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天露の神  作者: ライトさん
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真実

 はてさて、祐二君も色々と雨子様のことを理解出来るようになって来て居るみたいですねえ


 多分眠りについて暫く経った頃なんだと思う。

僕は自分が茫漠とした宇宙空間に浮かんでいることに気がついた。


 なんだこれって言うのがその夢を見ていた僕の第一印象なのだけれども、そう思いながら何故か僕は今見ているのが夢だと言うことを知っていたように思う。

所謂明晰夢っていう奴なのかな?


 真っ暗な透明な暗闇の中、ただ自身がぼうっと浮かんでいる、

幸いなことに無重量状態での落下の感覚は感じていない。お陰で宇宙酔いのようなことにはならなかったのだけれども、それでも何と言うか、物凄い頼りの無さというか、孤独感のようなものを感じていた。


 遠く、距離なんて無意味な程離れたところで星々が光っている。

そう、光っているんだ、煌めいているのではないのだ。ぽつんと光りの点がそこに在る。それは全天三百六十度あらゆる方向に存在している。


 不思議なことにその全方向の星々が、一つの画面として脳内に再生されてくる。

これは一体どう言うことなんだろう?丸で自分が車の全周モニターにでも成ったかのような気分だった。


 そして星々が瞬くこともなければ、瞼が閉じられることもなかった。


 そこで僕は思う、果たして僕は僕なんだろうかと。夢にしては余りにリアリティーが高すぎるのだ。自分自身の夢としてみる映像で此処までの物が再現出来るだろうか?

僕はそんなことを考えていた。


 そうやって僕は一体どう言う形で此処に存在しているのかと考えていると、直ぐ側で、いや耳元?違うな。丸で自分の存在と重なるような所から、一つの言葉を感じたのだった。


「サミシイ」


 一体誰がこの言葉を発しているのだろう?僕はなんとかその存在の実在を探ろうとするのだが、どうすることも出来ない。


 暫くするとまた新たな言葉が聞こえてきた。


「ヒトリハイヤダ」


 その言葉はまさしく僕自身の内側から聞こえて?来るのだけれども、でもそれば僕の言葉ではない。


 そこで僕もまた言葉を発してみることにした。


「キミハダレ?」


 すると身体が震えるのを感じる。

しかし何の言葉も帰ってこない。どうしたんだろう?怖がっているのかな?


 僕はもう一度言葉を発した。


「キコエテイル?キミハヒトリジャナイヨ?」


 すると今度は返事が返ってきた。


「アナタハダレ?」


 そこで僕は素直に自分の名前を告げた。


「ボクハユウジ」


 すると何だろう?何か心の中から大きく動揺する思いが伝わってきた。


「ユウジ…ユウジナノカ?」


 どうやら相手は僕のことを知っているらしい。もしかして神様の一人とかかな?


「ソウイウキミハ?」


「ワタシハ######我は雨子じゃ」


「へ?雨子さん?」


「そうじゃ、一体祐二がどうして我らの言葉を話せたというのじゃ?そして何故此処に居る?」


 僕は思わず苦笑している自分を思い浮かべた。またそうするしかない、だって此処には僕の肉体が無いようだったから。


「どうして雨子様達の言葉が話せたかとか分からないよ。ただ自然に雨子様の独り言に答えたらああなったのだけれど…」


「我の独り言?」


「うん、寂しいとか一人は嫌だって言っていたよ」


「#############」


 急になにやら分からない言葉が返ってきた。


「何を言っているの?」


「祐二…後生じゃ、そのことは忘れては貰えぬか?」


「え?どうして?」


「は、恥ずかしいのじゃ」


 何とも事の次第が丸で良く分からない僕だったが、雨子様の要望とあらば聞かない訳には行かないだろう。


「分かったよ、忘れることにする」


「むぅぅぅぅ」


「どうしたの?」


「そなたは優しいから忘れると言うてくれて居るのじゃが、実際には忘れている訳では無いのであろう?」


「…まあ実のところはそうなんだけれども、それは言いっこなしだよ。何と言えば良いのかな?建前としての話になるのだけれども、それを受け入れて貰うしか無いなあ。事実出来るだけ忘れるようにはするからさ」


「わ、分かったのじゃ」


「それで此処は一体どこなの?」


 僕は一番疑問に思っていたことを聞いた。


「それがの。我にも今一よう分からんのじゃ」


「雨子さんにも分からないの?」


「うむ、最初の内は自分の夢かと思うて居った。人の身を得てからはその影響からか割と夢は良く見て居るのじゃ」


「そうなんだ!」


「人の身の脳と、神としての思考部位との兼ね合いで、何と言えば良いのかの?妙に現実感の無い映画のような感じで見ることが出来て居るようなのじゃが、偶にその力関係が逆転して、神としての我の記憶が人の脳へ反映されて、異様に現実感がある明晰夢?のような物を見ることがあるのじゃが、今のこれがそれに当たるのでは無いかと推測はして居るのじゃが…」


