雨子様と七瀬と子猫
はぁ~~。長く物語を書いているとき、先輩諸姉諸兄の皆さんはどうやってモチベーションを保っておられるのだろう?
時々落ち込みそうになりつつも、頑張っています(^^ゞ
社に行き着いた僕は、子猫を抱きしめている雨子様にタオルを渡した。
びっしょりと濡れそぼっていた子猫は、既に幾分ましな状態になっている。その分雨子様が濡れそぼってしまっているのだが。
僕が渡したタオルを受け取ると、雨子様は早速子猫をぐるぐる巻きにした。
「で、祐二よ、そなたはどうしてそのような顔をしておるのじゃ?」
「?」
僕は言われている意味が分からず目顔で問い返した。
すると雨子様は苦笑しながら僕の顔を指さした。
「祐二よ、そなたまるで狐にでも化かされたような顔をしておるぞ?」
うーむ、有る意味そうなのかも知れない。偉大なる母狐に。
「もしかして母御に何か言われたのかえ?」
ああ、ここにもまたとんでもない人、いや、神様がいる。
「まあその、僕は何も言わなかったのです、言わなかったのだけれども…」
「母御に子猫かと言い当てられたのじゃな?」
ああ、もう驚くだけ無駄なことかも知れない。
「はい、まったくその通りです、それだけでなくって、そいつのために必要になるからってお金まで貰っちゃいました」
「なんと!母御はそこまで見通されておられるのか?のう、祐二よ。もしやそなたの母御は実は神の眷属とか言うのではあるまいな?」
「そ、そんな馬鹿な。そんな事あり得ませんよ」
「ならこちらから願って眷属となって貰うのも良いかもしれんの?」
「と、とんでもない!」
僕は頭をぶんぶん横に振りながらそう言った。
考えてみると良い、今だって我が家には神様がいる。この上神様の眷属だなんてもうどうすれば良い?第一父さんが嫌がるに違いない。いや、あの人のことだから面白がるかな?ダメだダメだ、何より僕が嫌だ。
余談はさておき、子猫のことはそのまま雨子様に任せて猫用のミルクや餌を買いに行くことにした。
「こいつのミルクと餌を買ってきます、少し温めてくるから時間がかかると思うけど雨子様大丈夫?」
子猫の体の水分を貰った雨子様、蒸し暑いくらいだから大丈夫だとは思うけれども少し心配だった。
「分かった、子猫が腹を空かせて居る、早う行け」
見ると子猫が雨子様の指にチュウチュウと食らいついている。それを見て苦笑しながら大急ぎで近所のスーパーへと向かった。
そしてペット用品の所で幾種類もの品物を前にうんうん唸っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「ん?七瀬か」
どうやら彼女も家の買い物に来ていたらしい。その向こうには彼女のお母さんの姿も見える。
僕がさっと会釈するとすっと側に寄ってきた。
「いつもあゆみがお世話になっています」
「いえ、そんなこと無いです…」
母ならともかく僕は、仲の良い幼なじみとして付き合っているだけ、そう言う感覚しか無かった。
七瀬に比べてお母さんの方は、いつもきっちりとした身なりをしていて、少し固い感じのする人だったが、こうやって礼を述べてくるときの表情はとても魅力的な人だった。
「この子が」
と言いながら彼女は娘の頭に手をやりくしゃくしゃっとする。
「お、お母さん…」
抗議の声を上げるが効果なし。
「この子がちゃんと今も高校生しているのは、あなたやあなたのお母様のお陰だと思うもの。いつもありがとうね」
「いえそんな」
と僕は恐縮するばかりで言葉が続かない。
「ところで今日は?」
僕がペット用品の前で首をひねっている様を見られていたらしい。
「それが、雨の中でずぶ濡れになっている子猫を見つけてしまって…」
すると七瀬が目を輝かせた。
「え?もしかして飼うの?」
「それが家の母さん、猫アレルギーなんだよ。で、とりあえずの世話をするにしてもどうしたものかなってね」
その話を聞いた途端ぐるりと振り返って自らの母の目を見つめる七瀬。
だが彼女は既に先んじて娘の望みを理解していた。
「無理よ、あゆみちゃん、あなたったら放って置いたら自分の世話も出来ないでしょう?」
おっと七瀬、ここに来て普段の生活態度が裏目に出たか?
