表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天露の神  作者: ライトさん
354/685

「祐二と雨子様と爺様」


 朝食を終えた祐二と雨子様は、いつもの休日の日課と言うことで庭の生け垣を抜け、爺様の居る花園の方へ向かった。


 此処を抜ける時に祐二はいつも不思議に思うのだけれど、この場所が実は雨子様の中に有ると言うのは本当のことなのだろうか?


 爺様が祐二に対して嘘を言うメリットなどどこにも無いので、まず真実と言って良いのだろうけれど、それでも何とも不思議に思ってしまう。


 でももっとも不思議なのは雨子様だ。祐二についてすたすたと何食わぬ顔で付いて来るのだけれど、この世界は雨子様の中にある訳で、自分自身の中にある世界に入って行くってもう一体どうなっているのやら…。


 ともあれ目の前に有る現実だけを見ながら、深く考えるのは止めにしようと考える祐二なのだった。


 花園を暫く歩き、出入りしているところからかなり離れた所で声に出して爺様を呼ぶ。


「爺様ぁ~!爺様ぁ~!」


 普段は場所を借りて鍛錬するだけで、敢えて爺様を呼び出すことなどしない。

ただこの場を借りて刀を振り、雨子様と模擬戦を行い、必要に応じて現れるアーマニやティーマニにネクタルを貰って疲労を回復するのである。


 だが今日は爺様に対する相談事が有るとあって、声を張り上げて呼んでいる訳なのだった。爺様のこと、あらゆる場所に感覚網を張り巡らしているはずと、雨子様から言われていたのだけれども、どうやらその言は正しかったらしい。


 程なくして爺様が、その姿を現すのだった。


 目の前に有る沢山の花々が、ぐうっと盛り上がったかと思うと左右に裂け、その中から爺様がもっさりと現れたのだった。


「大きな声を出し居って、一体何用じゃと言うのだ?」


 その問いに対して今度は雨子様が前に出て答える。


「騒がせてしもうて済まぬ爺様」


「二人揃って儂に用が有ると言う訳か?」


「用と言えば用なのかもしれんが、ちと尋ねたいことがあってな」


「尋ねたいこと?何じゃ雨子、お前が儂に尋ねてくるとはの?何か厄介事か?」


 そう言われた雨子様はふと眉根に皺を寄せながら応える。


「まあ厄介事と言えばそうかも知れぬの」


 そう言うと雨子様は最近起こったことを順を追って爺様に説明してみせるのだった。


 新たに令子という存在を分霊格で身内に加えたこと、その令子と節子が出かけている時に何物かに襲撃を受けたこと。節子を守護する為に蚪龍の無尽に疑似宝珠を与えて青龍と為したこと等々。


「何じゃちと目を離したすきに、随分と色々なことが起こって居るものじゃな?して、その襲撃者が何者か目処は立って居るのか?」


「それが分からんのじゃ。単なる偶然の発生なのか、或いは前回の龍像の時のように組織だってのことなのか、まるで分からぬ。しかし同様のことが起こったとしても大事に至らぬように色々手配して居るところなのじゃ」


 雨子様の説明を聞いていた爺様は、何やら少し考える風だったが、やがてに口を開いた。


「これはまた随分豪儀な青龍に仕立て上げたものじゃな?」


 爺様のその言葉に苦笑する雨子様。


「そも、彼処までのものにするつもりは無かったのじゃ。じゃがあやつ、能力を与えたらそれをとことん使い切り居って、それであの様な巨龍になり居った」


「それで一体、どれだけの握り飯を食わせたらあの様な大きさになるというのじゃ?」


 此処でもやっぱりお握りの話になるのかと、思わず笑いを漏らしてしまう祐二。


「いやいや爺様、あやつにそこまで握り飯を食わせようものなら、吉村の家は家財を売らねばならぬようになってしまう」


「当然そうなるじゃろうな?」


「よって元々が龍にて人に非ざるが故、いっそ自分で食い物を見つけてくるが良いと海に放ったのじゃ」


「成る程、それで合点が行った。しかしな雨子」


 そう言いつつ呆れたような顔をする爺様。


「いまちと見てみたが、あれは吉村家の家財を売るとかどうとか言う話しでは無いぞ?とんでもない量を食ろうて居る。恐らくあやつが気を利かせて広範囲で万遍まんべん無く食ろうたから問題が起こっておらぬが、下手をすると一海域の生態バランスを崩し兼ねん。今後その手法は禁止とする」