「じゃあもしかして今見えているこの光景は、過去の雨子様の記憶と言うことなのかな?」


「むぅ、おそらくはそうでは無いかと思うて居る。遠い昔に一人で広大な宇宙空間を彷徨って居ったことがあるのじゃが、その時の物じゃと思う」


「そっかあ、そりゃあこんな所をずっと一人で彷徨っていたら寂しくも成るよなあ…」


「祐二!」


「ごめんごめん、忘れる忘れる」


「じゃがの祐二。そなたに話しかけられるまで我はこの夢を、違うな、この記憶か?それを見て感じて、余りの寂寥感に押し潰されそうになって居った。じゃから…こうして側に居ってくれて、本当に嬉しく思うて居る」


 僕はそんな雨子様の言葉を反芻しながら、色々なことを考えていた。


「僕は…実のところ僕は、雨子さんの本当の孤独感という物を、ちゃんと理解出来ていなかったのだって言うことに気がついたように思うんだ」


「それを言うなら我も似たような物じゃ」


「それは一体?」


「今更ながらと言うか、恥ずかしい話なのじゃが、我もまた孤独と言う物を理解しておらなんだようじゃ」


「雨子さんが孤独を理解していなかった?」


「うむ、孤独と言う言葉を正確には理解出来ておらなんだと言うのが正しいかもしれん」


「それは?」


「何と言えば良いのかの?祐二と出会うまでの我はほとんどの場合に於いて観測者でしか無く…ミヨと言う例外は有りはしたがの…まあ感じたとしても薄ぼんやりとして居ると言うか、自身で切実に感じるというレベルになっておらなんだように思う。それがじゃ、そなたと知りおうて、いつの間にかその、そなたのことを好きになってからは、孤独と言う感覚を痛いくらい強く感じるようになってきて居る。じゃから…」


 そう言うと雨子様は少し間を置いた。


「じゃから我は祐二が我の生涯に寄り添うてくれると言うてくれた時、正に天にも昇る心地じゃったのじゃ」


「そう言って貰えるともの凄く嬉しいかも…」


 僕がそう言うと、雨子様から笑っているような感覚が伝わってきた。


「こうやって肉体を持たない精神だけの存在になって尚、この思いを是と出来ると言うことに我はこの上なく安心して居る。何と言うかその…」


 そこまで言うと雨子様は少し言い淀んだ。


「人の身で居ると、その…心が肉欲の影響を受けやすいのじゃ」


「雨子様でもそうなのですか?」


「わ、我は元々精神体だけの存在で有ったから、ある意味そなたらより余計にその影響を受け易いのかもしれん」


「そう言うことも有るのかあ」


「じゃから我は自身の思いの本当のところを見極めるのが何かと難しくも成っていたのじゃが、今こうしてみるとはっきりと自分の考えが分かるように思う」


 そこまで話していて急に黙りこくった雨子様は、やがて何事かに思い当たったようだ。


「爺様!爺様!これは爺様の差し金で有ろう?」


 雨子様がそう呼ばわると、どこからか笑いのような振動が伝わってくるのを感じた。


「何じゃ、ばれてしもうたのか?このまま夢落ちにしてしまえば良いものを…」


「我らの為を思うてやってくれたのかも知れぬが、斯様に人の心を覗くのは些か失礼な事じゃぞ?」


「うむ、済まんの。じゃがこやつが意を固めるに当たって出来るだけ双方の思いを的確に理解出来るようにしておくのが必要かと思うたのじゃ。これはあくまで祐二の為よ」


「ならば礼を言わねばならんのじゃろうな」


「それには及ばん、じゃがどうして儂の仕業と見破ったのじゃ?」


「それは二人してあのように猛烈な眠気に襲われ、斯様な形で語り合うことが出来たことを考えると、偶然と言うには余りに作為が有りすぎたと思うのじゃ」


「成る程、しかしこう言う精神干渉を互いの間で密接に行おうと思うたら、隣同士で眠るのが一番じゃからな」


 そう言う爺様の説明を聞きながら、実は雨子様が少し怒っていることが何となく伝わってくる。


「じゃがな爺様、人の子としての男女の同衾は、何と言うか、結構デリケートなところが有るのじゃ…。もう少しちゃんと考えてくれんと、我は爺様のことを嫌いになってしまうぞ?」


「!」


 爺様から驚きの感情が伝わってくる。


「以降今少し良く配慮するものとする…」


 そう言うと突然爺様の存在感が消えてしまった。


「どうやら居なくなったようじゃな?」


「そうみたいですね」


「祐二…」


「何でしょう雨子さん?」


「大好きじゃ」


 残念ながら僕の記憶に有るのはそこまでだった。

その後僕の夢がどのように変化していったのかはもう覚えていない。


 けれども目を覚ました時に物凄く幸せな思いで包まれていたことだけは確かだ。

そして雨子様も同じ思いで有ることは、その寝顔を見れば分かることなのだった。





爺様、なかなかにお茶目のような気がします

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