海に行く?
ワイワイガヤガヤ、雨子様を交えた日常が続いていきます
「海行かない?」
七瀨のその一言から始まった。
エアコンを効かせた自室で本を読んでいたのだけれど、突然やって来た七瀨の言葉に、雨子様は目をぱちくりさせている。
「海?何をしに行くのかえ?」
ま、確かに雨子様ならそうなるだろうな。
「もちろん泳ぎに行くのよ」
「七瀨、それで一体どこの海に行くつもりなんだ?」
「沖縄!」
その一言に驚いて目を剥く。いくら何でもいきなり沖縄は無いだろう?
「…というのは冗談で、地元でも良いじゃん?」
まあ確かに、すぐ近くにこぢんまりしてるがとても綺麗な海水浴場がある。のんびり散歩がてらに歩いても行けるような、そんなところだ。
大都市圏の外れにある割には海も綺麗で、割と雄大な景色もある。
「んで、雨子様は泳げるの?」
「む?知識としてはあるが、多分無理じゃろう」
「なあ、七瀨、それ以前に雨子様の場合は、水着から用意しないとだめだと思うぞ?」
「え?そうなの?」
そう言う七瀨は目をきらきらとさせていた。
「じゃあ、今日は買い出しね?」
「じゃあってなんだよ、じゃあって?」
人の都合を何も考えない七瀨の言動にあきれ果てていると、麦茶を持ってきてくれた母さんが援護射撃をする。
「あら、あゆみちゃんが行ってくれるのなら良い機会ね。雨子様、水着を買っていらっしゃいな」
見ると雨子様は少し嬉しそうな顔をしている。
「水着とな、さて、今世では水に入るのに専用の浴着が有るのじゃな?」
「浴着って…」
何だかちょっと絶句した。
その横で雨子様は早速携帯で調べ始めていた。
「浴着では出ぬな」
「水着ですよ雨子様」
母さんがそうアドバイスするとすぐに検索し始めた。
「……ぬう?これが水着というものかや?」
雨子様が指し示した画面を覗き込むと、いやそれはいくら何でもというような端切れのような水着を着けた女性、しかもダイナマイトボディで挑発的な格好をしていた。
「す、済まぬ。さすがにこれは我には無理じゃ」
顔を真っ赤にさせた雨子様が唇をわなわなと震わせながら言う。
「いやこれは大概皆パスでしょう?」
七瀨がそう言い、母さんも大きく頷いている。
「そうなのかえ?」
雨子様が珍しく心細そうに言う。
七瀨が雨子様から携帯を受け取り、更に検索を掛ける。
すぐに無難そうな水着がたくさん出ているサイトに行き当たった。
「これこれ、こう言うの…」
それを見た雨子様は見るからにほっとして胸を撫で下ろしていた。
「しかしこれでも些か露出が多いものであるな?」
「でも雨子様、最近はそれ位で普通なんですよ。雨子様、結構スタイルが良いからどれを着てもお似合いだと思いますよ?」
母さんがそう言うと、雨子様は未だ少し不安そうだったが、次々と似たような画像に目を通し始めた。
「これはもう行くっきゃ無いわね」
とは七瀨。
「お、おう?頑張って良いの選んで上げてな?」
そう言うと七瀨がぎょろりと僕の方を向いた。
「何言っているのよ、護衛や荷物持ちとして祐二も付いて来なさいよ」
「へ?僕も?」
「これはあゆみちゃんの言う通りね、ちゃんと付いていって上げるのよ?」
とは母さん。
「必要ないだろう?下手したらこいつ俺より強いよ?」
だがその意見は却下された。でもまあ考えたら雨子様が行くのだとしたら行かないわけには行かなかった。気乗りはしなかったが仕方の無いことだ。
「済まぬの祐二、妙なことにつきあわせて」
雨子様がそっと僕の耳に口元を寄せると小さな声でそう言った。
「ねえ、雨子様」
「なんじゃ祐二?」
「今まで聞いて無かったんだけれども、精の供給を受ける関係上、あまり僕から離れられないって言ってたけど、実際のところどれくらいまでなら離れられるの?」
「細かいことを言うならば供給量は距離の二乗に反比例して減っていく。今のそなたからの供給量を考えると十メートル以上離れればもう無いも同然じゃ。供給が為されないその状態で持つのは大体三日が良いところじゃの。二日目を過ぎたところあたりで休眠せねば存在が危うなる」
「なら水着を買いに行く間くらい僕がいなくても大丈夫ですよね?」
「確かにそうじゃが、じゃと我が心細いでは無いか?」
とまあ、雨子様に素で言われてしまったのだが、それを聞いていた七瀨と母さんが僕の背中をばんばん叩いてくる。
「これはもう行って上げない訳にいかないわよ?」
とは母さん。その陰に隠れて七瀨は
「素であの台詞を言える雨子さん恐るべし…」
等と言っている。
うん仕方ないね、これはもうついて行くしか無い。
「了解、仰せの通りに従います」
渋々僕が言うと七瀬はにんまり、母さんはにっこり、雨子様は申し訳なさそうに笑った。
うん、いずれにしても勝てる相手ではなかったね。
今日もまたお読み下さりありがとうございます
それを励みにまた明日に向かって書きためていきたいと思います




