華姫様持ち前の好奇心が発揮された。
入浴剤や洗髪剤など、宇気田神社の温泉備え付けの物とは異なる物を見る度、あれは何?これは何と質問しまくり、大いに雨子様を閉口させたのだった。
だがそれ以外はこれと言ったことも無く、卯華姫様は満足して風呂を上がり、ダイニングにて乳酸飲料を飲みながら、ご満悦の表情をされたのだった。
「なんですのんこれ?牛の乳と同じ色やのに全然味が違うんですね?ええ甘さ、好きやわぁ」
幸せそうにぐいぐいと飲んでいると、当然のことながらあっという間に無くなってしまう。雨子様はと言うと、のんびり楽しみながら飲んでいるのだが、その様を見ながら物欲しそうに見つめる卯華姫様。
少しばかりは放って置いた雨子様なのだが、直ぐにその視線に耐えられなくなって言う。
「其方は一体子供かや?自分の分はもう飲んだであろ?」
すると寂しそうな顔をしながらぼそぼそと言う卯華姫様。
「そうなんよね、余りに美味しいから嬉しゅうなって、ぐいぐい飲んどったら、直ぐにのうなってしまいました…」
そう言いながら雨子様が喉を鳴らしながら飲む様を、指を咥えて眺めている。
これは堪らん、どうしたものかと雨子様が思っていると、そんな卯華姫様の前に新しいグラスがひょいと置かれる。
雨子様の苦境を見ていた節子が、もう一杯乳酸飲料を入れて卯華姫様に出してくれたのだった。
「わぁ嬉い、おおきに節子さん。何や催促したみたいで申し訳ないわぁ」
そう言う卯華姫様に、雨子様は遠い目をしながらぼそりと言う。
「事実して居ったでは無いか…」
だが卯華姫様はそんな雨子様の愚痴など一切聞いて居らず、今度こそはとじっくりと味わいながら、惜しみつつその飲料を飲み干していくのだった。
「しかし雨子ちゃん、今の人間達って本当に美味しい物ばっかり、飲んだり食べたりしてはるんやね?」
卯華姫様は再び飲み干してしまったグラスの中の氷を、指で突っついてからからと音をさせながら言う。
「そうじゃの、尤もこの日の本の国の者は、特に食に拘るらしいからの。他の国も皆同じで有るかというと、そうも無い」
それを聞いた卯華姫様は目を細める。
「一応知識としてはこの国以外にも、他に沢山国があることは知っとります。けどそないに差が有るんですか?」
そう言いつつ何とも不思議そうな顔をする卯華姫様。
「うむ、大いに差が有るようじゃの」
雨子様のその言葉を聞いた卯華姫様は、少しばかり物思いに沈む。だがそうこうする内にまた質問の言葉が口から生まれてくる。
「うちは長いこと寝とったからようは知りません。けどもしかして、雨子ちゃんら神様方が、この国の人らに何か働きかけでもしたん?」
さすがにこの質問に対しては、雨子様も即答しかねるのだった。
「私達もお風呂に入ってくるわね?」
節子がそう言うと、令子と共に浴室に向かう。雨子様は気もそぞろに頷くだけなのだったが、卯華姫様は二人に対して小さく手を振り、にっこりと微笑んでみせる。
気がついた令子が去り際に、同様に手を振って返しながら部屋を出て行く。
「ほんまあの子もええ子やな…」
そう呟くように言う卯華姫様に、雨子様が暫し遅れた返事を返してくるのだった。
「うむ、我の知る範囲ではあるが、この事柄に限定して言うならば、我ら神が変化に足るだけの影響を与えたとは思えぬの?」
そう言うと手を伸ばして卯華姫様のグラスを預かり、自分のと共にキッチンへと片付けてくる。そして帰ってくる成り卯華姫様に言う。
「そろそろ部屋に戻るぞ?」
その言葉に卯華姫様はこくりと頷いたかと思うと、小さく欠伸を一つ。
「何やこの身体で居るとよう眠なるわ」
「神の身で居る場合とは違って、自然肉体からの疲れで眠うなるからの」
「そうやねんね、未だ今一よう分からへんのですけど、けど、この眠気に誘われてしっかり寝た時は、起きた時が凄い気持ちええですね」
「確かにそれは有るかもしれんの」
そう言うと雨子様は先に立って、自分の部屋へと卯華姫様を導いていくのだった。
