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天露の神  作者: ライトさん
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テストの後で

 テストは嫌だなあ、テストを受けなくなって何年も経つけれども、それでもたまに夢に見てしまう


 いやなんと言うか、今回のテストは散々だった。

一応弁解しておくと出来る努力はしたつもり、いや、しようとはしたのだ。けれども病床にあった雨子様のことが気になってしまって、実のところそれどころでは無かったというのが正しいだろう。


 だから当然のことながらその結果という物は想像できるわけで、点数のことを考えるともう頭を抱えてしまいたくなっていた。


 そして今日、その全ての答案が返ってくる。もう現時点で意気消沈中だ。 

名前を呼ばれ、返して貰った答案に書かれている点数を見ると、もううめき声を上げるしか無かった。


 だが、驚いたことにうめき声を上げているのは僕だけでは無かった。

見回すとクラスの連中のほとんどが頭を抱えている。これは一体どう言うこと?


 だがこの答えは僕が悩むまでも無いことだった。


「ぐぁ~~っ、だめだぁ~~」


「これは悲惨だ~~」


「私も爆散だわ」


「今回は雨子塾が無かったからなあ~~」


 そう、この最後の一言に尽きるようだった。


 前回のテスト時には、雨子様を中心にクラスの者が教室に居残って、テスト対策勉強会を開いたのだが、余程雨子様の教え方が良いのか、はたまた山が見事に当たっていたのか、皆が凄まじいレベルでの席次アップを経験することになった。


 お陰で成績アップをネタに、色々と欲しい物を手に入れた連中続出で、神様仏様雨子様とまで言われる始末。

 その言い草に、雨子様本人は何とも言えず微妙な表情をしていたのだが、まさか神様本人にそのようなことを言っているとは、多分お釈迦様本人でも気がつかないだろう。


 ある意味今回はその副作用とでも言えば良いのだろうか?

それなりに自身でもまともに勉強していれば良いのに、端から雨子様の存在を当てにして手抜きをしていた者なども居たので、その雨子様が不在と有っては推しと知るべしだった。


 前回が高得点だっただけに、一転して大幅ランクダウンの成績とくればもう阿鼻叫喚であった。


「雨子さんさえ病気にならなかったら…」


 そう言う声があちこちから出てくるのも仕方の無いことかも知れない。


 だが当の雨子様が病気で療養中だったことを皆知っていたので、本人に直接文句を言ったり、恨み言を言うような者は誰も居なかった。


 そう言う意味ではこのクラスの連中は皆良い連中なのだろう。


 逆にそんなクラスの様子を見回した雨子様の方が気を遣って、皆に謝りの言葉を述べていたくらいだった。

 

 がたりと音をさせて席を立つと、周りを見回しながら声を上げる雨子様。


「皆、今回は済まなかったの、我が病に倒れてしまったばかりの。申し訳なかった」


 そう言うなり雨子様はぺこりと頭を下げるのだった。

それを見たクラスの連中は、慌てて弁解を始める、


「今回の点は雨子ちゃんのせいじゃねえよ」


「そうそう、私達がきちんと勉強し無かったからなの」


「そうよ、そうよ、長いこと病気で伏せっていたのに、あなたのせいになんかにしないわよ」


「ほんと雨子さんは優しいんだから…」


 皆そんなことを口々に言いながら、謝罪の言葉を述べた雨子様のところに集まり、彼女に罪は無いことを述べようとしていた。


 だが側まで来て雨子様の机の上に載っていたテストの答案を見ると皆沈黙してしまった。そして静まりかえっている。中には静かに涙を流す奴まで。


 一体何事が起こったのかと思って、慌てて近くまで行き、問題の物を見て唖然とした。

 

 何これ?目の前に有る答案の点数に目が釘付けにされる。点数が皆三桁なんですけど?

