「デートのお邪魔虫:中編三」
お待たせしました、今日は少し長めです
結局その店では祐二君が持ってきた予算で買えるだけのCPUを買い、不足する能力については雨子さんが今後時間を掛けてなんとかすると言うことで落ち着いた。
私としてはもうこの頃までに彼らの人となりとか十分に理解していたから、雨子さんの言葉に何の不安も感じることは無かった。
寧ろ私の方からは何のお返しも出来ていないのにもかかわらず、こうまで好意を寄せてくれる、そのことを心苦しく思ってしまう。
さて支払いを済ませ、店の外に出た祐二君が言う。
「なんだか知らないけど、あーだこーだやっている内にすっかりお昼になっていたね」
そう言いながら彼は、リュックの蓋を跳ね上げて留め、私が自由に周りを見渡せる様にしてくれた。
「もう店の外なんだし良いよね?」
そう言う彼の心遣いに私は嬉しくなって、耳をぴょこぴょこさせてしまった。
そんな私のことを見てくふふと笑いながら雨子さんは、自分のリュックから携帯を出してきて、時間を見るなり頷きながら言う。
「確かにの、まったく時間の経つのは早いものじゃ」
そしてそう言っている側から雨子さんのお腹の虫がぎゅ~~っと悲鳴を上げる。
そんなに大きな音では無かったのだけれども、しっかり私には聞こえていたし、(何分にもうさぎの耳ですから…)苦笑している所を見ると祐二君にも聞こえていたに違いない。
「これはその、何じゃ…もうー笑うでない!」
そう言いながら顔を赤くした雨子さんは、祐二君のほっぺを抓りに行く。
「いひゃい、いひゃい」
あーああ、祐二君しっかり頬の肉を捻られているよ。
でも雨子さんのその罰はそう長い時間課せられることは無く、割と直ぐに解放されていた。
多少大げさに頬を撫でながら祐二君が言う。
「ところでお昼なんだけれども、(食べられない令子さんはごめんね)飲食店にペット同伴という訳には行かないから、どこかでテイクアウトを買って公園ででも食べようか?」
すると嬉しそうに手を挙げながら雨子さんが言う。
「祐二!祐二! 我はハンバーガーが食べたいのじゃ」
「え?ハンバーガー?雨子さんまたベタなものを選ぶんだなあ」
そう言う祐二君に雨子さんは少し頬を膨らせながら言う。
「我は未だ数えるほどしか食べたことが無いのじゃ。じゃから食べたいのじゃ!食べたいのじゃ!」
雨子さんは絶対の意志を持ってハンバーガー推しだった。
その迫力に祐二君はすっかり押されまくっている。
「分かったよ雨子さん、なら折角食べるのなら百舌にするか…」
そう言うと祐二君はごそごそと携帯を操作し始めた。
「はて?ハンバーガーを食べるのに、一体何をして居るのじゃ祐二は?」
そう言いながら祐二君の手元を覗き込む雨子さん。
「いや~、令子さんを抱えたまま全員では入れないじゃ無い?そうしたら何オーダーするか決められないかなって思って、公式のメニューにアクセスしたんだよ。今此処で何を食べたいか決めれば良いでしょう?」
「成る程!」
雨子さんが物凄く感心しながら祐二君のことを見ている。そして自然にその頭を撫で付けようとするのだけれども、巧みにその手を祐二君は避ける。
「何故逃げるのじゃ?」
そう言いながら更に追う雨子さん。なんだかもうその二人の掛け合いが面白くって、声を立てて笑っちゃったよ。
気がついたらその雨子さんが目の前に居て、口元に指を当てて何やら言っている。
「令子、しー…じゃ、しー。うさぎがその様に大きな声で笑うては成らぬぞ?」
あ、しまった。私は慌てて前足で口を押さえて周りを見回したのだけれども、幸い誰も私のことに注意を払う様子は無かった。思わずやれやれと胸を撫で下ろす。
雨子さんはそんな私に笑いかけてくる。
「楽しそうじゃな令子?」
私は即座に頭を振った、本当に楽しくて仕方が無いから。
「善哉」
そう言うと雨子さんはそっと私の頭を撫で、その後祐二君の方に向かった。
「祐二よ、我はグリーンなにがしという奴じゃ」
