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天露の神  作者: ライトさん
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「そう来るか?」


 二柱の追いかけっこが、結局雨子様の勝利に終わったところで、事態は次の局面に入っていくこととなった。


 神鏡の周りには祐二が一人居るのみで、他のものは彼の邪魔にならない様に、十分に距離を取っている。


 祐二にとって、相手が据え物では有ると言うものの、ある意味正に初めての実践なのだ。普段とは全く異なる緊張感を漂わせていた。


 相手がじっとしているもので有ると言うことは、有る意味ありがたいことでもある。

祐二はその場で下半身を安定させながら、そっと刀を手に持ち、神鏡の表面を軽く振り抜くイメージをしつつ、何度も何度も動作を重ねている。


 凡そ十度目くらいになっただろうか?慎重に積み重ねていったイメージと動作が、寸分の違いも無く重なることが出来るようになる。


「行きます…」


 誰に言うとも無くそう口にすると、半歩前に足を進め、微調整で更に数ミリ前ににじり寄る。


 くん、と僅かに身体が沈んだかと思うと、手元できらりと光りが煌めいたかのように見える。


「キン!」


 恐ろしく硬質な音が当たりに響く。

すすすと祐二は後ろに下がり、素早く丁寧に刀身を鞘の中に収めてしまう。


「ありがとうカムイ」


 そう言いながら束頭つかがしらをそっと撫でる祐二。どうやら問題無く切ることが出来たようなのだった。


「どうじゃ和香、切れ目は入って居るかや?」


 早速に神鏡の元に歩み寄って、その状態を見聞している和香様に、雨子様が問う。


「うん、問題あらへん、見事に中まで上手く切れとるで…。しかし凄いな、これはもう神業やで?」


 それを聞いた祐二が照れ隠しに頭を掻きながら言う。


「言っても和香様、神様から頂いた業物を使っておりますので…」


「だから神業やって?いや別に此処でぼけかますつもりはあらへんよ。真性君自身の神業やと思う取る」


 和香様の言葉を後押しするかのように雨子様も言う。


「うむ、こればかりは祐二の技があってこそのもの、安心して誇るが良いよ」


 そこまで言われて始めて、祐二はほっとしながらその場で頭を下げて言う。


「御二柱ともお褒めのお言葉、ありがとうございます」


 すると傍らから宮司もまた手を叩きながら褒めそやす。


「いやいや、お若いのに見事なお手並みでした。素晴らしい」


 その言葉に対してもぺこりと頭を下げると、神威を高く捧げ持ち、それに向かって深々と頭を下げる祐二。


「ありがとうカムイ、戻ってお休み」


 そう言って神威を空間の裂け目へと戻すのだった。

その様を見ていた雨子様、尚未だ何か言いたげではあったのだが、仕方無しと頭を振ると何も言わずに黙るのだった。


 一方、そんな彼らの様子を暫しの間見ていた和香様なのだが、気持ちを切り替えると祐二の入れた切れ目の間から、神鏡の中に広がる空間に探査を入れる。


 神鏡内の空間というのは、それぞれの神々の好みに従って、自由自在に誂えてあるのだけれども、この卯華姫様の作られた空間は、外にある本殿の仕様をそのまま真似したような所なのだった。


 ただ大きく異なるところがあるとすれば、沢山の種類の果樹が生え、それらが皆、花を咲かせながらも数多くの実を付けていると言うことだろうか?


