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天露の神  作者: ライトさん
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「令子の思い」

今回はこのようなお話になる予定では無かったのですが

何故だか令子が一人歩きしてこう言う話になりました。

うむ、令子ちゃんにも一杯幸せに成って欲しいなあ


 神様方の期待に漏れること無く、節子が仕上げてきた料理は絶品だった。


「このお稲荷さんの甘塩っぱくて美味しいこと、いややわぁ、もうこの家にお嫁入りしてしまおうかしら?」


 等と歓声を上げているのは、他ならぬ卯華姫様だった。

対して、聞き捨てならんとばかりに剣突を喰らわせているのが雨子様。


「何を言って居るのじゃ卯華姫は?一体この家の誰に嫁ぐというのじゃ?」


 何とも大人げなくぷりぷりしながら、そんなことを言っている。

そんな彼女らに対して節子は、恐らく茶化すつもりなのだと思われるのだが、


「あら、私ならお嫁さん二人でも良いかしら?」


 等と言っている。

その様な冗談が通じるには些か年若としわかに過ぎる祐二が、傍らであたふたしながら言う。


「母さん、重婚は犯罪だから!」


 ところがそんな彼らに小和香様が、思わぬ言葉を差し挟むのだった。


「あくまで神話上の神々としての話しでは、幾柱もの神々と婚儀を重ねた例があるそうですね」


 さて小和香様がどのような思いでそのことを言われたのか、その真意は今一つ定かで無いのだが、彼女の思いとは別にそれを聞いた雨子様が悲鳴のような声を上げる。


「小和香?要らぬことを言うでない!」


 普段は泰然自若としたところのある雨子様、けれどもこと、祐二の係わることになると、途端に余裕が無くなってしまうのだった。


 卯華姫様のことを睨み付けた雨子様は席を立ち、祐二の横に行くとその肩を掴んで言う。


「この祐二は我のぞ」


 そこまで必死な雨子様のことを見ていた卯華姫様、これ以上揶揄うのは良くないと思われたのか、頭を下げて詫びの言葉を述べるのだった。


「そうですね雨子様、うっかりしていました。これこの通り、お詫び致しますね」


 おっとりとしたところのある卯華姫様が、ことさら静かに丁寧に頭を下げながら、そう申し述べらるので、一人騒いでいても場を荒らすばかりと、渋々では有るが頷いて見せる雨子様。


 だがしっかりとその頬は膨らんだまま。ちらりとその様子を目にした祐二が、肩に置かれた雨子様の手の上に、そっと自らの手を重ねるのだった。


 その手の温もりをふと感じた雨子様は、何も言わずとも祐二の思いを感じてしまう。

あっという間に膨らんでいた頬は萎んで、嬉しそうな笑みがその口元に湛えられるのだった。


 さてそうやって事が収まりつつあったところへ折良く、もしくは折悪しく?勤めから戻った拓也が姿を現した。


「ただいま、随分賑やかだね?」


 そう言う拓也は、卯華姫様と小和香様の存在を目に留め、頭を下げて歓迎の意を表す。

そしてそのまま節子に視線を滑らせると、説明を受けるのだった。


「卯華姫様の分霊を雨子ちゃんがお作りすると言うことで、暫くお泊まりに成られるのよ」


 大凡その説明で今後何があるのか予想が付いた拓也。

卯華姫様にあらためてのんびり滞在して下さいと告げると、食事の前にまず風呂に入るべく姿を消すのだった。



 さて、色々と騒々しいことは有ったものの、無事夕食を終えた小和香様は、節子から手渡された沢山のお土産を手に、吉村家の門構えの前で令子との別れを惜しんでいた。


 予定よりかなり遅くなってしまったが、節子の心尽くしがあれば恐らく、怒られるようなことは無いだろう。


 夜の闇の中に少しずつ見えなくなっていく小和香様のことを、最後まで見送っていた令子の頭に、雨子様の手がそっと置かれる。


「本当にそなたらは仲が良いの?」


 そう静かに言い放つ雨子様の胸元に、束の間令子がしがみつき、顔を押しつける。


「うん…」

 

 そう言う令子の声が微かに滲んでいるのは気のせいだろうか?

