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天露の神  作者: ライトさん
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「祐二の試練」

久々定刻通り?


 爺様のかけ声と共に作業が始まり、辺りには何か得体の知れない場のエネルギーのようなものが満ち満ちていくのだが、それはあくまでそう言うものを感じ取ることが出来る者にとっての話である。


 視覚的に見るとただ祐二の肩に雨子様が手を掛け、その雨子様の背中を爺様が押している。端から見れば何となく電車ごっこかと見えないでも無い、そんな光景だった。


 だが実際この場に居る者は全てその場のエネルギーを、多かれ少なかれ感じ取ることが出来るので、皆緊張した面持ちでその作業を見守るのだった。


 そんな中、小和香様が和香様に問う。


「しかし和香様、祐二さんが訓練を始められて、そんなには経たないかと思うのですが、もうそんなに修行が効果を上げることになったのでしょうか?」


 経過した時間を指折り数えながらその様なことを聞く小和香様。


 すると和香様は苦笑しながらその問いに答えるのだった。


「まあ、小和香がそう言うのも無理からぬことやね。今回一番問題に無っとるのは、人間という存在の持てる気の力の少なさやねん」


「と言うと?」


 未だ全く何がなにやらと言った感の小和香様はそう素直に問う。


「本来生き物言うもんは気というエネルギーと、その他生化学的なエネルギーの二つで成り立っとるもんなんよ。そやから生きとるもんを見たら気のエネルギーを放っとるのが簡単に見えるやろ?」


 そう言いながら和香様は庭に生えている木々の方へ視線を向けた。

当たり前の光学波長のみで見た場合、そこに気の発するところなぞ何も見えないので有るが、少し感覚器の領域を広げてやると、煌々と輝くような植物たちの姿が見える。


 小和香様も和香様が何をしているのか察することが出来るので、同様に視覚を変化させて輝く植物たちを眺めている。


「ところが人間という生き物だけはちょっと毛色が違うんよ」


「毛色が違う?」


 不思議そうに小和香様が言葉を口にしながら首を傾げる。


「そうやねん、人間達だけは生命エネルギーを気だけやのうて、精にも変えおるんよ」


「あ~…」


 思わず声を上げる小和香様。


「うん、小和香にも分かった様やね?そうやねん、うちらが長いこと人間から分けてもろうとった精のエネルギー、あれはほとんど人間だけが自然に生み出すことの出来る、特別なエネルギーやねん」


「成る程…」


 そう言うなり深く頷く小和香様。


「実際、うちらが生き延びる為にはその精のエネルギーが必要やった訳で、人間達には申し訳ないながら、長い時間を掛けながらうちらは、人間達の内より効率良く精のエネルギーを生産するものを優先的に交配するようにしてきてん。ほんまやったらこれは謝りまくらないかんことなんかも知れへんねんけど、まあ実害は今まで全くなかったから、内緒やね」


 何とはなしに話の流れの中でとんでもないことを耳にしてしまった小和香様は、青ざめながら小さな声で繰り返した。


「本当に、これは内緒です」


 そう言いながら祐二の方に視線を向けるのだが、彼自身は今それどころでは無く、体の中を蠢く異様なエネルギーの波に先程からずっと呻き続けていた。


「まあそんなせいで人間が扱える気のエネルギーは物凄う小そうなってしもうたもんやから、祐二君が行った比較的短期間の修行でも、あっという間に飽和しそうな所まで行ってしもうたんやろね?そのまま放って置いてもこれからも少しずつは伸びるんやろうけれども、けどそれはいくら何でも効率が悪すぎる。そやから爺様は手を出すことにしはったんやと思うわ」


「でもそれをやったら祐二さんはどうなられるのでしょうか?


 そう言う小和香様の問いに、和香様は目を細めて祐二のことを眺め見ながら言う。


「本来人間は物凄い努力をして気の扱いに通じ、挙げ句その道の達人という領域に達していくんやけど、恐らく爺様のあの改造のお陰で、実に容易く達人の領域に達するようになるんやろうね?」