要は全ての答案が百点であると言うこと。


「はぁ~~~~」


 誰言うと無く大きな溜息が漏れていく。

じとっとした視線が雨子様に絡みついていく。

 もちろんだからと言って誰も雨子様に文句を言ったりはしないので有る。

だが皆の揃いも揃ったやるせない視線は、雨子様に纏わり付き、絡みついて離れようとしない。


 さすがの雨子様もそんな視線に中に居ては居心地が悪くて仕方が無い。


「むぅ~~~」


 とかなんとか言いながらもそもそ身じろぎするのだが、周り全てを取り囲まれているので逃げ出しようが無い。

 とうとうべそをかきながら助けを求めだし始めたのだった。


「祐二ぃ~~~」


 此処で僕のことを頼ってくれたこと自体は嬉しかったのだが、皆の視線が一斉に僕の方へ向けられたのには閉口してしまった。

だが今はそんなことを要っている場合では無い。


 僕は大きな音を立てながら手を叩き、そして声を張り上げた。


「はいはいはい、解散してね、皆病み上がりの女の子を虐めないの!」


 僕の言葉にどうやら皆は自分達の視線の効果に気がついたようだった。

だがざわざわと解散しながらぼやくように言う。


「病気で伏せっていた人が百点…」


「はぁ。ほんとよねえ、今更ながら、おつむの違いを思い知っちゃうわよねえ」


「彼女の爪の垢でも貰ったらなんとかなるのかな?」


「これが他の人なら休んでテスト勉強してたんじゃ無いのって言いたくなるけど、彼女じゃねえ」


「そこなんだよな、前回のテストの時なんか、皆の為に物凄い頑張っていてくれたしな」


 そうやって漏れ出る話を聞くに、雨子様の人格についてクラスの面々は随分肯定的に捉えているようだった。


 だがそれでも皆自分の席に戻ると、ショックの余り静まりかえっていた。


 そんな皆のことを見ていた担任の先生が笑いながら言う。


「お前ら、何をそんなにしょぼくれてんだ?」


 誰かがその言葉に対して返答を返す。


「そうは言うけど先生ぇ~、病気で長いこと休んでいた子が満点とりまくっていて、俺たちがこの様だと、そりゃ落ち込むぜぇ」


 だが先生は脳天気に笑いながら言う。


「あのなあお前ら、地頭が違うんだからそれはもう諦めろよ?」


 いくら何でも酷い言いようで有る、当然のことながら皆から湧き起こるブーイング。


「そんな酷い先生ぇ~」


「そうだそうだ」


 だが先生が更に言葉を継ぐと皆は徐々に納得していくのだった。


「あのなみんな、俺は前回のテストの時に、彼女の開いたテスト勉強会を教室の後ろでずっと見学していたんだよ。それで驚いちまったんだよな。天宮の教え方の巧さに。お前らに言うのもしゃくなんだが、今後の教え方を改善する為に、皆メモして残したくらいなんだぜ?」


「駄目じゃん先生??」


 誰かが声を上げる。周りの者も皆それぞれに声を上げてそれを肯定する。

だがそれに対して先生も懸命に反論する。


「馬鹿野郎、俺をなんだと思っているんだ?俺だってしがない一般人なんだぞ?もっともそれでもお前らより少しばかり長く生きて色々なことを知っている。その俺が言うんだ、おつむの出来が違うって」


「くはぁ~やっぱりそこに行き着くのかぁ~」


 誰かが天を仰ぐようにしながら実に情けない声で言う。

しかし先生はその言葉にめげること無く言葉を継いだ。


「確かにおつむの出来が違う、そのことは事実だ。だがな、お前達はとんでもなく幸運でもあるんだぞ? 」


「何で良いおつむを持てなかった俺たちが幸運なんだよ?」


 拗ねたように言葉を吐く男子が居る。

その言葉を聞いた先生は笑いながら言う。


「だってなお前ら、お前らには天宮が居るだろう?大体成績が良いからって、どこの世界にあれだけの規模でテスト勉強会を開いてくれる奴が居るんだよ?」


 そう言いながら先生は教壇から雨子様の傍らまで歩いてきた。


「そしてこいつが教えてくれた勉強」


 そう言いながら先生は雨子様の頭にぽんと手を載せてみせる。


「あれはテストの山なんかじゃねえ、ありゃお前達が学ぶべき知識の肝だ。それをこいつは…」


 そう言いながら先生は雨子様の髪をくしゃくしゃっとする。

知らぬは仏という言葉があるが、正にこのことか?


「お前達の内の誰もが分かるように巧くかみ砕いて教えてくれてるんだ、だから上手く学ばせて貰え。俺たち先生も精一杯頑張るつもりだが、恥ずかしながら及ばねえ。だからこそお前達は幸運だって言うんだよ」


 皆の目が畏敬の念を以て雨子様の元に集まる。

このままだとまた雨子様の居心地が悪くなるのかなと思っていたら、再び先生の話が続いた。


「だが勘違いするな、こいつは特上のおつむを持っているが、極々普通の女の子だ。先みたいに変な目で見るんじゃねえ。お前達の大切な友達なんだろう?そこの所ちゃんと考えろよな?俺からは以上だ…」


 僕は思ってしまった、この先生、自身のおつむを並だなんて言っているけれども、どうしてどうして。こんな風に上手くクラスのバランスをとってくれて、皆の心の機微をちゃんと見て取ってくれるところ、凄い人だなと思ってしまう。


 髪の毛をくしゃくしゃにされたのはちょっと不満そうだったけれども、先生のこの説明は雨子様にとっても嬉しい物のようだった。

 僕がひょいっと視線を送ると、嬉しそうに笑っていた。


 改めて僕はこのクラスで良かったなと思ったし、この先生で良かったなと思ってしまったのだった。


 雨子様としては普通の女の子認定が、案外何よりも嬉しいのかも知れない?

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