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天露の神  作者: ライトさん
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「前哨戦」

 いよいよです

 学年末テストの準備をするにはまだ大分早すぎる頃、世界を大きく変化させるそんな動きが既に始まっていた。


 全ての焦点になる場所は、中国北京に位置する故宮城、その地下深くだった。

彼の地には古代中国に於ける各王朝に連綿と引き継がれてきた宝物、昇天の飛龍像という巨大な龍の置物が存在する。


 この龍像はかつては国家の安寧を願い、国民の平和な生活をこいねがう為に創造されたもので有った。

 

 そして人々の切なる願いを数年、数十年、数百年と受け続ける間に、やがて龍像は何時しか強力なる付喪神となり、絶大な力を以て参る人々達の幸せを実現すべく、至誠を尽くし続けたのだった。


 だが人の心の中に有るのは善なるものばかりでは無い。中には邪悪なる自らの願いの為にのみ、龍像の力を望む者も居た。善なる心を持った龍像は悩み、苦しみ、その末に心を閉じて眠りにつくことになる。


 しかし一度はその力の強きことを知られた龍像は、各世代の権力者によって神権を裏書きする宝物として扱われるようになっていく。


 大きな戦いが何度も起こり、その度に入れ替わっていく権力者達。だが神権の象徴たる龍像は損なわれること無く慎重に扱われ、累代伝えられていく。

そしてその間絶えること無く、権力者やその支持者達によって欲望という名の願いを常に浴びせかけられていった。


 その為なのだろうか、かつて白銀の五爪龍として知られていたものはやがてに色を変え、黄金の五爪龍と称されるようになっていった。

 昏々と眠り続ける龍の心の核、それも何時しか聖なるものから邪悪なるものへと染め変えられていき、黒い力を溜め込んでいく。


 だがその龍も、この地の皇帝の血が途絶える時、ついに象徴としての地位を手放す時が来た。そして何百年かぶりに龍はその存在を一般の人々の前に明らかにされる。


 人々はその龍の偉容に驚き恐れ、畏敬の念を持った。そして自分たちに扱えるものでは無いことを本能的に知るのだった。

 その為人々はこの黄金の五爪龍像の安置されている地下奥深くに、分厚い壁を設けて封印してしまうことにしたのだった。


 だがこの封印は約四十年ほど後の時代に破られることとなる。本来は人々の代表としての地位に居ながら、心中自らを皇帝と自認する、とある男の手によって。


 彼は科学技術の時代に有って、古代より連綿と続く秘術の信奉者でもあった。そして彼はその秘術を以て龍像の心を揺り動かし、目覚めさせようとする、己の中で膨れ上がる限り無き妄念を叶えんが為に。


 秘術はその代償として、膨大な人間の活ける血を必要とする。よって過去の多くの者達は龍の覚醒を断念していた。しかしこの者は違った。


 躊躇無く配下の人々を犠牲にし、龍像のある地下を血で満たしていく。

血の中の怨念が次第に龍像の中に浸透し、溶け込み混じりやがて臨界を向かえる。

 そして有る時突如として、邪悪と成り果てた龍は怨嗟の念の響きと共に覚醒したのである。


 龍像の新たなる生誕時に生じた醜悪なる怨念の波は、覚醒を促す為に周りに居た者達全てを飲み込み、支配下に置くようになった。

 人々を指揮してこの覚醒をもたらす為に動いた彼の男も例外では無かった。


 怒濤の如く押し寄せる想念の波に溺れ、意識を失い、やがてにはその心の全てを書き換えられてしまう。そして龍の願いを叶えるだけの、からくり人形のような存在になってしまった。


 だが一体、龍の願いとは何なのだろう?荒れ狂う怒濤のような苦しみ、痛み、損失感。そんな混沌とした意識のもと、龍が深く請い願ったのはあろうことか平穏なのだった。。


 だがそれは我ら普通の人間が願う平穏とは全く異なったものだった。

彼の龍の願いとは、この世の全てを力で支配し尽くし、何もかもが死に絶えた無による平穏、それこそが彼の龍の究極の願いなのだった。


 蘇った龍は動き、願い、命ずる。この世の全てを我が物にする為に。

まずは属する国家の全てを手中に収め、それに目処がついた時点で世界へと手を伸ばす。


  そこでまず目を付けたのは、あらゆる情報が錯綜するネットという存在だった。

現代という時代に於いてはネットを制するものがあらゆるものを手に入れていくと言っても過言では無い。

 そこで龍は男に命ずる、まずはネットに於いて世界を制することを。

彼の龍の居る国内に於いてその願いはたちまちの内に達成される。だが国外となると話は違っていた。


 いくつかある先進諸国に於いてはそれなりの防壁のようなものが存在し、簡単には浸食を受け付けることが無かった。

だが龍には巨大な国家の全ての資源を費やすことが出来るという、大きなアドバンテージがあった。

 お陰で日進月歩ではあったが、抵抗を受けた国々への浸食も無事再開されつつあった。

だが海を隔てたとある国だけは何か様子がおかしかった。 


 国家としてのまとまった防御態勢など殆ど無いに等しいにもかかわらず、妙に抵抗力が高いのだ。

最初の内はその国の特異な言語による特性かとも思われたのだが、作業を続ける内にそうでは無いことが分かって来た。


 そうこうする内に突如として強大な防壁が当該国で立ち上がったかと思うと、更には他の全ての国の防衛にすら動き始めた。

 更には龍の治める国の周囲へ、攻性防壁までも築き始めている始末だった。


 驚いた龍は方針を変えることにした。ネットを通じたまどろっこしい浸食では無く、直接人間を送り込んで物理的侵略を行うことに。


 そこで龍は配下に命じて国中から古きものを集めさせ、それに自らの力を分け与えて強制的に付喪神として覚醒させた。勿論支配権は龍のもの。


 何十何百何千と覚醒させ、与える力が無ければ人々の生き血を飲み干していくらでも精を拡充することが出来た。それこそこの国にはそう言った素材が幾億でも居るのだ、龍の力を増やす為に事欠くことは無かった。


