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天露の神  作者: ライトさん
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「女子会その三」

そうかぁ、優は男扱いなんだなあw


 さて女性が四人も集まって寝所を共にするとあれば、これぞ正に女子会という奴である。

本来は性別不明なのであるが、一応男性認定されているユウは抵抗も虚しく、今は祐二の元に預けられている。


 だから真性、正真正銘女性だけの女子会と成っている。


 こう言う場合布団の並びというのが、滑らかなコミュニケーションを取る為に、実は重要な要素を持っているのだが、本吉村家に於いては田の字の形に布団を敷くことが出来ると言う、ベストな配置を作り出すことが出来ていた。


 更に詳細を説明すると(一体何をそんなに説明しているのだという天の声があることは無視するとして)雨子様と小和香様が対角に、もう一つの対角には七瀨と節子が寝床を占めていた。


 皆がそれぞれの布団に潜り込むと、そのまま会話を始めるかと思いきや、更にその先があった。


「ねえ小和香さん、そっち行って良い?」


 七瀨が小和香様にそう声を掛ける。

そっちって何?なんの話と小和香様があたふたしている内に、早くも七瀨がするりと彼女の布団に潜り込んでくる。


「あ、あ?あ!はい!」


 暖かくて柔らかな塊が、傍らに滑り込んでくる感覚が何とも言えず、なぜだかわくわく感が止まらない小和香様。しかしこの感覚というか感情って一体何なのだろう?


 吉村家に来てからはなんだか新しいことばかりを経験しているようで、楽しくて仕方の無い小和香様なのだった。


 と、それを見ていた節子。


「あら良いわね?それなら私も…」


 そう言ったかと思うと断りも無しにさっと雨子様の布団の中に割り込んでいく。


「む?な?なんじゃ節子、そなたもなのかえ?」


 節子の急襲に驚き慌てる雨子様、だがふわりと横に節子の温もりを感じると、これまたやはり嬉しくなってしまう。


 小和香様の横からひょっこりと顔を突き出した七瀨が言う。


「ね、おば様。これが女の子だけの女子会の醍醐味よね」


 そんなことを節子に向かって言いながら小和香様にしがみついている。


「ふわぁ、その、あゆみさん?」


 じゃれつかれている小和香様は、そのこと自体は嬉しいのだけれども、押し寄せてくる様々な感覚や感情を処理しきれずに戸惑うばかり。


 おそらくその思いが自然に溢れ出ていた為なのだろう、百面相をしている小和香様のことを興味深そうに見つめる雨子様。


 だがそんな風に余所事扱いしていられるのも束の間で、これまた節子にじゃれつかれてと言うか、こちらはくすぐられて息も絶え絶えに成ってしまう。


「や、止めぬか、止めぬか節子…ふわははははは」


 存分にくすぐられた雨子様は、当面の力を全て使い尽くしたかのようで、丸で溶けかけたスライムよろしくの状態に成っていた。


「節子は酷いのじゃ…」


 ぼそぼそと文句を言うが、その実こんな風に構って貰える事が嬉しいことにも気がつく雨子様なのだった。


 ふと気がつくと小和香様が雨子様のことをじっと見つめている。


「どうしたのじゃ小和香?」


 雨子様が小和香様に問いかける。すると小和香様が不思議そうな顔をしながら雨子様に言った。


「私の中での雨子様はいつも小難しそうな顔をした、ある意味とても畏れ多いところのある神様でらっしゃいました。それがその…」


 小和香様にそう言い述べられた雨子様は何とも言えず複雑そうな表情をした後、破顔しつつ語を次いだ。


「確かに言われてみればそうかも知れぬの。元の我は正に常に苦虫を噛みつぶしたような表情ばかりして居ったかも知れぬの」


「そ、そんな…」


 慌ててその言葉を否定しようとする小和香様だったが、その前に雨子様が言葉を紡ぎ始める。


「いやいや、別にそなたを責めてどうこう言うつもりは無いのじゃ。実際過去を俯瞰ふかんしてみると我の有り様は今述べた通りじゃったからの。まあそれもまた我じゃからの。じゃが…」


 そう言うと雨子様は節子に擽られたときにはじき出されていた枕を元の位置に戻した。


「こうやって節子や祐二に囲まれて日々を暮らして居ると、楽しゅうて仕方無い故、こんな我でも自然変化せざるを得んだろう」


 そんな雨子様の言葉を聞いていた小和香様はふと物思うような表情をしながら言う。


「思うのですが雨子様、人間達はここ何年かで急速に何か変化しつつ有るように思いませんか?」


 そう言う小和香様の言葉に雨子様は暫し考え込む。


「そうじゃの、先ず一つ、これは個人差が物凄く大きいのじゃが、人の持つ知識と言うか情報の量が幾何級数的に大きくなって居るところはあるかの。もちろんその情報が正しいか否かは別として、それらの情報をきちんと思考の材料と為している者達は、もしかすると既にかつての人間達とは大いに異なりつつあるのかも知れぬの」


 雨子様のその言葉をうんうんと頷きながら聞く小和香様。


「成る程雨子様もそのようにお思いですか。先に和香様とお話をする機会がありまして、私達も同じ様なことを感じておりました」


「それは思うに誰もが等しく情報に接することが出来ると言う、現在の環境のせいと言うことなのであろうな」


 そこでそれまで言葉を差し挟むこと無く口を噤んでいた七瀨が言う。


「それってもしかしてネット環境のことを言っているの?」


「そうじゃよあゆみ、もちろん誰しもが正しい情報を得られる訳では無いが、情報というのは正しいものばかりが役に立つのでは無い、時には誤りの物があるからこそ人は考え、思考力を発達させるのじゃ。だから望めば今の人間達はいくらでも思考力を鍛えることが出来ると言うものじゃ」


