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天露の神  作者: ライトさん
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「図書室でのお話」

お待たせしました


 学生の本分は勉学で有る。それは将来の神候補だろうと、今実際に神様で有る雨子様で有ろうと変わりない。


 人の社会に属して学校に属している以上、やはり毎日勉学に勤しまないといけないし、それは成績の良不良には関わらない。


 人によっては融通が利かないと言う者もいるだろうが、雨子様自身はそれで良いと考えていた。


 なぜならそう有ることで自身が何に属しているのかを肌で知ることが出来るし、自然何のために頑張ったら良いのか理解することが出来る。


 別に普段からそんな面倒なことを考えているわけではないのだが、でもそう言った考え方が極自然に雨子様の中には息づいているのだった。


 だから彼女は例え授業の内容が児戯にも等しいものだったとしても、真面目に先生の話を聞いているし、せっせとノートも取っている。


 またそうやって丁寧に勉強していると、意外にも自分の持っている考え方とは異なる考えを見いだせたりもして、これはこれでなかなか面白い。そんなことを思う雨子様なのだった。


 そうやって一日の授業を受け終えると、家に帰るまでの少しの時間図書室に行ったりもする。


 もちろんただの知識という意味だけで考えると、家に帰ってネットを探ればいくらでも見いだすことが出来る。


 だが図書室にはそう言った流動的な人間の知識とはまた異なった、何だろう、言うなれば熟成されたかのような、そんな知識が数多く眠っているのだった。


 そう言った数々の知識を紙のページを捲りながら、一つ一つ自らの目で見て読んで理解していく作業、そう言うのもまた雨子様の好むものの一つなのであった。


 勿論急ぎ知識が必要に成る時など、どうしても時間を節約しなくては成らない時には、本まるごと何十冊でも一気に取り込むことが出来るのだが、それをやってしまうと、その本を書いた人間の思いを取り込みにくくなってしまう。


 だからそう言う必要性が無い限りはいつも丁寧に本を読むことにしている雨子様なのだった。


 今もまた本のページを繰って、新たな文字の羅列に意味を見いだし、一人、にまにましていると、横から祐二の声がする。


「本当に雨子さんは本が好きなんだなあ」


 そう言う祐二に雨子様は苦笑しながら言う。


「祐二は一体何を言うておるのじゃ?そなたは我の真の名を知っておろうが?」


「えっと、たしか思…」


 祐二がその名を言いかけると、雨子様はそっとその人差し指を祐二の唇に押し当てた。


「皆まで言わずとも良い。またこのような場所で言うてはならぬ。いずこに名に意味を与える力を持ったものがおるやも知れぬ。用心するに越したことはないのじゃ」


 そう言われた祐二は分かったと言うように頷くと言った。


「それで今は何の本を読んでいるんです?」


 そう問う祐二に雨子様は少し恥ずかしそうに本の表紙を見せた。


 祐二が見るとそこには『世界の神話』と書いてある。


「何でまた雨子さんがこういう本を?」


 すると雨子様は少し照れ臭そうにしながら言う。


「我らのことが祐二ら人間にどのように捉えられておるのか、少し興味が湧いたのよ」


「何か興味深いものでもありました?」


「まあ、無いこともなかったの」


「例えば?」


「うむ、そうじゃな。例えば和香の性別とか…」


「へ?和香様の性別?」


 心底驚いてしまったのか、祐二は素っ頓狂な声を出して聞いていた。


「和香様は女神なのではなかったのですか?」


 祐二はなんだかこわごわと聞いている。

それを見ていた雨子様が不思議そうに問う。


「どうしてそのように恐ろしそうに聞いておるのじゃ?」


 すると祐二は声を潜めて話した。


「いやなんて言うか、こういう話題って人間界では実にデリケートな話題なんですよ。だからその、下手をして和香様に聞かれでもした日には、て、天罰でも…」


 祐二のその言葉を聞いた雨子様は思わず吹き出してしまった。


「何じゃ祐二、そなた和香に罰を当てられるのを恐れて居ったのかや?」


「別に本当に和香様に罰を当てられると思っていた訳では無いのですが、でもなんて言うか畏れ多いなって思うものだから」


「くっくっく、そうかそうか、畏れ多いか」


「あ~、なんかその言い方酷いなあ」


「む?そうなのかえ?」


「ん~なんとなく」


「何じゃそれは?」


 雨子様は祐二の狼狽えぶりを十二分に楽しんだ後再び話し始めた。


「我も詳しい話は良く知らぬのじゃが、神として身を持たない状態で居る時は本来性というものは無い。もっとも神の身になる前の性については知らぬ。神の中でも相当な古株達はそう言う時代も経てきて居るようじゃがの。因みに和香はその古株の神にあたる存在じゃ」


「そうなんだ」


「うむ、肉体を捨てる前の話は聞かせてくれたことが無いので、大本の和香がどうであったかは知らぬのじゃが、我の知る限りの範囲では和香はいつも女神としての顕現しかしてこなんだはずじゃ」


「うんうん、それで?」


「む?何故だか知らぬが些か聞き方が軽うは無いかえ?」


「そ、そんなこと無いはずだけれどもなぁ?」


「本当かの?」


 そう言うと雨子様は祐二の顔を覗き込もうとする。


「まあ良いわ、それでなのじゃが今この本を読んで居ると、あやつが男で有ったという説が書いてあったものじゃから、ちと驚いて居ったのじゃ」


「え?和香様が男?げっ!」


 女性としての和香様しか知らない祐二はかなりのショックを受けているようだった。


「しかし何でまた?」


 祐二はそう言って雨子様に問うのだが、雨子様は頭を振るばかり。


「全く人間達は何をして斯様なことを書いて居るのかの?我も全く不思議で成らぬ。しかしその様なことを書いてあるからこそ面白くもある。今暫し読み解いていかなることを考えて書かれているのかを検討してみようと思うのじゃ。」


 祐二はその言葉を聞いてふと思っていたことを口にした。


「それって一度和香様に訊いてみたら?」


 ただその言葉を口にした後、二人揃って暫し宙を睨んで考え、同時にぶるぶると頭を振った。


「いやいやいや、これは駄目だな…」


 そう言う祐二に雨子様が頷きながら言う。


「うむ、さすがに我も嫌じゃ。それこそ罰でも当てられそうじゃ。桑原桑原…」


 そんなことを言いながら二人で一冊の本を見ながらそっと紙を捲っていく。


 雨子様はふと肩口に祐二の息づかいを感じる。後ろから彼女の背に覆い被さるようにして本を覗き込んでいる。


 別にその体のいずこも雨子様の身体に触れて居る訳では無いのだが、何故だか自然に嬉しいと思えてしまう。


 くすぐったいような不可思議な喜びを胸に感じながら、雨子様は今この瞬間、自身に実成る身のあることを心より嬉しく思うのだった。



 相も変わらずうさぎの看病が続いています

しんどそうなのが何とも辛いですね

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