表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天露の神  作者: ライトさん
193/686

道行き

 何だか鬱陶しい天気が続いています。

こう言う日は頭が重くなるので話が進めにくいなあ


 さて着替えの終わった雨子様と僕は、宇気田神社に行く為にまずは七瀬家との合流を果たすべく、のんびり歩いてその家に向かっていた。


 昔は良く互いの家に入り浸って何かと遊んでいたものだが、世間で言う年頃の年代になってからは、女の子の家に行くというのは徐々に敷居が高くなり、今では滅多に訪れることが無くなっている。


 もっとも七瀨の方からはそんな敷居の高さは無いのか、しょっちゅう我が家に来て入り浸っているのだが…。


 七瀨の家は中規模マンションという奴で、余所から来た場合はエントランスホールにて部屋の番号を押し、訪れた先の住人に扉を開けて貰うシステムになっている。


 そこで僕は迷うこと無く彼女の家の部屋番号を押した。

するとほとんど待つことも無く七瀨の声がスピーカーから聞こえてくる。


「祐二?」


「ああ、早かったかな?」


「ううん、そんなことは無いんだけれどもとにかく来て」


 七瀨がそう言うとすっと扉が開く。僕は雨子様と一瞬目を合わせると頷いて中に入っていった。もちろん雨子様もその後から続いて入ってくる。


 エレベーターを利用して七瀬家の在る階まで行って部屋を訪ねると、玄関先で七瀨が既に待ち構えていた。

 その様子を見るに何となく困っているようなところが有ったので聞いてみる。


「どうした?何か有ったのか?」


 すると七瀨はその通りだと頷いてきた。


「母さんがね、一応祐二のお母さんに説明を受けて、納得しているって思っていたのだけれども、今になって眠いからどうのこうのってごねているのよ」


 考えてみれば女手一つで七瀨を育てる為、気を張って仕事をする日々なのだから、休みの日くらいのんびりしたいというのも良く分かる。しかも神様だなんだかんだと訳の分からないことを聞かされていたとすれば、ごねたい気持ちの一つもあるだろうな。


 そこで僕は七瀬に言った。


「なあ七瀨、おばさんにそこにはすんごい良い温泉があるって言った?」


「あ!」


 七瀨はそう言葉を発すると、ばたばたと中に駆け込んでいった。



 それからざっと五分ばかり経っただろうか?あわてて身支度を調えたと見える母親を連れた七瀨が出てきた。


「お待たせ」


 そう言う七瀬にはほっとしている感じがありありと出ていた。


「ごめんね祐二君、待たせてしまって…」


 そう言うのは七瀨のお母さん、家の母さんが言うところの聡美さんだ。


「いえいえ、なんか今日は急なことですいません」


 すると聡美さんは苦笑しながら首を振る。


「良いのよ、ただここのところ仕事が立て込んでいたものだから上手く起きられなくって。理解力も普段の半分も無いって言う感じなの。だから神様って言う件がもう何がなにやら…」


