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天露の神  作者: ライトさん
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「吉村家再び」


「しかしさすがに暑くなってきたの?」


 間もなく正午になろうかという時間、並んで歩きながら雨子様は、そう祐二に話しかける。真白き肌に流れ落ちる汗を、そっとハンカチで抑える雨子様の姿は、何ともあでやかですら有った。


 じとっと重い大気の下、何もしていなくても噴き出す汗。思わず溜息が出てしまうようなこの感覚、本当に不快で仕方が無い。がしかし、今の彼女はそれすらをも楽しむかのように笑みを浮かべている。


 そんな彼女のことを不思議そうな顔をして見つめる祐二。半袖から露わになっている雨子様の腕が、日射しの中で余計に白く、色を失って見える。


『雨子様はいくら日に当たっても焼けないし、染み一つ出来ないんだよな』祐二はそう心の中で独り言ちする。 


 先程高校の終業式を終えたばかりの二人は、ぎらぎらと照りつけるお日様の元、日陰の場所を縫うように歩きながら、家への帰途を辿っているのだった。


 梅雨とは名ばかりの雨の季節が終わり、早々に芯のある暑さになってきていることを思うと、雨子様の言い様は多分に控えめすぎなんじゃ無いだろうか?そう思う祐二は、にこやかな笑みを浮かべる雨子様を見ながら大いに苦笑しているのだった。


「今年の夏は五十年に一度の熱暑になるとか言ってるから、この先少し怖いなあ」


 そうやって祐二は、盛夏の暑さに不安を表明するのだが、どうやら雨子様の耳には届いていない?


 そう言えば昨年も気象庁は同じ様なことを言っていなかったっけ?はて何年に一度と言っていたかしらん?


 その様なことを思い起こしながら歩いていると、前方に何やら見覚えのある姿があるのだった。


「雨子さん、あれ…」


 そう言って祐二は手で指し示して雨子様に教える。

勿論雨子様も直ぐにそれが誰で有るかを認めてしまう。


 生成きなりの白の清楚なワンピース姿のその者は、雨子様達の知るとある存在そっくりなのだった。だが良く見れば、どこかしら異なる雰囲気を醸し出している。


と言うことは、第一印象で雨子様達の考えた者では無く、瓜二つ、そっくりの存在と言うことになるのだが…。


 その人物は、何事かを思案しているかのように顎に手を当て、少し俯き加減で吉村家の玄関前をうろうろとしているのだった。


 そしてすたすたと雨子様が近づいて行くも、気がつくそぶりも見せないのだった。


 雨子様にしてみれば、つい先日、節子の唐揚げを存分に堪能して帰ったはずの存在が、何で今またと思いつつ声を掛けるのだった。


「こりゃ和香、其方…」


 本当に怒っている訳では無いのだが、そぶりだけでも怒っているかのようにして話しかけようとしていた雨子様は、和香様の表情を見るや否や言葉を飲むのだった。


「どうしたと言うのじゃ和香?」


 そう言いつつ雨子様は周囲を見回す。


「小和香はどうしたのじゃ?其方、共の者一人付けずに参ったのかや?」


 そう問う雨子様に、和香様はただ黙って頷いてみせる。


 そんな和香様の只ならぬ様子に雨子様は、急ぎ門扉を開くと和香様のことを手招いた。


「恐らく外で出来るような話でも無いのであろ?早う入るが良い」


 そう言うと和香様の腕を取り、急ぎ家の中に入っていく。

その姿を見送る祐二も、二柱の醸し出す雰囲気に普段とは異なった真剣さを感じて、首を傾げつつ直ぐ後を追うのだった。


「ただいまなのじゃ」


 家に入るなりそう挨拶の言葉を口にした雨子様に、リビングの方から節子の声が返ってくる。


「お帰りなさい、暑かったでしょう?」


 雨子様と祐二、二人の帰宅を想定してリビングの扉の開くのを見ていた節子は、のんびりと寛いだ様子でソファーに腰掛けていた。


しかしそこに和香様の、しかもいつになく深刻な表情の姿を見て、即席を立ち、連れ立つ二人の神に座ることを勧めるのだった。


「どうぞ和香様、おかけになって下さいな」


 黙って頷き腰掛ける和香様に、それ以上要らぬ言葉を掛けること無くさっとその場を去り、直ぐに冷たい麦茶を人数分持って戻ってくる節子。


「麦茶ですがどうぞ」


 そうやって勧める節子に僅かに笑みを浮かべて応える和香様。


「済まぬの節子」


 そう言って頭を下げる雨子様に、節子は問う。


「御二柱だけにして差し上げた方が良いのでしょうね?」


 だがその返事は雨子様では無く、和香様から返されるのだった。


「節子さんには居って貰ってもええよ。この家の方は皆、うちの身内みたいなもんやもの。ううん、逆に良かったら居って欲しいんよ。何なら、節子さんももしかしたら係わってしまっていることやから」


 そう言うと少しばかり嬉しそうに笑みを浮かべる和香様。 

しかしその言葉に、今度は雨子様の方が深刻な顔をし始める。


「節子にも係わることとな?それは一体どう言うことなのじゃ和香?」


 普段見かけることの無いような渋い表情をした雨子様は、和香様の正面に腰を下ろすと、傍らを手でぽんぽんと叩きながら、此処に座れと祐二に目顔で言う。


 一方節子は、どうしたものかしらと一瞬悩んだそぶりを見せるのだが、心を決めると雨子様を挟んで祐二の反対側へと腰を下ろすのだった。


「ところで令子ちゃんは?」


 そう問う和香様に、節子が腰を浮かせながら言う。


「今は自分の部屋に居ますけど、呼んできましょうか?」


 それに是で持って応える和香様に、祐二が声を上げ、節子を手で制止ながら席を立つ。


「なら僕が呼んで来ます」


 そう言うと直ぐに部屋を出て、あっという間に令子を引き連れて戻ってくるのだった。


 部屋に入るや否や、場の真剣な雰囲気に気がつき、心配そうな表情をする令子、そんな彼女に和香様がちょいちょいと手招きをしながら、自分の隣の席を勧める。


「これで皆そろったんやね、そしたら何が起こったんか、話させて貰うとするな?」


 そう言うと和香様は、つい先程自身が報告を受けたばかりのことを、皆に説明し始めるのだった。








 ボチボチやなあ(^^ゞ

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