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お盆休みも後少し、なんだかんだ言いつつも毎日何とか話を上げ続けてしまっています
一日の疲れに自然に目が閉じ、ふわふわとした感覚の中眠りについたかと思ったら、いつの間にか爺様の居る花畑?に来ていた。
なんだろうと思って見回すと、隣にはきょとんとした顔の雨子様も居た。
「なんじゃ、祐二も居るのかや?」
「なんじゃって、雨子さんもおられたんですね?って、此所は確か弥勒の爺様のところですよね?」
僕がそう言うと雨子様はくるりと周りを見回してから答える。
「うむ、間違い無くここは爺のところじゃな?しかしなんでまた我ら二人を此所に連れてきたのやら…」
等と二人でわいわい言っていると彼方から誰かが歩いてやって来た。
どうやら件の爺様のようなのだったが、僕は爺様がそんな風に人型の姿で独立して存在しているのは初めて見たように思う。
「おお、すまんの、遅れてしもうて」
爺様はそうやって遅参したことを詫びるのだが、問題はそこでは無い。どうしてまた急に僕達を此所に呼んだのかと言うことなのだった。
「爺様、何故また我らを此所に呼んだのじゃ?」
すると爺様はにこにことしながら言った。
「いやの、こやつと仲良うして居るかどうかと思っての」
「爺様!」
雨子様は顔を赤くしながら声を大にする。爺様に揶揄われているのは分かっているようなのだが、ちょこっとばかり、我慢ならなかったのでは無いかと思う。
「冗談冗談、冗談じゃ」
そう言いながら爺様は腹を抱えながら笑った。なかなかに食えない爺様なのである。
「さて本題なのじゃが、二人を揃って此所に呼んだのには訳がある。まあある意味こやつが雨子の婿と成る為にはどうしても必要なことなのじゃがな」
「爺様ぁ~」
はて、今度の雨子様の言葉はなんとも力なく、くぐもってしまっている。
見ると顔を赤くしながらあらぬ方向へと背けている。
どんな顔をしているのかと思って覗き込もうとしたら、ぴしりと手をはたかれてしまった。
爺様はそんな僕達の様子を見てくくと笑っていたのだった。
「相変わらず仲が良いことじゃな?善哉善哉、さて話は変わるが、お前達を此所に呼んだのは他でもない、お前達自身の今後のことを図る為じゃ」
一体何を言われるのかと思って僕達は息を飲んで爺様の言葉を待った。
「祐二とやら、お前の存在の神への移行に関して、儂直々和香の元へ向こうて、その許可を貰ってきたことがまず一つよの」
その言葉を聞くと雨子様がまず驚いた。
「なんと爺様、爺様自ら我の為に動いてくれたというのか?」
そう言って目を丸くする雨子様に爺様は苦笑していた。
「儂はなんぞ拙いことでもしたのか?」
訝しげな顔をしながらそう言う爺様の言葉を、急ぎ雨子様は否定した。
「いやいや、そんなことを言うて居るのでは無い。爺様がそこまで我の為に何かをしてくれたと言うことに驚いて居るのじゃ」
「なんじゃ?儂がお前の為に何かしては拙いのか?」
「そんなことは無い!そんなことは無いのじゃが…」
そこで僕は雨子様に助け船を出した。
「爺様は雨子さんのことを娘と思って居られるのですよ」
「娘とな?」
驚愕した雨子様はまじまじと言った感じで爺様のことを見つめる
そんな雨子様のことを爺様が苦笑しながら見つめ返す。
「儂がお前のことを娘と思うことはそんなにおかしいか?」
「じゃが我は爺が作ったこの世界を内包する為の下位人格に過ぎぬのじゃろ?」
そう言って僅かに口を尖らせ、悔しそうに顔を歪める雨子様に言う。
「然り、かつてはそうであった」
「かつてだと?」
「そうじゃ、かつてはそうであった。しかしお前は今や十分に成長し、儂にとっても可愛くも誇らしい存在へと変貌を遂げた。故に儂はお前を娘に格上げしたのよ」
