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天露の神  作者: ライトさん
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新たな出会い

今日のは少し長めです


 さて、僕が雨子様の視線の先を追って見たものは、一人のスーツ姿の女性だった。

それだけなら極ありふれたもので何の不思議も無かったのだが、事態はそれだけに留まらなかった。


「何ですかあれ雨子さん?」


 その対象物を目を細めるようにしてみている雨子様は、少し不機嫌そうにして言葉を紡ぎ出す。


「あれはおそらくは残留思念に当たるものじゃの、時と場合によって祐二ら人間達がその一部を幽霊と呼んで居ったりするの」


「げっ!」


 その言葉を聞いて僕は思わず青ざめてしまった。今まで付喪神つくもがみや神様のような超自然?に接してきておきながら、今更幽霊程度でどうしてそこまでと言われるかも知れないが、僕はこう言う恐怖関係は点で駄目なのである。


 そもそも、雨子様と縁が繋がる元となったのが、毒蜘蛛が人の身体を冒していくと言った恐怖漫画によるトラウマなのだ。そんな僕にこのシチュエーションはとてもきつい。


 しかもこの幽霊と来たら丸で血まみれなのである。これはもう駄目、僕は思わず雨子様の背に隠れるようにした。


 雨子様はその辺の事情を良く知っているので、僕がそうやって隠れるようにしているのを黙って見逃してくれていた。


 だがある意味こう言う行動自体が良くなかったのかも知れない。その幽霊?らしきものの視線がこちらに向き、そして定まる。


「祐二、我の背後に居るのじゃぞ?」


「え?なんでですか?」


 もう余り思考力が働かなくなってきている。


「どうやらあちらさん、こちらに来るつもりのようじゃ…」


「うへぇ~~、僕もここに居なくちゃ駄目ですか?」


 するとその言葉を聞いた雨子様が頬を膨らます。


「まさか祐二、そなた我を置いて逐電ちくでんすると申すのかや?」


 さすがにそうまで言われて僕だけ逃げる訳にいかないのだが、それでもやっぱり怖いものは怖い。僕は雨子様の手を引くとこの場から去ることを提案しようとした。

しかしそれは少しばかり遅かった。


「あなた達、私が見えるのね?」


 そう言って間近によってきたその幽霊の姿は、まずもって恐ろしかった。

体中が血まみれなのは遠目にも確認出来ていたのだが、近づいてみると後頭部が潰れていて、何か見えてはいけない物が見えている。足のそれも何?何か見えて居るんですけれど?


 多分その時僕は真っ青になっていて、過呼吸にもなりかけていたのだと思う。

なんだか物事が良く考えられなくなってきて、目の前の景色が次第に色を失いつつあった。


 と、その時、なにやら暖かなものが頬に押し当てられているのに気がついた。

気がつくとそれは、両側の頬に添えられた雨子様の手の平なのだった。


「大丈夫なのかや、祐二?」


 そう言いつつ心配そうに僕の目の奥を覗き込む雨子様。


「済まぬ祐二、そなたが未だにあのトラウマをここまで引きずって居るとは、思いもしなんだ。我の思慮が足らなんだ…」


 そう言うとちらりと幽霊の方に視線を向け、困ったように言う。


「さりとてこやつをこのままにしておくのも、ちとのう…」


 そう言うと雨子様は少し思案した後、僕の目を手でそっと覆った。


「祐二、今暫しの間そなたの視力の一部を奪う。さすればその間こやつの姿は見えぬはずじゃ。良いか?」


 良いかも何も有ったものじゃ無い。今はこの恐怖の対象が見えないことが何よりも有りがたいことだと僕は急ぎ頷くのだった。


「うむ、暫し待て」


 そう言うと雨子様はその手を僕の目に当てたままにする。するとそこから仄かな温もりが目の部分に伝わってきて、そこを起点に身体全体が暖まっていくかのような感じがした。


「ほれ、もう良いぞ」


 手を外された僕が目を開けると、そこには当たり前の駅構内の風景しか見えなかった。

恐らく僕達の様子が少しおかしく見えていたのか、怪訝な目つきで見ている人も居たが、忙しさに紛れたのか直ぐに居なくなってしまった。


「さてこの状態が暫し続くのじゃが、その間に…女、名を何と言う?」


 そう言って雨子様は、僕には見えないものの、依然として付近に居るらしい幽霊に問いかけるのだった。


 するとそれに応える女性の声が直ぐ間近からして、思わず飛び上がってしまった。


「令子、江崎令子と言います。お願いどうか助けて下さい」


 意外にも理知的なその言葉を聞いて、僕は一気に恐ろしさが半減していくのを感じる。要するにこう言うものの多くは、得体が知れないからこそ恐ろしい訳で、きちんと理解し合えるものだと分かれば、その恐ろしさも半減するものなのだろう。


