「出発前の一時」
そうやって賑やかに過ごしていると、時間というのはあっと言う間に流れていくものだった。気が付くと決められた時刻になっていて、正にそれに合わせたかの様に玄関のチャイムが鳴らされる。
予め来客の来ることを知っている祐二は、インターフォンに出るより前に玄関に向かうのだった。そして玄関から出、外を見ると門の向こうに榊の姿が見える。
「おはようございます」
祐二が挨拶を述べるよりも先に榊から挨拶を受けてしまう。
慌てて門を開けながら祐二もまた挨拶を述べる。
「おはようございます榊さん」
榊は此度の丹後半島行きの為に、神社所有の車を配送してきてくれたのだ。
見ると丁度その車から和香様と小和香様が降りてきているところだった。
「今回はそちらの家中の旅行に、和香様と小和香様の御二柱まで同行をお願いしてしまい、申し訳ありません」
そう言って頭を下げる榊に対して、いつの間に後ろにやって来ていたのか、雨子様から返答がある。
「何、偶には和香達も旅がしたいであろ?それにこう言うのは人数が多い方が楽しいものじゃ」
雨子様はそう榊に言うと、和香様達ににこやかに手を振った。
「おはよう雨子ちゃん、昨日帰り際、憔悴し取ったから心配してたんやで?」
「そうですよ、祐二さんもとてもお疲れのようでしたから気になっておりました」
早速に親しく挨拶をしてくる和香様と小和香様。
対して雨子様、つい先ほどのことが頭に思い浮かんだのか、少し言い淀んでしまう。
「あ、うん、まあの。何とか大丈夫じゃった」
その答弁を聞いた和香様の目がキラリと光る。その目はきっと何か面白いことがあったのに違いない、そう確信している目なのだった。
そうこうしている内に、他の家族も三々五々姿を現して、交互に頭を下げたり挨拶を交わして賑やかさが増していく。
そんな中、皆と一通りの挨拶を終えた榊が、暇乞いを告げ、その場から去って行った。
帰りはのんびり散歩がてらに歩き、電車にて神社へ帰社するそうだった。
そんな榊の後ろ姿に、最後まで手を振って見送っているのは小和香様。
その姿を祐二が見ているのに気が付くと、微かに顔を赤らめる。
「小和香はな、なんや知らんけど榊とうまがよう合うてな、おじいちゃん子なんや」
そう解説する和香様に、抗議の声を上げる小和香様。
「和香様!」
その後口を尖らせ、言い訳る様に言う。
「普段から何かとお世話になっている上に、此度もこうやって車を配して下さっているのですから、当然のことでございます」
小和香様の言葉に、分かった分かったという様に頷きながら黙っている和香様。
その様を口惜しそうに見る小和香様なのだが、それ以上はぐっと言葉を抑えるのだった。
そんな小和香様のことを見かねたのか、雨子様が彼女を引き寄せ良々と頭を撫でる。
すると和香様は、小和香はうちの子とばかりに手を持って引き戻す。
結果、二柱の間で小和香様が行ったり来たり。何をやっているのだかと思ってその様を見ている祐二に、節子から声が掛かる。
「祐ちゃん、早く荷物を積み込みなさい。残る荷物はあなたのと雨子ちゃんの二人分だけなのよ?」
それを聞いた祐二は慌ててその場を去り、その後を追う雨子様。
その有様を見送りながら和香様が節子に言う。
「あの子ら本当に仲ええなあ」
「ですよね?和香様もそう思われます?」
すると和香様は、にやにやしながら節子に近づいていく。
「それで節子さん、最近何か面白いことあったんと違う?」
そう問われた節子は苦笑しながら和香様に言う。
「有りました。有りましたけど…」
その言葉を聞くや否や、和香様は節子の腕を取り、その耳元で小さな声で囁く様に言う。
「その話、詳しく聞いてええ?」
話して良いものかどうか暫し悩む節子なのだが、結局は和香様の押しに負け、抑えた声で今朝ほどの二人の、二度寝の件を話して聞かせるのだった。
そして勿論その傍らでは、小和香様が赤くなった頬に手を添えながら、一生懸命に聞き耳を立てているのだった。
お待たせしました
少し短いのですが、にやにやしながら書いてしまいました(^^ゞ




