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天露の神  作者: ライトさん
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食事会

 神様達との食事会。未だ戦時なので御神酒はでません


 案内された大広間、そこは僕達が何度かお邪魔している広間の数倍もあろうかという広い場所だった。並ぶのはその数、数十の膳また膳。さすがにこれだけの数が並ぶと壮観とすら感じる。


 しかし未だ全ての準備は終えていないのか、大量の小物達が行き交っては支度を調えている。


「雨子様、前回の戦いで小物達が随分討たれたって伺って居たのですが、この数はまた凄いですね?」


 そう言う僕のことを僅かな時間だけれども雨子様が睨め付ける。


「祐二はまたそうやって様を付けるのじゃのう」


 そう言いつつ寂しげな顔をするのだけれど、ちょっと雨子様、それってわざとだよね?


「いくら何でも見知らぬ神様方がこの様に大勢居られる中で、さすがにさん付けは怖いですよ」


「むぅ…」


 そう言って口を尖らせる雨子様。そんな雨子様を、三々五々と席に着き始めている神様方が眺めて言う。


「おう、雨子、そいつがお前のお気に入りか?」


「なんとも可愛い男の子よの、我にも紹介してたもれ」


「それで雨子、おめえらどこまで…」


 最後の台詞を吐きかけた神様は、飛んでいった雨子様に猛烈な一撃を食らって吹っ飛んでいった。

 小物達が転がってきた神様から、ささっと膳を避けてる。見事なファインプレーだ。


「他に我に討たれたい者は居るかえ?もし居るようならそやつには節子の唐揚げは無しじゃ!我に近しい者達が居るこの席にて無礼を言うでは無いぞ!」


 かんかんになって怒っている雨子様。それを見て苦笑しながら和香様が言う。


「はいはい、皆お行儀良くせんとあかんで?うちんとこ来てやんちゃする奴は即退場にするさかい、よう覚えときや」


 はんなりとした感じでにこにこしている和香様だったが、目は全く笑っていない。この件については完全に雨子様に味方するらしい。


 ざわついていた場があっという間に静まりかえっていく。和香様これでなかなか強面するのだなと驚いてしまう。でも立場を考えれば当然のことなのかも知れない。


「はいはい…」


 そういうと和香様はぱんぱんと手を叩く。


「もう肩の凝る話はしまいやで、これから後は無礼講にするけどええな?そやけど年若い彼らに笑われん様にはしてな?楽しく気持ちようが基本や、約束やで?」


 席に着いた神様方は皆ぶんぶんと頭を縦に振っているのだった。

そんな様子を目にした誠司さんが苦笑しながら言う。


「こう言う席でのことって僕達人間も神様方も、そう変わらんものがあるんだなあ」


 誠司さんのその言葉にうんうんと横で頷いているのは父さん。


「神様って言うだけでも恐れ多いのに、そんな方々がこんなに沢山居られると、なんだか感覚がおかしくなりそうだね」


 父さんのその言葉に皆まさにそうだと頷く僕達人間の面々。七瀨のお母さんの聡美さんなど、もうかちんこちんに固まりきっている。

 それを気の毒に思ったのか、雨子様が側に付き添って何事か話しかけている。


 七瀨は葉子ねえと美代を挟んで楽しそうに会話をしているのだが、そこへ女神様が数人楚々と近寄ってきた。


「斯様に小さき人の子を、間近に見る機会などそうは有りはせぬのじゃ、どうか近う見せてはくれぬかの?」


 その言葉に応えて葉子ねえが美代を掲げてみせると、女神様方は本当に嬉しそうに微笑まれる。


「あれなんと可愛らしい。」


「笑うてくれたぞえ?愛らしいのう」


 そう言って喜ぶ神様方が笑みを浮かべる度に、その場に暖かな何かが満ちていく。


「抱いてみられますか?」


 葉子ねえがそう言うと、女神様方は皆胸に手を添えて嬉しそうになさる。


「うむ、是非とも抱かせてたもれ」


 そう仰ると静かに順番に美代を抱いては本当に幸せそうに微笑まれる。そして抱かれる方々皆揃って加護を下さるのには恐れ入ってしまった。

 それを見ていた母さんが小声で言う。


「もしかして家の孫って最強?」


 確かにあれだけ加護を頂いた子供はそうは居ないだろう。元より雨子様や和香様の念入りな加護も頂いているのだ。母さんの指摘は正にその通りだと思った。

 そこへ和香様から声が掛かる。


「祐二君とこはこっちやで、余り有象無象に囲まれとったら肩凝るやろ?内輪の席と言うことでこっちおいで」


 言われるままに僕達は和香様の周りに誂えてある席に向かうのだが、周りの神様方から苦情が乱れ飛ぶ。


「和香、有象無象とはなんぞ?」


「和香ちゃんにそんな風に言われるなんて…」


 だが皆分かってそう言いつつ和香様をからかっているのが見え見えなのだ。


「ええいうるさいで君ら?もうええから早席着き!」


 面倒くさそうに和香様にしっしとされて、どよめき笑う神様方。思うのだけれども神様って良く笑う?


