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天露の神  作者: ライトさん
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「お昼」


「まあええは、折角祐二君がああ言うてくれてるんやし、お昼にしよか?」


「確かにそうじゃな」


 未だ二言三言、言葉を交わしたそうな二柱なのだが、どうやら矛先を納めてお昼を食べることにしたらしい。


 お互いに妥協することが確実となると、途端に仲良く、弁当の中味は何と覗き込んでくるのだった。


中味は地元特産の魚の煮付けや焼き魚に加えて、海草サラダや山菜の天ぷら等が入っているのだが、目玉は何と言っても解した蟹の身を豊富に散らした蟹飯なのだった。


「なんとこれは美味いものじゃの?」


 そう言いながら夢中になって、まさにかっ喰らっている雨子様。

その傍らでは脇目も振らずに、もきゅもきゅと口にご飯を押し込んでいる和香様。


 美味しい物にを食べるのに、何の説得の言葉も要らない物だなあ、そんな事を思いながら自らも箸を進める祐二。


 ふと何かを感じるので見てみると、何処に目が有るのかは分からないのだが、なんだか微妙に次郎の視線を感じる。


その次郎、目顔が見える訳では無い。だからその思いや表情を知ろうと思っても知りようが無いのだ。


 けれどもそうでは有ったとしても、今そこに居る次郎からはちゃんと思いが祐二に伝わってくるのだった。


 祐二が恐る恐る自分の弁当を指差し、小さな声で問いかけてみる。


「次郎も少し食べてみる?」

 

 するとその葱坊主頭を大きく頷かせる次郎なのだった。


 次郎の要望を受け取った祐二は、自分のお弁当の蓋に、かに飯少しと、色々なおかずの端々を少しずつ載せ、次郎へと手渡してやる。


「ありがとうございます」


 そう礼を言う言葉が聞こえてくるのだが、はて口は一体どこにあるのだろう?

その様なことを思っていた祐二なのだが、少なくとも物を食べる口は、直ぐに判明するのだった。


 祐二から貰った食べ物を押し頂いた次郎は、蓋に載せられた食べ物を手で掴んだかと思うと、葱坊主の頭頂部にぱかりと開いた開口部に運ぶのだった、


「おお!これは美味しゅうございますな?」


 次郎からは、そう感歎の言葉が返ってくる。

そんなところに口があるんだと驚く祐二。しかし考えてみれば相手は本来動物でさえ無いのだ。口がどこにあるかだなんて定まったものが無いのだろう。


 ところで祐二はそんな次郎の台詞を反芻して訝しんだ。


「ねえ雨子さん、神様方でも本当に味の善し悪しを知るには、人の身を得ることが必要だったのに、神様どころか分霊でも無い付喪神が、味を知る事って出来るものなのですか?」