「うむ、令子とな、あい分かったのじゃ。因みに令子、此処におる男は祐二と言う。子供の頃、魑魅魍魎ちみもうりょうの類いの物語で些か大変な目に遭っての、今でも少なからず心に傷が残って居るのじゃ。じゃから余り脅かさぬようにしてやってはくれぬかの?」


 すると幽霊にしてはとても暖かい声音でその返事が返ってきた。


「私は脅かそうとか、怖がらせようとかそんなこと、何一つ考えていないんです。大体今の自分がどんな姿をしているのかさえ知らないんです」


 その言葉を受けた雨子様は苦笑した。


「確かにそれはそなたの言う通りかも知れぬの。実際そなたはほとんどの場合、何物にも映らぬことが多いからの」


 そう言い終えると雨子様は少し周りを見回した。


「あいにくと此処は人の往来が激しい、そなたに出来ることを何かしてやりたいがなかなかに無理がある。そなた電車に乗れたりはするのかや?」


 すると嬉しそうな声で返事が返ってきた。


「はい、乗れます、乗れます。元々私は此処とは別の所に居たんです。でもそこに居ても何にも出来なくって、どうしようも無くって、人の多いところに言ったら何時かどうにかなることも有るかも知れない、そんなことを思ってこの駅に来てみたんです。そうしたらあなた達に…」


 そこまで言うと幽霊は感極まったのか言葉を詰まらせた。


「あなた達に出逢うことが出来ました。ああ、神様、感謝致します…」


 そう言って神様に感謝する言葉を述べるその幽霊。

すると当然のことながらそれに返事をする雨子様。


「うむ、良きに計ろうてやるの」


「はぁ?」


 雨子様のその返事の意味が今一飲み込めていないと見える幽霊。

だがそれを取り合っていても仕方が無いので、僕達はその幽霊を引き連れて列車に乗ることにした。


 僕と雨子様二人は連れ立つように列車に乗り込んだのだけれども、その間近からずっとすすり泣くような声がしてくる。


 多分余程嬉しいのだろうけれども、やっぱり少し怖くなってしまうよ?

本当に彼女の姿が見えていないのが救いだなと思ってしまった。


 だが僕がそんなことを感じつつも、色々なことに思い馳せている間に列車は進み、僕達は自分達の住んでいる街まで戻ってきた。


 そのまま僕達は駅を降り、その足で自宅の方へと向かう。


「雨子さん…」


 僕は雨子様に問いかけた。


「彼女、付いて来ているのですか?」


 すると雨子様は現在の天気でも言うように説明してくれる。


「うむ、今も祐二の後ろから嬉々として付いて参って居るぞ」


「うへぇ」


 今も後ろから付いて来ているのかと思うと、思わずぞっとして首をすくめてしまう。

別に何か理由があって相手を嫌っている訳では無いのだ、自然に身体が反応してしまうのだから自身ではどうしようも無かった。


 するといきなり耳元で声がする。


「ごめんなさい、いやな思いをさせてしまって」  


 それこそ心臓が縮み上がるような思いがしたのだけれども、今度ばかりはなんとか踏みとどまることが出来た。


「は、はい。僕も無駄に怖がってしまってごめんなさい」


 すると彼女は申し訳なさそうに言う。


「仕方無いわよ、私も生前というか今も何だけれども、お化けとか幽霊って言うの、怖くて仕方無いもの。今は何となく理解しているんだけれども、自分が幽霊だなんて信じられないし、そう思うと怖くて仕方が無いの…」


 その言葉に僕は苦笑しながら応えた。


「幽霊である自分自身が怖くて仕方が無いってそんな…」


 僕がそう言うと彼女は声を強めて言う。


「本当なのよ、自分が幽霊だなんて今でも信じられないし、幽霊であることが物凄く怖いし、それ以上に怖いのは何で自分が幽霊になってしまっているのか分からないってことなの」


 そんな幽霊の打ち明け話を聞きながら僕も思った。確かに自分自身で分からない間に自分が死んでしまっていて、幽霊になっていると気がついたら、それは怖くて仕方が無いだろうなと。


