子猫その後
猫も好きですが犬も好き、ウサギも好きだしインコも好き。可愛いよなあ
さて家に戻って暫しの時が経った頃、七瀨がふらりとやって来た。
「おじゃまします~」
七瀨自身はさほど寂しそうな表情はしていなかったが、どこか疲労感を漂わせている。
「どうだった?」
と聞くと
「いや大変だった…」
「大変だった?」
「それがね、あちらの子供さん、一年生くらいなんだけど、あの猫が気に入ってしまってもう大騒ぎ。あと、お姉さん夫婦も大の猫好きってことで、そりゃもう…」
「なんか本当に大変だったみたいだな…」
「まじよまじ」
「きゃつはこれから幸せに暮らして行けそうかや?」
僅かに不安を声音に忍ばせながら雨子様が問うた。
「それはきっと大丈夫、太鼓判押せると思うよ」
僕はちょっと肩の荷が下りるのを感じていた。
と、そこへお茶菓子なんかを盆に載せた母が入ってきた。
「いらっしゃいあゆみちゃん」
「おじゃましています」
「祐ちゃんから聞いたけれど無事子猫のもらい手が見つかったんだって?」
「ええ、今し方届けてきました。そうそう、あちらの方から預かったものがあるんです」
そう言うと七瀨は傍らに置いたトートバッグから、小ぶりの缶ケースを取り出してきた。
「クッキーだそうです」
「じゃあちょうど良いわね、皆でお茶請けに頂いたら?」
三々五々、母の持ってきたお茶を飲みながらクッキーを食べる。
「そうだ、向こうのお子さんと猫が遊んでるところ、写真に撮ってきたんだけれども見る?」
そう言って七瀨が取りだしてきた携帯の画面を皆で囲んで覗き込む。
そこにはお下げにしたかわいい女の子と、遊んでいるのか遊ばれているのか分からない子猫の姿が、動画や静止画として映し出されていた。
「あら可愛い」
母が目を細めて見つめている。
元々母も大の猫好きだったから、それこそ食い入るように見つめている。
だがそれ以上に見入っているのが雨子様だった。
動画で女の子の肩から猫が飛び降りようとした時には思わず手を握りしめていた。
それに気がついた七瀨が僕に言う。
「なんだったら今日撮ってきたの祐二の携帯に送っておこうか?」
「ああ頼むよ」
七瀨は早速送信動作を始めながら更に語をついた。
「そういえば奥さん、イースタもやってるんだって。だからこれから時々猫の日常を上げていきますねとか言っていたよ。そしてこれがそのアカウント」
そう言うと七瀨は子猫のデータ以外にイースタのアカウント情報も送ってきた。
「イースタ?イースタとはなんじゃ?」
「そうか、雨子様はパソコンで良くネットをやっているから、もうとっくに知っているかと思ったんだけれど、イースタの場合は主に携帯かも知れないよね」
そう言いながら僕はイースタのサイトを携帯で開き、雨子様に見せて上げた。
そこには様々な写真や動画がこれでもかと掲載されていて、息をのむように美しいものもあれば、コミカルで腹を抱えて笑い出しそうなものもあった。
「これはまた何とも面白いものじゃな、ビューチューブとはまた違った味わいがある。なんと言うかの、即時性のようなものを感じるの」
「そうそう、だから今この瞬間に猫と遊んでいるとして、その場面をそのまま切り取って載せて皆に見せるのよね」
「するとここにあやつが載せられるという訳なのじゃな?」
「そうですね。ところで七瀬、名前は何に決まったの?」
「それもイースタで発表するみたいよ?だから楽しみにしていて下さいねですって」
「そうか、名前の発表もしちゃうのかあ。面白いよなあ」
そうやってワイワイ盛り上がっている間、雨子様は祐二の携帯を触って色々とイースタの世界を巡っている。
時折目を細めては食い入るように見つめている。
「雨子様、イースタお好き?」
雨子様がイースタに夢中になっている様を見て母が問うた。
「そうじゃな、なかなかに面白い。この漫画の吹き出しのようなマークは何じゃ?」
「それは載っている絵に対して、こちらがメッセージを入れるときに使うのですよ」
「なるほどの、遠く離れて居る者同士、情報の一方通行で済ますのではなく、双方向で楽しめるという訳なのじゃな?よう出来ておる」
そんな話をしながら雨子様は、母と並ぶようにして一緒に猫の動画ばかりを見ている。
「雨子様も猫がお好きなんですね」
「むぅ、我にそう言う好みが有るとは知らなんだ。それもこれもあの子猫のお陰かの」
そう言う雨子様がどこか少し遠くを見つめているような気がしたのは、僕の気のせいなのだろうか?きっと雨子様は本当にあの子猫のことが好きだったのだろう。
雨子様もすっかり猫のファンになっていますねえ




