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天露の神  作者: ライトさん
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「女子会その二」

 相も変わらずお話しは賑やかに進行します


 食事を終えた後も和気藹々と神や人の分け隔て無く、楽しい時間が過ぎていく。


 和香様のおそばで、いつも良く可愛がって貰っている小和香様としては何不自由なく、足らないところは無いのだけれども、それでも今のこの時間をこそ、この上なく楽しいと思ってしまうのだった。

 

 些細なことを言い合っては、七瀨と本当に楽しそうに笑い会う小和香様。

雨子様はそんな二人のことを見つめ、目を細めながら、神と人の有り様は斯く有るべきよのと思っているのだった。


「雨子ちゃんどうぞ」


 そう言いながらいつものように節子が、彼女のもっとも欲しいと思う時に、飲みたいと思う美味しいお茶を淹れてくれる。


「すまぬの、その…」


 そう言った後雨子様は周りには聞こえないような小さな声で言った。


「お母さん…」


 まだまだこの言葉を言うには口が慣れないというか、時になんだか身悶えさえしてしまうのだが、それでも敢えて言うのは、そう言われた時の節子が本当に嬉しそうにするからなのだ。


 そして節子がそうやって喜んでいるのを見ていると、雨子様自身の心も温かい思いが満ち、ほとびていくのを感じる。


 元々個で有ることを好み、己のみでまったきで有ることを良しとしていた雨子様だったが、こうして人間達の間に交じり、自らも人の身となって初めて、他者と関わることの大切さを、その意味を知ったように感じているのだった。


 そうやって物思いに沈む雨子様を見た祐二がそっと声を掛ける。


「どうしたの雨子さん?」


 不意に話しかけられた雨子様は、言葉の主につと視線を向ける。


「我はの、長い間、実に長い間孤独を良しとして居った。そしてそれで良いと思って居ったのじゃが、今この様にしてそなたらと共に居ると、なんと勿体ない時を過ごして居ったのかと、そんなことを思うてしまったのじゃ。和香など五月蠅いくらいに我に構ってきおったのじゃが、我と来たらいつもその誘いを振り払ってきた。今思えばなんと愚かしいことをしてきたことか…」


 そうやって口惜しそうに唇の端の方を噛む雨子様。


「でもさ雨子さん、そんな過去の雨子さんが居たからこそ僕達はこうして会えたのだし、そんなに悔しがることも無いのじゃ無いかな?」


 当たり前の顔をしながらしれっとそんなことを言ってくる祐二の言葉に、雨子様は瞬きをするほどの時間ぽかんと口を開いてしまった。


「もう、そなたは本当に人誑ひとたらし、いいや、神誑しじゃの?」


 そんなことを言いながらも、何となくちょっと悔しいと思ってしまった雨子様は、頭を祐二の胸板に押しつけ、思いっきりぐりぐりとしだした。


「な?何やっているんですか雨子さん?」


 何がなにやら分からず慌てる祐二。

そんな二人の様子に気がついた小和香様が七瀨に問う。


「あのう、あれは何をなさっておられるのですか?」


 聞かれた七瀨は苦笑しながら言う。


「ああ、あれ?じゃれ合っているのよ。仲の良い証拠」


 今一その言葉の意味が良く理解出来ない小和香様は、何とも中途半端な返事を返す。


「はぁ…、そうなのですね?」


 何だか合点が行かない様子の小和香様を見ていた節子が言う。


「小和香さん、仲良くなりたい人が居たら、あなたもああやって見たら?もしかすると仲良くなれるかも知れないわよ?」


 等と言うのだが、もちろんこれは冗談として言ったに過ぎない。

でもまだまだ人のことに慣れていない小和香様は、真っ正直にその意を汲んでしまう。


「ぐりぐりぐりぐり」


 突然小和香様にぐりぐりされ始めた七瀨が思わず声を上げる。


「ええええ?小和香さん?」


 小和香様に頭を押しつけられた七瀨は、人ごとならぬ我が身に起こったぐりぐりに驚き慌ててしまった。

 そうやって狼狽える七瀨に、ぐりぐりをし終えた小和香様が言う。


「私はあなたと仲良くなりたいのです。これからもずっとずっと…」


 そう言いながら真摯な目で七瀨のことを見つめる小和香様。

その黒く美しい瞳に魅入られたようになっていた七瀨は、にっと笑って見せると彼女もまた同じ事をして返すのだった。


「ぐりぐりぐり」


 まさか自分がそうし返されるとは思っていなかった小和香様、嬉しいやら、胸が一杯になるやらで、思いの丈を込めて七瀨のことを抱きしめてしまう。


「むぎゅ~~、ギブギブ小和香さん…」


 感極まって居るせいか今の小和香様に七瀨のギブの意味が伝わらない。頻りと背を打つ七瀨の手の様子に、これはまずいと思った祐二が慌てて彼女に声を掛ける。


「小和香さん、小和香さん、それ絞めすぎです、七瀨が息が出来ない!」


 祐二にそう言われてはっと気がつき、腕を解く小和香様。


「ぜぇーぜぇーぜぇー」

 

