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天露の神  作者: ライトさん
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ユウと茶菓子

なかなか上手く書けずにいつものたうち回っているのですが、そんな私の書いた物をいつも読んで下さってる皆々様、心より感謝申し上げます

 女性が三人寄ればかしましいという話があるが、母と七瀨に加えて雨子様が寄っても同様だった。

女性と言っても一人は神様のはずなんだが、わいわいと弾む会話の中には少し混じりがたいものがあった。


 ふと見るとその思いはどうやらユウも同じだったようだ。

母が持ち込んだ茶菓子などが載っている盆の側に座りながら、少し呆然とした感じで七瀨のことを見守っている。そのはずだった。


「ん?ユウ、お前何やってんだ?」


「?」


小さなドロイドになったユウは、何だいと言う感じでこちらを見ながらひょいと手を動かすと置かれている菓子を口に運んでいる。


「おま?菓子食えるのか?」


「え?食べられちゃおかしいんですか?だってこのお菓子美味しいですよ?」


それまでかしましかった女性陣の声がぴたりと止まる。


「「「…」」」


三人揃ってユウの方へ視線を向けた。


「雨子様、これって?」


 ユウを指差しながら代表して僕が聞く。

だが雨子様も実に怪訝な顔をしながら首を横に振るばかり。


「我はこやつにものを食べるような機能をつけた覚えはない」


 再び四人の視線がユウへと集う。

しかしユウ自身はそんな視線をまるで気にすることなく、また新たな茶菓子へと手を伸ばしている。

 さすがにこれは看過できなかったのか、雨子様の手がすっと伸びてユウを持ち上げた。


「これユウよ、我はそなたに物を食す機能なぞ付けなんだ。一体どのようにして物を食うて居る?」


 するとユウは矢庭にぐいっとふんぞり返ってみせた。手のひら程度の大きさしかないくせに何だかとても偉そうに見える。


「だってあのお菓子って言う奴、見るからにとっても美味しそうじゃないですか?美味しそうに見えたら食べたくなるのが人情という物でしょう?」


 人情ってお前はクマじゃないか。と僕は心の中が突っ込んだ。


「でもクマ、クマならものを食べるよね?」


と七瀬。その七瀬を見る母の目が点になっている。


「あゆみちゃん、クマとは言ってもあれは人形でしょう?」


確かに人形、元は人形なんだけれども使い魔?になった今はどうなんだろう?


「で、いかようにしたのじゃ?」


 ユウのことを見る雨子様の目が少し厳しくなった。

ふんぞり返っていたユウが僅かに縮こまる。


「食べちゃまずかったですか?」


上目遣いで雨子様のことを見上げるユウ。いやお前、それはいくら何でもちとあざと過ぎるだろう?

 しかし雨子様を含めて女性陣にはなかなかに有効だったようだ。


「むぐぐぐ、食べるのは良い。問題はいかようにしてそうなったかということじゃ。自分勝手に己が能力を改変するようでは危のうて捨て置けん」


「え~~、僕ってそんなに信用無いんですか?」


「信用も何も、まだ生まれたばかりでは無いか?そんなものに信用があるのかや?」


そう言われたユウは効果音が入りそうなくらいに衝撃を受けていた。


「信用がなかったらどうなるの、雨子さん?」


 七瀨がこわごわ雨子様に聞く。すると雨子様は目を細めてユウを見つめると毅然と言った。


「すぐにどうとは言えん、今から暫し調べる。その後に危険と分かれば即消去じゃな」


「「消去?」」


異口同音に半ば叫ぶように言う。七瀨とユウだ、既にシンクロ率は完璧なのか?

 よよと崩れ落ちるユウ、必死になって雨子様に縋る七瀨、天を仰ぐ母と苦笑する僕。


「ねえ雨子様、一つ提案なんだけれど」


僕がそう言うと雨子様が振り向いた。


「提案とな、なんじゃ、ゆうてみるが良い」


そこで僕は考えていたことを披露した。


「前に雨子様が人である為に、ミサンガを媒体に使って自らの能力をセーブしたじゃないですか?」


「むぅ、確かにの」


「あれと似たようなことは出来ませんか?」


「なるほどの」


そう言うと雨子様は暫し目を閉じた。きっといろいろな可能性を考えているのだろう。

 やがて目を見開いた雨子様は、母に向かって言った。


「のう母御よ、お手元にリボンのような物はありはせぬか?」


「リボンね、確か何本か有ったと思うけれども…」


そう言うと母は階下へと降りていった。


 しばしの執行猶予を貰ったユウは雨子様の手から床の上へと下ろされた。

するととっとこ走ったかと思うと再び盆の側へと行く。見ると必死になって菓子をがっついている。


「お前こんな状態で良く食えるな?」


僕が呆れていると、ユウは口をもごもご動かしながら答えてくる。


「だって、こうやって、今の内、食べておかないと、もう二度と、食べられなくなるかも、知れないじゃないですか?」


なかなかの肝っ玉である。呆れつつもちょっと褒めたくなってしまう?