そして部屋に入る成り卯華姫様は、ぐるりと室内を見回す。
「これはまた…」
そう言う卯華姫様に苦笑する雨子様。
「狭いかや?まあ和香のところや其方のところに比べたら狭いかもしれんの。じゃが我の社から見れば十二分に広いのじゃがな?」
そう外連無く言う雨子様に思わず卯華姫様は目を剥く。
「なあ、雨子ちゃん言いはったら、元々は知恵の神様とちゃいはりますの?」
「まあ本を正せばそうなのじゃが、何か言いたげじゃの?」
「それはそうですよ、そないな御方が、何故またその様に小さなところに?」
卯華姫様はそう言うと悲しそうに眉を下げた。
だが雨子様は悲壮感など全く無しにあっけらかんと言う。
「これ、その様に悲しそうな顔をするでない。本より我は余り大勢の人と係わることが苦手じゃったのじゃ。そんな我が智の神と崇め奉られて、大勢に囲まれるのはちと辛かったのよ。それで和香に頼んで近隣の小さな農村に、雨降の天候を司る神として奉じて貰ったのじゃ」
「でもそれにしても…」
尚言い募る卯華姫様に、雨子様は笑いながら言う。
「まこと小さな農村ではあったが、我には実に心地よかったのじゃ。じゃがそんな村も、ふと寝て覚めてみたら、土地造成とやらで跡形も無うなっておってな、氏子がほとんど居らなくなって、危うく消えるところじゃった」
その言葉を聞いた卯華姫様が目くじらを立てながら言う。
「笑いごととちゃうんと違いますの?その時和香ちゃんは?」
「暫く連絡を取って居らなんだ時じゃったからの」
そう言うと苦笑しながら頭を掻く雨子様。
「後でしっかりと怒られてしもうたの」
「当然です」
そう言うと卯華姫様、今更ながらにぷんぷんと怒っている。
そんな卯華姫様に何やら懐かしそうに雨子様が言う。
「そう言う時じゃった、我が祐二にその命を救われたのは」
卯華姫様はその言葉に目を丸くする。
「何とその様なことがあったのですねえ、それでそれで?」
「うむ、しかし話せば切りが無いの、まず其方の布団を敷かねば」
そう言うと雨子様は、自分のベッドの上に折り畳んであった布団を、傍らの空いたところに敷き詰める。
全て敷き終え、枕をぽんと定位置に置くと、すぐさま卯華姫様はその上にころりと転がった。
「うふふふ、気持ちのええもんやねえ」
人の身に未だ余り慣れると言うことの無い卯華姫様にとって、そう言ったちょっとした感覚が心地良く楽しいらしい。
暫くころころと布団の感覚を楽しんでいると、やがてにごろりと仰向けに成り、天井の灯りを遮るように手を翳す。
それを目に留めた雨子様は灯りを消し、窓から入る薄明かりの下、先程の話しの続きをするのだった。
「尤も、最初に助けたのは我の方じゃったがな」
「それはまた何がありはったのです?」
「くふふ、今のあやつを見て居ったら信じ難いことなのじゃが、まあ当時はひょろっとした儚げな童じゃった。そしてあやつ、止せば良いのにおどろおどろしい妖怪の本なぞ読んだものじゃから、日々悪夢に苛まれて居ったのよ」
「なんとまあ、それはかわいそうなことで…」
「既にあの頃、我は大分衰えて居ったのじゃが、それでも祐二を悪夢から解き放つくらいのことは出来たのじゃ。そして助けて暫くが経ち、いよいよ精が無くなり、我もこのまま儚くなるかと思うて居ったときに…」
「すぅーすぅー…」
ふと見ると寝息を立てて目を閉じている卯華姫様。
「何じゃ、自分が聞いておきながら先に寝てしまうとはの…」
ほんの少し口元をへの字に曲げる雨子様。けれども卯華姫様のとても幸せそうで、満足しきった寝顔を見ていると、何故だか自身も満たされ、穏やかな気持ちで眠気の来るのを感じるのだった。
「お休み卯華姫、また明日なのじゃ…」
雨子様はそう言うと、穏やかな気持ちのまま夢の世界に落ちていくのだった。
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