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天露の神  作者: ライトさん
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「小者の代表」


 すったもんだ?は有ったものの、祐二はその後、雨子様の指し示した方へと向かうのだった。


 此所だと教えられた下草の方へと近づいて行くと、そこからざわざわとざわめきの様なものが聞こえてくる。


 何だろうと思って耳を澄ましてみると、ざわめきの様に聞こえるその音の一つ一つが、無作為に話されている言葉で、全体として騒音の様に聞こえているのだった。


 しかしゆっくりと近付いて行くにつれ、そのざわめきの様な音も少しずつ静まりかえり、やがてにぴたりと収まってしまう。


 これ以上近付くと逃げられてしまうかな?そう感じた祐二はその場にしゃがみ込み、出来るだけ穏やかな声で話しかけてみるのだった。


「すいません、少しだけお話宜しいですか?」


 と、彼らの潜む下草がうねる様に動く。


「話しかけられた」

「話したぞ」

「我らが見えるのか?」

「人か、人なのか?」

「何者なんだ?」


 口々に好きなことを言い合っている。そのまま放置しておいても埒があかない様に感じられたので、祐二は更に言葉を口にした。


「僕は祐二という人間です。神様方からお使いを頼まれてあなた達の所にやって来ました」


 再び下草がうねる。


「人間らしいぞ?」

「祐二と名乗って居る」

「神様のお使いとか言って居ったぞ?」

「本当に神なのか?」

「誰が相手する?」

たまきはどうしたのだ?」

「あやつは消えたぞ」

「消えたのでは無い、燃やされたのだ」


 その様な言葉が、炭酸水の中から浮かび上がってくる泡の様に生まれ、そして消えていく。


 祐二はそんな数多くの言葉の中から、必死になって意味の有りそうなものを聞き取り、何とか話を続けようとするのだった。


「僕はこの近くで社が燃やされた件でお話を伺いに来ました」


 再びざわめきが生まれる。


「敵か?」

「我らも燃やそうというのか?」

「話を聞くと言っとるぞ」

「敵では無いのか?」

「逃げるか?」

「待て」

「味方かもしれんぞ」


 どうにも祐二に対する不信感が拭いきれない様だった。

そこで祐二は、その場の地面にどっかと直接腰を下ろし、彼らの落ち着くのを気長に待つことにしたのだった。


「座ったぞ?」

「座った!」

「敵意はなさそうだ」

「誰が話す?」

「環は?」

「だから環は死んだと」

「ならば誰が?」

「次郎はどうじゃ?」

「次郎か?」

「次郎なら良いだろう」

「次郎?」

「どこだ?」

「ここだ」

「話せ次郎」

「俺がなのか?」

「そうだ」

「そうだ」

「そうだ」

「そうだ」

「分かった」


 そう言う言葉の終了と共に、恐らくその次郎と思しき存在が、下草の中からのそのそと姿を現したのだった。


 黒い影の様なその存在は、下草から出て暫く経つ内に色が定まり、深草色の、そう、何に似ているかと思えばまるで葱坊主だった。そして色が定まった後、更にゆっくりと祐二へと近付いてくるのだった。


