目覚めの時『第二百話目です』
やっとこさっとこ、物語りの一つの区切りを迎えることが出来ました。
ほとんど毎日更新で、約半年。勢いだけでやってきた感じであります。
注)昨日更新分、幾分問題点等があったのでいくつか書き加えて更新しました。
天空に赴いた雨子様が戻ってきた時、僕は和香様にどう頼み込んでも会わせて貰うことは出来なかった。
話を聞くにその時の雨子様は何時命が果てるかも知れない状態だったとのこと。
ならばこそ何が何でも会わせてくれと、泣かんばかりに頼みこんでは見たのだが、それでも和香様は首を縦には振らなかった。
何故にと僕が聞くと、渋々ではあるが和香様は重い口を開いてくれた。
「あのな祐二君、実を言うと雨子ちゃんはほとんどの力を使い尽くしとってん。そやから人の身から神の身への変化も出来ずに、地上に降りた時には体中焦げ焦げの火傷だらけで、髪の毛も全て無くなっとってん。女の子として雨子ちゃんが、大好きな君にそんな姿を見て欲しいと思うやろか?」
僕はことの重大さを知って何も言えないままゆっくりと頭を横に振った。
「ん、そうやろ?それにや、余程肝っ玉が座っとるもんでも、あれはちょっと見られへんと思う」
「そんなになのですか…」
僕はそこまでして雨子様が、皆の為に頑張ってくれたのかと思うと、溢れる涙を抑えることが出来なかった。
和香様はそんな僕のことを見つめると、ふうっと息を吐くようにした後をそっと優しく抱きしめてくれた。
きっと少しでも安心出来るようにと、いつの間にか震えが止まらなくなっている僕のことを癒やそうとしてくれたのだろう。
抱きしめながら和香様は、僕の耳元で囁くようにして教えてくれた。
「ただな祐二君、そないに心配せんでも大丈夫なんやで。うちらんところに戻って来たんやったら、もう何がどうあっても治せる。ただ時間が掛かる、それだけのことやねん」
そこまで言うと和香様は身体を引き離し、僕の目を見つめながら言う。
「それとな、力が無くなって神の身に転じられへんからこそあないな身体になってしもうたんやけど、でもな、それって不幸中の幸いやってん」
僕はその意味が分からずにただその先、和香様が言葉を継いでくれるのを待った。
「もしあの時ぎりぎりにでも神の身に転じることが出来とったら、その後身体を維持することが出来なくって、多分消えてしまうことに成っとったやろうな」
僕は驚いて言う。
「消えてしまっていた?」
「そうや、ぎりぎりで危なかったけど、それでも人の身やったからこそ、まだしも何とか生にしがみ付くことが出来とったんよ。それでもほんまにぎりぎりのことやってんけどな。あそこでよう八重垣が間におうて、急ぎここまで連れ帰ってくれたもんや、お手柄やで全く」
そうやって丁寧に説明してくれたお陰で、何とか僕にも今の雨子様の状況を理解することが出来た。そして僕自身のことも心底心配しながら、気遣ってくれる和香様に、僕は深く感謝した。
和香様の言うに、この先暫くの間、宇気田神社に於いて雨子様のことは預かるとのことだった。
人の持つ医療技術では治せないようなものも、和香様の所では如何様にでも出来るというのだから、ここは任せるしか無いだろう。
僕はくれぐれも雨子様をよろしくお願いしますと何度も頭を下げ、その場を辞することのしたのだった。
さてそれから毎日学校に通いながら放課後神社に行き、雨子様の様子をうかがい続けたのだが、(和香様は毎日押しかけてくる僕のことを、苦笑しながらも、いつも暖かく迎え入れてくれた)世間ではそれどころでは無い騒ぎが持ち上がっていた。
彼の国から日本や米国、ロシアに向かって核ミサイルが発射されたと言うことだけでも、世紀の一大事だったのだが、日本上空に巨大な光りの円環が現れたかと思うと、それが幾頭かの龍に変じ、更に一頭の黄金の龍に変わったかと思うと、無数の光りになって地上に降り注いだというのだ。
