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天露の神  作者: ライトさん
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爺様との会合

今日は無事間に合うか。。。


 すたすたと気軽に光の輪をくぐり、その向こうの花々の咲き乱れる世界に先行した雨子様は、皆を安心させるかのように笑顔を浮かべて手招きをした。


 その様を見て、ならば我々男性陣が先に行って手本を示さねば、等と言っている父さんと誠司さんを尻目に、母さんがひょいっと境界を越えていく。


「まあ、なんて綺麗なんでしょう?葉子、早く来てみなさいな」


 言われた葉子ねえは美代を抱えたまま、これまたひょいと境界を越えたかと思うと周囲を見渡し、深呼吸している。


「景色もだけれども、花の香りが素敵ね!」


 そんな僕達家族の様子を見て苦笑いをしながら次に和香様が通り抜け、それに続いて七瀨が入っていく。


「さあさあ父さん達、僕達男連中も行きませんか?」


 僕がそう言うと父さんと誠司さんは、なんだか毒気を抜かれたような顔をしながらあちらの世界へと向かうのだった。


 僕や雨子様には見慣れた風景なのだけれども、初めてここを訪れた者にとって此処の景色は圧巻だったようだ。


 果てしなく彼方まで続く花また花の世界。空はどこまでも青く、一見太陽のように見える光源はあるのだが、そこから降り注ぐ光は暑さを余り感じさせなかった。


 その時七瀨が妙なことを言い出した。


「景色はとても綺麗で、快適は快適なんだけれども、こう何も音がしないと寂しいし、もう少し景色に変化があっても良いのにね?」


 成る程言われてみれば彼女の言う通りだった。以前来た時にはそれどころでは無かったので気がつかなかったのだけれども、この世界は美しく花が咲き乱れるばかりでそれ以外の物は何も無く、全くの無音の世界なのだ。


 と、七瀨がそんなことを言ってからものの数分もたたないうちに、遠く彼方に山脈が盛り上がり、周囲に木々が生え、川が流れ、湖が出来、鳥が飛び交ったかと思うと、優しい涼風が吹き始めた。


「「「「「………」」」」」


 神様二柱と美代以外の全員が呆気にとられて立ち尽くしてしまった。 


「嬢、これでお気に召したかな?」


 皆が景色に見とれていると、その背後からそう声がしてきた。


 慌てて振り返るとそれは爺様だった。今までは服だか葉っぱだか良く分からないような物を身に纏って居たのだが、今日はちゃんとしていて、丸でギリシャ神話の神々が着るような衣装をふわりと着込んでいた。


「爺様、それであれは何なのじゃ?」


 雨子様が今程目にした風景の変化を指差した。

すると爺様は笑いながら言う。


「何、そこの嬢に殺風景と言われてしもうたものじゃから、そうで無いようにしただけのこと。まあ普段は管理する者達の負荷になるからそこまではしておらなんだが、折角客を招くのにちっとは何かせぬとな?」


 そう言うと爺様は七瀬に向かってバチリと片目を瞑ってみせる、もしかしてウインク?


 そんな爺様の所に母さんが父さんの手を引きながらすたすたと向かっていく。

そして行き着くと二人揃って丁寧に頭を下げた。


「お爺様、先達ては愚息の命を救っていただき、本当にありがとう御座いました」


 そう言う両親の姿に相好を崩した爺様は、機嫌良さそうに言う。


「儂にとってはあの程度の技は手慰みに過ぎぬのじゃが、しかし命の価値とはそんな物とは別じゃからな。そなたらがそうやって喜んでくれること自体が今の儂にとって本当に嬉しい事よ」


