雨子様力尽きる
雨子様頑張りました、頑張りすぎて困ったことにもなりました
ギリギリまで付き合った後ついに耐えきれなくなって眠ってしまった僕は、目が覚めると同時に雨子様を姿を探した。
「!」
居た。雨子様は僕の勉強机に突っ伏して多分寝ている。
「雨子様?」
声を掛けてみたのだけれども微動だにしない。え?これ大丈夫なの?
心配になって側に行くと一応呼吸しているように見える。もっともそれで即ち普通の人間と同じように大丈夫なのかどうか、上手く判断出来ないところが雨子様だ。
机の上には何やら虹色をした小さな球体が載っているが、さてこれは一体?
ともあれこのまま雨子様を机に貼り付けたままには出来ないので、起こさないようにできるだけ静かに抱き起こすとベッドへ運ぼうとした。
自分が今まで眠っていたベッドに運ぶのもどうかとは思うのだけれど、今から布団を引いてその上に降ろすよりはまだ静かに体を横たえることが出来るだろう。
優しく静かに細心の注意を払ってベッドに体を降ろす、それだけのことなのだったが、雨子様の体が見かけよりも随分軽いこともあって、移動自体はとても楽だった。
「よっこいしょ…」
何とか無事に体を横たえ、その場から離れようとした瞬間、雨子様の手が僕の体を抱きとめた。
「あ、雨子様?」
「む、むう…」
寝惚けているのか、雨子様のその手はますます強く僕のことを抱きしめようとする。一体この華奢そうな体のどこにこの力が?
「ぐ、くぅ。雨子様苦しい、苦しいです。ギブギブ」
もう起こすまいなんて気を遣っていられない。僕は雨子様の体を手のひらでパンパンと叩きながら何とかその目を覚まそうとした。
「む?何じゃ祐二、どうして我にしがみついて?」
「僕じゃ無いです雨子様。雨子様が僕に抱きついているんです。そして力入れすぎ、痛いんです!」
どうやら目が覚めつつ有る雨子様はその手の力を緩めてくれる。だがそうであっても僕の体を離そうとはしない。
「雨子様?」
「すまぬの祐二…じゃが暫しこのままでしていてはもらえぬか?」
「暫しって一体?」
「実はの、昨日からいじって居ったあの特殊な呪を作るのになんと言うのかの?そうじゃ、精も根も使い果たしてしもうて、こうでもしてそなたから精を補充せんことには我は動けなくなりそうなのじゃ」
つまりはあの呪を作るために雨子様はその力を使い果たしたって事なのか?
何だって一体またそんな目に?
「雨子様、そんな事になる前にもう少し考えましょうよ?」
「むぅ、面目ない。じゃがこの新たな発想の呪を作るのが実は思いの外面白く、ついついやり過ぎてしまったのじゃ。こうなる前にそなたに精を貰えば良かったのじゃが、ついうっかりタイミングを逃してしもうてこのざまなんじゃ」
まったくもって雨子様らしからぬ失敗なのではと思うのだが、控えめに見ても美少女の類いに含まれるであろう雨子様に、これでもかというくらいに体を密着してこられると、何とも居心地が悪い。
そう言う対象ではないと頭では分かっていても、自然に体の方が反応しそうになってしまい変な汗をかいてしまう。
仕方が無いので脳内で円周率なんかを思い浮かべていたのだが、間の悪い時には間の悪いことが重なるものである。
「起きてるぅ?」
と言う言葉と共にご機嫌そうな七瀬が部屋の中に入ってくる。そして僕たちの有様を見た瞬間に目を大きく見開き、そのまま固まってしまっていた。
「はぁ…」
僕は大きなため息を吐きつつ目を瞑った。
「ねえ雨子様?」
「むぅ、どうしたというのじゃ祐二?」
僕は軽く雨子様の肩口を叩くと、固まっている七瀬の方を指差して見せた。
「おお、七瀬か、おはようじゃな」
「おはようじゃないですよ雨子様。七瀬、固まっちゃってるじゃないですか?」
「むぅ、そのようじゃな。祐二よ、そなた何かしたのかえ?」
「いや、したのは僕じゃなくって雨子様なんですよ?」
「我が?我が何をしたというのじゃ、はて?」
「だから雨子様、雨子様は女性ですよね?」
「当然じゃ、我のどこがそうでは無いというのかえ?」
「で。僕は男なんです。その僕に女性の雨子様がこんな風にしがみついている訳で…」
「何じゃ、七瀬。もしかして我らが番うて居るとでも思って居るのか?」
「つ、つ、番うって何?」
七瀬がバグりそうになって赤くなったり青くなったりしてる。やれやれ、この誤解を解くにはまたひとしきりの時間がかかりそうだ。
結局すったもんだで1時間ばかり掛けて説明をし、その終盤頃には何とか状況は落ち着いたものの、今度は僕が寝込みそうになってしまった。
「雨子様…今後はもう少し気をつけて下さいね?」
「うむ、まったく面目ない」
「七瀬もも少し落ち着いて状況を判断するようになれよな?」
「う、うん」
「それで雨子様、目的のものは出来たのですか?」
すると雨子様は目を輝かせながら胸を張った。
「もちろんじゃ、これを見よ」
そう言うと雨子様は机の上に置いてあった虹色の小さな球体を掲げて見せた。
「これこの通りじゃ、これを使えばユウを新たな体へと移行させることが出来るばかりではなく…、おっと、この先は事を成してからのお楽しみじゃの」
「それで七瀬の方は?」
そう聞くとようやっと常態を取り戻した七瀬が、何とも誇らしげにリュックの中から新たな人形を取りだして見せた。
「それって?」
僕はその人形を見て驚いた。大きさこそかつての半分くらいなのだけれども、ボロボロになる前、新品の頃のユウのあり姿にそっくりなのだ。
「えへへへ」
何だか七瀬がとても嬉しそうだった。
「何でもこれってね、10周年復刻バージョンのドロイド仕様なんだって」
「あ、道理で頭と体の比率がおかしい訳なんだな」
「うん、でも可愛いでしょう?」
七瀬の表情は本当に嬉しそうだった。後残るはユウの存在を元の体からこの体に移すだけなんだけれども、さて…。
お話を書いておられる諸姉諸兄の皆様方、どうしてあんなにもすらすらと文を書かれて居るのでしょうね?まったく尊敬してしまいます