そしてその光が消えたかと思うと、中国から飛来しつつ合った全てのミサイルが消えてしまい、それを以てしてぎりぎりのところで核戦争が回避されたというのだ。
もう丸で一体何がなにやらと言った状況だったが、それでも死の恐怖から解放されたと言うことで、世界中に驚きと歓喜の声が充ち満ちていったのだった。
だが話はそれだけに留まらなかった。その後世界中の核保有国からの驚くべき報告が世界を席巻した。
なんと彼らの持っている全ての核兵器が無効化されてしまっていたというのである。
ウラニュウムやプルトニュウムと言った差違はあるが、核兵器内に安置されていた全ての核物質が、無害な鉛へと変換されていたというのだった。
これには多くの政府関係者が慌てふためいた。至急原子力発電所やその他核物質の貯蔵施設も調べられたのだが、少なくとも燃料用とされるレベルの濃度の核物質はなんの問題も無く以前のままだった。
しかし核爆弾に使用出来るレベルの物は全て鉛へと変化している。
当然のことながら軍事関係者は頭を抱える。新たに核兵器を作ろうとしたらまた一から核物質を精製していかなくてはならないのだから。
この過程には信じられないほどの費用と時間が掛かるのだが、あらゆる国に於いて核兵器が無くなった現時点に於いて、果たしてそれだけの物を掛けて新たな核兵器を作るべきなのだろうか?
為政者としても大いに悩むところなのだろうと思う。
そしてもう一つ世間を騒がせているのは、それらの事象を発動させた巨大な円環や巨龍の存在についての議論だった。
多くの宗教指導者達が自らの信じる神の示した奇跡だと主張するのだが、ならば一体いずこの神の示した奇跡なのだ?侃々諤々(かんかんがくがく)とそれぞれ議論を沸騰させるのだが、どこにも彼らの信じる神であるという証拠が無いのである。
そこで取りざたされたのが、これらの事象の発生した中心地がどこなのかと言うこと。
もちろん言うまでも無くそれは日本という国家の上空だった。
そしてここで思い出されつつあったのが、暫く前にあった謎の騒乱についてのこと。
例の動画サイトにおける大作映画のデモ動画とか言う、まことしやかな説明で翻弄されてしまい、いつの間にか立ち消えてしまっていた、数多くの噂話が再燃し始めていた。
実はこの騒乱、その中心にはとある神社があった。もちろん言うまでも無くそれは宇気田神社で有り、それは日本最高神のおわします唯一無二の神社で有る。
加えて言うなら、今回の円環や巨龍と言った事象の発生地点こそ、この神社の直上に位置していたのだった。
このことが各国情報分析機関から政府上層部へと伝えられ、それがリークされる形で国民へと伝えられていく。
そのことを知った和香様はこれ以上無いくらいに渋い顔になったのだけれども、残念ながら今回はその情報を操作打ち消してくれる存在として、雨子様も居なければニーもまた居ない。
お陰でこれらの情報はネットを通じて、まことしやかに次から次へと広がっていった。
そしてかつて雨子様が口にした言葉の通りに、人々は信じたいものを信じる。
斯くして宇気田神社は世界に名だたる聖地として、世界中の人々に認知されるようになったのだった。
結果、日本国内だけで無く世界中から押し寄せる人また人。
毎日が初詣かと思うような混雑具合で、榊さんを始めとした神社関係者はてんてこ舞い。どうにもならないと言うことで他社からの人員を急遽配して当たるのだが、丸で手が足らず、焼け石に水状態。
怒濤のごとく押し寄せる人々は、当然のことながらお参りをしていく訳で、その聞き役に回っておられる和香様や小和香様はもう目の回るような忙しさに振り回されることになった。和香様曰く、神様といえどもこれはきつ過ぎるとのこと。