 そう言うと両親の思いをしっかと受け止め、優しく笑みを浮かべて頷いて見せるのだった。


 そんなやり取りを聞いていた七瀨がそっと僕の脇腹を突く。


「一体何のことを言っているの?命を救って貰ったって、祐二のことなの?」


「まあ何と言うかその…そう言うことなんだけれども…」


 僕は今回の件、僕の身の上に起こったことまでは七瀨に説明して居なかったのだった。

すると傍らから雨子様が口を挟んできた。


「済まぬあゆみ、祐二は戦いの中で我を庇うて一度は死んでしもうたのじゃ」


「へ?死んだ?」


 血相を変えた七瀨が僕のことをまじまじと見る。


「マジなのそれ?」


「うん…」


「何やってるのよあんた?何そんなに気軽に死んじゃっているのよ?」


 七瀬は涙目になってそう言い立てている。


「でもまあ、爺様に生き返らせて貰ったんだから…」


「そう言う問題じゃ無いでしょう?」


「…はい…申し訳ない」


 僕がそうもごもご言っていると、七瀨は爺様の所に飛んでいって頭を下げた。


「お爺さま、祐二のこと生き返らせて下さって、本当に、本当にありがとう御座います!」


 突然のことになんだか爺様の方が慌てている?


「む?むう…」


「馬鹿でどうしようも無い奴なんですけど、私にとってこれ以上ないくらいに大事な友達なんです」


 そう言うと七瀨はぼろぼろと涙を零し始めた。

それを見ていた母さんが七瀨の所に行くとぎゅうっと抱きしめながら、何事か耳元で囁いている。

 いつの間にか雨子様もそれに合流していた。


「祐二君、君本当に愛されてるんやなあ」


 しみじみとそんな台詞を吐いたのは和香様だった。

しかしそれは別としても、なんだか妙に結束が固い女性陣だと思うのは、僕の思い違いなんだろうか?


「さて既に過ぎたことはともかく、これからのことを打ち合わせねばな?」


 爺様がそう言いながらぽんと手を打ち合わせると、直ぐ側に大きな円形のテーブルと、人数に見合った椅子、更にはベビーベッドまで現れた。


 だが山脈やら湖やらが生成されているのを目にしてしまっていては、今更驚くまでも無い、と思っていたのだが、それでも皆驚いていた。


「皆席に着いてくれるか?」


 爺様がそう願いを口にすると、皆三々五々席に着いた。

だがそうやって皆が勝手に席に着いた様に見えて、実は結構有意性が見られる。


 僕と爺様が対面に位置し、爺様の左に和香様、更には父さんと母さんが座り、右側にはまず七瀨が座り、そこから葉子ねえに誠司さん更には雨子様と言うことになっていた。


 皆が席に着くと目の前に即座に例の飲み物が供される。始めて飲むものは皆口を付ける成り驚いた顔をしている。

 ちょっと待て、七瀨だけ何で一人お菓子みたいなのが付いているんだ?


 未だぐすぐす言っている七瀨の頭を、爺様が優しく撫でながら慰めているようだった。


 その光景を見てなんだか複雑な思いを抱えていた僕に向かって母さんが言う。


「私ね、祐ちゃんががあのお爺様の力を借りて、雨子様と共に過ごせるようにして貰うって言うから、私達と異なった存在になるって言うから、やっぱり色々と心配だったの。雨子ちゃんには心配要らないとは聞いていたんだけれども、やっぱり親だから、心配しちゃうのよね?でも…」


 そう言うと母さんは爺様と七瀨の方に穏やかに視線を送った。


「でも、七瀨ちゃんに対するお爺様のあの有り様を見ていたら、なんだか安心しちゃった。泣いている子に対してあんな風に出来る人に(実際には神様なんだけれども)悪い人は居ないと思うし、ああいう風に気づける人なら悪いようにはしないだろうなって思ったわ」


 するとその隣で話を聞いていた父さんも頷きながら言う。


「確かに母さんの言う通りだな。力や能力だけを見ていたら、それはもう人間とはかけ離れていて…まあ神様の中の御一柱なんだろうけれども…僕達みたいなちっぽけな人間の思いなんて、もしかすると歯牙にも掛からない…事もあるのかななんて思って居たのだけれども、ああ言うお姿を見ているとね?」


