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天露の神  作者: ライトさん
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付喪神から使い魔へ

七瀬のクマの人形ユウ。ようやっとその形代を替え、更には付喪神から使い魔へと変化します

 ドロイドを受け取った七瀬は、実に嬉しそうに抱きしめている。サイズが小さくなった分少し抱きしめ甲斐が無くなった?

でも当人は全く気にしていないようだった。綺麗になったというそれだけで十分満足しているようだ。


 ユウという存在を抜き出してしまった元のぬいぐるみはというと、ぼんやりと姿がぼやけている。


「雨子様、それ?」


気がついた僕が指さすと、雨子様はそっとそれを手に取った。


「この存在は十分に役目を終えたというところじゃな。核となる存在を抜き取られたことによって、側の方の存在自体も薄れていって居る、と言ったところか」


雨子様のその言葉を聞き、徐々に消えつつあるユウの元の形代を見た七瀬は、そっとその薄れつつある物を受け取った。


「これは今までユウだった物…。今は中に何も残っていないのかもしれないけれども、私がユウを大切に思うようになれたのはこれのお陰だし、ユウが生まれたのもこれのお陰。一杯ありがとうって思わなくっちゃね」


「そうだね、僕のことを生み育んでくれた体なのだものね」


って、誰の台詞?七瀬の手の中から妙に可愛らしい声が聞こえてきた。

七瀬もぎょっとして手の中を見つめている。

 手の中にあるのは消えつつあるかつてのユウの形代と、今のユウである形代。声はそのドロイドから発せられていた。


「よっこらしょっと」


 ドロイドはちょっとじじむさい言葉を発すると、七瀬の手から抜け出たかと思うと、床の上へと降り立った。

そして何だか偉そうに腰に手を添えると七瀬のことを見上げながら、


「体を新しくしてくれてありがとう。これからもよろしくね、あゆみ」


と宣いく。


かっちりと固まる僕と七瀬。僕はギギギと音がしそうな感じで雨子様の方へ振り向いた。


「雨子様?」


雨子様はと言うと何とも嬉しそうに笑みを浮かべている


「やれやれ、苦労をした甲斐が有ったというものじゃ。せっかく望まれて新たな形代に移るのじゃから、ただ本体とするのではなく、もちっと楽しめるものにせんと可哀想じゃと思ったのじゃ」


「可哀想じゃからって…はぁ」


放っておくと簡単にこんなイレギュラなものを生み出すのだとしたら、まだまだ雨子様から目を離せないな、僕はそう思ってしまった。


 しかしそんな僕の思いはどこへやら。七瀬はキャーキャー言いながら喜んでいる。


「で、雨子様。これは一体どうなっているのですか?」


僕がそう聞くと、雨子様は実に嬉しそうに説明し始めた。何だってこんなにも嬉しそうなんだ?まるでいたずらっ子そのものに見えてしまう。


「うむ、よう聞いてくれたの。かつてのユウはなりかけとでも言えば良いかの?付喪神と言うにもおこがましい、本当に不安定な存在じゃった。じゃからあのままだと、体を変えると言うことは成功したとしても、大した時間も経たないうちに消えてしまう運命じゃったのじゃ」


せっかく移しても消えてしまうところだと聞いて驚いてしまった。となると今回の雨子様の行動もあながちただのスタンドプレーと言う訳でもないわけだ。


「でもそれならそれでちゃんと言って下されば良いのに」


僕がそうぼやくと雨子様はぺろりと舌を出しながら語った。


「すまぬの、少しばかり祐二と七瀬を驚かせてみたくなったのも有る。じゃが本当のところは、全く新しい形態での呪を作り上げるに当たり、途中から分かってきたことなんじゃ。じゃから我も、どうしたものかと祐二に相談しようとはしていたのじゃぞ?じゃがその時祐二は…」


「はい、寝てました」


となれば仕方の無いことか。


「そうじゃそうじゃ、寝て居った。まるで締まりの無い顔をして。思わずつねって起こしてやろうかと思うたものじゃ」


僕は苦笑しながら頭をかいた。


「まあそれでもぎりぎりまで何とか起きていようとはして居ったから、大目に見ることとしたのじゃ」


そう言うと雨子様はちゃっかりと片目をつぶって見せた。


「ところで七瀬よ、そなたの可愛がりようと、ユウの希望を聞いたが故にこの様に動けるように呪を施しはしたが、動く人形はそなたらの間では当たり前のことではない故、他に人が居る時にはくれぐれも動かぬようにな」


