ユウの外側
今回はユウの側を変えるための苦労を書いています
雨子様の生まれについての齟齬を訂正するために「雨子様の肩揉み」を修正しました
さて、どうして七瀬が我が家を訪れていたかというと、それはユウの側をどうするのかと言うことを相談しにと言うことらしい。
「雨子さん、ユウの話しなんだけれど…」
リビングから僕の部屋へと居場所を移したところでさっそく七瀬が口を開いた。
「むぅ、ユウについてとな?」
「そう、確か雨子さん、ユウの側を替えて上げることが出来るような話をしてたよね?」
「確かにしておったな」
雨子様のその言葉に安心したのか、七瀬は肩にかけていたリュックからユウの本体を出してきた。あらためてみるになかなかの様相を呈している。小さい子どもが見たら泣き出すんじゃないか?
「じゃが七瀬よ、何とかするにしてもいかな我でも無から有は生めぬぞ?ユウの形代を変えたいのであれば、まず今の物に替わる物を探してこぬか?」
「え?それって別のぬいぐるみとかを用意すればそこに移してもらえるってこと?」
「まさにその通りじゃ。もっともそうするためには些かこちらも準備が必要になるかの」
「準備って?」
そう問われると雨子様は僕の方へと振り向いた。
「祐二よ、この辺りで水晶のような物を手にいれることは適うかの?」
「水晶?」
「うむ、結晶化している媒体が必要になるのじゃ」
「それって透明であるとかそう言ったことが大事なんじゃ無くって、結晶化しているってことが大切なのですか?」
「うむ、その通りじゃ」
「急にそう言われても手にいれられるかなあ?ネットで買うのも手なんだけれども…」
そう言って僕が悩んでいると雨子様は小首をかしげながら僕の後ろを指差した。見るとそこにはパソコンが置いてある。
「ほれ、そこに在るパソコンとやら言う機械、その中にも入っておるぞ?」
「パソコンの中に?…って、それは石英に限らず何かの結晶って言う事?」
「うむ、そう言うことじゃな」
「だとするともしかして」
そう言うと僕は机の引き出しの中を引っかき回した。
「確かこの辺に…有った有った」
僕はそう言うと昔使っていたパソコンのCPUを入れた箱を取り出した。
「もしかしてこう言うので良いのかな?」
僕から箱を受け渡された雨子様は、中味のCPUを取り出すと両手の平で挟んで何事かブツブツ呟いている
「ふむ、実に均質な物質から出来た結晶素材であるな。しかもごく微量で添加されて居る素材が良い具合に働いて居る。これなら上手く扱えるじゃろう」
どうやらCPUを作り上げている素材で問題ないようだった。
「しかしこれほどの大きさで無くとも良いので、もうあと幾つか同様のものがあればありがたいの」
そう言いながら僕の方を向く雨子様。
「同様のもの?なら古いスマホの中に入っているのでも良いのかなあ?」
僕はそう言いながら更に机の引き出しの中を探る。すると昔おもちゃとして貰ったスマホの前の世代の通信機器、携帯電話がいくつか出来た。
本来なら世代交代の時に引き取って貰ったりするのだけれど、まだ小さかった頃にごっこ遊びに使うといくつか貰っていたものだった。
「これじゃダメかな?」
雨子様に渡すと、彼女はそれを手で弄ぶようにして何かを調べている。
「うむ、これで十分じゃろう」
雨子様は僕の勉強机に向かうと、机の上にCPUと携帯を二つ並べた。
「祐二よ、これらのものはばらしてしまって構わぬか?」
僕は黙って頷いた、子供のおもちゃにしていたものだ。今更どうしようとも構わないだろう。
僕の了解を得た雨子様はまずCPUを手のひらに載せ、反対の手の指先でゆうるりゆうるり円を描くように撫でている。
するとCPUを覆っている銀色の金属の部分が少しぼやけたかと思うと、微かに光ながら粉状のものになってゆっくりと宙に融けていった。
「おおっ!」
とは僕と七瀬。するとそれを目の端で捉えた雨子様は指先でしっしと祓うようにしながら七瀬に言った。
「何をしておる、そなたはとっとと側の方を探しに行かぬか?ぼうっとその場で見て居っても何も出来たりはせぬぞ?」
雨子様に尻を叩かれた七瀬は、慌ててユウをリュックにしまうと
「行ってきます!」
の一言を残して、風にように部屋から出て行った。
残された雨子様は裸にされたCPUを前にうんうん唸っている。
「雨子様?」
「案ずるでない、構造はもう理解して居るのじゃ。じゃがそれに働きかけて呪を発動させるのに必要な最適化を行うのにどうにもこうにも力が足らぬ」
「それってもしかしてこの間作ったミサンガのせいですか?」
僕にそう言われた途端に雨子様ははたとこちらを向いた。
「そうじゃそうじゃ忘れて居った。祐二との相談で我は力を押さえて居ったのじゃな…」
「どうします?今だけ外しちゃいます?」
僕がそう問うと、雨子様はしばし考えた後首を横に振った。
「いや、外すのはなしにしておこうと思う」
「それはまたどうしてなんですか?」
「むぅ~、なんと言えば良いのかの?そうしてしまうと何だか負けたような気がしてしまう?」
僕は思わず苦笑してしまった。雨子様の口からスポ根漫画のような台詞が聞かれるとは思っても見なかった。
「雨子様もだんだん人間臭くなってきたような気がします」
僕がそう言うと雨子様はにやりとした。
「おおっ!祐二に斯様に思われるというのは何だか嬉しいものじゃな。それだけ我も人と言う存在に馴染めて居るのかも知れんの」
喜ぶ雨子様を尻目に僕は思った。普通の人間は素手でCPUの加工なんて出来ないよねと。
「で、それってどれくらいかかりそうですか?」
すると雨子様は手は動かしたまま宙をにらんだ。
「そうじゃのう、今のこの進捗率なら一昼夜と言うところかの?」
現代のCPUのとんでもない集積率を考えると、それでもとんでもない速さと言えるんじゃ無いだろうか?
そんな僕の思いを余所に雨子様は側に居て怖くなるくらいの集中力で、さっぱり分からない何かを行っている。
「むぅ、これは問題じゃなあ」
はてさて一体何が問題と言うことなのだろう?雨子様の言葉はなおも続いていく。
「この疎らな構造、肉に縛られたものの作としてはよう出来ておるが、いかんせんほとんどが二次元上に収まって居る。随所に発展の兆候は見えるが、ロスが多いのう。これはやはり構造自体を歪曲させて閉じた構造にするべきかのう」
うん、やっぱり良く分からない。これ以上側に居て雨子様の気を逸らせても申し訳ないと思い僕はその場を離れた。
以降雨子様はそのままずっとCPUの加工に集中し、食事と風呂の時だけは中断していたが、それ以外はずっと作業に没頭している。
既に時間は深夜、僕は自分のベッドに潜り込みながら雨子様に声を掛けた。
「おやすみなさい雨子様」
「うむ、良き夢を見るが良い、我が見守って居るが故安らかにの」
僕は雨子様のその言葉を聞くと普段以上に心地よく眠りに入ることが出来た。
僕の心はもしかすると、かつて雨子様に守られて眠った時のことを覚えているのかも知れなかった。
眠い、何とかギリギリ間に合った?