爺様のその言葉に嬉しい部分は有るものの、なんだかお釈迦様の手の平で踊らされているように感じる部分もあって、微妙な顔をする雨子様だった。
「何と言えば良いのかの?その…ありがとう?」
雨子様のその言葉に苦笑しながら僕は言う。
「雨子さん、最後なんで疑問形なんですか?」
「そんなことを言うても、我にも実感が湧かぬのじゃ」
雨子様のその言葉を聞いて僕は疑問を呈する。
「え?実感って何の実感?」
すると雨子様は何とも言いがたい顔をしながらその意味を説明してくれた。
「じゃから爺が我のことを娘扱いすると言うことは、爺は我に取って父親ということになるでは無いか?」
「ああ、成るほど、そう言うことを言っているのかぁ」
僕が間の抜けた声でそう言うと、雨子様はそんな僕のことを睨み付けてきた。
「其方の母御の節子をお母さんと呼ぶのはある意味納得も出来るが、この爺を父とは呼べぬ…」
なんとも苦しそうな表情をしながら雨子様はそう言った。
そこで僕は気になったことを聞いてみた。
「因みに雨子様はどうして爺様のことを父さんと呼べないと思っているの?」
すると雨子様は、なんでそんなことを聞くのだとばかり不思議そうな顔をして言った。
「何を言うて居る、爺様は見るからに爺様では無いか?」
僕は一瞬口をポカンと開けたままにした後、雨子様に言った。
「え?そこ?」
だが雨子様は至極当然とばかり言う。
「じゃって、我にとって爺様は爺様なんじゃから仕方が無いであろ?」
と、此所に来て腹を抱えて笑う爺様が居た。
「くわっはっはっはっは」
いやもう笑い転げている。
なんだかその様が余りに思いがけないので、雨子様と僕は凝固したように爺様のことを見守っていた。
「まあ良い良い、儂としては爺であろうと父親であろうと、そんなことはどうでも良い事じゃ。要は儂が雨子を生み出した存在で有ると言う事と、今は可愛がり甘やかすようになって居ると言うことじゃからな」
そこまで言うとにこやかな笑みで顔を一杯にしていた爺様は、真面目な表情に戻った。
「それでの話じゃ、神の一族に属すという事じゃからまず和香の方に許可を貰ったのじゃが、さてまだ許可を取るべきところが有るじゃろう?」
僕は雨子様と顔を見合わせた後言った。
「それはその、僕の家族というか、両親の事でしょうか?」
爺様は僕のその言葉を聞くとゆっくりと頷いて見せた。
「うむ、そうじゃ。順序となるとそう成るじゃろうな?」
そう言う爺様の事を見ながら雨子様が言う。
「こう言うてはなんじゃが、爺様は何と言うか、非常に律儀なんじゃな?」
「律儀で悪いのか?」
少し爺様が臍を曲げて言う。そんな爺様の思いを慌てて是正すべく雨子様が言葉を継ぐ。
「そう言う事を言うて居るわけでは無いのじゃ。爺様ほどの高位の存在であれば、ある意味そう言った些末な事にまで意識を払うと言うのは、なかなか無いことなのでは無いかと思うたのじゃ」
「まあ確かにな、儂もそう思う、思うかもしれん。それだけ雨子らの事をいつの間にか大切に思うようになって居るのじゃろうな」
「そうなのかえ?」
雨子様が不思議そうにそう言うと、爺様もまた首をこてんと傾げながら、自らの中に問いかけつつゆっくりと言葉を述べた。
「儂も雨子と同じように、こやつから…」
そう言うと爺様は僕の事を指し示した。
「こやつから何か影響を受けて居るのやもしれんの」
そう言うと爺様は雨子様と二人揃って、まじまじと僕の事を見るのだった。
えっ?なんで僕?僕はそう思ってなんとも居心地が悪くて仕方が無いのだが、そんな事など関係無しに彼らは、僕に視線を注ぎ続けるのだった。
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