 そんな風に普通に会話していると更に怖さが薄れてきたように思う。


「ごめんね、不必要なまでに怖がったりして」


 僕がそう言って謝ると、幽霊はくすりと笑い声を漏らしながら言う。


「あなた良い子なんだね?高校生くらい?」


「高一です」


「そうなんだ。彼女は?」


 丸で普通の四方山話で、幽霊と会話しているという感覚は既に無くなってきていた。


「彼女も同じです、クラスも同じなんです」


 僕がそうやって説明していると、雨子様が側に寄ってきて不満そうに言う。


「祐二よ、我らの関係性をそれだけの言葉で済ますのかや?」


 それを聞いた僕は慌てて更に詳しく説明することにした。


「彼女はその、神様なんです」


 それを聞いた幽霊からは心底驚いた声が帰ってきた。


「ええ?神様?どう言うことなの?さっき神様に感謝していたら、うむって返事されたのはそう言うことなの?」


 どうやら何がなにやらといった感じらしい。でもまあ無理からぬことなんだと思う、いきなり目の前に居る少女のことを神様だと紹介されてもねえ。


 だが意外にも彼女は速攻でそのことを理解したようだった。


「そうかあ、神様なのかあ…」


 驚いた僕は思わず聞いてしまった。


「え?あの説明だけでもう信じちゃうんですか?」


「だってさあ、こうやって私の話すことを真剣に聞いてくれる人が騙すなんて考えられないし、それにさ、幽霊が居るんだもの、神様だって居るでしょう?」


 彼女の何とも言えない飛躍した論理に思わず僕は吹き出してしまった。

一方雨子様は妙に感心している。


「令子とやら、そなたまれに見るほど意識がしっかりとした幽霊なのじゃな?普通はそこまで明確に論理を扱うことは出来ぬものなのじゃがな」


 そう言いながら頻りと首を傾げている雨子様。


 そうこうする内に僕達は自宅ならぬ雨子様の神社へと行き着いた。


「此処は?」


 そう質問してくる幽霊、いいやそろそろちゃんと名前を認識するべきだな。


「此処は雨子さんの神社、天露の神社です、令子さん」


 するとその一言が思わぬ感動を呼んでいるようだ。


「嬉しい!君もちゃんと名前を呼んでくれるんだ!」


 そう言うとさめざめと泣いているような声が聞こえてくる。

恐らくなんだけれども、誰にも相手されること無くずっと孤独で居たのだろうな。そう考えると、今まで良くおかしくならずに居れたものだと感心してしまう。


 そして鳥居を超えて神社の社前の境内まで来ると雨子様が言った。


「さて、此処でなら良いじゃろう」


「って何をするの雨子さん?」


 僕がそう言うと雨子様はにへらと笑いながら言う。


「これ以上祐二が怖がって、夜中トイレに行けぬことが無いように、令子の容姿を作り替えてやるのじゃ」


「夜中にトイレって、それっていくら何でも酷くないですか?」


 そうやって僕の為に抗議してくれたのは令子さん。


「むぅ」


 そう言われてさすがに言いすぎたかと僕の方をそっと伺う雨子様。

その余りにしまったって言う顔が可愛すぎたので、僕は怒れなくなってしまった。


「もう良いですよ雨子さん…」


「うむ、言い過ぎじゃった、すまぬ」


 そう言ってしょぼんとする雨子様。

それを見ていた令子さんは何が何やらといった感じで呟く。


「祐二君が高校生で、雨子さんも高校生。そして雨子さんは神様で、祐二君は普通の人間?どう言うことなのかしら…」


 だがそれに対する答えは、雨子様が全てを終えてからになるのだろう。


「さて令子、此処に立つが良い。この地は我の神域故他からの茶々が入らぬ、よってそなたも恐らく集中し易いであろう。我が指図してやるから、ちっとばかり身なりを整えるが良い」


 そこまで言うと雨子様は僕に向かって小声で言う。


「祐二、目の回復は今少しの間我慢するが良い」


「それは構わないですから、早く令子さんの方に取りかかって上げて下さい」


「何せ令子の容姿を回復する過程であやつは、生まれたままの姿になるが故…」


「そ!それを早く言って下さいって!」


 それを聞いた僕は例え今、令子さんの姿が見えないとしても、それでも感じる視線もあるのではと、慌てて二人に背を向けるのだった。


新キャラ登場・・・

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