「無謬?」
雨子様への礼を終えた宮司が、改めて居住まいを正して和香様に聞いた。
「ところで和香様、この様な田舎の地の異変、社の焼失や環様の事についてどうやってお知りになられたのですか?」
宮司が雨子様に丁寧に礼を述べる様を、にこにこしながら見ていた和香様は、表情を硬くしながらその問いに答えるのだった。
「さてそれ何よな。実はな、此処みたいに社が燃えて無くなると言うことが、全国各地で起こっとるんよ」
「何と!それはまた一体?」
宮司の問いに和香様は頭を横に振る。
「何でそないなことが起こっているのかは未だ分かってへんねん。そやからそれを知る為に、小和香の方から全国の神さんらに、あちこちにある無神無人の社への警戒を呼びかけとったんよ」
「もしかすると環様はその為に、あの燃えた社の所に行っておられたと?」
「そう言うことやねん、期せずして起こったこととは言え、環の件はうちらの出した指図が原因とも成っとる。ほんま申し訳ない、この通りや」
そう言うと和香様はぺこりと頭を下げるのだった。
だが驚いたのは宮司だった、自分達の信奉する神の最高神に当たる方が、目の前で実に簡単に頭を下げてこられる。その、ある意味異常事態に慌てない訳が無いのだった。
「あわわわわわ、どうかお許しを!」
「何許しを請うてるねん?許してなって言うとるんはうちの方やんか?」
「そそそんな、和香様に許しを請われるような、そんな心臓を私は持ち合わせておりません」
そう言って腰を抜かしそうになっている宮司。
さてどうしたものかと、少しばかり途方に暮れる和香様。
「くふふふ、和香よ、それ位にしておいてやらぬか。無謬とも思える最高神に、目の前でぺこぺこされたら、そやつでのうても心臓に悪いと思うぞ?」
端で見ていた雨子様が笑いながらそう言う。
「身なりはその様なもので有っても、それなりの神気が漏れて居るのじゃ。その者が畏れ入るのも仕方無きことじゃろう」
尤も、和香様をさしてその様な身なりと言っているが、雨子様だってキュロットスカートにオフカラーのブラウス。和香様よりは温和しめとは言え、これまた全く神様っぽくは無いだろう。
雨子様の指摘に、苦笑を禁じ得なかった和香様は、それ以上詫びることは止めとするのだった。
「それでな、うちらは環が行っとった社と共に焼失してしもうたって聞いて、それでどないな事が起こったんやって調べに来たんや」
そう言いながら和香様はポケットを探り、最前に見つけた蛇の鱗らしき物を取り出してきた。
「んでな、現場近くにこないなもんが落ちとってん」
和香様の手に有る、きらきらと白く光るそれをしげしげと見た宮司は言う。
「何かの鱗のように見えますが…」
宮司のその言葉に頷きながら和香様が言う。
「そうやねん、未だ確定や無いねんけど、蛇の鱗みたいな感じやねん」
「蛇、の鱗で御座いますか…。しかしこの辺りではその様な物の怪の類いについての話しは、聞いたことが御座いませんね」
「そうなんや、そしたらこれは余所から来たもんなんやろなぁ」
余り知られていないことなのであるが、神社の役割としてその土地土地に居る物の怪、つまりは多くの場合は付喪神なのであるが、どのような者が居るのかと言うことについて、凡その情報を持つというのがあるのだった。
だがそう言った機能も、相手が敵対的なもので有る場合は、必ずしもきちんと働かないこともあるので、そのことは十分に加味して考えなくてはならなかった。
ただ今回の場合、日本のあちこちで同様の事件が起こっていることから、和香様としては余所から来たものなのではと判断したようだった。
「ともかくこの件は一旦持ち帰って、もう一度色々と考えて見なあかんな」
「そうじゃな、ただまあその鱗が見つかったと言うだけでも、一歩前進と考えるべきじゃろうて」
「まあそう言われたらそうなんやけど、何や釈然とせえへんなあ」
「ともあれ調査はこれくらいにして、そろそろ引き上げるかや?」
「そうやね」
と、それまで皆の会話を黙って聞いていた祐二から声が掛かる。
「あのう…」
思ってもみないところから声が掛かったことから、和香様はきょとんとしながら聞く。
「はて、何やのん祐二君?」
その台詞を聞いた祐二は困ったような顔をしながら言う。
「ですからその、卯華姫様をお起こししなくても良いのですか?」
「「あ」」
二柱して顔を見合わせる。すっかりと抜け落ちていたようだった。
全く以て御二方も、無謬とはほど遠いのだった。
少し短めですが(^^ゞ
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