 そうこうする内に皆席に着き、揃って嬉しそうに食事を始めた。


「なんと?人間どもの食事はこの様に進化して居ったのか?」


「全くじゃ、かつていたずらに人の身で食した時にはただ生臭かったり、ごわごわしてちっとも美味くはなかったのにいつの間にこの様に…」


「いやしかしこの唐揚げというものは格別ぞ」


「げにげに」


 神様方の口に、余程唐揚げの相性が良いのだろう。皆にこにこしながら口に運んでいる。

そこでふと小和香様の方を見ると、唐揚げを一口食べる度に顔中綻ばせている。

 しかしこれだけの人数で分けてしまうと、小和香様に当たるのも僅かな数となってしまう。


 そこで僕は母さんに小さな声で言った。


「母さん、今度いつか小和香様だけ家に招いて上げない?」


 すると母さんは小さく頷きながら言う。


「そうね、あんなにお幸せそうに食べられているのに、ほんの二口三口ではあまりにお気の毒よねえ」


 ところが僕と母さんの二人だけで会話していたつもりが、どうにもどこからか、ずいずいと視線が突き刺さってくる。

 見るとそれは和香様からのものだった。


 和香様は必死になってご自分のことを人差し指で指し示して居られる。


「はて何のこと?」


 そんな感じで惚けて見せると、たちまち眉がへの字になって、べそをかきそうになっていく。

 まさか本当に泣かれても困るので慌てて頷いてみせると、たちまちにんまりと笑うのだから。あれ、なんと言ったっけ?泣いた烏がもう笑う?鬼って言う方もあるよなあ。


 そうやって食事会は賑々しく進められ、僕達人間側は神様方の恐るべき食欲に驚かされてしまうのだった。


 思えば普段の雨子様はあのようには食べない。もしかして雨子様は特別なのだろうか?

そんなことを思いながらふと雨子様のことを見つめていると、以心伝心なのか苦笑しながら雨子様が言う。


「あやつらは皆人の身に成ってはしゃいでおるのよ。神の身のままで居ると起伏が少のうての、なかなかこう言う新鮮な楽しみにお目に掛かる機会が少ないのじゃ。浮かれて居ると言っても良いじゃろう…。大目に見てやってくれぬか?」


 大目に見るも何も僕としては、神様方があのように大喜びされるのは、とても良いことなのでは無いかなって思う。目には見えない形では有るけれども、普段色々とお世話になっているのだから。


 ところで今回雨子様を助けてくれた三体の立役者達はと思って見回すと、広間の端の方に固まって何やらやっている。


「和香様、あれは?」


 僕が尋ねると和香様が苦笑する。


「先の戦いの後、ニーがこの地に戻ってきた時のことなんやけどな、腹減った腹減ったって、ニーが大騒ぎするんよ。そやけど戻ってきた時間が時間やから、食べるもんかてそうあらへんかってん。けど余りに言うもんやから、板長起こしてなんかでけへん?って聞いたら、お握り作ってくれたんやけど…」


 それを聞いた僕と母さんと雨子様は思わず口をそろえて言った。


「「「お握り!」」」


 偶然と言うかなんと言うか、偶々雨子様が口にされたことが此処でもとは。思わず笑ってしまった。

 そんな僕達のことを怪訝な顔で見ていた和香様だったが、気を取り直して更に言葉を継いだ。


「なんやニー、すっかり気に入ってしもうて、あれからずっと虜になっとるんよ」


 そう言うと和香様は件の三体の方を見ながら言う。


「そやから多分あの連中はあそこでお握り作っとんやと思うで?ほれ、お櫃真ん中にしているし、傍らに並んでるのは皆お握りの具とちゃうか?」


 成る程よく見ればその通りだった。


 ただ実際に握っているのは小雨だけみたいなのだけれども、これは手の構造とか考えると仕方無いのかな?

 その小雨はとてもお姉さんぶって握っているみたいで、端から見ているとおままごとよろしく。何とも可愛らしかった。


 それを見ながら葉子ねえが言う。


「家でも同じだったわ、どこかに行って帰ってきたかと思ったら、お腹空いた空いたと転げ回るんだもの驚いちゃった。いきなりどうしてって思ってレインで聞いても返事がなかなか返ってこないじゃない?」


 そう言うと葉子ねえはじろりと僕と雨子様のことを見る。


「仕方無いから取り敢えずって思ったら、直ぐに用意出来るのはどうしたってご飯くらいじゃない?握って上げたら小雨もはまっちゃって…」


「それユウもだった」


七瀨もまたぼそりと言う。


「私の耳にしがみついてず~~~っとお腹空いたって言い続けるんだもの、危うくトラウマになるところだったわ」


 僕と雨子様は思わず顔を見合わせた。そしてそんな僕達を見ていた母さんが言う。


「あなた達もお握りが良かった?」


 思えば母さんはちゃんとおかずも作ってご飯を食べさせてくれたのだった。

そう思うと頭が上がらないのは当然至極のことだった。

 僕が半分ふざけながら平身低頭していると、傍らで雨子様まで頭を下げる。


「節子には我も頭が上がらぬ」


 そんな雨子様のことを見て慌てる母さん、それを見た者達の間では静かな笑いのさざ波が広がっていく。


 そして彼方では小雨が張り切りまくって、新たなお握りを続々生み出しては、お櫃のおかわりを要求して居る。これ一体何時まで続くんだろう?

 それを見つめる皆の目は、暖かな眼差しからやがてに驚き、更には畏怖にまで変化していくのだった。ほんと一体どれだけ食べるんだろうね?






 皆さんの思い浮かべている雨子様ってどんな感じなのかなあ?

これだけは是非知りたいもので有りますね

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