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天露の神  作者: ライトさん
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ユウの生まれ変わり

ユウの形代を新しい物にするため、雨子様が大いに頑張ります

 あの後七瀬は直ぐに雨子様に作業の開始を願ったのだけれども、グーグーと盛大に泣きわめく腹の虫を抱えた僕と雨子様は猛反対。

階下に降りて朝食を摂った後にと言うことになった。


 少しでも早く新しい姿になったユウをと言うことで色めきだった七瀬だったから、それはもうむくれるむくれる。 

 だが少しばかり大人になったのかな?

むくれはしたけれども何とか我慢して僕たちが食事を終えるのを待っていてくれた。


「「ごちそうさま」」


「はぁーい」


食卓で僕たちがそう言うと、リビングのソファーで雑誌に目を通していた母が返事を寄越してきた。


「後でまたお茶を持っていって上げるわね」


 多分母は何事かでやきもきしている七瀬のことをちゃんと見ていたのだと思う。

せっかちにどうしたのとか尋ねることなく、まずは僕たち自身に状況を任せると言うことなのだろう。七瀬が自身の母以上に僕の母を慕う訳だ。


 僕たち三人はぞろぞろとまた僕の部屋へと向かった。


 部屋に入り僕がベッドに、雨子様が椅子に座ると、七瀬が早速さっきのせっつき始める。一端リュックにしまっていた新た形代のドロイドを引っ張り出してくる。

ドロイドと言うことで今回の物はぬいぐるみではなく、合成樹脂の体なんだけれども。その顔立ちが実に良く今の(いや、かつての?)ユウの顔を模している。成る程七瀬が気に入る訳だ。