 ぎょっとする雨子様、祐二はそんな雨子様の顔、初めて見たような気がするのだった。


「そんなになのか爺様?」


「うむ、儂も久々驚いてしもうたわ。雨子、お前あやつに一体幾つの疑似宝珠を与えたのだ?」


「今回は割と質の良いものなのじゃが全部で十程じゃ」


「そうか、となるとあやつ、その力の全てを精の変換の為に振り向け居ったのだな?道理でな」


 そう言うと、わははと腹を抱えて笑う爺様なのだった。


「まあしかし、あれだけの龍成れば雨子、そなたの母上も安心じゃの?」


 そう言うと更に大きな声で笑う爺様。一方顔を赤くして俯いてしまう雨子様。


「で、祐二。今回は何用が有って儂を呼び出したのだ?」


 俯いて何やらぶつぶつ呟いている雨子様を尻目に、爺様はそう祐二に問うた。


「それ何ですが、僕が自身を守るのに使える得物が無いと言うことなのですよ。以前雨子さんから貰った刀が有るにはあるのですが、収納出来ないので普段持ち運ぶことが出来ないし、魔を切る能力も無いと言うのです。ならばその刀に呪を施そうかとなったのですが、しかしそれを行うには鍛冶場が居るとのことで、爺様がもしお持ちなら借りることは出来ないかと…」


「成るほどそう言うことで有ったか。まあ収納の問題については容易いことなのじゃが、魔を切るか。言うても相手は様々故、超常の部分も物理の部分も万遍なく、しかも容易く切るとなるとの…。手早く済まそうと思えば儂の持つ物を与えればそれで済むのじゃが、いやいや、お前に持たせるにはちと危なっかし過ぎるの。敵を切るつもりがその背後にある山まで切りかねん」


 その話を聞いて思いっきり青ざめる祐二。とてもじゃないがそんな代物を使う気になれない、と言うか使いたくない。

そもそもそんなものを得物の一言で片付けられるのだろうか?言ってみれば戦略級の兵器じゃ無いかとも思うのだった。


「勿論きちんと扱えばそんなことは無いのじゃが…」


 そう言いながら祐二のことをじっと見つめる爺様。


「駄目じゃな、まだまだ当分はそんなもの持たせられん」


 そう言う爺様の言葉に、むしろ逆にほっとしてしまう祐二なのだった。


「となれば仕方無いの、一から打つことをせねばならんだろう」


 と、そんな爺様の言葉に雨子様が異を唱える。


「一から打つじゃと、何故じゃ?今有る刀に呪を組み込んでは駄目なのかや?」


 そう言う雨子様に爺様は諭すように言う。


「のう雨子よ、確かにそなたの言う用に呪を込めれば目的の能力の物を作るは容易い、しかし時と場合によってそれは容易に壊れてしまい、主の命を守れなくなってしまうがそれでも良いのか?」


 爺様の言葉に驚き、目を見開く雨子様。


「駄目じゃ、その様なことだけは絶対あっては成らぬ」


「で有れば付け焼き刃の得物を祐二に与えるでない」


 対して物の言わずに頷き沈み込んでしまう雨子様。

そんな雨子様のことを心配して肩を抱きながら、その耳元に何事か話しかける祐二。


 爺様はそんな祐二達のことを目を細めて見守るのだった。


 やがてに落ち着いたのか顔を上げた雨子様は爺様に問う。


「それで爺様、爺様には何か対案があるのかや?」


「うむ、その為の素材の提供はしてやろう。それだけで無く仕上げ打ちは儂がしてやる」


「「仕上げ打ち?」」


 祐二と雨子様、二人揃って異口同音で問うた。


「うむ、簡単に言えば最後の成形については儂が打ち整えてやると言うことじゃ。じゃがそこに至る迄の鍛錬は祐二、お前が打つが良い。そして雨子、そなたは祐二が気を整えるを助け、更には神力を流すが良い」


「僕が刀を打つのですか?いやいくら何でもそれは…」


 そう言って祐二は及び腰になるのだが、そんな祐二に爺様が活を入れる。


「愚か者、今更何を言っておる!既にお前はどれだけ棒を振ってきて居るのじゃ?未だ足らずとは言え、槌を振るうには十分じゃ!」


 大音声にて叱責された祐二、しかしその叱責には彼の胸を打つ物があるのだった。


「分かりました爺様、では精一杯頑張ってみます。足らぬところだらけかと思いますが、どうかお導き下さい」


 そう言うと祐二は深々と頭を下げて見せるのだった。

その様子を目にしながら爺様が雨子様に囁く。


「お前の婿は、ますます男らしく成ってきたな?」


 爺様のその言葉に顔を真っ赤に染めた雨子様は、思わずその拳で爺様の背を打つのだった。

だが爺様は痛がる様子も無く、かんらと高笑いを始める始末。


 そんな爺様の様子に悔しそうにしつつ傷めた手を摩る雨子様。だがその実、爺様の言う通りに男らしくなっていく祐二に、密かに胸を高鳴らせるのだった。


 お待たせしました。

祐二君、段々男らしくなっていくんだねえ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