 そう言いながら祐二は、分けて上げたお弁当を美味しそうに?食べている次郎のことを見ていた。


 すると雨子様は暫しの間目を細めて次郎のことを見た挙げ句、やがてに口を開くのだった。


「うむ。祐二の言うのも分からなくは無いの?通常であれば付喪神がごとき低級な存在に、味の善し悪しなど分かろうはずは無い」


 そう言い終えると雨子様は、天ぷらのうち最後に残していたと思われる、大きなエビ天にぱくりと齧り付く。


 満面に笑みを浮かべているところを見るに、大いに満足しているようだった。


「冷えても未だこれだけ美味いと言うのは、上げるのに何かこつでもあるのかや?」


 その様なことを言いながら首を傾げているのだが、祐二の視線を感じると慌てて先ほどの話に戻るのだった。


「思うにそやつがその様に鋭敏に味を感じるのは、おそらくそやつの本性に由来するところが有るのじゃろう」


 雨子様のその言葉を聞いた祐二は、改めて次郎のことを見つめる。さて、次郎の本性とは一体何なのだろうと。


「まあ祐二の持つ神力では、次郎の性を見抜くことは出来ぬであろう。未だ修行の途中、半ばにすら行って居らぬのじゃから致し方ないことじゃの」


 そう言う雨子様に悔しそうに、ほんの少しだけ口元を歪ませると祐二は問うた。


「それで次郎の本性は何なのです?」


 祐二のその言葉を聞いた雨子様は、小さく、くくくと笑った。


「知りたいかえ?」


「それは興味がないと言ったら嘘になります」


「次郎の性はの、摺り子木じゃ」


「摺り子木?摺り子木ってあの摺り子木ですか?」


「そうじゃあの摺り子木じゃ。山芋を摺ったり胡麻を摺ったり、様々な物を摺るのに使い居るな?おそらく余程名の有る料理人に使われて居ったのじゃろう。味についての多くの言葉を聞き、実際に味わってきて居るのじゃろう。その結果がそこでほれ、飯を食うて居る」


 雨子様の話を聞いた祐二は、最後のおかずを食べ終え、少し名残惜しそうにしている次郎の姿を見ながら、なるほどと思ってしまうのだった。


 そんな二人の会話を聞いていた和香様、ご馳走様と言いながらお弁当の蓋を閉じ、そして言うのだった。


「門前小僧、習わぬお経をなんとやらの、食べ物版やね?」


「そう言われたらそうかも知れませんね」


 そう言いながら祐二は大いに苦笑するのだった。


「ところで祐二君、君にも言わんとあかんね?ごちそうさん」


「え?僕はただ運んで来ただけですからそんな?」


「何言うてんの?この炎天下、お弁当が悪うならんようにって、大量の保冷剤と一緒に運んでくれとったんやろ?これにお礼を言わへんかったら、それこそ罰当たるわ」


 それを聞いた祐二は笑いながら言う。


「和香様に罰を当ててくれそうな神様を探すのって、きっと物凄く大変なんだろうなあ」


 すると雨子様が口を挟んでくる。


「くふふ、確かにの、そう簡単には見つからぬやも知れぬの。そうじゃ、八重垣辺りはどうじゃ?」


 八重垣という名が出た途端に慌てる和香様。


「雨子ちゃん!」


 思わず声が大きくなってしまう和香様。


「冗談でも勘弁や、此所ではうちの弟格ということに成っとるけど、元々は、そうしとかんかったらやばいくらいに八重垣の力が強かったって言う事でもあるんやから…」


「確かにそれはそうじゃの。じゃがあやつ、和香のことは気に入っとるし、意外と純なところが有るから、翻意を持つこと等、まず考えられぬじゃろうて」


 そう言っていた雨子様だったが、そこでこてんと首を傾げる。


「じゃがの、祐二に願われたら?さて、どうなるか分からぬところが有るやも知れんの?あやつは祐二のことを随分気に入って居ったからの」


「雨子ちゃん~~~~」


 普段元気に跳ね上がっている和香様の眉が、今はすっかりと下がり眉になっている。


「もう。勘弁してえな雨子ちゃん、ほんまにもう、いけず…」


 だが和香様は、今回に限って言うならば、その言葉を最後まで言うことが出来なかった。何故なら後半を祐二が引き継いで先に言ってしまったからだ。


「…まんたこりん」


 そんな祐二に雨子様が叫ぶように言う。


「だからその言葉は一体何なのじゃ!」


 だが問われた祐二も返事の返しようが無い。彼としては和香様の言っているのを何度か耳にして、そして憶えただけに他ならないから。


「む~~~~~…」


 すっかりお冠の雨子様。普段は天候を司っているのだが、元々は智を司ることを権能としている雨子様。この訳の分からない言葉がこうやってころころと転がり出てくるのが、何とも落ち着かないことなのだった。





 遅くなりました。

いつも必死になって、何とか定時までには上げようとは思っているのですが……

これがなかなか思うようには上がらない。(^^ゞ

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