 そしてそれらの果実は皆たわわに実り、実に瑞々しく食べ頃のように思える。


「卯華姫ちゃんらしいと言えばらしいか…」


 和香様はそんなことを呟きながら、徐々に奥の方へと観測点を移行させていく。


 すると本殿と瓜二つの建物の中に、神鏡を安置しているのと同じ広間が在るのだが、そこに一人のふくよかな女神が、白絹を掛けただけの姿で静かに眠って居るのだった。


「卯華姫ちゃん、卯華姫ちゃん…」


 観測点を通じて和香様がその女神様に呼びかける。

余程深く眠って居るのか、何度呼びかけても目覚める様子が無い。


 仕方無く和香様は小さな雷、元へ静電気のスパークを作り出す。


「パチッ!」


 その小さな稲妻が触れるや否や、身じろぎを始める卯華姫様。



「卯華姫ちゃん、卯華姫ちゃん…」


 再び呼びかける和香様。今度はどうやら卯華姫様の意識に届いたようだった。


「誰やのん?うちを起こしはんのは?」


眩しそうに目を瞬かせながら、そう呟くように言う卯華姫様。


「和香や、和香やで?色々用が有るんで来たんや、起きて貰えへんか?」


 幸いなことに寝起きは悪くないのか、優しそうな目を見開いた卯華姫様は、欠伸をしながらゆうるりとお体を起こされる。


「珍しいお方が来られたんやねぇ。直ぐにそちらに参りますから、待ってて下さいますか?」


 無事、卯華姫様を起こすことが出来た和香様は、ほっとした表情をしながら皆に報告をする。


「何とか卯華姫ちゃんの無事を確認したで。やれやれや、直にこっちに来てくれるって言うとったで」


 それを聞いた雨子様や宮司もまたほっと肩の力を抜くのだった。

特に宮司などは半ば涙ぐんですら居るのだった。


 その傍らで祐二が、今回もまたお目に掛かるのは女神様なのだなと、女神様率の高さに少し考え込んでいる。男神様で存じ上げているのは八重垣様ただ一人。


 和香様や雨子様から、もう御一柱男神様を紹介するようなことは聞いて居るのだが、未だお目に掛かる機会は得ていないし、御名も聞いては居ないのである。


 と、その時、神鏡を安置されている間に涼やかな鈴の音が響き渡る。


「りり~~ん」


 その音を聞いて実に嬉しそうにする宮司、かつてより卯華姫様御光臨の際は、鈴の音が響くと伝えられてきているのである。


 年若の頃に何度かお会いしたきりだった宮司は、いまにも泣き出さんばかりに卯華姫様のおいでになるのを待つのだった。


 神鏡の表面に変化が有り、柔らかな光の固まりがふわりと表に溢れ出し始める。

序で少し前までその固まりが移動すると、ゆっくりとそれは人の形を取り始める。


 そして一呼吸もせぬうちにそこには、ふくよかで実に美しい卯華姫様が御姿を御現しに成られたのだが…。


「「うわぁ~~~!」」


 祐二と宮司の悲鳴のような声が辺りに響く。

二人が二人とも顔を真っ赤にしながら後ろを向き、判で押したかのように手で顔を覆っている。


 一方、二柱の神々はと言うと、目をまん丸に見開き、口をぽかんと開ききったまま言葉も無い。


 暫しの沈黙の後に、ようやっとの事で和香様が言葉を作る。


「卯華姫ちゃん?何でまっぱやのん?」


 途端に雨子様が爆発したかのように笑い始める。


「くわぁははははは!和香よ、こやつ目覚めて居るようでそうでは無い。すっかりと寝ぼけて居るのじゃ」


 それを聞いた和香様、呆れ返りながら卯華姫様の側に歩み寄ると、軽くでは有るがその頬をぺしりぺしりと叩き始めるのだった。


「あれ?和香ちゃん?何してはるのん?」


「何してはるのんちゃうで?卯華姫ちゃん、しっかり目ぇ覚ましや?そして頼むから早う服着てくれへん?そこの男の子らが茹で蛸なっとるねん」


「あれ、茹で蛸にぃ?」


 そう言うと卯華姫様は、その茹で蛸に多分興味を持たれたのだろう。

ゆっくりとした足取りで、その…まっぱのままに茹で蛸達の所に行くと、その顔を覗き込む。


 そうしてくすくすと笑うと言う。


「ほんまやなぁ、茹で蛸が二人居るわ。一人はしわくちゃやけど、もうお一人は何や、可愛いお子やなあ」


 そう言いながら祐二の周りを回りながら、しげしげと見ようとするのだが、さすがにこれには雨子様が慌てた。


「これ卯華姫!そやつは我の伴侶とも成るものじゃ、その様にみだらな格好で…こら!触るのでは無い!」


 それこそ血相を変えた雨子様がすっ飛んでいって、卯華姫様と祐二の間に割り込んでいく。


 それを見ていた和香様、さすがに堪えきれなくなったのか、お腹を抱えて転げるようにしながら笑いまくっている。


 業を煮やした雨子様が、さすがに頭にきたのか卯華姫様の尻に一撃平手を呉れる。


「ぴしゃん!」


「良い加減にせぬか卯華姫!」


 だがそう言う状態になってすら、何ともはんなりとしている卯華姫様なのだった。


「いややわぁ、そないな所叩かんといて欲しいわぁ。あら?あなた雨子ちゃんじゃ無いの?」


「今頃気がついたのかえ?って、その様なことはどうでも良いから、早う服を着るのじゃ!」


 この辺りでどうやら卯華姫様、確実に目が覚めたようで「あい」と言う可愛らしい返事をしたかと思うと、たちまち光りに包まれるのだった。




 遅くなりました


作者注

登場している存在が、色々と方言のような言葉を使いますが、これらは正確にそれらの方言をなぞった物ではありません

彼ら彼女らが、その昔色々な地方を居て受けた影響から発しているというだけのことなので、お気楽に見見てやって下さいませ

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