 それを聞いた小和香様は少し青ざめた。


「なんだか少し恐ろしい様な気がするのですが…」


 小和香様のその言葉に和香様は大きく頷くのだった。


「うん、うちもまさしくそう思う。先達てうちらが戦うた隗なんて可愛く見えるようになると思うで?」


「ひっ!」


 そう言って思わず身をすくめる小和香様。


「でもな…」


 そう言って和香様は優しく小和香様の肩を叩く。


「そうなるのはあの祐二君やで?」


 そう言いながら和香様は実に優しい視線を祐二の方に向けるのだった。

そしてそこに加わるもう一つの実に温かい視線、それこそが小和香様のものだった。


「確かに仰る通りでございますね。その力を得るのが祐二さんと言うことなら、私もなんだか安心してしまいます」


 爺様の手から雨子様を通じて祐二へと流れる膨大な気の流れを見ながら、和香様は静かに喋り続ける。


「おそらくは爺様も、そこのところで祐二君という人間を良く理解してはるからこそ、次へのステップを施す気になりはったんやと思うで」


「実際祐二さんは本当にお優しい方ですし、周りの人間のことを良く考えておられる方ですものね」


 そう言うと小和香様は微笑みを浮かべながら、少し上気した顔で頑張り続ける年若い男の子の姿を見つめるのだった。


 和香様はそんな小和香様の様子を目にとめながら、自らも同じ思いであることに、安心しつつ、切なくも思うのだった。




 さてそれから一体どれだけの時間が流れたことだろう。

それまで膨大な量で流れ続けていた気のエネルギーが、唐突に途切れ、比すれば丸で空白に変化したかのような時が訪れた。


 やれやれとどっかと腰を下ろす爺様の向こうでは、まず祐二が倒れ伏し、その上から雨子様が覆い被さるかのようになって倒れていた。見るに二人とも完全に意識が無い。


「小和香、小者達に言って此処に布団用意したって?」


「お布団をでございますか?」


「うん、この子らもう当分目が覚めへんと思うから、寝さしとかなしゃあないと思うんよ。そうそう、節子さんとこ電話して、今日は二人預かるって言うとかんとな」


 そういうと和香様は懐から携帯を取りだし、早速に節子に電話をし出す。


「ご無沙汰しとります、節子さん?和香です、こちらでちょっと今日色々ありまして、祐二君と雨子ちゃん、疲れて寝てしまいましてん。そやから今日だけ預かりますから心配せんとって下さいね?あ~、全然、全然、大丈夫やから気にせんとって下さい。あ、はい、そしたらまた、失礼します」


 そうやって話している最中にも小和香様の差配で、小者達が部屋に布団を運び込んでくる。


 それを見た和香様は思わずにやりと笑いを浮かべて小者達に言う。


「あ~、布団は一組でええで?」


 それを聞いていた小和香様がぎょっとした顔つきになる。


「ええっ?宜しいのですか和香様?祐二さんは男性で、雨子様は女性でありますよ?」


 それに対して和香様はくくくと笑いながら言う。


「祐二君はその通りやし、雨子ちゃんももう性別は変えるつもりはあらへんやろね」


「いえそう言う意味では無くてですね…」


「もちろん分かっとるよ小和香、まあ言うてみたら二人へのご褒美や。それに此処は神域やから起きても二人変なことせえへんやろ」


「変な事って…」


 そう言いながら顔を真っ赤にする小和香様。

そこへ爺様からも肯定の言葉が飛んでくる。


「うむ、小和香、和香の言う通りにしておいた方良いぞ」


 そう言う爺様に小和香様が口を尖らせて言う。


「爺様までその様な…」


 そう言う小和香様の言葉に首を傾げながら爺様が言う。


「一体何を勘違いして居るのじゃ小和香は?こやつ…」


 そう言うと、小者達の手で布団の上に横たえられつつある祐二のことを指差した。


「…の中では未だ気の力が荒れ狂うて居る。そう言う意味では調整者である雨子が側に居って寝ているのが安心じゃと言うのじゃ。万一何か有ったとしても直ぐに雨子が対応し居るじゃろう。実際外からは見えぬが、雨子はこやつの意識体と共にこやつの中に居って、今もずっと調整し続けて居るのじゃ」


「なんとそう言うことで御座いますか…」


 そう言いつつ小和香様は、祐二の横に横たえられる雨子様のことを見つめた。

そして小者達から掛け布団を受け取ると、優しい手つきで二人の上からそっと掛けてやるのだった。


「やれやれ、さすがに儂も疲れたわい。茶の一服も貰えるかの?」


 そう言う爺様の言葉に、早速にその支度に走る小和香様なのだった。



段々と祐二君が人外に?

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