「うんうん、雨子さんはグリーンのやつね、僕はスパイシーっと。サイドはポテトとオニオンで良いかな?ドリンクはもう二人ともコーラでいいや…。ってことで良い雨子さん?」
「良いも何ももう任せるのじゃ、バーガー以外はよう分からん」
そう言うと雨子さんは、善きに計らえとばかりにさっさと行けと手を振る。
祐二君は仕方無いなあと言う感じで行きかけるのだけれども、はっとして戻っていく。
「令子さんを預かって貰わないと追い出されちゃう」
そう言いながら慌てて雨子さんの所に戻った祐二君は、リュックごと私を雨子さんに預け、再び店の方へ小走りで行くのだった。
少しした後彼は、二つの袋を抱えて戻ってきた。
「さあ、行こうか?」
そう言うと祐二君は、綺麗な花が咲き乱れている公園へと私達を誘った。
「斯様な所が街中にあるのじゃな?」
そう言いながら雨子さんが感心している。
幸いベンチはいくつもあり、二人はその内の一つに腰掛けるのだが、食べ物を食べられない私が側に居るのも気術無いだろうと思い、花が見える花壇の方にリュックを置いてくれと頼む。
束の間顔を見合わせる二人。が直ぐに雨子さんが頷き、祐二君もまた同様に首を振る。斯くして私はその希望通りに花を眺める位置に居る。
その後何やらがさがさという音やら、美味しそうに何かをかじる音、ごくりとコーラを飲み干す音なんかが聞こえてくるのだけれども、無視無視。こう言う時は匂いを嗅ぐ機能をほとんど切りの状態に出来るのは有り難いかも知れなかった。
その分私は高性能な耳を駆使して、公園に満ちている色々な音を拾い、暫く気を紛らわすことにした。
すると何やら気になる言葉が聞こえてくる。
「あら?あれもしかして雨子様と祐二君かしら?」
うん、聞き間違えなんかじゃ無い、確かにそう聞こえた。
私がその音を捉えた方向を目で見て確認すると、そこには数人の若い女の子が居て、そのうちの一人がこちらをちらちらと見ているのだった。
「ねえねえ雨子さん」
私は早速雨子さんに話しかけた。
「何じゃ…モグモグゴクリ。令子?」
そう言いながら私の目の前に顔を現した雨子さん。あら、口元にソースが付いている。
「雨子さん、ソースが付いている」
私はそう言うと前足で口元を指した。
「むむっ、これは失態」
そう言うと雨子さんは慌てて紙ナプキンで口元を拭う。
「話しはそれじゃ無いの、聞いて聞いて」
「うむ」
そう言うと雨子さんは再び話を聞く体勢になった。
「あそこに居る女の子達の中の一人なんだけれども、あなた達のことを話しているの、もしかしてお知り合い?」
私の視線の先を追った雨子さんは、少し目を細めて相手のことを見る。
するとあちらはその視線に気がついたらしい。ぺこりと頭を下げていた。
「何じゃ、小和香では無いか…」
そうぼそりと言う雨子さん。なんだ顔見知りだったんだ。
多分その雨子さんの言葉を聞きつけたのだろう、祐二君も相手を見つけた様だった。
「あ、本当だ。あの集団、なんとなく見覚えがあるんだけど…。そうだあれは巫女さん達の集団だ」
そうこうする内に件の女の子は、周りの女の子達に断りを入れた上でこちらにやって来るのだった。
「こんにちは、今日はどうされたのですか?もしかしてデー…」
彼女はそこまで言いかけた所で、雨子さんに手を掴まれ少し離れた所に連れて行かれた。
「頼むのじゃ、余りそう言う類いのことを祐二の前で言わんでくれ…」
とかなんとか言っている。小声で言っているつもりの様なのだけれども、うさぎの耳を持っている私にはどう有っても聞こえてしまう。そのせいかついつい耳がぴくぴくと動いてしまう。
多分それを見たのだろう、雨子さんがつかつかと私に歩み寄ってきた、後ろに相手の女の子を引き連れて。
「令子、その上等な耳で、何か聞こえたかや?」
と、小さな声で宣うのは雨子さん。丁度影になっているから後ろの女の子には分からないのかも知れないのだけれども、大丈夫なのかしらん?
そんな私の危惧を余所に、雨子さん?なぜだか少しお顔が怖いのですけれど?
