小和香様の笑み
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皆の笑う声がやがて収まった頃、和香様が再び両親に向かう。
「前回お誘いした時は都合が悪いとかで、楽しんで貰えへんかってんけど、今回ばかりは自慢の温泉、思いっきり楽しんでいってな?」
そう言う和香様の言葉に母さんがとても嬉しそうに言葉を返す。家の両親は揃って大きなお風呂や、温泉なるものが大好きなのだ。
前回は知人の方の結婚式とかで入ることが出来なかったのだけれども、僕達からここの温泉のことを聞き及んだ父さんなどは、歯がみするほどの悔しがりようだったから、なにをか況んやである。
「ありがとうございます、祐二からこちらの温泉の素晴らしいことをたびたび聞いていましたので、本当に楽しみです」
そう言う父さんはこれ以上ないくらいに、にこにこ顔だ。母さんに休日の朝無理矢理たたき起こされた無体を補って余り有るに違いない。
「ところで和香様?」
母さんがおずおずと言った感じで和香様に話しかける、何か聞きたいことがあるようだ。
「なんやろお母さん?遠慮のう言うてや」
我が家に来ていた時はそれはもう仲良くなって、肩寄せ合ってくすくす笑いをするような間柄なのだが、多分、小和香様の手前と言うことも有るのだろう、和香様もほんの少しだけ距離を置いた話し方をする。
「その…ニーちゃんは居ないのですか?」
成る程そうだった、そもそもの発端は母さんが黒豹になったニーに会いたいと言い出したことからだった。
母さんの猫好きのことをよく知っている和香様は、にんまり笑うと母さんに言う。
「ニーは今ちょこっとお仕事中なんよ。そやけどもうじき終わるから、終わったらこっちによこすよって先にお風呂行って来はったらええよ」
「和香様は温泉には入られないのですか?」
母さんが少し寂しそうな顔をしてそう言うと、和香様はくいっと首を回して小和香様の方を向いた。
すると小和香様は小さく息を吐くと、和香様に言った。
「もう、仕方ないですね、今日だけですよ?明日からはまた頑張って下さいますね?」
和香様は小和香様のその言葉を聞くと音がしそうな程頭を振った。
「約束する約束する。そしたらお母さん少しだけ待っててくれるか?いくら何でもこの格好で風呂場の方へは行けへんから、大特急で着替えてくるわ」
そう言うなり和香様は十二単の裾を掴むと、どたどたと足音を響かせながら、風のように部屋から去って行った。
残されたのはあっけにとられた面々、皆、目が点になっている。
「あ、あの方は本当に…」
そう言うと小和香様が頭を抱えている。
「でもお可愛らしいですわ」
そうぽつり言う母さん。皆は息を飲んで母さんの方へ向いた。
ぽかんと口を開けていた雨子様がふと気がついてその口を閉じ、呆れたように母さんに言う。
「のう節子、そなたまさか和香のことまで娘扱いし始めたりはせぬよな?」
どっと仰け反る僕と父さん。
「あら、和香様のような娘が居るのも楽しそうね?」
ぎょっとする小和香様。その頭をよしよしと撫で付ける雨子様。
驚きの後、放心したような小和香様だったが、なぜだか母さんのことを尊敬したような目で見つめ始めていた。
「のう祐二よ、そなたの母御は相当の大物ぞ?この様子じゃと八重垣もそのうち息子扱いし居るやもしれんの?」
僕は余りの雨子様の言葉に憤慨しながら言う。
「和香様や雨子様を姉として持つのならともかく。八重垣様を兄とするのは、なんだか嫌だなあ」
僕がそう言うと全員が顔を見合わせる。そしてどっと笑い始めて暫く笑いが収まらなかった。
剰え小和香様などはその美しい十二単の着姿のまま俯して、可愛らしい笑い声をころころと流し続けていた。
「あ~~~疲れた…」
