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天露の神  作者: ライトさん
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お帰りなさい

 雨子様がどんどん人間らしくなっていくなあ


 相も変わらず潮のように参拝客が押し寄せている宇気田神社。

その余りの人の多さにうんざりしつつあった神社関係者だったが、一方それが幸いすることもあったようだ。


 それは沢山の人の思いから溢れる膨大な量の精のエネルギー、これが大量に押し寄せたと言うことが何よりも有り難かったのだとか。


 お陰でスッカラカンになっていた和香様を始めとする神様方の当面の需要をかなり満たすことが出来たし、何よりも雨子様の治療にたっぷりとそのエネルギーを使えたことは最たる幸いだったそうだ。


 雨子様に属するユウや小雨、はたまたニーが健在なら、この様な物を必要とせずとも良かったのだが、先の戦いに於いて彼らも力を使い果たし、今は小さな玉と成り果てている。


 心配して和香様に聞くと、彼らは他の分霊とは異なり、核になる物質があると言うことで精を遣い尽くせば休止状態に入ってしまうらしく、それがこの形なのだという。

 先ず彼らを先に復活させることが出来れば良いのだが、残念ながらこうなってしまうと雨子様にしか起動出来ないのだそうだ。

 和香様としては今後のことを考えると、この仕様をなんとかして欲しいのだそうだ。


 だが既に雨子様が無事復活した今となっては、それらのことも些末な問題でしか無い。

僕や父さん母さん、葉子ねえ一家や七瀬家の面々も皆安堵に胸を撫で下ろしていた。


 ただ復活したと言っても未だ完全に復調した訳では無く、少しばかりのんびりする期間が必要だとのこと。


 そこで雨子様たっての希望で、宇気田神社から僕達の家へと戻ってくることになった。

ただ神社の現在の混乱状態を考え、僕達が迎えに行くのでは無く、神社側で車を仕立てて我が家に連れてくる段取りとなっている。


 偶々その日が土曜と言うことも有って、我が家には先ほど述べた面々が全て揃うことになっていた。やはり皆がそれなりに雨子様のことを心配し、そしてその復調を心から喜んでくれているのだろう。


 昼前にはこちらに到着するという連絡を貰っていたので、皆リビングで寄り集まっていたのだが、誰しもが落ち着かないのかそわそわしている。中でも母さんと七瀨はその極にあったと言えるかも知れない。

 

「母さん、お茶お茶!」


 父さんの湯のみにお茶を注いでいた母さんだったが、気もそぞろで外事を考えていたのか、いつの間にかお茶が溢れまくっている。


 声を掛けられた母さんはびっくりして目の前の状況を見るも、何がなにやらっていう感じ。慌てた父さんがキッチンに走り、布巾を持ってきて後始末に掛かる。


「大丈夫母さん?」


 葉子ねえが心配して声を掛けている。本人は大丈夫とは言っているものの、最初和香様から雨子様の状態を説明された時は、ショックで寝込んでしまったほどだった。

 後に僕からもう良くなっているよと説明は受けていたものの、やはり自分の目で見るまではどうしても安心出来ないのだろう。


 一方男性陣はと言うと、もっぱら現在の世界情勢について話し合って居るのだが、それはもう随分熱が入っている。何せ一切の予備動作なしにあらゆる核爆弾が使用不能になってしまったのだから、世界の軍事バランスに大きな変革を及ぼすことになったのだ。


 通常の軍事力と言うことで考えると、当然のことながらトップは米国となる。本来ならその次には中国が来るべきなのだが、神の杖の落下以降、共産党による指導体制が瓦解してしまい、現在混乱の極みになっている。

 この機を見て普段ならちょっかいを掛けそうな国々も、自国の持つ全ての核爆弾が無効化されたと言うことで、通常戦力の再編成等に追われ、それどころでは無いようだ。


 一方、今回の騒動に何らかの形で関与しているのでは無いかと、暗に目されている日本は、そう言った核軍事力を前面に押し出していた国々の凋落に比べて、その存在感をいや増している、と言うのが現在の状況だった。


