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天露の神  作者: ライトさん
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文殊の爺様のこと

 すいません遅くなりました、些か長くなりましたもので……


「さてそろそろ良いかの?」


 雨子様は皆が腰を落ち着けたのを見るやそう言葉を発した。


「そうやね、実を言うとうちら早う聞きたくて、うずうずしとったんよ」


にやついた顔を改めると和香様はそう言った。


「そうだな、俺もずっと聞きたいと思っていたぞ」


 そうやって身を乗り出す八重垣様。


「そうじゃな、一体何から話せば良いのかの?因みに和香はどのようなことを見知って居るのじゃ?」


 雨子様がそう聞くと、和香様は何とも切なそうな顔をしながら話し始めた。


「そうやな、うちが覚え取るのは、雨子ちゃんが隗に吹き飛ばされてフラフラしとったところを、更に追撃を受けて今にも切り裂かれようとした瞬間に、自転車で駆けつけてきた祐二君が体当たりでその雨子ちゃんを突き飛ばしたこと。そのせいで祐二君が隗に切りつけられたこと。致命傷になった祐二君のことを雨子ちゃんが抱えて、必死になって癒やそうとしたこと。その後二人が闇に飲まれていったことくらいやろか?」


「なるほどの」


 雨子様は呟くようにそう言うと暫し口を噤んだ。挙げ句大きなため息をつくとその後、少し苦しそうな顔つきをしながら話を続けた。


「あの時我は傷ついた祐二をこの身で抱え、なんとしても癒やそうとして、持って居ったその神力の全てを使い果たしていった。それはもうありったけ。その挙げ句我はこの身を維持することもかなわぬ様に成って、ついには意識を手放してしもうた…所までは覚えて居るのじゃがの」


 そう言いながら雨子様の手が僕の手を探し、見つけ、そして握った。

雨子様の視線が僕の目を捉え、ほっとするかのように微笑む。


「それで?」


 和香様がそんな僕達の様子を静かに見守りながら、その先の話を求めてこられた。


「その先かの」


 そう言うと雨子様はまた暫く押し黙ってしまった。

そして思いに耽った後、ゆっくりと口を開く。


「済まぬの、待たせてしまって。実を言うとそこから先のことは未だに我自身も夢かうつつかよう分からん感じがしての。それでも良いかの?」


 和香様も八重垣様もただ黙って静かに頷くばかりだった。

その頷きの意味を心に留めると雨子様は再び話をし始めた。


「次に我が意識を取り戻したのは、それが一体どこにあるのか分からぬ、誠に不可思議な草原というか、花畑?のようなところじゃった。その余りの美しさに我は、人の言う極楽浄土にでも行き着いたかと思うたの」


「極楽浄土?」


 和香様がなんとも怪訝な表情をなさっておられた。


「うちらには考え及ばんのやけど、ほんまにそないなところあるんやろか?」


 そう言いながら和香様は雨子様のことを見つめた。


「さてのう…」


 そう答えるところを見ると、雨子様にだってその答えはないようだった。そしていつか和香様が言われたように、雨子様の根本が思兼神だとしたら、彼女が知らないことは他の神様達も知らないのではないだろうか?