「そ、そんなこと無い。ちゃんと、ちゃんと世話するからお母さん?」
するとどこからともなく声ならぬ声が聞こえてきた。
『うわ、猫かぁ。きっと囓られてしまうんだろうなあ』
ぎょっとしてみると七瀬の肩にユウがしがみついている。
おそらく穏身がちゃんと働いているのだろう、七瀬のお母さんは何も気がついた様子が無い。
そこで僕がユウに言葉を返すとおかしな事になるので知らんぷりをした。がしかし七瀬自身にもその言葉は聞こえているのだから、さてどうするのやら。
「ま、よく考えたら家を留守にすることも多いし、や、やっぱり私には無理かしら?」
ユウの声が聞こえたのか七瀬は急に手のひらを返すようにそう言った。
端から見ていると何とも挙動非不審にも思えてしまうが、お母さんはあえてスルー?しかししっかりと小首を傾げている。これは近い内何か言われそうだなあ。
「まあ、自分で納得したのなら良いわ」
いきなり意見を変えた娘の様子に何事か言いたそうだったが、ぐっと言葉を飲み込んでいた。
「飼うのは諦めるけど、この後猫を見に行っても良い?」
七瀬は若干上目遣いでこびるように母親を見つめている。でもそれってどうよ、相手は母親だろう?
七瀬のお母さんは少し困り顔をしていたが、小さく一つため息をつくと言った。
「まあ良いは、ここのところあなたにも少し無理言ってきたから、本当はもう少し買い物を手伝って欲しいのだけれど、大目に見て上げる。」
するときゅっと手を握って小さくガッツポーズをする七瀬。思わず何か言いそうになったが、今は何も言うまいと決めた。
これ以上時間を掛けていると雨子様に怒られてしまう。
それまで読んでいた説明書の内容からこれと決めて、ミルクと缶詰をいくつか籠の中に放り込んだ。
「それでは失礼します」
僕は七瀬のお母さんに一言そう挨拶するとレジに向かった。
レジを出ると急いで僕の家へと向かう。少し時間がかかり過ぎていたことが気になって急ぎ足になってしまう。その後を七瀬が慌てて着いてこようとしている・
「ま、待ってよ」
そう言いながらあたふたしている七瀬に、先に雨子様の居る神社の方へ行くように言う。
七瀬と別れた僕は家へと急ぎ、一回分のミルクを少し熱めに温めた。後は子猫の所に行くだけだ。
相変わらず降りしきる雨の中を急いで雨子様の待つ社に行く。
「お待たせ~」
そう言いながら社の扉を開けて中に入る僕。
「本当にお待たせじゃの」
と少しご機嫌斜めの雨子様。
「猫は?」
と聞くと、雨子様が子猫の居るところを指さした。
するとそこには床にぺたんと座り込んでいる七瀬と、その前で子猫に組み敷かれているユウの姿があった。
「ユウ、お前何やってんだ?」
『猫に、猫に食らいつかれているんですってば』
よく見ると子猫がユウのお腹の部分に食らいついている。
「お前もしかして母猫とでも間違えられているのじゃないか?」
チュウチュウ吸っている様を見るとまさにそんな感じだ。
『何でも言いから助けて下さいよ~』
ユウが何とも情けなさそうな声ならぬ声でそう伝えてきた。その有様に端に居る七瀬はどうしたら良いのか分からず、あたふたしながら見守っている。
「待っていろよ」
僕はそう言うとペット用哺乳瓶に入れて持ってきたミルクを取り出した。うん、まだ暖かい。
「祐二よ、それがこの子にやるミルクかえ?」
「うん、雨子様上げてみます?」
すると雨子様はとても嬉しそうでありながら、何とも不安そうな表情をした。
「我に子猫にミルクをやって見よと?」
「ええ、もしいやだったら僕が上げますが…」
僕がそう言うと雨子様は、なおもユウに齧り付いている子猫をそっと引き剥がし、優しく抱え込んだ。
「ほれ、子猫よ。ミルクじゃぞ」
そう言うと子猫の鼻先に哺乳瓶を持っていく。すると子猫は目にも留まらぬ早業で食らいついた。
むぐむぐと凄い勢いで飲んでいる。
「これ、左様に慌てるでない」
そう言いつつも子猫の勢いに慌てているのは雨子様の方だった。子猫を落とさないように優しく抱えながら、その飲む様を慈母のような表情で見つめている雨子様。
「雨子様、何だか神様みたい…」
そう言ったのは七瀬だった。思わずそう言ってしまったのが分かってしまう、そんな光景だった。
「なあ七瀬」
「何?」
「雨子様が神様だって事忘れてないか?」
「あ!」
うん、七瀬って奴はそう言う奴だったよ、うん。
現在はストックが切れてしまったので、常にランニング状態です。
もし更新が途切れたらそう言うことなんだなあってご理解下さいませ(^^ゞ




