翌日
今日は少し短めです
翌朝少し遅めに起きてきた女性二人。
僕は既に起きて朝食も食べ終え、食後の珈琲を飲みながら本を読んでいた。
見ると何だか二人とも顔が腫れぼったく、目が赤い感じがする。
何かあったのかと心配になってそのことを聞こうとした矢先、カウンターの向こうから視線を感じてそちらを向くと、母さんが黙って首を横に振っていた。
どうやらそれは聞くなと言うことらしい。
二人がひっつくようにしてダイニングに座り、こそこそと小声で何かを話し合ったかと思うと、くすくすと笑い合っているのを見ると、どうやら僕の心配すべきことでは無かったようだ。
「二人とも、卵はどうする?目玉焼き?それとも?」
母さんは二人の様子に努めて気が付かない風にしながら声を掛けている。
「すいませんおばさま、なら私は目玉焼きで」
「我も同じに…」
そんなことを言いながら二人でにこにこ更に何やら話している。それだけなら良いのだが、時折こちらをちらちら見てくるのは一体何なんだ?
そこへ頼んだ目玉焼きを初めとした朝食一式が二人の前に揃えられたので、幸いなことにそれ以上絡まれることは無かった。
「ところで雨子さん、和香様のところの例の奴、何時行われるのか連絡あります?」
二人のことにお節介するのは諦めた僕は、喫緊に迫っていることに意識を移した。
ところがその中のある言葉の部分に七瀨が微妙に反応する。
「雨子さん?」
「「え?」」
雨子様と僕、二人して同時に七瀨の言葉に反応した。
「だって祐二はこれまでずっと、内輪の時は雨子さんのこと雨子様って言い続けていたじゃ無い?」
七瀨によって発せられたその問いに答えるべく、僕の脳みそは煙が出そうなほど働いた。だから多分?そんなに間を置かずに返答出来たはずだ。
「それさ、内と外で使い分けていると、うっかりすると外でも様付けで呼びそうになっちゃうんだよ。だから七瀨と同じようにいっそ全てさん付けにするって言うことで統一したんだよ」
きわめて平静を装ってそう説明したのだが、七瀨の眉が不穏な角度に変わりそうになっている。
だが結果としてそれ以上七瀨からの追及を受けることは無かった。
やれやれと思っていたのだが、ふと見ると雨子様が、雨子様が?七瀨を拝んでいる?一体何なんだ?
どうにも最近は不可解なことばかり起こると思いながらも、敢えて追求しないことにする。でないととばっちりの方が恐ろしいからだった。
「それで和香の件なのじゃが、未だ連絡は無いのじゃ。ことを起こす前にもう一度くらいは顔を出してみるべきかと思うのじゃが、いかがする?」
「そうですね、ニーにも久々逢ってみたいしなあ」
ところがその言葉に思わぬところから反応があった。
「え?ニーちゃんに会いに行くの?」
それは目をきらきらとさせている母さんだった。
「え?何、母さん?もしかしてニーに会いたかったの?」
僕がそう言うと母さんが膨れる。
「当たり前でしょう?そうで無くたって猫が大好きなのに、その猫に触ることすら出来ないのよ?唯一触れることが出来るニーちゃんには会いたいに決まってるじゃ無い!」
そんなことを言いながら母さんは、肩の上に載っているユウの顎の下をぐりぐりと撫で付けていた。
さっきから姿を見ないと思ったらユウ、お前そんなところに居たのか。
「そりゃあこのユウちゃんも物凄く可愛いのよ?でもね、私にとって猫はまた別腹なのよ」
別腹って母さん、猫は食べ物じゃ無いんだからね?
「でも母さん、ニーは雨子様達の手で改造されて、もう猫じゃ無くなっているんだよ?」
僕は未だ母さんに話していなかった大いなる事実を明かした。
「ええええ?」
母さんが驚天動地と言った感じで、手をわなわなと震わせながら驚いている。
「まさか、まさかニーちゃんのこと、無骨なロボットとかに改造しちゃったのじゃあ無いでしょうね?」
母さん怖いよ?目が据わっているよ?
その様を見て七瀨と雨子様が下を向いたまま必死になって笑いをこらえている。
お陰で押し寄せる大波は全て僕のところにやってくる。
「ロ、ロボットな訳ないでしょうが…」
必死に成って説明しようとする僕の声が震える。
「色々改造するに当たって、いくら何でも猫の身体では小過ぎだろうってことで、今は黒豹の姿になっているよ」
その言葉を聞いた母さんは、頤に人差し指を押し当てながらふと思案顔になる。
「黒豹って…確か黒い猫ちゃんよね?」
「はぁ?」
僕が反論しようとすると、向こうで七瀨と雨子様がなにやら大騒ぎしながらジェスチャーしてる。うんうんって?頷け?肯定しろってことか。
「あ~~、まあそんなようなもんかなあ?」
それを聞いた母さんの表情が一気に和らぐ、そして何となくだけれども上目遣いになってきたのか?え?
「それで祐ちゃんは、ニーちゃんのところに行く御用事とか無いのかしら~?」
いやはや凄い圧で有る。これを断る勇気は僕には無い。七瀨と雨子様の方を見ると、彼女たちもぶんぶん音がしそうな程頷いている。
「え~っと、この後行ってみようかな~~?」
すると母さんは急に僕のところにやって来て、その手にユウを押しつけて来た。
「え?何?」
そう言う僕に母さんはにっこり微笑みながら言う。
「だって和香様のところに行くのでしょう?ならきちんとした服に着替えないと…。それに父さんも起こして車出して貰わないとね?」
僕は母さんの行動の素早さに絶句しつつ、寝室の方向に向けてそっと手を合わせた。
「むぎゅう!」
おっと、ユウをつぶしてしまうところだった。
ともあれ僕は折角のお休み、久々の朝寝を貪って居るであろう父さんに、心の中でしっかりと謝った。
物語りも長くなってくると、設定に齟齬が生まれてきたりもします。
出来るだけ直すようにしているところなのですが、未だ直っていないところとか合ったらごめんなさい