 それらの付喪神は一般の人間の頭部に寄生させ、それを以て龍の手駒として使用することが出来るようになる。そして寄生された人間は本来は使うことが出来ない付喪神の能力までも使うことが出来るようになる。


 龍はそれを以て隣国の侵略を開始する。最初は数人、そして数十人。侵入した先でネットを通じ、或いは霊的な手段を持って調査を開始する、

 やがて龍は知る、自身の野望を防がんとする存在が、とある地方の神社と呼ばれる領域に居るらしいことを。そこで更に増やす、侵略の為の手駒。数百、そして数千へと。



 一方そんな存在のあることを未だ知らぬ状態であった和香様達は、ニーを交えて神の杖成る兵器の侵入速度や侵入角度の再チェックに明け暮れていた。

 いかな神の能力を持ってしての計算であっても、万が一、いや万々が一でもイレギュラがあっては成らないと考えてのことだった。


 ところが先般の雨子様からの侵入者の報告で有る。

挙動不審な者達の入国までは既に知らされていたものの、この地区近辺への直接の侵入とまで成ると話は別で有る。たちまちにして和香様周辺の者達は色めきだって、宇気田神社周辺の異物を炙り出すべく動き始める。


 だが時既にかなり遅く、相当数の異物の侵入を許してしまっていた。

気色ばんで直ぐに練られる対応策、直ちに放たれる分霊や小者達。

だが動かした小者の内の多くが図らずも速攻で討ち取られてしまう始末。


 さすがに分霊とも成ると優に相手を圧倒出来るだけのものを持っているが、それすらも相手の物量作戦の前では怪しくなっていく。

 更に入った連絡によると、その数は増加の一途であるとのことだった。


 これ以上の敵の流入を避ける為、緊急措置として榊氏を通じて政府に連絡を試みるが、現政府に於いては既に神の存在を信じているものは居らず、残念ながら問題の打開に至ることは無かった。


 次に宮内庁を通じて皇家への連絡を試みるも、連絡ラインが途絶、不達に終わってしまう。ことここに至って神様側から人間側に連絡を取る手段を奪われてしまう。


 当面打てる手が極めて制限されてしまうことになっている。勿論全国の神社への救援要請は行おうとした。しかし霊的及び神的手段による通信は一切遮断され、直接的に使者を派遣するしか無い状況に陥っていた。


 宇気田神社を中心とした街中に満つる打撃音や小さな破裂音。風も無いのにものが舞い散り、時として窓ガラスが割れることなども。


 全てはこの世にあらざり者達の戦いの結果なのだが、そういう音や事象があっても目に見えることが殆ど無い為、一般人達は訝るばかりで、多くはネットの小ネタとなる程度に留まっていた。


「小和香、戦況はどうなのじゃ?」


 厳しい表情の和香様が小和香様に問う。二人とも緋の袴姿で、額に鉢金を巻き、手には長刀、まさに彼女達にとっての戦装束である。


「は、現在中級以上の分霊を投入してようやく状況を維持出来ております」


「そこまでやって状況の維持であるか…」

 

そう言う和香様の声は固く沈んでいる。


「して各社への救援要請はどうなって居る?」


「現在各所へ使者を派遣しておりますが、近隣の者達は既にはせ参じておりますれば、以降到着の遅れる遠方のものばかりになるかと」


 そう言う小和香様の衣装にもいくつかの汚れが見受けられ、既に彼女が少なからぬ戦いに身を投じていることが見て取れる。


「後…」


 そう言いかけて小和香様は言い淀んでしまう。


「どうした小和香、このような時じゃ何でも言うが良い」


「はぁ、それがその、雨子様が…」


「雨子がどうしたというのじゃ?」


 そう問う和香様に小和香様が目を瞑り軋るような声で答えた。


「こちらの苦境を言うと、至急応援に駆けつけると…」


 その言葉を聞いた和香様は歯を食い縛るようにすると言う。


「あの虚け者め、精の補給もままならぬと言うのに、何故祐二の保護という役どころに満足せぬのじゃ?」


「雨子様の仰るには、和香様が居らねばこの国は立ちゆかぬと。祐二殿の為にも必要なこと故参ると」


 雨子様のその思いを聞くと和香様は固く目を瞑り、深く熱い吐息を一気に吐いた。


「済まぬ小和香、さすがに雨子のこと捨て置けぬ。私情を交えてしまって申し訳ないが、迎えに行ってくれまいか?」


 そう言う和香様の言葉を聞くと、小和香様は嬉しそうに微笑んで頷いてみせる。


「畏まりましてございます和香様」


 そう言うと小和香様は、薙刀を手に風のように部屋を飛び出していくのだった。

 こう言う部分は書くのが猛烈に大変です。いつもの三倍近く掛かってしまいます

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