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天露の神  作者: ライトさん
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「その日」

 すいません、遅くなりました(^^ゞ


 平和な朝の一時がゆっくりと過ぎていく。誰も口にはしないが、その時が近づくに連れて次第に緊張感が高まっていく。


 いつも人間達が集まる広間に、和香様や雨子様を初めとした幾人かの神様方と、ここに来るようにと言われてやってきた人間達全員が寄り集まって、固唾を飲んでその時を待っているのだった。

 

 それ以外の神様方はどうされたのと祐二が尋ねると、雨子様曰く、この神社の各所にて守りを固めることに専念されているそうだ。


 全国の神々から入ってくる情報によると、幸いなことに以前のように彼の国から異形の者達が攻め入って来るようなことも無さそうだ。

そのことだけでもこの地に集った人間達や神様方の間には、ほっと安堵の思いが流れるのだった。


 一般の人間には被害は無いであろうとは思いつつも、それは絶対では無い、あちらがどのように攻め入るつもりなのかと言うことにより、全く異なる結果を生むこともあるのだ。


「ニー、到着予定時刻まで後どれくらいやのん?」


 口調こそいつものままなのだけれど、声音はいつになく固い和香様が、ニーに問いかけていた。


「予定通りでございます、日本標準時で正午丁度の着弾予定で、現在のところは誤差は管理限界を超えております」


 そう返答するニーの声は実に事務的で、何の感情も含んでいない。

その声を聞きながら祐二の父親の拓也は静かな声で祐二に聞いた。


「もう一度聞くが今目標にしているのは、故宮博物館の地下数十メートルに位置している、龍の像なんだね?」


 拓也の問いかけに祐二は乾いた声で返答した。


「うん父さん、神様方の仰るには、純粋な高速質量弾を使用することで、その周辺だけに限定した破壊をもたらすと言うことです」


 祐二の説明を聞いていた拓也は暫く考え込み、挙げ句ネットで色々調べたり、自分で計算を繰り返したりしていたようだ。


「私も専門家ではないから詳しいことまでは良く分からないが、少なくとも核爆弾や、近しい破壊力を持つような強力な爆弾ほどには、周りに影響を与えなさそうだなあ…」


「うん、それもあって旧正月の間の着弾と言うことになったようだよ」


 それを聞いた拓也はおもむろに頷いた。


「人的被害を最小限にすることを試みたという訳なんだなあ…」


「適うことならこの様な悪神の為に人に被害を出すことなど、絶対にしたくないことなのじゃが、いくら我らとて出来ることもあれば出来ぬことも有る。こう言う手法をとらずに直接相手を叩こうとすれば、それこそ万を超える被害が容易に出ることが考えられるからの」


 そう言うと雨子様は微かに唇を噛んだ。


そして雨子様は考えるのだった、あちらが出してきた駒の一つの隗ですらあの強さなのだ。

だとしたらその本体である龍像は一体どれだけの強さを持つのだろうかと。


 いくら神を名のったとしても、その持てる力は所詮人間達から分け与えられている物でしか無い。それに対して彼の龍像は何億もの民草の命そのものを一体何十何百年、いやそれ以上か?どれだけ吸い付くしてその身に蓄えてきたのだろうか?

まともに戦ったのではおそらくこの国の神の力全てを併せたとて適わぬだろう。


 身を持って隗の強さを知っている雨子様は、祐二の発案によって行われるこの作戦をまさに天啓だと思っていた。神様が天啓とはと、雨子様は自嘲しながらも深くそのことに感謝するのだった。


「後、一時間です」


 まるで機械のように感情の無い音声でニーが言う。

それを待っていたかのように和香様が口を開く。


「そろそろええやろ、ニーあっちのことが見られる回線いくつか乗っ取ってくれるか?」


 ニーはそのしなやかな黒豹の肢体に大きく伸びをさせながら応える。


「分かりました、回線をジャックします、ジャック終了。投影します」


 その言葉と共に、いつの間に持ち込んでいたのかプロジェクターを使って壁にあちらの様子を映し出し始めた。


 幸い彼の国は人々を監視する為に、信じられないほどの数のカメラがそこここにしかけられている。そのお陰もあって対象地域の映像を捉えるのに苦労はしなかったようだ。


 街角に仕掛けられたカメラによりあらゆる方向から、目的地となる建築物が捉えられている。そして予め想定されていた通り、春節とあって当該地域の周りにほとんど人影を見ることは出来なかった。