私はもう何も言えなくなってしまって、ぶるると頭を横に振った。
「まあ良いは…」
そう言った後雨子さんは、女の子の方へ振り返った。
「して小和香、そなたは今日何をして居ったのじゃ?」
その小和香と呼ばれた女の子はさらりとした長い髪がとても特徴的で、とっても清楚で可愛い女の子だった。
「今日は巫女友達と映画を見て来たんです、お二人はその…」
さすがに雨子さんの戒めが聞いたのか、その口からデートの言葉は漏れることは無かったのだが、でも言いたいことは伝わってくる。
それを見ていた雨子さんの口から諦めたかの様な息が漏れる。
苦笑しながら雨子さんと祐二君を交互に見ていた小和香さんの視線が、ふとリュックの上に留まったかと思うと、大きく目が見開かれる。
「ええっ?」
「気がついたかや?」
雨子さんが笑いながら言う。
「ええ。今の今まで雨子様の神気に隠れていて気がつかなかったのでが、こちらは?」
そう言いながら小和香さんはその場でしゃがみ込み、私に視線を合わせてきた。
「こちらは令子と言う。元野良幽霊じゃ…」
「野良?」
ぽかんと口を開けたままになる小和香さん。
「雨子さん酷~~い、いくら何でもその紹介の仕方は…」
私の抗議に苦笑する雨子さん。
「すまんすまん、野良と付けるのが何とも面白うてついついからこうてしもうた」
そう言うと頭をぺこりと下げる雨子さん。そしてその後どうして私がここに居るかを掻い摘まんで小和香さんに説明して居る。
そんな彼女らを傍目に、私は祐二君に聞いてみた。
「あのう、祐二君?」
「はい、何でしょう?」
祐二君は食べ終わったものの後始末をしながら、私の言葉に耳を傾けてくれた。
「あの小和香さんと仰る方は一体どう言う?」
すると祐二君は優しい笑みを浮かべながら教えてくれた。
「あの方も雨子さんと同じ様な神様なんですよ?」
「ええっ?」
私は本気で驚いてしまった。雨子さんという神様に出逢ったことだけでも大変な驚きだったのに、こんなにも簡単に別の神様に巡り会ってしまえるものなのだろうかと。
祐二君は更に説明を重ねてくれる。
「この近所に宇気田神社という大きな神社があるでしょう?」
「うげっ!まさかそこの御祭神?」
宇気田神社と言えば確か日本でも指折り、神様達の頭となる女神様を祭っている。
なんだか私は目が回りそうになっていた。
「いえ、御祭神では無いのですが、その妹分とでも言いましょうか?分け御霊に当たる方なんです…」
しかし祐二君のその言葉は、あまり私の耳には入ってこなかった。
「あーああ、どうしたものかなあ…」
とは祐二君。その言葉を聞きつけた雨子様がその祐二君に問うてくる。
「どうしたのじゃ祐二?」
「令子さんに小和香さんのことを、宇気田神社に関わる神様って説明して居たらこの通りで…」
「何じゃそう言うことかえ?まあ良いは。それでなのじゃが祐二、良い話しじゃ」
「良い話し?」
嬉しそうに笑みを浮かべながら話しをする雨子さんに、祐二君はそう問い返した。
「うむ、そうなのじゃ。先程店でCPUを買う時に、格安のものをまとめて買う客が居ると言って居ったじゃろう?何とあれは宮司の榊の手の者なんだそうじゃ」
「何でまたそんな?」
「祐二もそう思うであろ?我も聞いてみたのじゃ。するとニーの件もあって、いざというときの為の備蓄として買い漁っていたそうな」
「なんだ、そう言うことだったのか」
「うむ、それで小和香曰く、今から神社の方へ来ては貰えぬかとのこと。何でもいくらか分けてくれるそうじゃ」
「うわっ!それはラッキーですね?」
「であろ?否応無いはの」
そうやって話し続けていた雨子さんはつと私のことを見た。
そして軽く私のおつむを小突くのだった。
「令子よ、いい加減にしっかりとせぬか?」
そこでようやっと私は我に返ることが出来たのだった。
「これから宇気田神社に行って、そなたの為に必要となる部品を分けて貰うのじゃ。良かったの?これで最初から十全な身体を得ることが出来ようぞ」
私は驚くべき情報を得て色めきだった。
「ええ?そうなんですか?」
「うむ、ついては和香に挨拶してお礼を言わんとな?」
そこで私は恐る恐る聞いた。
「そのう、つかぬ事を伺いますが、その和香さんとは?」
すると雨子さんは世間話でもするかの様に軽く教えてくれた。
「うむ、和香は宇気田神社の主神じゃ…」
その先私の耳には何の言葉も入ってこなかった、元々心の中では雨子さんに対しても大いに畏怖を感じている。ただ、吉村家の方々が、ごく普通に相対しているから、私もそれに習っているだけなのだ。
それが宇気田神社の御祭神にこれから逢うだって?そう考えただけでもう許容量を超え、私は暫しの間目を回してしまったのだった。
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