表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天露の神  作者: ライトさん
430/682

「元居神社」


 そこで和香様が、宇気田神社の和香だと名乗ると、途端に宮司はぶるぶると震え始めるのだった。そして急ぎその場に膝を付くと、もう一人の神職に怒鳴るように言う。


「何をして居る、直ちに跪いて拝礼せぬか、この御方こそ、我らの神々の最高位に君臨なさる御方ぞ」


 するとそれを聞いた若者は、飛び上がるようにして大地に膝を付き、深々と頭を下げて拝するのだった。


 だがそれを見た和香様、何とも渋~い顔をして言う。


「あっちゃ~~。こうなってしもうたか、一応お忍びやってんけどなあ」


 そう言う和香様に畏れ入りながら宮司は言う。


「誠に申し訳御座いませぬ。和香様の御光臨に気がつけぬとは全く以て修行不足で…」


 そんな宮司に向かって和香様は慌てたように手を振りながら言う。


「あかんあかん、怒らんとったって。急にこないな格好で来たうちらも悪いんやから…」


 因みに今の和香様はデニムのスキニーパンツにTシャツ姿である。おそらくはその若者で無くとも、ほとんどの者が気がつくことは出来ないだろう。


「まあ宮司のようにある程度の経験を積まぬ事には、なかなかに神気を知ることは出来まいて」


 仕方無しと、その様に口にする雨子様のことを見て、宮司はどうやらこちらも神であると気がついた様だった。


「ははぁ~~」


 またも地に擦り付けるように頭を下げる宮司に、何とも居心地の悪くなってしまう雨子様。


「和香はともかく、我など吹けば飛ぶような小さな社の神じゃ、ご老体、その様に這いつくばらずとも、どうか気楽に接して下され」


 雨子様にそう言われても、暫くは顔を上げようとしなかった宮司なのだが、ああでも無いこうでも無いと宥め賺されてようやっと立ち上がったのだった。


 そこまで来て今度は祐二を目にし、またも神かと構えるのだが、祐二がにこにこしながら「僕は人間です」というと大いに肩の力を抜くのだった。


「さて、色々と迷惑を掛けてしもうたけど、自分、卯華姫がどうしてるか知っとるん?」


 ようやっと何とか普通に話すことが出来そうになったところで、和香様はそう宮司に問うのだった。


「それがなのですが、私が未だ二十歳に成るか成らないかの頃には、ちょくちょくお顔をお見せ下さいました。が、それを境にぐっとその回数が減り、ここ二、三十年ほどは全く御光臨が無いままなのであります」


「それは神社の側としても偉い困ったことやなあ?」


 心底同情してみせる和香様に、宮司は恐縮しながら必死に成って汗を拭いている。どうやら暑さだけの汗ではなさそうだった。


「仰るとおりでございます。されど卯華姫様の御配下に、たまきと言う方が居られまして、日常の差配など色々とお助け下さっておられたのですが…」


 そう話しながら宮司は急に口籠もってしまう。

その様子を見ながら和香様は、はぁっと溜息をつきながら、声を小さくしてその言葉の後を継ぐのだった。


「もしかして行方不明に成ったんと違うか?」


 と、それを聞いた宮司は色を変える。そして後ろを振り返り、もう一人の神職が、声が聞こえるには少し離れたところに居るのを確認して、ほっと胸を撫で下ろす。


「暫しお待ち下さいませ」


 宮司はそう和香様に願うと、手招きをしてその神職を招き寄せた。


「此処は良いから、先に戻って社務所にてお茶の用意をしておいてくれるか?」


「畏まりました」


 その神職は、宮司の願いを聞くと急いで社務所の方へと駆けていく。

それを見送りながら宮司は和香様に改めて声を掛ける。


「話の腰を折りまして申し訳御座いません。あの者にこの話を聞かせるのは些か尚早だと思いましたので、失礼を致しました」


「ああ、かまへんかまへんよ」


 和香様が機嫌良くそう言ってくれるのにほっとしたのか、宮司は相好を崩す。だがその視線が今度は祐二の方へと向く。


 もちろん和香様がその視線に気がつかない訳は無いのだった。


「ああ、彼は大丈夫やで宮司さん。祐二君はな、今は未だ人間なんやけど、行く行くはいずれうちら神の仲間入りする人や。凡そ大体の話に触りはあらへんから、気にせんと話してくれてええで?」


