世間様でのこと
もう後少しですねえ
とんでもない状況を脱して、さて一体いつ和香様のところに詳細な説明に行こうか?そう雨子様が思案している日々の間に、僕は自身やその周りで起こったことを詳しく聞いた。
僕自身としては、まさか自分が一度は完全に死んでいたなど、どうにも信じられなかった。しかしそんなことで雨子様が嘘をつくなんてあり得ないことなのだった。
また、雨子様の言うに、雨子様や僕についてのことは、大方母さんに話し尽くしているとのこと。
ただ文殊の爺様についてのことは、まだ和香様にも詳しいことを話していない手前、僕のことを助けて貰ったという程度のことしか話していないらしい。
もっとも僕としては、例え一時でも僕が死んでしまったなど、適うなら母さんには話して欲しくなかったと思ってしまう。
けれども雨子様としてはそのように大切なことを、母さんに話さずに黙っているなど到底出来ないものだと、少しだけれどもお説教をされてしまった。
それだけ僕のことも家族のことも真剣に大切にしてくれていると言うことなのだろうけれども、つくづく生き返っていて良かったと思ってしまった。
雨子様が母さんに対して、僕が死んだと報告しているところなど、欠片ほども想像したくないことだった。
僕はそう思うとまだお会いしたことの無い文殊の爺様に、離れた地からでは有るが心からの礼を述べたい気持ちで一杯になるのだった。
さて一方世間様の間では、実に様々なニュースや噂が飛び交っていた。
しかし皆が自分は見たと言うことを声高に唱えるばかりで、誰も決定的な証拠と言えるものを持って居ないのだ。
ただ、余りに大きな騒ぎになっていると言うことで、公から科学者達が派遣されることになった。しかし彼らが実地で検証を行おうとするも、具体的物証が何も残されていないのである。かと言って手ぶらで帰るわけにも行かず、これはどうしたものかと皆頭を抱えてしまっていた。
動画や写真等が証拠として結構な数上げられているのであるが、ネッチフリックスの新作『神魔大戦』のプローモーションビデオとかが大量に流れてくる為、実際何が何やらの状況になってしまった。
加えて雨子様の言うには、本物として出回っているデータには全てニーが手を加え、精密に調べると、いずれもAI製と言う答えが出るように細工されて居るんだとか。
こうなるとデジタルデータが便利で有ると言っても善し悪しだなと思ってしまう。
そして改めてニーという存在が居てくれて良かったなと思ってしまう。
雨子様自身もその手管に驚いているようで、さすが餅は餅屋と感心していた。
とまあ、世間では大騒ぎが続いている状況ではあるが、現状大山鳴動ネズミ一匹という状態だ。近々こう言った騒ぎも、日常の様々な事件事故と言った情報に紛れて、いずれ立ち消えてしまうだろうと言うのが雨子様の見解だった。
そのように僕達が世間の情報を色々仕入れて、ニーの活躍に感心していた最中、和香様の方から連絡が入った。
この日曜の午後にも神の杖が落ちると言うことで、予めきちんと今回のことについての情報の摺り合わせを行いたいと言うことが一点。もう一つには、神様側として僕の身に起こったことについて両親に謝罪したいと言うこと。更には杖落下時に万が一に備えておきたいと言うことで、家の家族だけでなく、葉子ねえのところや、七瀬の家の者も全員宇気田神社に来ておいて欲しいと言う三点なのだった。
一つ目と二つ目のことについては家族等に関わることでもあるので、直ぐに母さんに相談をした。
すると母さんは二つ返事で早速葉子ねえのところや、七瀬の家のお母さんに連絡を始めた。
幸い葉子ねえのところは全員が家と神様の関係を知っているから、問題なく説明出来るのだろう。
けれども七瀬家の母親にはどう説明するのだろう?そんなことを心配しながら母さんに聞くと、母さんは平然とした顔をして言う。
「聡美ちゃんなら心配いらないわ、私がこうしてお願い!って言えば何だって聞いてくれるもの」
とのこと。正直母さん達の互いの信頼度を分かっていなかったらしい。
その後少しばかり和香様の方と打ち合わせた結果、土曜日の昼前に現地に集合することになった。
その時は子連れとなる葉子ねえ達を車に乗せていくことになるので、僕と雨子様は七瀬家で合流し、四人揃って電車で宇気田神社に向かうことになる。
そうそう、宇気田神社の現在の状況を伺うと、前回の救援依頼に間に合わなかった神様達が押しかけてきていて、何やら随分賑やかなことになっているらしい。
だが僕達のことは丁寧に説明してあるから、普通に親戚か何かのように接してくれたら良いとのこと。
むぅ?はたしてそんなことが出来るのかどうか、些か自信が無いなあ。
それから現在の敵の状況なんだけれども、戦いの最中に隗を討ったことが何よりも効いているらしく、敵の姿が全く見られなくなっているとのこと。
だがニーの話では、これについてはあちらも捲土重来を考えて居るらしく、彼の国では今回の襲撃を遙かに上回る手勢を揃えようとしているとのこと。だがそれには些か時間を要するらしく、実際にことが動く事があるとすれば、数ヶ月は先のことになるのでは無いかと言う。
こう言った情報を聞いてしまうと、その先手を打って落とされる神の杖の効果を大いに期待してしまう。雨子様曰く、如何様な結界を張ったとて、落下してきたあの杖を防ぐのは無理だとのこと。
今回敵の打ってきた様な手と違い、こちらが投じようとしているものは彼らの埒外に有る。それだけにより効果的に相手を殲滅することが出来るだろうと言うのだが、何とか速やかにその効果を現して貰いたいと思ってしまう。
そうそう、一つ言い忘れてはいけないことがあった。
和香様からの依頼なのだが、小和香様には内緒でと言うことで、そんなに量は多くなくても良いので、母さんお手製の唐揚げを持参してきて欲しいそうだ。
和香様としては今回のことで色々と苦労を掛けた小和香様に、サプライズと言うことで喜ばせて上げたいのだそうだ。
それを聞いた母さんは、何やら俄然張り切っているんだけれども、はてさてどうなることやら。
かつては神の杖の効果を過大に評価されていたことがありましたが、実際には極めて限定的なものだそうです