と言うのは七瀨。笑いというのはきわめて強い伝染性を持っている。そしてそれは笑いの深さが深いほど、強くなり、また人数が多いほど再感染を繰り返しやすい。
お陰で結構な時間笑い続けた面々は、疲れ果ててようやっと正気に戻った様に笑いを納めることが出来た。
小和香様が懐からハンカチを出してそっと目を拭っている。
これまでいつも堅い印象の有った小和香様なのだったが、この場においてはとても柔らかい雰囲気を醸し出していた。
「ただいまぁ~」
折良くそこへ浴衣姿になった和香様が帰ってきた。
さすが和香様と言ったら怒られるかも知れないが、場を一目見ると直ぐに小和香様の変化に気づいたようだった。
「小和香」
小和香様は丁寧に頭を下げると和香様に何事かと伺う。
「何でございますでしょうか和香様」
そう言う小和香様に手招きをすると和香様は、自分の手の届く範囲に近寄らせた。
そして袂を押さえると優しく小和香様の頭を撫でて上げる。
驚いたように和香様のことを見上げる小和香様。
「良かったな小和香」
急に頭を撫で始めた和香様の言動に戸惑いながら小和香様が問う。
「何をでございますでしょうか和香様?」
「自分いっつもがんばらなあかん思て、肩肘張って固うなっとるなって思ってたんやけど、ようやっと心を柔らこう出来る相手、見つけられたみたいやな?」
そう言われて初めてはっとする小和香様、そして僕達のことを見渡す。
僅かな時の流れを経たかと思うと俄に顔に紅をさした小和香様は、ゆっくりと微笑みながら言う。
「和香様、そのようでございます…」
そう言うと小和香様は綺麗な白い歯を見せて笑いながら、僕達の方へ頭を下げた。
「それとな小和香」
更に言葉を続ける和香様に小和香様は目顔で問うた。
「いっつも無理して今みたいに小さいままで居らんでもええねんで?」
和香様のその言葉に驚いて目を大きく見開く小和香様。
「和香様どうしてそれを?」
小和香様のそう言う声が小さく震えていた。
「そやかてこの間、巫女の子らと楽しそうに舞っとったやんか?」
「ご存じだったのですか?」
恥ずかしそうに言う小和香様。
「何言うてんの、小和香はうちの子供も同然なんやで?娘のこといっつも心配しているの当たり前やんか?」
「和香様…」
そう言うと小和香様は静かに涙を零す。
「ごめんな小和香、なかなかいつも上手いこと出来ひんで。うちもなんちゅうか、言うたら不器用なんよ。そやけど祐二君とこと付き合おうとったら、ちょびっとずつやけど、人と言うか、うちら神様なんやけど、思いについてより深こう理解出来るようになってきた気がするねん」
そういうと和香様は小和香様のことを優しく抱きしめた。
なんだかもの凄く嬉しそうな小和香様、顔つきが一片に華やいだのが分かったのだけれども、雨子様に促されて彼女たちだけにし、僕達は先にお風呂に向かうことにした。
「もう一人娘が居ても良いなあ…」
急にそんなことをぽつり言う母さん。
思わず僕は指折り数え始める。
「葉子ねえに雨子様、和香様に小和香様?四人の姉ちゃん?」
僕が目を回していると七瀨が言う。
「おば様、私も私も」
「いくら何でもあゆみちゃんには、れっきとしたお母さんが居るから無理でしょう?」
そう言う母さんに七瀨が口をへの字に曲げて言う。
「え~~つまんな~~い」」
「つまんないっておま…」呆れた僕が言う。
そうやってわいわい騒ぎながら脱衣所に向かい、男女に分かれる。
すると僕達の方に付いて来たユウがぽつり言う。
「僕には母親居ないから弟?に成れますよね?」
どたっと音がするので見ると父さんがひっくり返っていた。
時折書く事がしんどくなることもがあるのですが、そう言う時は無理にでも二三行書いてみることにしています。
すると出て来たキャラが後押ししてくれているみたいで、少し肩の力が抜けたりします。
キャラ達にも感謝!