 そう言う和香様の言葉に、宮司は目を剥いて驚く。

彼の知る限りでは、人が神に成ったなどと言う話し、聞いたことが無いからなのだった。


 勿論神話の類いとも成れば別なのだったが、実際にあったことと伝えられてきた口伝のいずれにも見られない、驚くべき話しなのだった。勿論死んで神に成るとかという話しとは全くの別物なのだった。


 宮司は思わず畏れながらと和香様に聞く。


「和香様、ただいまの話しなので御座いますが、私などが伺っても良い話しなので御座いますでしょうか?」


 和香様は丁寧な気遣いをしてくれる宮司のことを寸時見ると、密かに小さな加護を一つ送った。


「宮司さん、あんたほんまにええ人やな?まあそないに世に憚るようなことはあらへんから、特段に吹聴して回ったりせん限り、全然問題あらへんよ」


 そこまで話すと和香様は、それまでの華やいだ雰囲気を一変させた。


「さてこっからが本題や。少し腹据えて聞きや」


 和香様の言葉に宮司の顔つきに緊張が走る。

その有様に、十分に準備が出来たと考えた和香様、いよいよ事の本題を話し始めるのだった。


「実はな、うちらは此処に、とある事の調査で来てんねん」


「和香様、御自ら調査ですか?」


 その言葉に宮司は顔色を曇らせる。

それはそうだろう、この国の頂点に居る神様が直接調査に来るとあっては、余程のことが発生しているのではと想像に難くない。


 だが実のところ、確かに重要事の調査であるには違いないが、和香様がこちらに来たのは吉村家の海水浴に便乗すると言うことがメインなので、思わず言葉が詰まってしまう和香様。


「んぐ…」


 その様子を見て、さすがに本人は言いにくかろうと、雨子様が気を利かせて言う。


「宮司よ、余り過剰に心配するでない。我らはこちらに海水浴に来た序でに調査して居るまで。ただ環については少しばかり深刻で有ると言わねば成らんがな」


「か、海水浴で御座いますか?」


 宮司は目を点にしながら和香様のことを見る。そしてその服装を見て悩み、何と無しではあるが納得した風に頭を振るのだった。


「雨子ちゃん?」


 ちょっと居心地の悪さを感じてしまった和香様が、そんな口調で雨子様のことを少し責めるが、当の雨子様は素知らぬ顔だった。


「それでな宮司さん、ここから先は内々にして欲しいんやけど…」


 これはもうどうしようも無いと諦めた和香様は、いっそと切り替えることにして次の話題を話し始めるのだった。


「その環なんやけど、自分、此処の近所に小さな社があるの知っとるか?」


 宮司は、一体何を聞かれるのだろうと少し不安そうにしながらも答える。


「はい、存じ上げて御座います。先達てのことで御座いますが、火災が起きまして全焼したとか…」


「実はな、あの社には環が行っとってな、残念ながら社と一緒に燃えてしもうたらしいねん」


「な、何ですと!」


 驚愕の余り飛び上がるようにしてそう言うと、宮司はその場にへなへなと頽れるのだった。


「…一体どうしてその様な。しかしこれから先我らはどうしていけば良いのだと…」


 宮司の打ち萎れた様子に深く同情しながら、努めて優しい口調で和香様は言う。


「それで何やけど、いくら何でもそれは困ると言うことで、卯華姫ちゃん配下、環の次点の次郎を始めとした幾多の小者達から、卯華姫のことを起こしてくれと嘆願されとるんよ。それでそれを適える為に今此処に居る言う訳やねん」


「おお!」


 宮司は今度こそは飛び上がって大喜びするのだった。


「では、では、私は今一度、卯華姫様にお目に掛かることが適う、という訳なので御座いますね?」


「うん、うちはそのつもり何やで?」


 するとその宮司、安堵の為なのだろうか、その場で伏してさめざめと涙を流し始める。

その様子が余りに気の毒に思えたのか、雨子様が側に寄り、そっと肩に手をやって言うのだった。


「済まぬの宮司よ、我らの身内がこの様に迷惑を掛けて。二度とこの様なことが無きよう、少しきつめに話しておくので許されよ」


 優しくそう声掛けをしてくれた雨子様、宮司はその手を取ると額に押しつけ、深々と感謝の念を伝えるのだった。




 お待たせしました


いや~~~本当に睡眠は大事です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