「俺には良く分からんのだが、この世の中にはまだまだ俺たちの与り知らぬことが有るのだな?」


 八重垣様が腕を組みながら一人呟くように言葉を吐かれている。

和香様と雨子様が八重垣様の放たれた言葉にうんうんと頷くのだった。


「そして…」


 再び雨子様が記憶を確かめるように視線を彷徨わせながら語り始めた。


「目覚めた場所で何者かに語りかけられたのじゃが、それがなんとも面妖な存在での」


「面妖な存在?」


 和香様が待ってましたとばかりに少し嬉しそうな顔をしながら言う。

これは好奇心旺盛な和香様ならではなのかも知れない


「うむ、真に面妖な存在じゃ。姿形というものが普通では無いのじゃ」


 そう話す雨子様の言葉に和香様がぶるると震えた。


「なんや聞くのが怖そうな話になってきたけど、大丈夫なんこれ?」


「和香、そなた昔から好奇心旺盛な割には小心なところが有るの?」


 そう言うと苦笑しながら和香様のことを見る雨子様。


「だが安心せい、そなたが恐れるような幽霊話では無いからの」


 雨子様の思わぬ暴露に僕はびっくりして和香様のことを見た。


「な、何かな祐二君?」


 聞かれたのならば答えなくてはと思った僕は素直に疑問を口にした。


「いえその、和香様のような神様でも幽霊が怖いのかなと…」


 僕のその問いに和香様はしまったという顔をした。


「うわぁちゃ、偉いこと知られてしもうたな。まあええか、話しとくか。うちは神様やから、実際に存在し取る狐狸妖怪の類い、結局は皆付喪神のようなもんなんやけどな、そう言うのは平気って言うか、まあ当たり前やな」


 そこまで言うと和香様はお茶を手に取って喉を潤した。


「そやけど君ら人間が作り出した幽霊の類いだけはあかんねん」


「そう言う言い方をなさるって言うことは、幽霊というのは実際には居ないのですね?」


 僕がそう聞くと和気様は頷いて見せてくれた。


「うん、そうやね。君らが言うような意味での幽霊はおらへん、けど、生前に有った何かに対する強い思念、それが暫くの間残ることはあるんやけど、それが君らで言う幽霊に一番近いかな?けどそう言うのはそれぞれ独自に思考と言うか自我をもっとる訳や無くって、行ってみたら空間に残った呪みたいなもんやな」


「うむ、じゃからそう言う類いのもので有れば我らにも簡単に消すことが出来る。じゃが実際に和香が怖がって居るのは…」


 そう言うと雨子様は和香様のことをちらりと見た。対して和香様はぷいっと視線をそらしてしまう。


「人間がお話の中味として作り出した怪談の幽霊なのじゃよ」


 そう言うとくっくと笑う雨子様。

そうやって笑う雨子様に和香様が憤慨したように言う。


「そんな言うけどな雨子ちゃん、現象として捉えられる幽霊とちごうて、自分の意思で動いてくる幽霊って言う設定はなんともめちゃくちゃ怖いねんで?」


 そう言いながらも既に和香様の顔色は青白くなっていた。


「全く和香にも困ったものじゃの」


 そうぼやくように言う雨子様。


「余談はさておき、その相手の存在なのじゃが、そこいらに生えて居る草花の輪郭、それが重なり合うようにして出来た線で構成されて居ったのよ」


「「はぁ?」」


 雨子様のその説明に、さすがの和香様も、更には八重垣様をして目が点になっている。


「そしてその見かけというのが何と言うかの、禿頭の爺とでも言えば良いのかの?」


「そうなんや、それでそれで?」


 興味津々和香様は耳をそばだてて雨子様のする話に聞き入っていた。


「してそやつの言うのはその爺は我の親のようなものじゃというのじゃ」


「「親?」」


 この言葉を聞いた和香様と八重垣様は本気で驚いていた。


「うちらの知る限りそれはもうずっと昔から雨子ちゃんは雨子ちゃんなんや、その親って言うことになったら、それより相当前って言うことになるんやけど、一体どうなっとるんやろう?」


「その辺りのことは我にもよう分からぬ。じゃがあやつは我のことを作り出したというか生み出したというようなことも言っておったの」


 そう言うと雨子様は僕のことを見ながら心配そうな表情をした。なので僕はその時出来る最大限の笑みで以て雨子様のことを見つめ、握っている手に力を込めて見せた。

 きっとそのことで雨子様も安心出来たのであろう、ふっと身体の力を抜くと僕に笑いを返してきた。


「それで何故と聞くと、その爺は次のように教えてくれたのじゃ」


 そう言うと雨子様は和香様と八重垣様を交互に見た。


「そなたら二柱は、この地球上に於いて最古参故、大昔に神々の間で起こった争いについては覚えて居るよの?我の場合はそなたらからの伝聞の記憶というものが与えられたのみなのじゃが」