 緊張した面持ちだった和香様の顔が、僅かだけれども綻ぶ。


「どうやらこれやったら、ほとんど人的被害を出さんで済みそうやな?」


 それを見たニーもまたうんうんと頷いている。


「八重垣の方は繋がるか?」


 和香様のその言葉に祐二は首を傾げた。

そう言えば八重垣様は当日富士に居ることになっていると、以前和香様が言っていたのだけれども、何故そんなところに居なくてはならないのだろうかと。


 その様を和香様はちゃんと見ていたらしい。苦笑しながらもその真意を教えてくれた。


「なあ祐二君、この地球上でもっとも強力な国言うたらどこになるん?」


 唐突な質問だったが、これは誰にでも答えられるものだろう。


「それはやっぱりアメリカなんじゃないですか?」


 祐二のその言葉ににこにこしながら和香様が言う。


「そしたらなんでアメリカなん?どう言う理由からそう言われとるんやろね?」


 祐二はその言葉を聞くと、束の間、拓也の顔を見ていたが、彼がゆっくりと頷く様を見て思いきって自分の意見を述べ始めた。


「まず何よりも言えるのは地球上で最強の軍事力を持つことでしょうか?」


「そうやねえ、けどその中核になっとるもんがあるやろ?」


 そう和香様に問われた祐二は硬い表情でその問いに答えた。


「もしかして和香様、核ミサイルとかに付いて、言って居られます?」


「うん、まさにその通りや」


 そう言うと和香様は厳しい顔付きをした。


「彼の国は少なく見積もっても何百発か核爆弾を持っとるやろ?」


「間違い無く…」


「それが使われへん保証があらへんねん」


 和香様のその言葉に、その場に居た者は皆、背筋が凍り付くような思いをしていた。


「特にうちらの国に対して…この間の隗に対する戦いを見たあちらは、間違い無くいくつかの核をこちらに向け取るやろね?」


 そこで祐二は不思議に思っていることを口にした。


「でもどうしてそこで八重垣様が富士に行かれていることに繋がるのでしょうか?」


「祐二君、富士と言えば?」


 祐二は和香様によって一体何を問われているのかと、自分の知識の中を探った。


「木花咲耶姫…」

 

 祐二がそう呟くように言うと和香様はにっこりと笑われた。


「正解や祐二君、そやけど一応憚はばかりが有るから、あの子のことは咲花さきはなちゃんて言うて上げてんか? 」


「咲花ちゃん…咲花様ですか?」


 祐二が復唱するようにそう言うと、周りの者達も同様に口にしていた。


「で、彼女なんやけど、火の神様、富士の神様として有名なんやけど、それ以外にあの位置取りやんか?目ーも凄いようて、いつの間にか千里眼の力もっとるねん。それで八重垣に協力してもろて、万が一でも危ないもんが飛んできたら、あの子等の力でたたき落として貰おう思とるんよ」


「ふぁぁ~~」


 呆れたような表情をしながら言葉にならない声を上げる祐二。


「神様流の迎撃システムというわけかぁ」


 そう言いながらしきりと感心している拓也に対して、誠司が問いかける。


「ミサイルとかを落とすことを想定しているんですよねお父さん」


「それは当然だろうね」


そして二人は顔を見合わせる。


「「どうやって?」」


 そのシンクロする様が可笑しかったのか、和香様は必死になって口元を押さえて笑いを留めようとする。しかし余り成功していないかも?


「くはははは、お父さんらほんまにおもろいな?」


 そう言うとそのまま笑いが止まらなそうになる和香様の腕を引っ張り、小和香様が諫めようとしている。


「ごめんごめん」


 何とか苦労して笑いを収めると和香様は言葉を継いだ。


「なんやこう緊張しとると、ちょっとしたことでも笑えてしもうて、困ったもんやな。それでどうやって落とすかなんやけど…」


 そこでニーが話しかけてきたので中断することになる


「八重垣様と繋がりました。今回はステイリンクを経由しての接続となります」


「八重垣、聞こえとるん?」


 そう和香様が話しかけると、画面の中央ににこにこしている八重垣様が映り込んだ。

が、それも一瞬のことで直ぐに美しい女性の顔が画面をジャックする。


「こらこら咲花、俺が話しているのだから俺を写さんか?」


 そういう八重垣様の言葉に、渋々と言った感じで口を尖らせた女性は画面から外れる。


「八重垣だ。そちらの話していることはよく聞こえてるぞ」


「それで自分ら今一体どこにおるん?」


「ここか?ここは富士上空大体三百キロ位のところか?」


 その言葉に驚いたように祐二が言う。


「うわ、もう大気圏外だ。八重垣様大丈夫なのかな?」


 するとその言葉が聞こえたのか、八重垣様が言う。


「おう、祐二か?聞こえとるぞ?お前の言う通りここには大気はない、じゃから自前の大気を持ってきて居るぞ。俺たちがここに来るだけならそれも必要ないんだが、今回は色々と有るからな」