 そう言うと雨子様は布団から手を出して七瀨の手を掴む。


「そして思考力が豊かに成ればその分感情も豊かになり得る。我はそんなそなたらの存在がこの上も無く嬉しい」


 そこで小和香様はふと思うことがあり雨子様に尋ねる。


「では何故私達神は今更ながらにして、この様に人の影響を受けるように成ったのでしょう?思考力という意味では私達の方が人間達よりも遙かに有るように思うのですが…」


 すると雨子様は今度は小和香様の手を取った。


「思うに我らは正確を期することにかまけすぎたと言うことかも知れぬの」


「正確を期する?」


 良く分からなかった小和香様は首を傾げる。


「小和香よ、今我はそなたに何をした?」


 ふと考え込んだ小和香様はゆっくりと言葉を選ぶように喋り始めた。


「雨子様は、私の手を掴まれました」


「うむ有り体に言えばそうじゃの。ある意味我らの情報の取り方はそう言うものじゃ。しかし人間達は少し異なって居るのじゃと思う。手を掴んだと言うこと以外に、手が柔らかいだとか温かいだとか、この人に手を掴まれるのは心地よいとか、もっと掴まれていたいとか、直接事象を説明すること以外に、実に様々なことを思う。そしてそれに派生して更に色々なことを思ったり感じたりしおる」


「成る程、言われてみたらそうですね?」


 小和香様は感心するように頷いた。


「要は我らは正確を期することに血道を上げすぎ、はたまた永き時を経るにつれて、様々なものから意味をそぎ落としすぎてきたのよ。じゃから思うのじゃ、今一度曖昧であることをこの者らから学ばねばならぬなと」


「成る程…」


 発せられた言葉の表面の意味以上に深き物があるなと、小和香様は雨子様の考えを受け取り、更に自分なりに思いを巡らせるのだった。


「ところで…」


 七瀨が再び言葉を差し挟む。


「難しい話はそれ位にしておくとして…」


 そう言いながら七瀨はにこにこしながら雨子様のことを見つめる。

雨子様は七瀨に一体何を言われるのだろうと、こてんと首を傾げながらその言葉の先を待つ。


「ところで雨子さん、今祐二と一体どう言うことに成っているのよ?もうキスはしたって言っていたっけ?その先は?」


 突然の七瀨の追求に驚き慌てる雨子様。顔を真っ赤にしたかと思うと急ぎ布団を頭までかぶってしまう。


「あ!逃げた?」


 雨子様のその動きを捉えて七瀨が言う。


「逃がさないわよ?」


 そう言いながら雨子様の布団を引き剥がしに掛かる七瀨。

七瀨の間髪入れない攻めに、あえなく布団を引き剥がされ次善の策として掌で顔を覆う雨子様。


「女子会の一番の醍醐味と言ったらこう言う恋バナなんですからね、さあ、吐いて貰いましょうか雨子さん?」


 さすがの雨子様も七瀨のこの追撃には打つ手が無い。


「頼むのじゃ七瀨、堪忍じゃ、いくら何でも母御の節子の居る前でこれ以上の追求は勘弁なのじゃ」


 そう言いながら必死に成って節子の背後に隠れようとする雨子様。

その雨子様のことを苦笑しながらよしよしと労る節子。


「あゆみちゃん、どうかその辺のことは勘弁して上げて。元よりこの子は少し臆病なところもあるし、自身の立場もあれば、私に対する遠慮もあるからそう簡単には前には進めないと思うのよ」


「節子ぉ…」


 遠慮会釈無しにずけずけ赤裸々に言う節子に、雨子様が悲鳴のような声を上げる。

それを聞きながら節子は雨子様の背中を優しく、大丈夫だよと言わんばかりに叩いて上げる。


「ところであゆみちゃん、私はあなたの方が先に祐ちゃんに告白するものだとばかり思っていたのだけれども、そこは一体どうなっちゃったの?」


「ぐげぇ?」


 思わぬ飛び火で今度は自ら布団をかぶって防御の構えに入る七瀨。


「うふふふ、逃がさないわよぉ~~」


 不気味に笑いながら七瀨の布団に手を掛ける節子。かと思うと実に簡単にひっくり返され、甲羅を背にした亀よろしくになってしまう七瀨。


 七瀨は今度は必死に成って小和香様の背後に回ろうとする。

だが節子はそんな二人に容赦なく襲いかかっていく。


「あの?節子さん?え?私まで?あゆみさん、ほらあゆみさん」


 小和香様は必死に成って七瀨を前に推しだそうとするのだが、七瀨は巧みにまた逃げる。


 結局七瀨は逃げられなくなって、雨子様と共に神社の温泉に入った夜のことを全て吐かされることに成ったのだった。


 暫しの時を掛けて根掘り葉掘りで、全て聞き尽くされた七瀨は、もうなんの抗う力も無くげんなりとくずおれてしまう。


 そんな七瀨と節子のことを見ながら雨子様と小和香様の二人がぼそぼそと言い合う。


「もしかしてこの場では節子さんが一番お強いかも知れませんね?」


「小和香、そなたもそう思うかや?」


「ええ正に。でも…」


そう言いながらとても嬉しそうにする小和香様。


「でもなんじゃ?」


 そう問う雨子様に小和香様は言う。


「でも、とても楽しいです!」

 

 そう言いながらこの上も無く楽しそうに笑う小和香様のことを、雨子様は目を細めつつ優しい思いでじっと見つめるのだった。




節子最強伝説の始まり?

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