朝飯前の修練、のはずが…
世間ではお米が無いとか騒いでいます。
筆者は量こそ頂かないものの、美味しいご飯が大好きなので無いわけには行かないですね
もうそろそろ新米の季節のようですが、良き収穫であることを願ってしまいます
早朝、いつものようにへろへろの木刀?のような物を持って庭先の修行の場を訪れた僕は、既にそこに雨子様が居ることに驚いた。
「おはよう御座います雨子さん、今日は何か用でも?」
僕がそう言うと雨子様は、にっと歯を見せるようにして笑うと言った。
「だいぶ修行の方が進んで居るようなので、ちと手伝いをしてみようかと思ったのじゃ」
「お手伝い?で有りますか?」
手伝うとは言っても、雨子様が一体どのようなことをしてくれようとしているのか、全く想像も出来なかった。
だからその先、雨子様が何をするのかただ見守るばかりだった。
すると雨子様は、いずこからか一振りの日本刀らしきものを取り出してきて僕に手渡す。
「これは?」
僕は受け取りながらそう聞くのだが、イメージしいていた程重くは無い。がしかし、そうで有りながらずしりと重みを感じてしまう。
「見た通りの日本刀よ」
僕は背筋にぞくりとするものを感じながら言う。
「僕にこれを振れと?」
すると雨子様はゆっくりと首を横に振った。
「ただ振るだけでは今の棒振りと何ら変わらぬであろ?」
「はあ…」
僕がそう気の抜けたような返事を返すと、雨子様は日本刀に引き続きどこからか薙刀を引っ張り出してくる。これはお話の中で言うストレージか?
僕がそんなことを暢気に考えていると、ビシュッと言う音と共に雨子様がその薙刀を持って身構えた。
「え?あの、まさか?」
「うむ、そのまさかじゃ。爺様の薫陶もあって、なんとかまともに棒を振れるように成って居るらしいが、見るにそこで止まって居るようじゃ。ここから先は気を練ることを考えながら振ることも覚えなくては成らん。そこでじゃ」
僕はいやな汗を掻きながら雨子様に言う。
「もしかして僕は、これで雨子さんのその薙刀と立ち会わなくてはならないのですか?」
雨子様は嬉しそうな顔をすると頷く。
「うむ、正にその通りじゃ」
「いや無理ですって、僕なんかが雨子さんに敵う訳が無いじゃないですか?」
すると雨子様はきょとんとしながら言う。
「何を当たり前のことを言うて居るのじゃ?昨日今日棒を振り始めたようなそなたが、我に敵う訳無いではないか?」
丸で必然とばかりにそう言われると、なんだか少し腹も立ってくるのだけれども、僕のそんな思いも知らずに雨子様は言葉を継ぐ。
「逆に言うならばそうであるから良いのじゃ」
僕は雨子様の言葉の意味が分からず鸚鵡返しに聞く。
「逆だから良い?」
「うむ、そう言うことじゃ。我と祐二の間には大きな力量差がある、その様な状態であればこそ我もそなたに怪我させること無く、対応出来ようと言うことなのじゃ」
「と言うことは雨子様の腕前は、当面指導するには足るけれども、その先…あいた!」
僕が全てを言い切り前に、雨子様の薙刀の柄の方が頭に飛んできた。防ぐ間あらばこそで、軽くでは有るがもろ頭に当たってしまった。
「なにやら穏やかならぬことを言いそうじゃの?」
そう言う雨子様の片眉がくいっと釣り上がっている。
「だがまあそなたが言わんとした通りかも知れぬの。祐二の力量が我に近づいてきた日には、我の腕でそのまま続ければ恐らくそなたに怪我をさせるであろう」
そう言う雨子様は少し悔しそうだった。
「言うて見れば我などまだまだ修行の道半ばも良いところじゃからな。だが心配は要らぬ、そうなった暁にはそなたの指導、剣技の神にお願いするからの」
「げっ!そこまで修行しなくてはならないのですか?」
「うむ、そこまでせねば、そなたら人間は気の力を身体の隅々まで届け、制御することは能わぬであろう。そうやって十分に身体を制御出来るようになって初めて、陞神の道が開かれるかと思われる」
「ぐへぇ、大変ですね…」
「諦めるのかや?」
僕にそう聞く雨子様は一瞬不安そうな顔をする。
僕は期せずとは言え雨子様にそんな表情をさせてしまったことを悔いた。
「そんな訳無いじゃ無いですか?」
僕のその一言で雨子様が嬉しそうな顔をする。僕のようなたかだか人間の一言で神様に一喜一憂させてしまうのがなんだか申し訳なく思えてしまった。
「ごめんなさい雨子さん」
僕がそう言うとまた雨子様の顔が曇る、きっと勘違いをしているのだろう。
「僕が謝ったのは例え一瞬でも雨子さんに不安な思いをさせて事についてです」
「そうなのかえ?我はその様に表情を変えて居ったのかえ?」
どうやら本人はそのことに気がついて居なかったようだ。
「ええ、諦めるのかと聞いた時には、とても不安そうにされていました」
「成る程のう、これが言うて見れば、人が恋して居る時の心理なのかもしれんの…」
「はい、多分そうなんだろうと思います」
僕がそう言うと雨子様はなんだかとっても嬉しそうな顔をする。
「我もそれだけ人に近づいたという訳じゃの?」
「まあ確かにそれはそうなんですが、不安にはならないのですか?僕が目指すのは完璧に近づく方向だからまだしも、雨子様が目指すのは不完全な方向なのですよ?」
「まあ確かにの。不安にならないかと聞かれれば、はっきり言って成ると思うの。がしかし、それもこれもそなたと同じように成ると思えば、十分に飲み込めるものと思うて居る。じゃから今の我はそう言った不安をも楽しまなければとも考えて居るのよ」
やはり雨子様と言うべきか、何とも達観したものの考え方と言えるかも知れない。
そうやって二人でなんだかんだとお喋りする時間、これもまた楽しいものですっかりと時間が過ぎていた。
もっともそうは言ってもこの地は既に爺様の領域であるので、さしたる時間が流れている訳ではない。
だが当人達にとってはやはりきっちりと主観時間が流れている訳で、既に空腹が耐えがたいまでになっている。
「ねえ雨子さん、これは先に朝ご飯を食べた方が良くはありませんか?」
僕がそう言っている間にも、もうお腹がぐうぐうと鳴っている。
その音を聞くや否や雨子様は吹き出しながら言う。
「何じゃ祐二?えらいまた盛大に鳴いて居るの?」
だがそんなことを言っている端から、雨子様のお腹もまた大きな音で空腹を訴えてきた。
「わわわわ」
慌ててお腹を押さえる雨子様。その慌てた仕草が何とも可愛らしくって僕もまた吹き出してしまった。
申し訳ないとは思いつつもお腹を抱えて笑っている僕に、顔を赤くした雨子様が怒りをぶつけてくる。でも今の雨子様にそうやって怒る権利はないのじゃ無いのかなあ?
「ええい祐二黙らぬか?本当に人の身とは不便なものじゃな?」
あれあれ雨子様、なんだかさっき言っていることと違ってきてやしませんか?
もちろん雨子様もそのことを理解している。
「分かっている、分かってはいるのじゃ。そしてこのことも楽しもうとはして居る。じゃが恥ずかしいのは致し方が無いであろ?もうもうもう…」
そう言って地団駄を踏んでいる。
結局僕達はそうやってわいわい騒ぎながらも一旦家の方へと戻り、お腹を満たしてから再度修行に挑むことにするのだった。
雨子様のお腹の音、私も聞いてみたいものです