 次に壊れ物に触れるように優しい手つきでボロボロのユウの体を出してくる。ただのぬいぐるみでしかなかった頃でも、結構大切に扱っていた。

けれどもその体に意思が存在していることを知っている今では、何かの宝具でも扱っているのかと思うぐらいに大切に取り扱っている。


 そしてその二つを大切そうに抱えると雨子様のことを見つめた。


「それで雨子さん、これからどうしたら良いの?」


「ではその二体を我に渡すが良い」


 雨子様はそう言うと七瀬からそっと形代達を受け取った。そしてそれらを机の上に安置すると七瀬に手招きをした。


「ここに来て座るが良い」


 そう言うと雨子様は七瀬を直ぐ目の前の床に座らせた。

言われたとおりに床にぺたんと座る七瀬。その目は大いなる期待と少しばかりの不安で満たされている。

 実際僕自身これからどうなるのだろうと不安と期待で一杯だ。


「さて、それでは良いかの?」


「良いかのって言われても…」


「まずは目を瞑り心を落ち着かせるが良い、その後は我の言葉に心を従わせれば良い」


 七瀬がチラリと僕の方を見てくる。雨子様が七瀬の前で神様としての力を披露するのはこれが初めてという訳では無い。

でもやはり常ならざる力を行使されるというのには不安があるのだろう。


「心配ない、雨子様の言うとおりにしていたら良いよ」


 僕は出来るだけ優しく聞こえるようにゆっくりと言って聞かせた。

その言葉を聞いて少しは安心したのか、七瀬はそっと目を閉じた。


「では始めるとするかの」


そう言うと雨子様はまず最初、彼女が作った例の謎の珠を手に取った。


「これから七瀬の眉間に、我が新たに作り上げた新しい呪を押しつける。少しだけピリピリとするかもしれんが害は無い故、大人しくしてるが良い」


 そう言うと雨子様は珠をゆっくりと七瀬の眉間へと近づけた。

後もう少しで接触するかと思ったところで、七瀬の眉間と珠との間で微かな薄い光りで火花のようなものが飛んだ。

 その瞬間七瀬が少し顔を顰めたが、予め雨子様が言っていた想定の範囲内だったらしい。

直ぐに落ち着いた表情になっている。


「ふむ、同調に問題はなさそうじゃな…」


 そう言うと雨子様はその珠から手を放した。

すると珠は眉間にひっついているのか、もしくは宙に浮かんでいるというのだろうか?そのままの状態で七瀬の額に在る。


「後はこちらとも同調してやらぬとな」


そう言うと今度はボロボロの方のユウの形代、今現在ユウが付喪神として頼っている方のぬいぐるみにそっと手を翳す。


「これユウよ、騒ぐでない、大人しくして居れ。我にはお前を害しようという気持ちは無いのじゃから、もう暫しそこでじっとして居るのじゃ」


 どうやらユウが雨子様のことを怖がっているに違いない。付喪神と言ってもユウはまだなりたてに過ぎない。何の力も無い存在なのだと思う。

そのユウからしてみて雨子様は、きっとそれは恐ろしい存在なんだろう。

 ともあれそれでもユウは、大人しくそこでじっとしているらしい。


「よいよい、ではそなたとも同調させる」


 雨子様がそう言うと、その直後手のひらからぬいぐるみに向けて先ほどと同様の微かな火花が飛んだ。

今気がついたのだが、いずれの時も飛んだ火花には薄い青い色が色づけされている。

 

「雨子様、その青い色って何か意味があるのですか?」


「うむ、これはこやつらの心と精の波長を顕現させたものよ。両者を同じ波長に調整することによって、七瀬の精がきちんと調整された形でユウに流れるようになって居る」


「…と言うことは?」


「うむ、これよりユウは七瀬を害することなく、その精を貰うことが出来るようになる」


 成る程、そう言うことだったのか。

以前雨子様から、人の精を無制限に搾取する悪魔のような付喪神の存在のことを聞いたことがあった。

 ユウと七瀬の間で間違ってもそのようなことが起こらないように、安全措置を施してくれたのだろう。

僕は雨子様のその優しい心遣いに嬉しくなってしまった。


「さて、お次はユウをその体から珠に移さねばならぬな」


 そう言うと雨子様は、七瀬の額に在る珠に手を添えるとゆっくりと引き離した。

再び微かに火花が飛ぶが、今度は何も感じなかったらしい、七瀬は大人しく目を瞑ったままだった。


 雨子様はその珠を左の手のひらに載せると、右の手のひらでユウの頭を優しく撫でさする。そうこうしている内にユウの中から淡く光る光りの玉が出てきた。

 雨子様はその光りの玉をそっと手のひらに載せると、目を瞑る。口元を見ると何事かを唱えているようだ。

そして次の瞬間


「唵!」


と一言言うと、両手のひらをパンと叩き合わせた。

その瞬間、眩しい光りがその手の隙間から漏れ出てくる。暫しの後右手のひらを上に向けるとその上には、かつて虹色だった珠が薄い青色になって存在していた。


「後はこれにルートを繋ぐだけじゃな」


 雨子様の左手の人差し指がつっと七瀬の眉間に押しつけられる。

その後ゆっくりと引き離すと眉間から人差し指の間に、淡い薄青色の光りの糸が繋がる。

雨子様の人差し指はその糸を引き連れてゆっくりと右手の珠へと向かう。やがて珠に到達した糸は瞬時微かに光量を増した後、緩やかに光りを薄めて宙に融けていった。


「善し、残るはこの珠をと…」


そう言うと雨子様はその珠を手に、新たに七瀬が購入してきたドロイドの体へと押しつける。


「七瀬よ、もう目を開いても良いぞえ」


言われて目を見開いた七瀬は眩しそうに目を瞬かせながら、次第にドロイドの中に沈み込んでいく珠のことを見つめた。


「もしかしてあれがユウなの?」


小声で七瀬が聞いてくるので、僕は黙って首肯して見せた。


 やがて完全にドロイドの中に珠が沈む込むと、最後の瞬間その体全体が光りに包まれる。


「む、成功じゃの」


雨子様はそう言うとドロイドを持ち上げ、念のためなのか四方八方から検分を加えている。


「うむ、よかろう」


そう言うと雨子様は全てを終え、ドロイドへと変貌したユウを七瀬へと手渡したのだった。




次回は新たな形代に入ったユウのお話となります

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