「お説教」
前話に不足部分が認められたので、ちょこっとばかり加筆修正致しました
あしからずで有ります(^^ゞ
さて町の修復等の後片付けも終盤に近くなってきた。
「さすがにちと疲れてきたの…」
なんだか目をしょぼつかせながらぼそぼそと雨子様が言う。
「あ?やっぱり雨子ちゃんもそうなん?」
似たような様相をしながら和香様が言う。
「やはりとはなんじゃやはりとは。あやつらとの戦いに始まって、一度は死を経験し、そこに更に隗との戦いを経て、この修復作業じゃぞ?疲れてくるのも当然じゃ、まったく…」
そう言うとしきりに頭を揺らして、肩の凝りを取るような仕草をする雨子様。
「だがそれももうまもなく終わりじゃ。ほとほと我も疲れたのじゃ」
そう言うと雨子様は、ともすれば掴んでいる仲間の手を離してしまいそうになるのを堪えて、欠伸をかみ殺した。
「人の身に寄せて居る故、こう言う時はどうにも疲れてしまうの」
「それ言えとるかも知れへんね」
和香様のその台詞にちょこっと驚いた顔になった雨子様が言う。
「なんじゃと和香?もしかしてそなたも寄せて居るのかや?」
そう聞いてくる雨子様に嬉しそうに和香様は答えた。
「そうやねん、そやかて人に寄せまくって自分一人めっちゃ楽しそうにしてる雨子ちゃんのこと見てたら、うちかてなんや真似しとうなるやんか?」
「呆れたやつじゃのそなたは?」
そう言う雨子様に和香様は口を尖らせて言う。
「誰がどの口で言うてんのそれ?」
「そうは言うがそなたは日の本の第一神じゃぞ?」
「そして雨子ちゃんはその一番の親友なんやろ?」
「むぐぅ」
「その親友と一緒に何かしたい思うんは世の常やがな」
「そ、それが理由に、はたしてなるのかや?」
「さあ?」
「何じゃそれは?」
「でもな雨子ちゃん」
なんだかとても聞いて欲しそうな和香様の顔を立てて雨子様が言う。
「なんじゃ?話してみるがよい」
その横では先ほどからずっと小和香様が、これまでの話を興味津々で聞き続けている。
なんだか目がきらきらしていてとても嬉しそうだった。
「うちもな、これまで何回も人形は取ってきたこと有るんやけど、人の身には成ったことはあらへんかった。そやから人間から食べるもん奉納されて口にしても、こんな味なんやって何とはなしに思うというか、感じているだけやったねんけど、実際に人の身に成ったらこれが違うんよね」
そう嬉しそうに言う和香様のことを雨子様は目を細めてみている。
「人の身に成って食べた人間の食べ物の、なんと美味いこと!あれには本当にびっくりしたわ!なんかもう口ん中に花火でも爆発したかと思ったで」
それを聞いた小和香様が思わず口を開いた。
「そ、そんなになんですか?」
小和香様の質問に和香様が笑いながら言う。
「そうやで、それはもう凄いもんや。八重垣に話したらあっという間に奴も人の身に成った位や」
「何?あやつもか?道理であやつ、節子の唐揚げを必死になってせびって居った訳じゃの?」
そう言う雨子様に和香様が苦笑しながら言う。
「ごめんしてや、うちがうっかり言うてしもうたもんやさかい」
「む~~~~~」
珍しく小和香様が膨れっ面して不満を表に表している。
「なんじゃ小和香、そなたも人の身に成りたいのかえ?」
「はい…」
何とはなしに小さく縮こまって和香様のことを見る小和香様。
「確かにの、主たる和香の許し無くては小和香は、人形には成れても人の身には成れぬからの」
そう言うと雨子様は和香様に向かって言う。
「和香、今回は小和香も並々ならぬ働きをした故、許してやってはどうかの?」
それに対して和香様は、にっこり笑みを浮かべながら雨子様に言う。
「うちの大事な小和香のことや、今回の功績がのうても本人が望むんやったらいくらでも許すで?ただし一人だけで美味しいもん食べに行くのは無しや?うちも連れて行ってや?」
そう言う和香様の言葉に小和香様は音がしそうなほど頭を振った。
「さてようやくこれで終わりかの?」
雨子様はそう言うと、漏れたものが無いかと周囲に知覚の網を伸ばした。
「ところで雨子ちゃん知ってる?」
少し気を外に飛ばしながら和香様の言葉に耳を貸す雨子様。
「何か有ったのかえ?」
「人間の食べ物の中には痛いもんも有るんよ?」
「「痛いもの?」」
さすがに聞き捨てならなかったのか、雨子様と小和香様の二人が同時にそう聞いた。
「この間うちカレーって言う食べ物食べたんよ」
嬉しそうにそう漏らす和香様。
「そなたもしかして一人で食べ歩きなぞして居るのでは有るまいな?」
「てへ…」
「てへ、では無いぞ和香。仮にも日の本一の大神が、いくら何でも俗世に染まりすぎでは無いのかえ?」
「そうでございます、いくら何でもずるいです」
「ずるいですって小和香?」
小和香様の言葉を聞いた和香様が目を点にする。
「しかし雨子ちゃん、俗世に染まりすぎって、それを言うなら雨子ちゃんかて、神々の知恵者言う雨子ちゃんが祐二君と…」
なんだか要らぬ言葉まで和香様の口から飛び出してきそうなことを察知した雨子様は、それまで握っていた手をふりほどいて慌てて和香様の口を塞ぐ。
「あ…!」
小和香様の口から漏れる驚きの声。
「し、しまった。未だ修復の途中じゃったかの?」
驚き慌てる雨子様。だがその言葉を聞いた小和香様は微妙な顔をしている。
「どないしたん小和香?」
真剣な顔をして小和香様にそう聞く和香様、見守る雨子様、そしてそれに応える小和香様。
「最後の、本当に最後の一枚の瓦を修復し漏れました」
「へ?それだけなん?」
拍子抜けした顔でそう言う和香様。
互いに顔を見合わせる和香様と雨子様、一気に緊張が解かれ、体中の力が抜けていく。
「ふわぁ~~~~」
そう言うとそのまま後ろに仰け反り倒れ、空を見上げる。そろそろ夜が明けるのか東の空が白んできている。
「さてそれではそろそろ家に帰るとするかの?」
雨子様がそう言うと和香様もうんうんと同意する。
「そうやね、うちもほんま疲れたは、帰って温泉でも浸かるわ。小和香も付き合うんやで?」
そう言う和香様の言葉に嬉しそうに頷く小和香様、彼女らの間柄に何となくでは有るがぎごちなさが取れたように思うのは雨子様だけなのだろうか?
