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天露の神  作者: ライトさん
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親の思い

 何とか無事今回も掛けました。やれやれであります

 やがて部屋に行き着いた僕達が、小和香様の差配で小者達から茶の給仕などを受て寛いでいたところ、部屋の外からばたばたとけたたましい足音がしてきた。


 すわ何事かと構えていたらゆっくり静かに襖が開き、小和香様同様の十二単を着た和香様が、楚々とした感じで入ってきた。


 一瞬だけれども小和香様がもの凄く渋い顔をしていた。あの派手な足音はおそらく和香様のものに違いない。しかし今の和香様にその慌ただしさは微塵も感じられない。


 良く化けた?そんなことをちらりと考えていたら、諦めたとばかりに小和香様が小さな吐息をいているのを見てしまった。


 和香様はその場でふわりと座ると丁寧に頭を下げて挨拶の口上をする。


「本日は態々のお越しありがとうございます。常々は語り尽くせぬ…」


 そこまで和香様が言葉を発したところで、雨子様がもう我慢ならぬとばかりに異議を唱える。


「ええい和香、そのように肩の凝る物言いは止めぬか?ほれみてみい、皆固まって居るぞ?」


 まさに雨子様の言う通りで、和香様が正装でしゃなりと入ってきた時点で皆飛び上がって正座し、口上を言い出した時にはかちこちに固まりきっていた。


 いや皆別にそこまでしようと思っていた訳では無い。勿論きちんと礼儀を持って対応するのは当然のこと。だがここまで成ってしまったのには訳がある。


 和香様が襖を開けて神様然として(実際に神様なのだけれども)入ってきた時に、その身から溢れる神気とでも言うのだろうか?圧倒的な存在感のようなものに触れて、自然そう成ってしまったというのが正しいのだろう。


 いつもおちゃらけた雰囲気の和香様しか知らなかっただけに、何だかその圧には想像を絶するものが有った。

 お陰で普段通りに対応出来たのは雨子様だけで、ユウに至っては目を回してひっくり返っていた。


「あっちゃ~~、ごめんしてや。なんやついうっかりしてしもうたわ」


 そう言いながら頭を掻く和香様は、普段見知っている彼女だった。

いやでもその姿でその言動は違和感半端ないですよ?和香様?


 だがお陰と言うべきなのか、何と言えば良いのか良く分からないのだが、その苛烈とも思える神気は直に穏やかになり、それもやがて押さえ込まれて、当たり前の人の如き存在となっていた。


 でもそれでも今の和香様の姿が神々しいことに一片の疑念も無かった。

この神様が普段よれよれのTシャツを着たり、穴だらけのジーンズを平然と履いているなんて全く信じられない思いだった。


「でもな、うちが吉村の皆さんにえろう世話になっているって言うのはほんまの話やしな、今日はのんびりと寛いで行ってくれはる?」


 和香様はそう言うとにこにこととても嬉しそうにしていた。

その挨拶に対してちょこっと肩の力の抜けた父さんが返事をした。矢張りあれだけの神気を受けてしまっては、いつも通りとは行かない。


「いえいえとんでもございません和香様。こちらこそ普段からお世話になりっぱなしです。特に葉子に於いては加護など賜りまして、おかげさまで無事子を産むことが出来…」


 だが結局父さんもその言葉を最後まで言い尽くすことは出来なかった。


「あかんてお父さん、うちついさっき肩凝るって雨子ちゃんに怒られたばっかりやねんで?そやのにお父さんがそないにしゃっちょこばっとったらまた肩凝ってしまうやんか。もう無し無し、無し無しの無しでいきませんか?」


 和香様が、多分わざとなんだと思う。上目遣いで大仰に目をパチパチさせながら父さんにそう言ってきた日には、とてもじゃないが固いままでいることなんか無理な話だった。


 ただそれでも父さんは皆と違って偉かった。他のものが皆半分吹き出し掛けていたのに、父さんだけは


「それでもです、ありがとうございます」


と、最後までちゃんと言い通して深々と頭を下げていた。


「それで今日は八重垣はどう致したのじゃ?」


 雨子様だけはそんな雰囲気に飲まれること無く、普段通りの口調で和香様に問うていた。


「ああ、八重垣は…あの日がもうすぐやから、その前に少し自分とこに帰って来るは言うて、社に戻っとるで」


 すかさず母さんが小さな声で聞いてくる。


「あの日って何なのかしら?」


 多分父さんも聞き耳を立てている。

僕は余り詳しい話をするのもどうかと思い、如何様に話そうかと思っていたら、雨子様が説明してくれた。


「それはの母御よ、今とある国に悪神のようなものが居っての」


「悪神?」


 母さんはそう言うととても不安そうな顔をしていた。そりゃあ葉子ねえの子供も生まれたばかり何だし、守りたい物が幾つもあれば普通そう言う顔にも成るだろう。

 そう言うことって至って普通のことだと思う、そして人はそう言う守りたい物の為に何とか不安を取り除こうとして動いていく。

 

「そうじゃ、悪神じゃな。もっとも正確に言うなら神と称すべきでは無いのじゃろうが、まあ細かい話はどうでも良い。ともあれそなたら人に害なすものとして悪神と言っておるのじゃが、そやつを近々討とうと言う相談をして居ってな」