 そこまで喋ると雨子様は手元のお茶で口を湿し、空になったところで寂しそうに口を曲げる。

その様子を見てくすりと笑った和香様が直ぐに小物に指図して新たな茶を差配した。


「済まぬの和香、感謝する」


 そう言うと雨子様は和香様の方にぺこりと頭を下げ、対して和香様は嬉しそうに頷いてみせる。


「それで爺が言うのには、爺はその戦いに嫌気が差して仲間を捨てた世捨て人じゃと言うのじゃ。そして爺はとある世界に閉じ籠もったというのじゃが、我がその世界を内包して居るというのじゃ」


「はぁ?」

「なんだと?」


 和香様と八重垣様は同時に驚きの声を上げた。


「一体どう言うことなんそれは?」


 驚きの表情を顔に貼り付けたまま和香様が問う。


「分からぬ。我には一切与り知らぬこと故、全くもって分からぬことなのじゃ。じゃがじいはそれで当然じゃと言って居った。そう設定しはしたが爺自身としてはそのことを我に伝えるつもりはなかったらしいの」


「なんとも不可思議な話やねんなあ」


 和香様は余りの話の不思議さに驚き呆れかえっていた。


「而して、そやつは何故に、雨子にその世界を内包させたというのだ?」


 何となくだけれども、八重垣様がその爺に対して怒っているような気配がする、と言うか起こっていた。八重垣様の身体から発せられる怒気で、先ほどから僕は随分気圧され続けているのだった。


「スパンッ!」


 八重垣様の頭から随分と景気の良い音が聞こえてくる。


「お前、一体どこからそれを?」


 八重垣様が頭を押さえて和香様の手に持っているものを指さす。ありゃ?あれはハリセンじゃね?


「やかましいは、自分こんなとこで怒気なんか出すな!見てみ、祐二君青なっとるで?」


 そう言われて八重垣様は僕のことを見た。何だか申し訳なくなってぺこりと頭を下げてみせるのだが、逆にそのことが八重垣様を慌てさせる。


「嫌々俺が悪いのだ、済まないことをした祐二」


 八重垣様はそう謝りながらもちらちらと僕の傍らに視線を送っている。

見るとそこでは雨子様が青筋を立てて八重垣様のことを睨んでいる。いや雨子様?雨子様の怒気の方が怖いんですけど?


「二人ともええ加減にしときや?二人揃って怒気出してどうするねん?見てみ、祐二君が縮み上がっとるで?」


 和香様にそう言われることで二柱共に僕のことを見るなり一気にその場から怒気が消え失せた。

 僕は思わずほっとしながらため息をついてしまった。


「我としたことが済まぬ祐二」


 そう言うとしょんぼりとする雨子様。


「もう大丈夫ですから気にしないで下さい雨子さん」

 

 神様方の居られる前で、敢えてさん付けで読んだことが分かったのか、雨子様の顔に急に笑顔が戻った。


「そしたら話し続けよか?」


 和香様がそう仕切りながら雨子様に水を向けた。


「うむ、それで爺の言うのは、我がその世界を内包して居れば、我がその生存本能によって生きようとしている限り、自動的に内包された世界が守られ、存続していくと言うことらしい」