お陰で最近は急遽呼ばれた咲花様が、雨子様のことを看て下さっている。
毎日学校の授業が終わると僕は宇気田神社を訪れ、(そこに通じる鉄道がいつも満員なのにはちょっと食傷気味になっていた)人が入ってこない奥の院側に回ると、そこから先特別な通路を通って雨子様の伏しておられる所に向かう。
ここ二週間ほど、いつも奥の部屋から出てこられる和香様や小和香様、最近は咲花様の話を聞いて雨子様の無事を知るだけなのだったが、今日は奥から出てこられた咲花様ににっこりと微笑みかけられた。
「毎日連日君は偉いな?」
そう言うと咲花様はちょいちょいと手招きをし、僕が応じて近寄ると、優しく僕のつむを撫で付けるのだった。
艶やかな桜の花の和服姿の気品と奥ゆかしさに溢れた姫様に、この様に頭を撫で付けられると、何とも緊張の余り身動き一つ取れなくなってしまう。
「あれ、私が撫でるといつもそのように固まるのじゃな?」
そう言うと咲花様は袂で口を隠しながらくすくすと笑う。
そして一頻り笑うと、ぽんと手を打って僕に言った。
「そうじゃ、毎日ように君は我慢したな?今日より雨子に遇うこと許して遣わずぞ?」
僕は目の色を変えて咲花様に問う。
「もしかして雨子様、目を覚まされたのですか?」
だが咲花様は優雅にゆっくりと首を振りながら言う。
「いいや、未だそこまでは行かぬ。じゃが身体の傷は癒えた故、その目覚めはもう間もなくじゃ、故に早う行って見守ってやるが良い」
そう言われた僕は慌てて咲花様に辞去の言葉を述べると、ともすれば走り出したくなる気持ちを抑えて雨子様が寝かされている奥座敷へと向かった。
そっと障子を開けると部屋の中央に引かれた布団の中で、安らかな寝顔をした雨子様が昏々と眠り続けていた。
もう大丈夫と咲花様に言われはしたものの、それでも不安で仕方の無い僕は、急ぎ側に近寄るとそっと耳を澄ませる。
穏やかな日差しの中、庭に向かって解放されているその座敷で聞こえてくるのは、時折鳴く鳥の声と、すやすやという雨子様の寝息の音だけだった。
「雨子様…」
そう一言言うと、僕の目から自然と涙が溢れて下に落ちる。
今その顔には傷一つ、火傷のあと一つ無い。穏やかに目を閉じて眠って居る。
「むぅ…」
そう言う小さな声と共に、目に掛かった髪を祓うかのように布団から手を出す雨子様。一体どんな夢を見ているのだろう?時折目がぴくぴくと動くのが分かる。適うなら楽しい夢だと良いのだけれど。
そんなことを思いながら、僕は雨子様の手をそっと掴み、布団の中へと戻そうとした。その時である。
「…祐二なのかえ?」
囁くような声が聞こえてくる。見ると雨子様が薄く目を開けている。
僕は安堵と驚きと喜びと更にいくつもの感情が綯い交ぜに成ってしまい、ただもう一言
「はい…」としか言うことが出来なかった。
そしてその場に伏し、ただもう言葉も無く嗚咽にまみれてしまう僕。
そんな僕の手を優しく握り返して小さな声で話しかけてくる雨子様。
「済まぬの、心配を掛けてしまったようじゃ、じゃがこうやって戻ってきた。じゃからもう泣くでない…」
だが僕は相変わらず雨子様の手を握り、身体を丸めるようにして、ただ、ただ、泣くことしか出来なかった。
そんな僕に向かって雨子様もまた一言、
「祐二…」と言葉を口にするのが精一杯だったのだろう。
後はもう雨子様もまた、抗うこと泣く涙の溢れるままにし、泣き続ける僕の頭をそっと抱きしめると、生きて戻れたことの幸せを心より味わい、喜ぶのだった。
現実の世界では相も変わらず様々なっ戦いが起こっていますが、なんとか少しでも無くなったら良いのになと思ってしまいます




