「鳩首?談合」
「しかしの、対策と申してもの…」
相も変わらず赤いままの和香様を見ながら、小さな声で独り言ちする雨子様。
その半分ぼやきのような言葉を聞いていた祐二が、雨子様に話しかけた。
「ねえ雨子さん、前の時はその、例の龍像とか言うのが、世界征服を企てるみたいなことで動いて居たのでしょう?」
祐二の言葉を聞いた雨子様は、隗との会話や、その後の黄金龍との会話を思い起こしながら言う。
「うむ、その様なことで有ったの。ある意味彼の国の民の、永年の欲がそうさせたとも言えるがの…」
「うん、確か人々の妄執みたいなのが龍像にとりついてとか言っていたよね?」
「そう言うことじゃな。それが何か関係あるのかや?」
雨子様にそう聞かれた祐二は、少し自信なさげな様子で答えるのだった。
「前の時のことが人の妄執からって言うのは、何となく頷けるんだよ。でも今回のは一体どうなんだろう?」
「どうなんだろうとはどう言う意味なのじゃ?」
「あくまで感覚的なことから何だけれども…」
言い淀む祐二の背を押す雨子様。
「何じゃ、口籠もらずとも言うが良い」
雨子様の催促が効いたのか、祐二は意を決すると言葉を口にした。
「なんて言うかね、そこに意志のようなものが感じられないというか、とても散じられてしまっているような、そんな気がするんだよ」
「散じられている…か」
そう言うのは和香様だった。
「確かに祐二君の言うこと、何や分かる気がするわ」
そう言いながら冷静さを取り戻しつつある和香様は、更に言葉を募らせる。
「少し前に節子さんと令子ちゃんが襲われた事件があったやん。あれうちの方でも気になっとったから、小者使って少し調べてん」
「和香、其方いつの間に?一言くらい我に声を掛けぬか」
そう雨子様に言われた和香様は、頭を掻き掻き言う。
「まあそうするのが筋なんやろうけど、ほとんど何も出えへんかったんよ」
「何もじゃと?」
「いや、正確に言うたら違うな、街のどこにでもある程度の悪意の痕跡なら有ったというべきかなあ?でも隗やその周りに居った連中のこと考えたら、こんなん数のうちに入らへんやろ?」
「成る程、確かに和香の言うのにも一理あるの。しかも此度の被害も、治める者も居らぬ社ばかりとのことじゃしの」
「もしかすると…」
それまで何やら考え込んでいる風だった祐二が再び声を上げる。
「もしかするとなんじゃ?」
そう問う雨子様に祐二が更に思案を積み重ねるように宙を睨みながら言う。
「もしかするとね、そうやってそこに特定の強い意志が感じられなかったり、気の散じたような印象を与えられるのは、意図されてのことかも知れないなって」
「ほう?そやけど祐二君は何でそないに思うん?」
「榊さんが言っておられたように、もし相手が智将として立つような存在だったとしたら、隗がやられたのを見てたら絶対に力押しでは来ないのじゃないのかな?こちらに対して何かしてくるにしても出来るだけそっと、何をされているのか分からないようにしてくるのじゃ無いのかな?」
「成るほどの、それで相手はこちらの出方を様子見して居る訳じゃな?」
「うん、そんな感じ」
それを聞いた雨子様は苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
「和香よ、もしかするとこの相手は相当に厄介な者かもしれんの?」
「うわぁ、ほんまやなあ、こう言う権謀術数に長けたやり方って言うのは、どちらかというとうちら苦手やもんなあ」
「うむ、その様な搦め手を使わずとも、ある程度の力業で常に何とかなって来おったからのう」
「けど、これからの相手がもしそうやとしたら、暢気なことも言うてられへんね」
「さてどうしたものか…」
その言葉は、その場に居合わせた者達全てが思った言葉なのだった。
そしてそうやって手を拱いている間に、事態は更に次の段階へと進んでいくのだった。
遅くなりました
体調不良もあり、さっぱりでした。今日は早寝をしなくては……