ひたすらがっついている内に、起こるべきことが起こった。


「うぐぐぐ…」


食べることを急ぎすぎて喉に詰まらせたらしい。別に使い魔なんだから死にはせんだろうけれども、何だか苦しそう。


 すると七瀨が飛んでいって口元に茶を当がった。


「んぎゅ」


無事飲み下せたようだ。その有様が何だかとても滑稽で、僕と雨子様は吹き出しそうになっている。


「お待たせ」


タイミング良くここで母が現れなかったら、多分僕達は笑いをこらえることが出来ないで居たと思う。


「やれやれじゃの?」


そう言いながら雨子様は目をぐるぐる回しながら僕を見た。

 七瀨はと言うとつい先ほどまで目を白黒させていたユウとなにやら話し込んでいる。


 端から見るとなにやら七瀨がユウのことを叱っているというか、戒めている感じがする。

何とも愛らしい見かけのユウがしょげかえっている様はこれまたとてつもなく笑いを誘いそうで、僕達は慌てて目を逸らせた。


「こんなのでどうかしら?」


 そう言って母が雨子様に手渡してきたのは五色のリボンだった。どれも光沢があって美しい。

雨子様はその手触りを楽しむように一本一本手に取り眺めていたが、やがてそのうちの一本を選択した。


「あ奴らの基本色は青であるが故、選ぶとしたらこれじゃの」


雨子様が選んだ一本は青は青なのだけれども、どちらかというと紺に近い青だった。


「主従の関係度が高まれば、行く行くはこれくらいの色の濃さになるであろう。その先取りというわけじゃな」


 そう言うと雨子様はユウに向かって手招きをした。

呼ばれたユウは七瀨の手の元から雨子様のところへとやってきた・


「ユウよそこに立つが良い」


 雨子様に指定された地点にユウが立つと、雨子様は選んだリボンをその首に掛けた。

そしてゆうるりゆうるりその頭上で円を描くように手を動かす。

 すると手の動きの軌跡から光の輪が生じ、ユウの頭へとゆっくりと落下してくる。


「綺麗」


七瀨はその有様をみて思わずそう口にしていた。


合計で五つほどの光の輪が生じ、その輪の全てがユウの頭に掛かった時点で首元のリボンが光り始めた。

瞬時目が開けていられないほど眩しく光る。


 目を庇い光が収まった頃にユウはと見ると、その首元に綺麗な青い首輪が填められている。


「むぅ、上手く行ったようじゃな。これでこやつは七瀨に、そして我らに害を為すことは出来なくなった。また何かあったときには七瀨でも祐二でもこの場に居る誰でも良い、止めたいと思う意思の力を持ってこやつに『止まれ』と言えば、その活動を停止させることが出来よう」


「活動を止めるだけに止められたのですね?」


雨子様の言いようが気になって僕が問うと、彼女はにっこり笑って答えてくれた。


「いやの、自力で我の施した呪を変えるところ、どうにも面白いというか、見所のある奴じゃと思うて、こやつ自身が今後とも力を発揮できる余地を残しておいたのじゃ。ただし深いところできちんと規定する物を掛けておいたから、何でもかんでも出来るというものではないがの」


「雨子さん、重ね重ねありがとうございます」


とは七瀨。一時はユウが消されてしまうのかと焦っていたが、今は安堵で胸をなで下ろしていた。


「ほら、ユウもちゃんとお礼を言いなさい」


そう言うと七瀬はユウの頭を下げさせようとする。

何となく少しぼんやりとしていたユウの目に精気が戻ったかと思うと、ぴょこんと頭を下げた。


「雨子様ありがとうございました」


 その礼儀正しい様に、雨子様はおそらく褒めてあげようとしたのだと思う、多分。

だがその思いはユウから発せられた行儀の悪い音で遮られてしまう。


「グゥ~~~~~~!」


 なんの音なのか僕にはすぐに分かった。


「ユウ、お前、未だ食い足りないのか?」


 それは体の割に多分相当な大食漢であろうユウの、空腹を訴えるお腹の音なのだった。

この後はもう誰も笑いを抑えられなかった。

ただ一人?ユウだけが憮然としていたが、母に残りの茶菓子を勧められるとご機嫌になっている。


「ねえ雨子様、付喪神、いや今は使い魔でしたっけ?こいつは毎日食事させないとだめなんですか?」


「さてのう、そんなことは無いはずなんじゃが…」


雨子様はしきりに首をかしげている。ともあれ僕はその心配は七瀨に丸投げすることにした。



長文の傑作をいつもすいすい書いておられる先輩方の才能にはいつも感心してしまいます

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