雨子様の言葉が急に七瀬たちに振られた。しかし彼らははしゃぎ合っていたように見えてちゃんとその言葉に耳を傾けていたようだった。


「もちろんでございます、雨子様」


とはドロイドのユウ。七瀬の手から床に飛び降りると膝をついての深い礼を行っていた。


「私も約束します、雨子さん」


これは七瀬だった。雨子様は二人の真摯な態度にうむうむと頷いてみせるのだった。


「さてそれでユウよ」


そう言ってユウ一人?に注意を向けると雨子様が言葉を継ぐ。


「ユウはこれまでの付喪神のなりかけから、七瀬に従属する、言ってみれば使い魔のようなものになった訳なのじゃが、そなたは神明にかけて主たる七瀬を守るのじゃぞ?」


「心得ましてございます、雨子様」


「さて次は七瀬じゃ」


七瀬はそう言われるや否や、雨子様の前に正座して背筋を伸ばした。


「はい」


「七瀬はユウの主故、常に力を分け与える側になる。されば主として常に正しき心で在り、正しき行いを心がけるのじゃぞ?ユウは使い魔の位置づけで有るが故、常にそなたの色に染まる。今は使い魔と言っても魔ではないが、そなたの心の在りようによっては真の魔となることも有る。くれぐれもそのようなことの無いようにな」


この雨子様の言葉に、僕は聞くべき事は聞いておかなくてはならないと思い、そのことを口にした。


「もし、もしユウが魔となったときは、雨子様はどうされるおつもりなんです?」


雨子様一瞬口を噤み、その後とても厭そうに顔を顰めながら囁くように言った。


「その時は七瀬とユウの間に在る縁を切る。さすればユウはたちまちにして朧と消えてしまうことになるであろう」


 それを聞いた七瀬は顔色を真っ青にしていた。

それを見た雨子様はトトトと七瀬の側に近寄り、優しく頭を撫でつけた。


「何を心配して居るのじゃ七瀬。そなたが悪しき心を持たなければ良い、それだけのこと。何の心配も要らぬであろうに」


 言われてみれば全くその通りだった。

七瀨は一旦固まった頬を緩め、ふっと息を一つ吐くとうんうんと頷いた。


「そうだよね、私次第なんだものね」


 もとより正義感の強い七瀨のこと、落ち込んだりぐだぐだになったりすることは想像できても、闇落ちする様は全く想像できなかった。

やれやれと胸をなで下ろしていたところへ、母さんが茶菓子を持って乱入してきた。


「おまたせ~」


とは母。室内で話されていた深刻な内容の話の存在は知るはずもない。


 だがそれで慌てていたのはユウと七瀨だった。

特にユウは正座したその場から立ち上がり、ちょうど七瀬に向かって動き始めていたところだった。


「「!」」


急ぎ七瀨のところまで急ぎ動こうと、走り始めていたユウは止まるに止まれないでいた。


「あら~、かわいいわねこの熊さん。しかも自分で歩くんだぁ」


 母の一言に硬直してしまったユウは、その場からごろごろ七瀨のところまで転がって行ってしまう。

とっさに雨子様の方へ視線を向ける七瀨、そのあまりに必死な形相に耐えられず、雨子様は大笑いを始めてしまった。


「クックックッアハハハハハ」


そして笑いつつも蒼白な七瀨のことを慮り、目に見えるほど苦労しながら笑いを抑えつつ話して聞かせた。


「…七瀨よ、祐二の家族は例外事項じゃ。ユウもこの家においては気にせず動いても良いぞえ」


「はぁ~~~~~」


 七瀨はその場に突っ伏してしまった。雨子様はそんな七瀨の頭を再びよしよしと撫で付けている。


「も、もう少し早くそれを言ってほしかった…」


 脱力しながらそう言う七瀨。そんな七瀨の元に歩み寄り、心配そうに見上げるユウ。その二人?のことを見守っていると母に脇をつつかれた。


「これは一体どうなっているのかしら?まずいときに来ちゃったの?」


僕は苦笑しながらこれまでに起こっていたことについて掻い摘まんで話して聞かせた。


「ふ~ん、成る程ねぇ」


そう言うと母は七瀨に声を掛けた。


「でも良かったわねあゆみちゃん」


「?」


何がと思う心をそのまま顔に貼り付けたまま、七瀨は母に向かった。


「だってねあゆみちゃん、これからはいつだって頼もしい…かどうかは分からないけれども、少なくとも少しは守ってくれるような存在がいるわけでしょう?何だか私も嬉しくなっちゃったわ」


そう言うと母はひょいと七瀨の体を引き寄せると抱きしめた。


「おば様…」


 もうすっっかりと大きくなっていたのだが、こう言う時の七瀨は昔のままだった。

彼女は母にしがみついて実に嬉しそうな笑顔で微笑んでいた。


 

このユウはある意味マスコット的な何かになりそうだなあ

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