「俺が次郎だ」


 一体葱坊主のどこから声がしてくるのか分からないが、その存在ははっきりそう名前を告げてきたのだった。


「僕は祐二です」


 対して祐二は今一度自分の名を名乗る。


「それでお前は何をしに来たんだ?」


 何ともぶっきらぼうな感じでそう尋ねてくる次郎。

だがその存在に、何の悪意も感じられなかった祐二は心を落ち着けて、自分達がそこに来た理由を話し始めるのだった。


「次郎さん、僕がここに来たのは、実は此処であったのと同じ様な、社の火災が全国で起こっていて…」


 すると次郎は驚愕したかの様に言うのだった。


「何だって?此処だけでは無かったのか?そう言えば環がその様なことを言っていた様な?」


「多分その環という方は、小和香様という神様からの、指令を受けて動いておられたと思います」


「小和香様?」


 次郎はそう言うとつつつと祐二の直ぐ側にまでやって来た。


「お前、小和香様の何なんだ?」


 さて一体どう説明したものだろうかと迷いつつも、祐二はとにかく言葉を重ねた。


「僕はその、小和香様の知り合いと言うか、友達と言うか…」


「何だと、人のお前が神様の、小和香様の知り合いだと言うのか?」


 祐二は大きく頷いて見せると、和香様達の居る方を指し示した。


「うん、そしてあちらに居られるのが、小和香様のあるじの和香様と、雨子様なんだけれど…」


 するとその言葉を聞いた次郎が、その場にどてっと倒れ伏した。


「な、何だと?このとんでもない気、正に神気だったのか?」


「え?あ、うん」


 神気と言われても、今一良く分かっていない祐二は、その様に曖昧な返事をすることしか出来ないのだった。


「何だと?」

「神々の来臨じゃと?」

「本当なのか?」

「卯華姫様のお仲間なのか?」

「敵では無いのじゃな?」

「大変なことだ」

「信じられん」


 等と、彼の下草の方でも大騒ぎとなっている。


 そうこうする内にのそりと身体を起こした次郎が言う。


「あちらにおわすは神様方と言うことで間違い無いのだな?」


 それに頷きながら今度は祐二の方から問い返す。


「うん、それで違いないのだけれども、さっき神気って言っていなかった?」


「おう、我らには神気を見ることが出来るのだぞ?」


「なら昨日と言い今日と言い、どうして逃げたんだい?」


 すると次郎は少し不機嫌そうな声音で説明する。


「いくら何でも感ぜられる気が強すぎるのだ。この様に強い、いや、強すぎる気にはここ暫くお目に掛かったことがない。だから分からなかったのだ」


「今はもう信じられる?」


 祐二がそう聞くと、次郎はその葱坊主の頭を、ぶんぶんと縦に振るのだった。


「おう、信じられるぞ!」


 次郎がそう言うと少し離れたところで控えていた、彼の同族達が次々とその隠れ場所から出てきだした。そして祐二の周りに寄り集うと、これまた好き勝手にお喋りをし始める。


「だから言ったのだ、悪いものでは無いと」

「そうだそうだ、我らは恐れては成らぬと言うたのだ」

「繰り言を申すな、真っ先に逃げていたでは無いか?」

「何を言う、その様な事実は無い」

「そうじゃ、ただ用心しただけなのだ」

「どうでも良いがこれからどうするのだ?」

「それで神々はどちらにおわす?」


 そうやって有象無象、訳の分からない者達が何十何百と打ち揃って、更に訳の分からないことを口々に言い出すものだから、やがてに言葉は意味をなくし、その内騒音の様になる。


 わんわんと鳴り響くその音に、祐二は思わず耳を押さえながら叫ぶ。


「うわこれはたまらない!」


 祐二はそう言いつつ次郎と称していた者に手招きをする。


「納得して貰えたみたいだけれども、ならあちらに居られる神様方をお呼びしても良いかな?」


 そう言って祐二が和香様達の居る方を指し示すと、途端にかちんこちんに固まる次郎。

その余りの固まり具合に焦ってしまう祐二。


「えっ?えっ?大丈夫なの?お呼びしても良いの?」


 そうやって呼びかけては問い、を何度か繰り返す内に次郎なる者は再始動した。


「うむぅ、それではお呼び下さい」


 なんとかようやっとの事で次郎の了解を得た祐二は、やれやれと肩の荷を下ろしながら和香様達を手招いた。


「和香様!雨子様!大丈夫だそうです、どうぞおいで下さい」


 するとまた周りに居た者達の間からどよめきが走る。」


「聞いたか?」

「聞いたか?」

「聞いたぞ!」

「聞いたぞ!」

「和香様と言って居ったな?」

「言って居ったぞ!」

「小和香様から小さいが取れて居るぞ!」

「それは大変なことだ」

「何が大変なのだ?」

「元締めと言うことだ」

「何だと?」

「元締め」

「元締め」

「元締め」

「元締め」

「元締め」


 そうやって元締めという言葉が繰り返される中、和香様と雨子様がようやっとのこと、その有象無象達の元に来ることが出来たのだった。


「何やよっけよっけ居るなあ」


「うむまさしく。ほとんどが成り立てみたいなものではないか?」


「しかし…自分ら少し黙ってんか?元締め元締めって何や偉い風が悪いで?」


「全くじゃ、まるでやくざか何かの様じゃの?」


 その言葉に和香様はすこぶる仏頂面をする。


「いくら何でも雨子ちゃん、言うに事欠いてやくざは無いやろ、やくざは?」


 そうやって雨子様に対してぼやく和香様の言葉を聞きながら、祐二は思っていた言葉をそっと口に出してみる。


「和香組の和香…若頭わかがしら…ぷふぅ…」


 恐らく、多分、いや間違い無くそれが和香様の耳には聞こえていたのだろう。怪訝な顔をしながら祐二のことを見つめる和香様。

 その傍らには腹を抱えて笑っている雨子様。


 そしてそれを見ていた有象無象達がまた騒ぎ始める


「なんだか神が大笑いされて居るぞ?」

「いやいや、神の機嫌はどうにも悪そうだ」

「だが笑って居るぞ?」

「いや間違い無く怒っておられる」

「ええい、どちらなのだ?」

「両方だ!」

「危険では無いのか?」

「だが人の子が笑って居るぞ?」


「はぁ~~~」


 和香様が大きな溜息をつくと、雨子様と祐二のことを力なく見つめる。


「自分らなぁ~~~」


 和香様はそう言うと力なく手を振る。


「もうええは、雨子ちゃんに皆任せるから、ちゃんと上手いことやってくれる?」


 それを聞いた雨子様、さすがに悪かったと思ったのか、うんうんと頷くのだった。


「それで祐二よ、こやつらの代表格はどれなのじゃ?」


 そう雨子様に問われた祐二は、和香様の横に転がっている葱坊主を指差して言う。


「ここに居る次郎というのが現在の代表をしているようです」


 そう説明された雨子様は、次郎という葱坊主に近付いていくのだが、ぴくりとも動かない。


 雨子様はそっとその身を抱え上げ、様子を見るとやがて嫌々をする様に頭を振る。


「こやつ気を失うて居るぞ?」


「それはまた何で?」


 呆れた祐二が雨子様に問うと、苦笑しながら教えてくれた。


「此処に居る者どものほとんどが半成りというか、付喪神にもなりきって居らぬ様な連中じゃ。故に形を為す根源の部分が弱く、おそらくは我ら神の気に当てられて、へたばってしもうて居るのじゃろう。ほれ見てみよ」


 言われるがままに周りを見ると、あちらでもこちらでもその有象無象達が、へたばって転がりつつあるところだった。


「未だ、これ成る葱坊主の方が芯があるのじゃが、それでも足りぬ。ええい、仕方が無いの」


 そう言うと雨子様は何事か、恐らく呪を呟きながら、ゆっくりとその葱坊主の頭部を撫で始めるのだった。


「雨子さん、それは何を?」


 興味を持った祐二が聞くと、雨子様は丸でぼやくように言う。


「少しばかり力を与えてこやつの根源を固めて居るのよ」


 その傍らに来た和香様が呆れた様に言う。


「これは小和香が苦労する訳やなあ」


 その言葉に大きく頷く祐二、正に前途多難とはこのことを言うのだろう。





大変大変大変

遅くなりました(^^ゞ

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