そんな令子の身体を柔らかく抱きしめながら雨子様が言う。


「そろそろ部屋に戻ろうぞ?」


 だがその言葉に令子は嫌々をするように頭を振り、小さな声で言う。


「もう少しこのままで…だめ?」


 くぐもったその声に、少し心配そうに雨子様が聞く。


「いかがしたのじゃ令子?何か有るのなら言うてみるが良い」


 そんな雨子様に令子はしがみついたまま言う。


「前に雨子さん、その身体に心が引っ張られるみたいなこと言っていたよね?」


 雨子様は少し考える時間を持った後、その言葉を肯定する。


「うむ、言うたの。こうやって人の身体を持つことによって、言葉という定義された意味合いの情報では表しきれぬ、定量出来ない感覚を味わって居るの。我はそれを大事にしたいが為に、この肉体を手放すことが出来なくなって居る」


 少し落ち着いたのか、そう説明してくれた雨子様から、ゆっくりと身体を離しながら令子が言う。


「私ね、今なら何となくだけれども、雨子さんの言うことが分かるような気がする。尤も雨子さんの感じていることとは、少し意味合いが違うのだけれどもね?」


 令子のその言葉に、好奇心に駆られた雨子様は聞き返す。


「それは一体どのように違うと言うのじゃ?」


「私ね…」


 そう言うと令子は少し口籠もった。


「私は自分で望んでこの子供の身体になったのだけれど…」


「もしやそのことを後悔して居るのかえ?」


 そう言う雨子様に令子は即座に頭を横に振った。


「ううん、後悔はしていないの。なんて言うかね、色々な事が起こっている最中に、私は死んじゃった訳なんだけれど、そんな具合だから色々思うことも有った訳。当然よね、人生の幸せの絶頂期から一気にどん底に落ちて…。でも雨子様達に救われて、色々なことをリセットしたくて、この身体を頂いた」


 そこまで言うと令子は雨子様の元を離れ、すっくと星々の光る夜の空を見上げた。


「ああ、あの海辺の空の方が星が一杯見えたなあ」


 そこまで言ったところで令子は雨子様に背を向け、少し肩を落とす。


「正直言うと確かに子供の身体にしたこと、全く後悔しなかった訳じゃ無かったの。でも、色々と絡まった思いを整理するのには、この身体で無くては成らなかったって、今は思うわ。なんて言ったら良いのかしら?この身体なら思いを素直に出せる?」


「なるほどの…」


「そう言う意味では私、随分この身体に引っ張られているかなって思うの。だってほら、大人だったらそんなに簡単に泣けないじゃ無い?でも今なら…」


 そう言って振り返った令子は、目に一杯涙を溜め、次から次へと溢れさせているのだった。


「嬉しいとか悲しい、それに愛おしいとか、悲喜こもごも色々な感情を、ずっとずっと素直に出せる。これって間違い無くこの身体のお陰だと思って居るの。そしてこうして涙を流す度に私、どこか浄化されていくような気がしている」


 そう話し続ける令子のことを、雨子様は聖母の様な慈しみを込めた、優しい笑みを浮かべながら見守っている。


「うふふ、この身体貰っていて良かった、幽霊のままだったら、下手したらあの世に行っちゃうところだったわ」


 そう笑う令子に、雨子様もまた笑う。


「くふふ、全くじゃな」


 そんな雨子様に令子は首を横に振る。


「やだ、私はまだまだ生きたい、もっともっと生きたい。私にそんな風に思わせてくれたのは雨子さんや祐二君、それにこの家の皆さんや和香様や小和香様達。だから私は皆が好き!愛してる!」


 そう言うと令子は再び雨子様にしがみついた。

雨子様はそんな令子のことを黙って抱擁する。


 令子は小さな声で雨子様に言う。


「ありがとうね雨子さん」


「何がなのじゃ?」


「小和香さんのこと見送っていたら、なんだか急に寂しくなってしまって、少しおかしくなっていた」


「そうか…」


「でももう大丈夫」


 そこまで言った令子は顔を上げて雨子様のことを見つめる。


「ねえ雨子さん、生きているって素晴らしいね?」


「そうじゃの…」


 雨子様は静かに言う。

その後二人はどちらからとも無く互いに手を握り合って、明るい光に満ちた家はの中へと、戻って行くのだった。



 お待たせ致しました。


前作にいいねを入れて下さった方ありがとうございます

日々の創作活動のモチベーションアップに繋がり、本当にありがたいです

大感謝であります



そう言えば余所様で、ここの欄にてそのことちゃんとそのことをアッピールしておかないと

駄目だよみたいなことを書いて有るのを拝見しました

そうしないと評価なんてどうでも良いと思われちゃうよと(^^ゞ


かく言う私、我が道を行く感じで書いて居りますが

やっぱり色々書いて行くためにはそう言う部分も応援頂けると嬉しいので有ります

なのでしっかと書いておこうかなとも思いました


いいね大歓迎!

この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします


そしてそれをきっかけに少しでも多くの方に物語りを楽しんでいけたらなあ

そう願っています^^


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