「では我も戻るとするかの」
そう言う雨子様に和香様が待ったを掛ける。
「自分ちょっと待ち、祐二君のことはどうなっとるのよ?どう見たってあの時の祐二君は命のうなって居っても不思議やあらへんで?」
気色ばんで雨子様に迫る和香様。
だが雨子様はもう沢山と言うように首を振ると和香様に言う。
「そのことについてはまた機会を持って詳細に報告する故、今度ばかりはもう解放してくれぬか?」
もみ手をしてそう言う雨子様の意識の先がどこに有るのか、何となく察した和香様は、それ以上追及するのは無しとした。
「まあええは、今回は取り敢えず此処までとしよか。でも間違いなく話にくるんやで?」
念を押す和香様。
「分かった分かった。」
そう言う雨子様の手を握ると和香様は言う。
「雨子ちゃん、今回は本当に助かった、おおきに!」
そう言う和香様の横では小和香様も深く頭を下げていた。
「それではの…」
雨子様は最後にそう言うと和香様達に見送られつつ、天歩で空を駆けて家へと向かう。
夜明けまでもうあと僅か、早く家に帰らねばと思う心は帰心矢の如しだった。
やがて足音も軽く、とんと家の前に降り立った雨子様は、一言唱える。
「解!」
すると身に纏われていた者達が皆身体を離れ、光を放って元の形へと変化していく。
そして目前に並ぶのはユウに、小雨に、ニーだった。
「そなたらもご苦労じゃったな」
そう言って雨子様は彼らのことを労った。
それに対して丁寧に頭を下げ、返す彼らの先ず第一声。
「「「お腹空いた!」」」
思わす苦笑した雨子様だったが、それ以上構う暇も無かったので、一体ずつ頭を撫でた上で、『もどれ』の一言。逆召還というものか?
後に残された雨子様は元着ていた高校の制服姿となっていた。
念のため身体を見回す雨子様。どうやら異常はなさそうだ。ほっと安心しながら玄関の扉を開ける。
するとそこには目をつり上げた節子が座っていた。
「雨子ちゃん?うら若い女の子が午前様?朝帰り?一体どう言うことですか?」
びしりびしりと言葉が飛んでくる。
「そこに座りなさい。」
そう言う節子の厳しい口調に押されて、玄関上がって直ぐ、廊下の端に正座させられてしまう雨子様。
見ると節子の目には涙が浮かんでいる。
それを見た雨子様はもう何も言い分けることが出来なくなってしまった。例えそれが人の世を救う為の所業で有ったとしても、今のこの節子の心中を考えれば、致し方の無いことである。
「夜中じゅう、ずっと物凄い音が響き渡っていて、一体どうなっているのって思って、部屋を見に行ってみたら、祐二も雨子ちゃんも居ないじゃ無い?どれだけ心配したと思うの?」
実はこれには雨子様のうっかりが有る。例の事態の収拾時に、影響を与える対象として自身の関係者を含まないようにしていたのだ。まあ祐二のことあっての話なのだが、今回はそれが裏目に出てしまったと言える。
「気がついたらいつの間にか祐二はベッドで寝ているし…」
節子のその説明に雨子様は初めて祐二の安否を知り、膨れあがる安堵の思いに一気に涙を溢れさせた。
「…って、どうしたの雨子ちゃん?怒られたのが辛かった?びっくりしたの?」
だが雨子様はただ首を横に振って涙を次から次へと流れさせるのみだった。
そして歯を食いしばって嗚咽を堪えている。
それを見た節子は何となくではあるが悟る。雨子様が誰かの為に何かをしてきたというなら、それはおそらく祐二の為なのだと。
そう思うと、目の前でかくも激しく涙を流している少女のことを、もう放ってはおけなかった。
「雨子ちゃん…」
そう一言言うと節子は、雨子様の身体を強く抱きしめるのだった。
後はもう激しく堰を切ったかのように声を上げて泣く一人の女の子と、それを抱きしめて、自らも涙を流して慰める母の姿、それしか無いのだった。
神様方お疲れ様であります