 そう言いながら頭をポリポリと掻いている。

でもまあそれって一般的な日本人の反応だろうなって思う。いきなり神様が居るって言われても普通なら簡単には信じることは出来ないだろう。


「ただね、この子が…」


 そう言うと聡美さんは七瀨の肩に乗っているユウをそっと突いた。


「いきなりひょいって姿現して僕はユウと申します…なんて言い出すんだもの、そう言う超存在が居ると言うことも、信じない訳には行かないでしょう?」


 聡美さんのその言葉を聞きながら雨子様の方を見ると、大いに苦笑いしていた。


「えっと、聡美さん、紹介しておきますね。こちらがその、雨子さんです」


 僕がそう言って聡美さんに雨子様を紹介すると、彼女はほうって言う感じで雨子様のことを見とれている。


「初めまして雨子さん、七瀨聡美と言います」


 それに対して雨子様も特上の笑顔を浮かべて見せながら返答する。


「我は天宮雨子と言う、よろしくお願いするのじゃ」


 さすがに初対面で雨子様の古風な喋り方を聞くと、違和感の方も半端ないのだろう。

聡美さんは少し目を見開きながら僕に問うてきた。


「なんだかとても古風な喋られ方をなさるのだけれども、まさか神様ってことは…」


 さすが聡美さん、勘が良い?いや、きっと七瀨に聞いていたんだろうな。聞いていたのだけれども信じては居なかった?そんなところだろう。


「はい仰る通りです」


 僕がそう言うと聡美さんの目はみるみる点になっていく。


「今は我が家に居候なさっておられる、ご近所の神様です」


 僕がそう説明を付け加えていると、つんつんと袖を引く者が要る。

見るとそれは雨子様でなにやら膨れている。


「居候とはなんじゃ居候とは。なんと言うか丸でそれでは穀潰しみたいでは無いか?せめてホームステイ中とでも言うてはくれんかの?」


 そう言ってぶつぶつとぼやいているのだが、一方で聡美さん。


「神様?ホームステイ?居候?」


 なんだか丸でバグっているみたい。

そんな聡美さんの腕を引っ張って七瀨が一生懸命に話しかけている。


「母さん、母さん、大丈夫?」


 娘のその言葉にようやっと我に返ったのか、聡美さんの視点が定まってきた。


「大丈夫ですか聡美さん?」


 心配して僕がそう聞くと、彼女は暫しこめかみを押した後答えてきた。


「ん、もう大丈夫。でもロボットや人工知能がどんどん作られていくこの時代に、まさか神様にお目に掛かることになるとは…」


 そこまで言って聡美さんは、はっとした表情になった。


「ねえ祐二君、私、雨子様に二礼二拍手一礼した方が良いの?それとも三拝九拝?」


 真剣にそう聞いてきたところ、僕の背後で雨子様がけらけらと笑い出した。


「聡美とやら、我はその方の娘のあゆみとは友人関係じゃ。故にそなたもその関係性の上で接してくれれば良い」


 そう言って落ち着かせようとして居るんのだけれども、これから行こうとしている宇気田神社には、現在近郊一帯の神様達が勢揃いしているのだとか、大丈夫なのかな?


 ともあれこうやって雨子様の紹介も無事終えることが出来たので、施錠の後、早速出立することになった。


 道行きながら七瀨を介して聡美さんはぽつりぽつりと雨子様と話をしている。

だが雨子様は偉ぶるところはないし、話し方こそ些か古風では有るものの、普段はクラスの女子達の間に交じってわいわいやっているので、瞬く間に仲良くなっていって居る。


 女三人寄れば姦しいという言い方が有るが、正にそんな感じで、何時しか女性三人が固まってとても楽しそうにお喋りに興じるようになっていった。


 で、僕の肩の上にはユウがぽつねん。


「お前、七瀨の所に居なくて良いのか?」


 僕がそう聞くと、なんだか渋ーい顔しながら言う。


「祐二さん知らないんですか?あそこには女性だけの結界が張られているんです、僕なんかとてもとても、はじき出されてしまいます」


「結界ってお前…」


 どうやら些か内気なユウは、女性達のわいわいやっているあの雰囲気に気圧されているようだった。

何となくだけれども人ごとで無いように感じてしまった僕は、出来るだけ優しくユウの頭を撫でてやるのだった。


 そうやっていつの間にやら女性三人、ユウと僕の男性?二人組に別れた僕達は電車を経て、宇気田神社へとやって来た。


 神社の鳥居をくぐるとそこには既に、人の姿に化身した小和香様が待っておられた。

さすがにこうやって人の前に姿を現しておられることも有って、いつもの十二単姿という訳には行かないようで、今日は明るい色のニットセーターに、落ち着いた感じのするロングスカートと言った出で立ちで、何ともフェミニンな感じがしている。


 そして雨子様を始めとする女性三人に丁寧に頭を下げると挨拶された。


「本日はようこそお越し下さいました。皆様既にお待ちでございます。どうぞこちらにおいで下さい」


 そう言うと先に立って歩いて行くのだった。


 僕と雨子様、加えて七瀨の三人くらいだったら既に勝手知ったる所なので、別に案内などされずとも気楽に自分達だけで行くことも出来たのだろうが、今日は聡美さんが居ると言うことでこう言う形を取ることになったのだろう。


 普段、人が通ることが無いような所を行くものだから、聡美さんはあちこちきょろきょろ見回している。ともすればそのせいでどこかに行ってしまいそうになるので、七瀨と雨子様ががっちり両脇から捕まえている。丸で何かの写真で見たグ…、おっとその先は言えないなあ。


 そうやって奥の院を経て、更に奥へと進むうち、やがてに僕達はいつもの地下の世界へと到着したのだった。


 都会のど真ん中に鬱蒼とした鎮守の森があると言うだけでも、一種異次元さを感じさせるところがあるのに、この場所と来たら周囲の喧噪がまったく届かない、此処が地下深くにあると言うことを考えればそれも当然なのだが、それを知らないものには何とも言えず不思議な場所だと思う。


 実際聡美さんは周囲の森の鬱蒼として神威を感じさせるような雰囲気に、言葉も出ないほどに見入っているようだった。


「雨子様」


 そう言って声を掛けると、雨子様は女性達の塊から離れて僕の所にやって来た。


「なんじゃ祐二?」


「此処が地下だって言うのはお教えしない方が良いかもしれませんね?」


 僕がそう言うと雨子様は苦笑した。


「かも知れぬの、既に情報過多であっぷあっぷして居るように見受けるからの。それとじゃ…」


 そう言うと雨子様は僕の顔にずいっと自分の顔を寄せた。そして小声で言う。


「あゆみの母御の前では我のことはさん付けで呼ぶのじゃ。もう様付けは肩が凝ってかなわんのじゃ」


 雨子様の願いに異論の無い僕は、軽く頷いて従うことにした。


 でも、自然と様を付けて呼んでしまうのだよなこれが。内輪の気の置けない者同士に成れば成る程そうなりやすいのだ。何でなんだろう?多分、多分なんだけれども、僕の中で雨子様は様まで付いて初めてまったきの雨子様なんだろうな、そんなことを思うのだった。



 多分なんですが、祐二君、雨子様に対して様付けで読んでいる間は何処か未だ遠慮しているところが有るのだろうなあ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