「反省」
さて一時の騒動も収まり、つい今し方のことを無かったことにした雨子様は、卯華姫様に話しかける。
「ところで卯華姫よ、其方に仕える小者達は、環が居なくなってしもうたせいもあって、皆力尽き、消えてしまう直前ぞ?」
雨子様にそう言われてはっとした卯華姫様、つい先ほどまで不穏な音を立てまくっていた集団の方に目を向ける。
確かにそうやってつぶさに見てみれば、既に力が尽きつつある小者が何体も居る。
放っておけば、おそらく三月も経たぬうちに消えてしまう物が続出することだろう。
「うちが暢気に寝取ったせいでこないなことに…」
声を引き絞るように出しながら、身体を震わせている卯華姫様。
その目から溢れようとしている涙を、そっと拭って上げようとする小者の次郎。
彼は先ほどからずっと卯華姫様に抱かれたままで、既にそこにあることを忘れ去られたかのようになっていた。
はっとしてその次郎のことを見る卯華姫様。
「次郎や、お前は何故にその様に元気なのです?」
すると次郎は遠慮しいしいその訳を述べる。もしかすると卯華姫様以外の神に強くして貰ったことを、些か後ろめたく思っているのかも知れない。
「俺は、そこ成る雨子様に、神力を注いで頂いて強うなりました」
次郎のその言葉を聞いた卯華姫様は、今更のようではあるが、丁寧に雨子様に頭を下げるのだっった。
「しかし環が逝ってしまうやなんてねえ…」
そう寂しげに言う卯華姫様、それまでずっと笏のように抱えていた次郎をそっと下に降ろした。
「いずれにしてもこの子らに少しばかり力を与えんと、なんやもう皆付喪神どころか、半成りも同然やしなあ」
卯華姫様のその言葉が聞こえたのか、俄然動きが激しくなり始める小者達。
「聞いたか?」
「聞いたか?」
「聞いたか?」
「聞いたぞ!」
「聞いたぞ!」
「姫様が我らにお力を…」
「「「「「「お分け下さるそうじゃ」」」」」」
俄に辺りが騒々しくなっていく。
しかしながらそうは成っても、小者の内の一匹たりとも卯華姫様に近寄ろうとはしない。
その様子を見て訝しげに周りを見回す卯華姫様。
「ねえ和香ちゃん、これは一体どう言うことに成っとりはるんやろね?」
卯華姫様に力を貰えると色めきだったにもかかわらず、全く近づいてこようとしない小者達の動きに、業を煮やした卯華姫様がそう問うと、和香様も不可解なりと首を傾げる。
だがそれら小者の視線が皆揃って雨子様に向いているのを見るや否や、ぽんと手を打つのだった。
「そや雨子ちゃん、自分さっき忌避の呪をこいつらに掛けてへんかった?」
それを聞いた雨子様もまた同様にぽんと手を打つ。
「これはしたり、先ほど次郎に力を与えた折、他の物が一時に押しかけてきそうになったので、近寄るなと申し付けたのじゃった…」
「ならそれで決まりやな。呪どころか命令とも言えへんような物やけど、こやつらの今を思うたら、仕方あらへんやろ?」
そう言う和香様は苦笑している。それを見ながら解呪を施す雨子様。
それが終わったとたんに一気に卯華姫様のところに押しかける小者達。
「わわわわ、ちょっと待ち、ちょっと待ってって…」
お陰でたちまちにして小者達の山に埋もれてしまうのだが、暫く経ってようようにして這い出してきた卯華姫様。
何とも恨めしそうな表情で雨子様のことを見はするのであるが、何も言葉を発することは無いので有る。
おそらくこれらのこと全てが、元はと言えば自分に端を発することなのだと、良く分かって居られたが故なのだろう。
お待たせしました
とても短いのですが、本日の作者の頭の調子ですと、
此所までのようです(^^ゞ