「なんと、そしたらもしかするとその爺様は、今も雨子ちゃんの内なる世界に居ると言う訳なんやね?」


「うむ、正に和香の言う通りじゃな。そして要は知らぬが我は今に至るまでの間に二度ほど死にかけたのじゃそうじゃ」


「はぁ?」


 呆れ果てるようにそう言う和香様。

そして少し考え、気を取り直すと言う。


「まあその内の一回はこの間のことやな」


 和香様のその言葉に雨子様は頷きながら言う。


「うむ、和香の言う通りじゃ。しかも前回は死にかけではなく明らかに一度は死んで居ったらしい」


「ぷうっ!」


 偶々お茶を飲んでいた八重垣様が、折悪しくその話を聞いてお茶を吹き出していた。


「な、なんだって?あの時本当にお前は死んでいたって言うのか?」


「うむそうらしい」


「なあ雨子、そう言えばお前、この間龍を出した時にも死にかけていたよな?」


「ううう、面目ない」


 八重垣様に突っ込まれた雨子様はしょんぼりとして眉をへの字にしていた。


「お前ちょっと死にすぎ!」


 そう言いながら八重垣様はプリプリと怒っている。八重垣様ってほんと良い神様だなって思わず僕は思ってしまった。そうそう、今回は怒気は出していない。


 何だか余りにしょげ返って気の毒だったので軽くきゅっきゅと手を握って励ましていると、その手をしげしげと和香様に見られてしまった。


「ほんま自分ら仲ええなあ、なんや羨ましいわ」


 そう言われて僕達は二人揃って顔を赤くして下を向く。しかしそうもしていられないので雨子様は赤い顔のまま面を上げて、話の続きをし始める。


「で、爺曰く、一回目に死にかけた時、この時何故死にかけたのかは爺にも分からなかったらしいのじゃが、その時に我は色々な記憶を無くして居ったらしい」


「そうなんや、そしたらうちらと雨子ちゃんが出会うたのはその後言うことなんやねえ」


 しみじみとそう言う和香様はどこか懐かしげだった。


「その頃は本当に和香や八重垣には世話になった」


 そう言うとぺこりと頭を下げる雨子様、対して慌てていやいやとばかり手を振る和香様に八重垣様。


「そ、そんなうちらこそ一体何度雨子ちゃんに助けてもろとるか、それこそ数え上げたらキリないで?」


「まったくだ!」


「ところでここからの話がもっとも肝心なのじゃ」


 そう言うと雨子様は、とうとう僕の手を放したかと思うと、ぐっと身を乗り出して話し始めた。


「爺の話ではそうやって記憶を無くす直前まで、我は小さい物とは言え宝珠を所持して居ったそうな、それどころかその製造法すら知って居ったというのじゃ」


「なんやて?一体それはどう言うことやねん?それにそこまで知っとるってその爺さん、一体なにもんやねん?」


 和香様のその質問に雨子様はにやりと笑う。


「和香、聞いて驚くなよ、その爺の名前こそ文殊という、文殊の爺様よ。聞き覚えがあるであろう?」


「「文殊!」」


 思わず和香様と八重垣様の声がハモってしまう。


「文殊ってあの、うちらの中で稀代の科学者って言われたあの文殊なん?宝珠を発明してうちら皆に恩恵与えてくれて、例の争いに嫌気差して、宝珠共々姿を消したって言うあの文殊なん?」


「そうじゃ和香、そなたが言う通りの文殊の爺様じゃ」


「待って待って!」


 そう言う和香様の顔色は真っ青だった。


「なあその文殊の爺様が雨子ちゃんの中に居るって言うのん?」


「どうやらそうらしいの」


「一体全体何がどうなってそう言うことになってんのん?」


 もう和香様は訳が分からないと言った感じで頭を抱えていた。

八重垣様に至っては先ほどからずっと口を開けっぱなしでぽかんとして一言も発さない。


「とにかくまとめるとじゃ、文殊の爺様は世を儚んで世捨て人になるに当たって、所持して居った例の巨大宝珠を使って、一つの世界を作り上げたらしい」


「世界?」


「うむ、我が目を覚ました世界らしい、残念ながら我の能力ではその世界がどれだけの広さを持って居るのかは分からなんだ。ただ一つ言えるのは現在の宝珠はその世界へエネルギーを供給する為に特化して居って、他には使えないらしい。そして今の我は」


