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天露の神  作者: ライトさん
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「忙中閑有り」


 例の宇気田神社での会合が終わってから数日、雨子様は連日のように和香様の下に出掛け、呪物作製の為の下準備をした。


 朝早くから出掛けて、帰りが夜遅くなることもあって、いくら神様であったとしても女の子、物騒に過ぎると言うことで、何時しか祐二が同道するようになっていた。


 尤も、そうなると日中雨子様は忙しくても祐二はひまとなる。

にもかかわらずここのところ何やら忙しそうにしている。一体何をしているのだろうと思うのだが、生憎いつも忙しくてその場を捉えるいとまが出来ないのだった。


 しかし今日に限って早めに仕事を終えられたので、一緒に昼餉を食べる為に気配を辿って迎えに行くと、神社に居る小者達を交えて、何やら走り回っている姿があるのだった。


 おまけに見れば、いつの間に着替えたというのかジャージ姿?そんな祐二のことを目を丸くして見ながら、一体何をしているのだと尋ねる雨子様。


「祐二よ!この暑いのに何をその様に走り回って居るのじゃ?」


 すると祐二は小者達に丁寧に頭を下げると、息せき切って雨子様の元へと走ってきた。


「お待たせ」


 雨子様は汗まみれの祐二を見ながら、呆れつつ問う。


「お待たせでは無い。だから一体何をやって居ったのかと尋ねて居るのじゃ」


 だが祐二はその問いに直ぐ答えること無く、ちょっと待ってねと言うなり傍らの木立の中へと入っていく。


 不思議に思った雨子様が、何があるのかと覗き込んでみると、その木立の奥には小さな井戸があるのだった。


 祐二はそこの傍らに行くと汗まみれの衣類をさっと脱ぎ、ざっと井戸の水を被るのだった。そしてその後、近くにおいてあった自分のバッグから、タオルと着替えを出してくると急ぎ身体を拭って着替え、実にさっぱりとした顔になって雨子様の元へ戻ってくるのだった。


「今度こそのお待たせ!」


 雨子様はそんな祐二に顔を赤らめながら言う、ほんの少し口元を尖らせながら。


「お、お待たせでは無いのじゃ。いきなり目の前で服なぞ脱ぐのでは無いのじゃ」


 そう言いながら何ともどぎまぎして可愛らしい雨子様。


「ああ、ごめんごめん、さすがにあれだけ汗を掻いたままだとまずいからね。小者達にあそこの井戸を教えて貰ってからは、結構使っているんだよ」


 そう言いながら涼しい顔をしている祐二のことをめ付けると、再度雨子様は言う。


「だからじゃな…」


「ああ、あれは小者達に修行の手伝いをして貰っているんだよ」


「修行じゃと?」


 目を丸くしている雨子様の手をそっと握る祐二。そしてそのまま引っ張りながら、いつもこの神社でお昼を頂いている建物へと向かい始めるのだった。


 そうやっていつの間にやら祐二に、引っ張られるがままに成っていた雨子様が更に問う。


「ちゃんと分かるように説明せぬか?」


 そう言うと雨子様は、いくら何でも引きずられたままでは風が悪いと思ったのか、自ら足取りを速め、急ぎ祐二の傍らで歩くのだった。


「ああ、普段は雨子さんに例の神威の使い方とか見て貰っているじゃ無い?でも身のこなしとか、まだまだ上手く出来ないって言うか、気のコントロールが上手く行かないんだよね。それで皆が仕事している間暇だったので、自分で体術の訓練もどきのことをしていたら、それを榊さんが目に留めてさ」


「何と榊がじゃと?」


「うん、それで身のこなしに困っているんだったら、小者達に手伝って貰ったらと言うことになって、さっきみたいに走り回っていたんだよ」


 確かに小者達は身が軽く、足場さえ有ればどんな動きでもこなす。だからそんな小者達を相手にして動き回っていれば、自然体捌きも身についてくることだろう。


「まるで今牛若じゃの?」


 そう言いながらくすりと笑う雨子様。


「それでどうなのじゃ?」


 そう問われた祐二は苦笑しながら答えを返す。


「いやぁ~まだまだ、全然だよ。きちんと気を通すことが出来て居ないのか、全く追いつく気配が無いね」


「じゃがさっき見て居った範囲では、小者のうちの一匹には、何とか追いつきそうであったぞ?」


「ああ、あれね、彼は優しいから。でも捕まる直前になるといつもひょいって逃げるんだよ。でもまあお陰で、ここ数日長足の進歩は遂げているような気は、気はするのだけれどもなあ」


 そう言うと頭をがしがしと掻く祐二なのだった。

 

 だがそんな祐二のことを、目を凝らして見つめた雨子様は、少し驚いた顔をしながら言う。


「祐二よ、だがその小者との訓練、馬鹿にしたものでも無いかもしれんぞ?」


 それを聞いた祐二はちょっと嬉しそうな顔をしながら言う。


「え?そうなの?」


「うむ」


 そう言いながら意味ありげに頷く雨子様。


「我の見るに、其方の身体を巡る気は、明らかに有意の範囲で向上しつつあるの」


「わぉ、本当?」


 そう言いながら破顔する祐二。そんな彼の笑顔が何故だか眩しく、目を細めてしまう雨子様なのだった。


 そうこうする内に目的の建物に到着するのだが、相変わらず彼らは手を繋いだままで、当人達は全く気づく気配が無いのだった。


 そこへ折悪しく?後ろから気配を絶ちながら近づいてきたのは和香様だった。

彼女は二人の肩に手を掛けるとその間から顔を出しながら言う。


「自分らほんまに仲ええな?」


 いきなり和香様にそんなことを言われた雨子様、一体何を言っているのじゃと不思議そうな顔をしながら言う。


「何を言っておるのじゃ和香は?こうして二人で居るのはいつものことでは無いか?」


 そう言う雨子様に、和香様は反論すべく、二人の繋がれた手を持ち上げて見せながら言う。


「そしたらこれは何やのん?」


 そこまで来て初めて雨子様は、自分達の手が未だ繋がれたままであったことに気がつく。

おまけにあろう事か、いつの間に繋ぎ直したのか、その手の有り様は、俗に言う恋人つなぎ。


「え?あ?う?お?」


 雨子様との付き合いも結構長い和香様なのだが、今日この時ほど焦りまくっている彼女を見たことが無かった。


「ぷぷぅ~~~!」


 派手に吹き出してしまう和香様なのだった。

そして腹を抱えて笑おうと仕掛けるのだが、後ろから来ていた小和香様に怒られてしまう。


「和香様?その様なことで人をからこうては成りませぬ。神の筆頭に居られる方として、有っては成らぬことですよ?」


 さすがの和香様も、この様に諫められてはどうしようも無い。さあ笑うぞと大きく開かれた口元をしゅんと閉じ、蛸のように尖らせながら膨れ上がりつつ言う。


「いけずまんたこりん」


 和香様の指摘に何とも決まり悪い思いをして、顔を真っ赤にしていた雨子様なのだが、その言葉を聞くや否や直ぐに問う。


「和香よ、その言葉、以前も聞いたことが有るように思うのじゃが、一体どう言う意味なのじゃ?」


 だが今回もまた良く分からないとの答えを貰い、首を捻る雨子様。改めてネットで調べてみようと思い立つのだった。




 いつも読んで頂きありがとうございます


 いいねのシステムが新たな物になったのですが、その中でのいいね押し。

ありがとうございます。実に励みになります



さて、またもや出て来た謎の言葉…作者に訊かないで下さい。

私もまた調べているのですが、分からないのです、使いどころしか・・・。

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