 だが世界というのは軍事力だけで動いているものでは無い。それ以外にも経済力や資源力、個々の民族や宗教などと言った様々なパワーバランスで成り立っている。

 今後それらに対して、今回の事件がいかなる影響を及ぼしていくのか?まだまだ予断を許さないと言ったところだろう。


 そうやって皆で色々な話に花を咲かせていたところ、玄関のチャイムが鳴らされた。


「ピンポ~ン!」


 その音の余韻が終わらない内に僕は席を立ち、玄関を開けて外に飛び出していった。

そこにはワンボックスカーから、榊さんの手を借りてゆっくりと降り立とうとしている雨子様の姿があった。

 暖かそうなロングのスカートの上にダウンのジャケットを羽織っている雨子様、足下が未だ少し覚束おぼつかないのか、時折榊さんの腕に寄りかかっている。


「雨子様!」


 僕はそう一言言うと息せき切ってその側に駆け寄っていった。


「祐二…」


 雨子様は嬉しそうに僕の名を呼び、満面に笑みを浮かべた。


「お帰りなさい、雨子様…」


 僕はそう言うのが精一杯で、後はなんの言葉も口に出来なかった。


 こうやって無事元の姿に戻り、家に帰ってくることが出来るようになった雨子様のことを見ていると、もう胸が一杯になってしまい、涙が溢れるのが抑えられない。

 榊さんがそんな僕の肩を優しく叩いて慰めてくれる。


 僕は口を開くと嗚咽が漏れそうになってしまうので、必死になって歯を食いしばったまま、こうやって雨子様を送ってきてくれた榊さんに、深く深く頭を下げたのだった。


 そして榊さんの手から雨子様の手を引き継ぐと、二人で揃って今一度頭を下げた。

それに対して榊さんは礼など及ばないと言いながら、今は神社が大変なことになっているから、このまま此処で失礼すると言って車に乗り込まれる。


 せめてお茶でもと言うのだが、丁寧に辞去されるのでそのまま車の去って行くのを見送ることとなった。


 見えなくなっていく車の後ろから再度頭を下げると、僕達は顔を見合わせた後、手に手を取り合って家へと向かうのだった。


 そして家の玄関をくぐるとそこでは皆が待ち構えていた。何故に外まで出てこなかったのかとも思ったのだが、何となく微妙な表情をしている七瀨の様子を見るに、どうやら気を遣ってくれた?

 

 玄関に入り、僕の手を借りながらゆっくりと履き物を脱ぐ雨子様。

そしてかまちに上がる雨子様のことを皆は息を飲んで見守っている。

 しわぶき一つさせない皆の視線に気がついた雨子様は、こぼれるような笑みを放ちつつ、ゆっくりと頭を下げながら言った。


「皆、心配を掛けたの、我はもう大丈夫じゃ…」


 その言葉を聞くや否や、母さんが、葉子ねえが、そして七瀨が飛び出していって雨子様の身体を捉えた。


「お帰りなさい雨子ちゃん」

「「お帰り雨子さん」」


 真っ先に飛び出していった母さんが、雨子様の身体をしっかりと抱きしめ、その両側から葉子ねえと七瀨がしがみつくようにして身を合わせている。


 そしてもう何があっても話すまいとするかのように、しっかりと雨子様の身体を抱きしめたまま、三者三様さんしゃさんように涙を流し、その涙に、今までずっと笑みを浮かべていた雨子様までもが、共にその目を腫らすのだった。


 その様を見ていた僕は、小さな小さな声で今一度呟いた。


「お帰りなさい雨子様…」


 本当に小さな声で言ったのに、三人に包まれながら涙を流している雨子様が、ふとこちらに向いたかと思うと、小さく頷き、笑った。

 多分僕はこの笑みを一生忘れないだろう…。



 ちょっと息切れ気味の筆者です。暫く楽しくわちゃわちゃしていけたら良いなあ

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