 そう言うと雨子様は自身のことを指さした。


「その宝珠が星々からエネルギーを授受する為の一接点と成って居るそうな。何がどうなってそう成って居るのとかは聞いてくれるなよ?我にも全く分からぬこと故」


「はぁ~~~、なんか偉いことになっとるんやね?それでその爺様とはうちら話したり出来るん?」


「それが分からんのじゃ。何せ話しかけようにもその話しかける手段そのものがとんと分からぬ故」


「それは困ったことやなあ。そしたらこれからもうちらには宝珠は使われへんのやろなあ」


 それを聞いた雨子様は少し申し訳なさそうに言う。


「うむ、確かにその通りじゃな。我にしても正規の宝珠の作り方は知らぬが故、こればっかりはどうにもならぬ」


 そこで和香様は何事か思い当たったのか嬉しそうに言う。


「なあちょっと待ってんか?ほんまもんの宝珠はあかんかもしれんけど、けどニーみたいな分霊の形態の疑似宝珠は作れるんやろ?」


 その話を聞いた雨子様は少し微妙な顔をしながら首肯する。


「うむ、それは和香の言う通りじゃ、きちんと道具立てを揃えればそなたらにも作ってやることは出来る。じゃがの…」


「何かあるん?雨子ちゃん?」


「それがじゃな」


 そう言う雨子様は何とも言いにくそうにしながら言葉を続けた。


「その疑似宝珠自体は作れるのじゃ、じゃがそれを起動させる為の口伝の呪となるとの、どうやら我自身の内部でロックがかかって居るようでの、他の者には教えられそうにないのじゃ」


「しょんなぁ~~~」


 そう言う和香様は正にべそを掻きそうになっていた。


「ただの、その起動式そのものは教えてやれぬが、予めそれを内包させておいて、それ自体を各個でオンオフさせる方法なら或いはもしかすると…」


「出来そうなん?」


「うむ、多分…」


 雨子様がそう言うと和香様は飛び上がって喜んだ。


「じゃが安請け合いは出来ぬの。まだ今暫くその方法を精査し、きちんと使用に耐える物にしたいと思うので時間は幾ばくか貰いたいものじゃの」


「そんなん当然のことやん。それに今までのこと思ったら、何年か待ったところで知れてる思うで?なあ八重垣?」


 ここに来てようやく再起動の掛かったらしき八重垣様が大きく頷いてみせる。


「うむ、俺も楽しみにして居るぞ」


 と、暫くの間、部屋の隅っこの方でずっと控えていた小和香様が口を挟んできた。


「あの雨子様、その疑似宝珠は分霊を元にして作り上げるものですよね?」


 雨子様は小和香様のその問いに素直に頷いて見せて答える。


「うむ、そうであるな」


「では…」


 そう言いながら小和香様は意気込んだ。


「私にその疑似宝珠としての役目、与えて下さいませんか?」


 和香様は小和香様のその突然の申し出に驚き慌てる。


「ちょっと待ち~や小和香。自分は分霊とは言うても、もうそこいらの格低い神と比べても遙かに力持ってるし、権能もあるんやで?言うたらもう神と変わらへん。そんな自分がなんでそんな役に甘んじるんや?」


 だが小和香様はそんな和香様の問いににっこりと笑んで見せながら晴れ晴れという。


「痩せても枯れても私は和香様の第一分霊でございます。ならばこそ私は誰よりももっとも和香様のお役に立ちたいのです。ですからどうか私にその疑似宝珠のお役目、お与え下さいませんでしょうか?」


 さすがの和香様も、ここまで小和香様に言われてしまうともうそれ以上の言葉を口にすることは出来なかった。

ゆっくりと立ち上がると小和香様のところに行き、側に座ると思いの丈を込めてぎゅうっと小和香様のことを抱きしめるのだった。


「天晴れぞ」


 そう言って褒めそやす八重垣様。雨子様もまたうんうんと頷いている。


 さてその後、僕がどうやって生き返ることが出来たかと言うことについて述べられたり、その他細々としたことが述べられたのだが、雨子様自身のことや、宝珠のことについて比べると余り印象は強くなかった。


 ただ僕としては、いつの日か文殊の爺様に直接会って、生き返らせて貰ったことについて深くお礼を述べたいなと思うのだった。

多分雨子様はそんな僕の思いを自然とくみ取ってくれたのだろう、にこにこしながらうんうんと頷いてくれるのだった。


 そして僕ははたと思いついた。そんな文殊の爺様に生み出された存在で有るが故に雨子様は、思兼神として多くの知恵を持った存在になられたのだろうなと。





いつも読んで下さっている方、ありがとうございます。

そしていいねを良く付けて下さっている方、そのいいねの有り様が順々に話を追ってきておられる様、何だかとっても嬉しいものです。今後ともよろしくお願い致します

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