 息も絶え絶えになっていた七瀨。その七瀬を涙目になって見つめる小和香様。

これではもう仲良くして貰えないのでは無いかと思い悩む小和香様。


 だが誰に言われるまでも無く七瀨は、そんな小和香様の不安を見て取り、安心させ、慰める。


「だ、大丈夫。もう平気よ小和香さん、うん、仲良くしていきましょう…」


 七瀨のその言葉を聞いた小和香様は、今のこの無上の喜びをどう表現して良いのか分からず、ただもう感極まり感激している。


 それを見ていた節子はぽつりひとちする。


「青春ねえ…」


 尚もわいわいと皆で楽しく話に花が咲くのであるが、夜も結構更けつつあった。


「そろそろお風呂に入って」


 節子はそう言うと順に風呂に入ることを勧める。

すると七瀨が節子に言う。


「ならおば様、私は小和香さんと入ってくるね」


 成る程考えてみれば神社の温泉にこそ入り慣れているかも知れないが、一般家庭の風呂とも成ると勝手も違うかも知れない。

節子は七瀨の提案を了承して、二人で入ることを勧める。


「じゃああゆみちゃん、小和香さんのことは任せるわね?」


「はぁ~い」


 早速に二人は風呂場の方へと向かうのだが、お泊まりと言うことで予め準備をしてきた七瀨は良いとして、未だこう言った事柄に慣れていない小和香様は着の身着のままで有る。


 そのことを予想していた節子は、さすがと言えば良いのだろうか?新しい下着とパジャマを用意して小和香様にそっと手渡した。


 渡されたものを見て理解した小和香様は顔を朱に染めつつも、嬉しそうに節子に礼を言う。


「ありがとうございます節子さん」


 何かと困り事でもありはせぬかと、気になってこの場まで同道してきた雨子様だったが、節子のこの気遣いに舌を巻く。そしてこの人の心の遣い様を学ぼうと思う雨子様なのだった。


「さてそしたら雨子ちゃん、客間にお布団敷くの手伝ってくれる?」


そう言う節子の言葉に雨子様は否やは無い。


「むろんじゃ節子、任せるが良い」


 早速二人は押し入れから出してきた布団にシーツを掛け、並べて敷き始めるのだったが、そこで節子が祐二に声がけをする。


「祐ちゃん、私と雨子ちゃんの分も此処に持ってきてくれる?」


 言われた祐二は早速二人の寝具を運び始めるのだった。


 さすがに四組も布団を敷くと少し手狭に感じるが、布団に入りながらお喋りをしようと思ったらこれくらいが良い、そんなことを考えながらなんだかわくわくしている節子。


 彼女たちにとっての本当の意味での女子会はこれからが本番なのだ。

節子のわくわく感が、自然雨子様にも伝染するのか、なんだかとても嬉しそうにしている。


 無事布団を敷き終えた頃、ほっかほかに成った七瀨と小和香様がお風呂から上がってきた。


「お先でした、おばさま」


「はい、それじゃあ今度は私達で入りに行きましょうか?」


 そう言いながら節子は雨子様の手を引いていく。

その中睦まじい様子を見ながら七瀨が言う。


「雨子さんたら最近おば様のことをお母さんって言ったりしているのよ」


 それを聞いた小和香様は、にっこりと笑みを浮かべながら言う。


「私も聞いたことがあります。でも節子さんにはそう呼びたくなるような、不思議な魅力があるような気がします」


 小和香様のその台詞にうんうんと頷く七瀨。


「それって確かに言えてるかもしんない…」


 そう言う七瀨に小和香様がぼそりと言う。


「私もなんだか時々言いたくなりますから…」


「そうなの?」


「はい、でも何故なのかは聞かないで下さいましね。私にもどうしてそう感じるのか分からないのです。ただああ言える雨子様のことがなんだか羨ましいような…」


 そう言うと苦笑する小和香様。

それから二人は雨子様達が風呂から上がってくるまで賑やかに話をして楽しむ。

 なぜだか分からないが不思議とウマが合うのである、ふざけてどちらからとも無く言う『ぐりぐりの友』。そう言うと二人は可笑しくなってただもうひたすら笑い転げた。


 この時の二人は未だ知らない。二人がこれから生涯を通じて真の友と成っていくことを。

人と神の新たな関係が、此処でも一つ生まれつつあるのだった。

ちなみに筆者も御茶は大好きです

そしてもちろん珈琲紅茶もw

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