 母さんが驚いた目をして雨子様のことを見つめる。


「もしかしてそれは雨子さんも参加しているの?」


 そうやって雨子様のことを見る母さんの目はとても心配そうだった。

雨子様はそんな母さんの目に潜む感情を読み取ってしまい。思わず口籠もってしまう。


「む、その。節子よ、我も神の端くれじゃからの、そのような存在を許す訳には行かぬのじゃ」


 雨子様の口調が母御から節子に変わった事を、和香様はちゃんと聞き取っていた。

そしてその二人を見つめる目は、穏やかに限りなく優しいものへと変化していった。


 そして僕の耳にそっと小声で言う。


「なあ祐二君」


「何でしょうか和香様?」


「雨子ちゃんは本当に君らの家族にしてもろうとるんやなあ?」


 そう言う和香様の顔はこの上も無く嬉しそうだった。

多分和香様としては雨子様の過去を色々と知っているだけに、その心配も一入ひとしおなんだろう。


 母さんと雨子様の会話は更に続いている。


「もしかしてその謀には、祐二やあゆみちゃんなんかも関わっているのかしら?」


 母さんとしてはその辺りのことは、きちんと知っておかずにはいられないのだろう。勿論知ったからと言ってどう出来るわけでも無い。でも知っておくというのは彼女の固い決心だった。


 母さんのその言葉を聞いていた和香様が、雨子様の後を継いで言葉を発する。


「お母さんとしては気になるところなんやな?」


「ええ…」


 物思わしげな表情をする母さんの手を和香様の手がそっと包み込む。


「まず七瀬ちゃんはほとんど関わってへん。そして祐二君なんやけど、今回の謀の大本の作戦を考えてくれたんは祐二君や」


 母さんは驚いた顔をして僕のことを見る。


「そやけど安心しーやお母さん。祐二君が考えてくれたんはあくまで大本になる事柄だけや。SF好きな祐二君がこう言うのが使えないかと事例を挙げてくれただけなんや。だから本質的には何も関わってへん。けどそれでもうちらも用心して、葉子ちゃんには小雨付けとるし、祐二君には雨子ちゃんが離れん様にしとる」


 そう丁寧に説明してくれる和香様。本当のことを言うとことはそれほど単純では無い、だがそれについて和香様は上手くぼかしてくれているようだった。


「そやから安心しーや、うちらは何を置いてもお母さんとこの家族守る決心しとるさかいに」


 日の元を代表する大神が心を込めて話してくれる様に心打たれたのか、母さんの両の目に涙が浮かぶ。

 そして自らの手を優しく包んでくれている手をきゅっと握り返すと、ゆっくりと丁寧に頭を下げた。そしてその傍らでは父さんも地に額が着くほど頭を下げていた。


 雨子様がそっと僕の傍らに来ると囁いた。


「本当にそなたのご両親は良く出来た方達じゃの、子を思う心が深きこと我が心にも強く伝わってくる」


 そう話す雨子様の横で七瀬もまたしみじみと言う。


「そうよね、私も昔祐二のお母さんには、母さん共々凄く助けて貰った…。母さん良く言うもの、あの時公園であなた達に会っていなかったら、自分はきっとどこかでくじけていたに違いないって」


 驚いた僕が言う。


「おばさんがそんなことを?」


 七瀬は静かに頷くと教えてくれた。


「知ってる?家の母さん、祐二のお母さんとレインを通じてそれはもうよく話をしているのよ。もしかしたら私なんかより余程かも知れない。仕事先からでもしょっちゅうみたい、ちょっと嫉妬しちゃうわ」


 そういうと七瀬はくすりと笑った。そんな風に祐二の母と関わるようになってから、自分の母親に余裕が生まれ、優しく接してくれるようになったことを覚えているからだ。


「なるほどの」


 何だか妙に雨子様までしんみりという。


「確かに祐二の母御は本当に不可思議な女子おなごよの。我をして娘扱いされてしまうのじゃから、何と言うかその、頭が上がらんの」


 そう言うと雨子様はくくくと笑った。


 そこへ急に渦中の人物から声が掛かった。


「ねえあなた達、人の噂話をするのなら、どうか聞こえないところでやってくれないかしら?」


 そう言いながらこちらを向いている母さんの顔は憮然としながらもどこか照れ、真っ赤になっていた。

 その横では父さんがにやにやしながら笑っている。


 あまつさえ、そのやりとりを見ていた和香様が大いににやにやしていると、その腕を小和香様が思いっきりつねる。


「いたたたた、なにすんのん小和香?」


「和香様のその笑いこの場にそぐいません、下品です」


「そんなぁ~~~」


 そう言う和香様は眉をへの字にしながらそのままよよと泣き崩れてしまう。

その様が余りに時代がかっていたので、場にいた者全てがどっと笑ってしまう。

 その中顔を上げる和香様。何だ、和香様まで大笑いしている!


物を書くと言うことに当たって、眠気は本当に大敵です。

プロットは思いつかなくなるし、文を書いていても何が何やら分からなくなるし、

偉いことになってしまう……

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