 そう言うと父さんと母さんは互いに目を見合わせて、にっこりと微笑んだ。


「私達は君の願いを爺様に叶えて貰うと言うこと、賛成することにするよ」


 それを見、聞いていた和香様は静かに頷く。


 するとそれまでほとんど発言らしい発言をしてこなかった誠司さんが口を開いた。


「僕自身、未だに神様云々という話が永らく信じられないままで、ずっと狐につままれたような思いで居たんだけれども、ここに来て本当に納得出来たし…」


 そう言いながら誠司さんは僕達を取り囲む世界に一巡り視線を走らせた。


「葉子から聞いていた話で神様方の人となりも、完全にでは無いけれども、ある程度十分に理解出来たように思うんだ。その上で君に言うとすれば、愛する人が出来たのなら、その人と同じ時を過ごす為に頑張ってみるのも有りなんじゃ無いのかな?と言うことで僕も葉子も賛成するよ」


 予め色々と詳細を伝えることが出来ていた、家族からは承諾というか、理解を得ることは出来た。


 さて残るは七瀨なんだが、ここに来てから詳しく説明しようと思って居たのだけれども、その説明の為にどうやら僕が出る幕はなさそうだった。


 先ほどから爺様と七瀨が交互に僕のことをちらちら見ながら、ずっとなにやら話を続けているのだ。

これほど長く話すことが有るとしたら、それはもう今回のことしか無いだろう。


 長々と説明を受けていた七瀨の目は今やすっかりと乾き、爺様からあれやこれやと説明を受けては、聞き返すを繰り返していた。


 やがてに十分な理解に達したのか、七瀨は僕のことを真摯な目で見つめると口を開いた。


「雨子さんから、どうして彼女があなたのことを好きになっていったかって言う話は聞いていたんだけど、そのことで起こる雨子さんの苦しみと言うことについては全く知らなかったし、理解していなかったの。でも今、お爺様に聞いて、何となくなんだけれども、分かったような気がする。そして私だって思う、半身だとまで思う人が先に亡くなることが既に確定しているなんて、耐えられない。もしなんとかする手段が有るなら、絶対チャレンジしてみると思う…ただ」


 そう言うと七瀨は再びぼろぼろと涙を流し始めた。


「なんだか、なんだか祐二が遠くに行ってしまうみたいで、寂しい…寂しくて仕方無いの…」


 七瀨のその言葉が皆の間で染み込むと、途端に場がしんみりとしてしまった。

だがそんな僕達に向かって爺様が明るく言う。


「お前達、何か勘違いして居らぬか?」


「?」


 皆が真顔で顔に大きな疑問符を浮かべた。


「こやつが神の身になる為の許可を身内に求めるのが今回の会合の意味ではあるが、だからと言って直ぐにこやつが神の身に成れる訳では無いのだぞ?」


 皆の訳が分からないと言った顔を見た爺様は大きく息を吐いた。


「皆早とちりにも程があるな。今回求めるのはあくまで同意だけじゃ。その同意を得たからと言って何で直ぐに神の身になんぞ成れるものか!同意を得、それからこやつが長く厳しい訓練を永続的に行い、その末に上手く行けば成れるやも知れぬ、今はそう言う段階ぞ?」


「で、もしそう成れるとしたら一体いつ頃に成りそうなのじゃ?」


 とは雨子様。

その言葉を聞いて少し思案していた爺様が口を開く。


「こやつのこれからの努力と資質次第なのじゃが、短くとも二十年と言うことは無いじゃろうな」


「へ?そんな先?」


 なんだか気の抜けたような声でそう言っているのは七瀨だった。


「もちろん祐二のような神を作れば良いと言うことなら今すぐにでも可能じゃぞ?じゃが雨子の望みはあくまでこの祐二自身がちゃんと連続した形で神の身に成るという事じゃ。それにはどうしてもそれだけの時間が掛かる。またそうでもせねば祐二の心が狂うてしまうことに成る」


 見ると七瀨がへにゃりと椅子の上でくずおれている。


「全く以て難儀なことを願い居って」


 そうやって爺様はぶーたれて文句を言っているのだったが、顔つきはあくまで限りなく優しい。だがそこに集った皆はどっと疲れた表情に成るのだった。

 

 でも七瀨はなんだかちょっぴり嬉しそう?






田中敦子さんのご逝去、胸が痛みます(T_T)

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