 そう言うと八重垣様は楽しそうに肩を揺らして笑う。


「それで八重垣、どうやって相手を迎え撃とうと思てるん?良かったらここに居るもんに分かり易うに話したってくれへん?」


 和香様がそう言うと八重垣様は懐から何やら取り出して見せた。


「へ?パチンコ玉?」


 何とも気の抜けた声で祐二がそう言う。遠目なので何と言う字が書いてあるか迄は分からないのだが、間違い無くパチンコ玉だった。


「それを一体どのようになさるので?」


 拓也が不思議そうに聞く。

すると八重垣様はさも当然のごとき顔をして説明する。


「投げるのよ」


「「「投げるぅ?」」」


 その場に居た男性三人が異口同音に言葉を口にする。


「おうよ、投げるのよ。とは言っても普通に投げるのではなく、神力を使って投げると言うか、発射するの方が正しいか」


「それにしたって…」


 そう口にしたのは呆れかえっている祐二だった。

その肩を優しく叩きながら拓也が言う。


「まあ祐二、ここから先は神の御技って言うことで納得しておくしかないさ」


 その横で誠司さんまでもが頷いている。


 そんな祐二達のことを不思議そうに見ていた八重垣様が言う。


「何言っているんだ?これって確か祐二が見ていたアニメから使い方覚えたんだがなあ…」


 そこに来て祐二はとあるアニメに思い当たった。間違い無い、多分あのアニメだ、女の子がコインを電磁気力を使って加速する…。


「だが言っとくが。あのアニメみたいに凄い破壊力なんざ、どう転んでもないからな?せいぜい相手に小さな穴を開けてぶち抜く、その程度のもんだからな?」


 等と宣いく八重垣様。どうやら本当に例のアニメで間違いなさそうだった。


「まあ細かいところは全く違うんだけれどもな、弾には呪を刻んであって玉が主体ではなく、呪の方が本体に成ってる。そして弾き出す方も呪で変換した神力を使って弾き出すことに成る」


 つまり同じリニアレールガンはレールガンであっても、こちらは呪を主体とした弾を呪と神力を使って加速すると言うことらしい。


「それで一体どれくらいの速度で打ち出すんです?」


 祐二は恐る恐るその能力を聞く。


「先達て撃ってみたんだが、秒速百キロ位じゃねえか?もっとも俺の神力の蓄えじゃあ、撃ててせいぜい二十発位だな。だがそれも咲花の補助がないと全く当たる気がしねえ。頼むぜ咲花?」


 画面の揺れを見るに、カメラを持っている咲花様がお辞儀か何かしているのだろう。


 そうやって色々なことを話し合ったりしているうちに、弾着まであと僅かな時間を残すのみと成った。


「後残すところ一分ほどです」


 ニーの言葉がその場に固く響く。


「もうとっくに月軌道の内側、宇宙的な感覚で言うともう目と鼻の先だな?」


 少し興奮を隠せないように拓也が言う。


「10・9・8・・・・・3・2・1。着弾」


 その瞬間彼の地を映し出していた画面には、地面に対して垂直に眩しい光りの柱のような物が見えた。そしてその柱から放射光が地面に近づくほど広がり、更にはそこから周囲に激しい稲光が乱れ飛ぶ。

 そして数瞬後、画像が激しく動いて乱れる、おそらく衝撃波が到達したのだろう。

暫くの間画像が乱れてしまって、何も見ることが出来ないで居たのだが、五分を過ぎた位の頃から、かなり遠目からの画像では有ったものの、徐々に色々な情報が届き始めたのだった。


 見るに着弾したと思しきところでは、ちょっとした個人宅位の大穴が開いている。そして灼熱の光りで輝き、盛大に煙や蒸気を吹き上げていた。

 上空を見上げると小さいけれどもあれはキノコ雲か?


そうこうする内にニーからの報告によると各所からニュースが飛び込んできているそうだ。その内容は凡そ皆隕石の落下と言うことに成っているらしい。


 何でも米国の観測衛星からのデータで、核爆発による放射線の発生が否定されているとのことで、隕石であろうという意見が大勢を占めているらしい。


 もっとも彼の国の首脳陣は、これは外国からの攻撃であるとしきりに声明を発し、騒いでいるようなのだが、今のところどこの国も相手にしていないようだった。


 しんと静まりかえった室内で、誰かが小さく思いを口にする。


「それで、上手く敵をやっつけられたのかしら?」


 怖々とそう言ったのは七瀬だった。


 それに対して和香様は、先ほどからずっと目を瞑って何やら精神を集中させている。

その姿を見た者達は皆再び緊張しながら、和香様の言葉を待つことにした。


 そして待つこと十余分、かっと目を見開いた和香様がほっと安堵したような表情をして言う。


「どうやら成功したみたいや、あの地から邪神の波動は一切感じられへん。無事目的を果たした見たいや、おめでとさん!」


 途端に部屋の中の緊張感が途切れ、皆が跳びはねるようにして快哉を叫んだ。


 そしてニー曰く。


「彼の国のネット障壁が消失しました」


 いよいよ本当の意味で彼の国も開放されたに違いなかった。

だがそうやって皆で大喜びし合っている最中にも、世界というものは動いていく。


 かつて彼の者の支配と援助を受け、支配者としての地位に君臨していたとある男。

その男が各所に出した指令のお陰で、今度はまた別の意味で世界の安全が脅かされるのであった。そう、核という人類史上最悪の脅威によって。


いよいよ大詰めですね……

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