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天露の神  作者: ライトさん
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子猫との別れ

とうとう子猫との別れの日がやって来ます。

生き物を責任を持って飼うことの難しさって、実際に経験してみないと

なかなか分からない事ですよねえ

 僕がそんなことを独り言ちしていると、子猫の相手をしながら雨子様がぎょろりとこちらを向いた。


「なんじゃ祐二よ、そなたそのようなことを考えて居るのかえ?」


雨子様はなにやらあきれ果てているようだ。


「七瀨やそなたは先達て、子猫のもらい主を探すと言っていたのでは無かったのかえ?」


僕は当時のことを思い起こしながら言った。


「ええ、確かに」


「ならば名などつけてどうする。思い入れが募ってそうで無くとも別れ難いのに、更に苦しいことになるのだぞ?」


まさに雨子様に言われる通りだった。


 このままずっと社で飼い続けるわけにも行かないのだから、早急にもらい手を探し出してくるべきなのだ。

改めて僕自身も、飼い主捜しに力を入れようと思った。


 そんな僕達の会話を聞いていた七瀨も、携帯の住所録を開けるとなにやら指折り数えている。

もとより七瀨としては、ユウを今のような宙ぶらりんの状態で捨て置くのは、もし訳なくも感じているだろう。




 そのような会話があってから三日目のことだった。

七瀨の伝手でもらい手が決まったらしい。何でも友達のお姉さんと言うことで、既に結婚されていて、その子供さんが望んでと言うことらしい。


 翌日、社に集まった僕たちは子猫のもらい手が決まったことに大喜びしながら、この柔らかな温もりが手の内から居なくなってしまうことに、何とも言えない寂しさを感じていた。


 母から貰ったお金が未だ割と余っていたので、子猫が好きだった餌をいくらかと、遊びに使うおもちゃを二つほど買って来た。


 それらの品物をこれからその家に行くという七瀨に託した。

彼女は飼い主になってくれるお宅近くで友達と待ち合わせているらしい。


「じゃあ行ってくるね?」


 そう言いながら子猫をそっと抱き上げる七瀨。 

抱き上げられた子猫はミーミーと鳴きながら、普段通りのままで甘えまくっている。

と、それを見ていた雨子様。


「最後にもう一度抱かせよ」


そう言うと七瀨から子猫をそっと受け取った。


「いつまでもミーミーと甘えて居ってはいかぬぞ?新しい主にはしっかりと可愛がって貰うのじゃ」


そう言い聞かせるように話しかけると、雨子様は子猫の額に人差し指をそっと当てがった。


「短き間であったが、我らはお前を愛し、お前もまた我らを愛してくれた。お前は未だ小さき子猫故何も返せぬじゃろうが、我は神である。愛し子が新しきところで困らぬように呪をもって恩を返そう」


そう言うと子猫の額に小さな明かりが点り、見る間にすっと馴染むようにして消えていった。


「うむ、これで良い。二日と持たぬ弱い呪では有るが、かように愛しき姿の子猫のこと、瞬く間にあちらの家に馴染むであろう。元気で、元気で暮らせよ…」


 そう言うと雨子様は七瀨に子猫を渡し、その後僕らに背を向けた。

微かにその背が震えている。


「じゃあ行ってくるね」


そう言うと七瀨は借り物のペットケージに子猫を収め、社から出ようとする。


「…」


 振り返る雨子様、何か言おうとして言えないで居る、そんな感じだった。

何だかいたたまれなくなった僕はそっと雨子様の肩に手を置いた。


 七瀨と子猫は、ミーミーと鳴き声を残してその場を去って行った。

何だかお祭りが終わってしまった後のような、言い様の無い寂寥感を感じてしまう。


「別れも様々よの…」


 雨子様がそんなことをぽつり言う。

そこで僕ははっとした。神として僕達の誰よりも長命な雨子様。きっと僕なんかが窺い知りようも無い別れを数多くしてきたのだろう。

そう考えると、雨子様にとっての別れの意味は、僕達の物よりも遙かに重く切ない物なのかも知れない。


 そんなことを思っていた僕は、雨子様の肩に置いた手に知らずして力を入れていたようだ。


「どうした祐二?」


 うっすらと濡れた目で下から見上げてきた雨子様。

心の中で思ったことを言うことが出来なかった僕は、子猫のことに思い馳せた。


「あの子猫、どんな名前を貰うのでしょうね?」


「そうじゃの、良き名を貰えると良いのじゃが…」


『本当ですね』


とはユウ。


「お前?一緒に行かなかったのか?」


 確かに体が小さいと言うこともあるが、大人しくしていたものだからまるで気がつかなかった。


『はい…だって一緒に行ってしまったら、最後に大泣きしてしまいそうでやだったんですよ』


「そなたが一番良く面倒を見て居ったからのう」


そう言うと雨子様はしゃがんでユウを抱き上げた。


「よう頑張ったのう、ユウ」


 そう言うと雨子様はユウの頭を優しく撫でた。

するとユウは心の中で何かが切れたのか、目に大きな涙の粒を溢れさせてかと思うとワンワンと泣き始めた。


 そのユウを赤子のようにあやす雨子様。


「さてそろそろ我らも家に帰るとするかの?」


雨子様は泣きじゃくるユウを抱きしめたまま帰宅を促すのだった。



思うのですが、雨子様は肉の体を得て時が過ぐることで、次第に人の心に近しくなっている、そんな気がしますね

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