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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「雨子様の打ち明け話」

 遅くなりました。一応完成はしていたのですが、校生する時間がなくていつもの時間より遅刻しました。

ともあれお楽しみ下さいませ


 三日ほど学校を休み、月曜日から出てきた祐二だったが、学年末テストには未だ間がある時期だったので内心ほっとしていた。

 体調が普通に戻れば、日々の時間も極々普通に流れていく。


 ただ、ここしばらくの雨子様の様子が少し妙に思えなくは無かったのだが、それもまた日常の中に紛れてしまうと、ただの気のせいであったとしか思えなくなってしまう。


 そして二日経ち、三日経ち、何時しか金曜日の最後の授業の時間になっていた。

完全に復調したとは思っていたものの、こうやって一週間を過ごしてみるとやはりいつもの週より身体が重い気がする。


 この先学年末テストという大物が控えているだけに健康には気をつけなくてはと思うのだが、その前には例の北京アタックがあるのだ。何とも複雑というか、落ち着かない思いがする祐二だった。


 最後の授業を終え、皆が三々五々別れの言葉を交わしながら教室から去って行く中、雨子様と七瀨が頭を寄せ合いながらなにやらぼそぼそと話をしている。


 そしてその話し合いが済んだのか、雨子様が祐二の方を向いて口を開く。


「祐二よ、今日の夜、あゆみに来て貰っても良いかの?」


「別に僕に聞かなくても良いでしょう、母さんに了解さえ貰えたら問題無いのじゃ無い?後、連絡しておくとしたら七瀨んとこのお母さんだな…」


「あ、それは大丈夫って言うか何というか、母さん昨日からなんだけど一週間ほど出張なんだって」


「なんだ、それなら早く言えよ。昨日も晩ご飯とか困らなかったのか?」


「うん、その分くらいは母さん作っていってくれてたし、自分でも作れるから」


 七瀨の母と祐二の母は昔から仲が良く、気の置けないつきあいを長く続けていた。

特に七瀬家が母子家庭であることもあって、どうしても手が足りない時などは、有無を言わせず節子があゆみを預かりに行くほどの関係性を作っていた。


 そう言う意味で七瀨あゆみのことは既に娘扱いされているレベルでもあるので、一応是非を問うことがあっても、断ることはまず無いものと思われた。


 実際レインで問い合わせると、嬉しそうな表情のスタンプをいくつも付けた上で、大歓迎と返ってきた。


「じゃどうする?このままうちに来るか?」


 祐二の問いに七瀨が首を横に振る。


「いくら何でもそれは無理だよ。女の子にとってお泊まりするにはそれなりの用意が要るのよ?」


 まあそれももっともな話だと思った祐二は、取り敢えずそのまま家に帰ることにする。もちろん雨子様も一緒だし、途中までは七瀨も同道する。


 真ん中を祐二が歩き、その両側を雨子様と七瀨が歩く。クラスの男子達が両手に花の実写版などと揶揄するのも頷ける構図だった。


「それじゃあまたな」


 祐二達から離れていく七瀨に声を掛け手を振る。


「はぁ~い、また後でねぇ」


 七瀨もまた気軽にそう応えて袂を分かっていった。

その姿を少しの間見送り、再び歩みを早めたところで祐二は雨子様に問うた。


「なんか七瀨と二人で内緒話していたみたいだけれど、何か有ったんですか?」


「な、内緒話?」


 そう言葉を返す雨子様の目が微かに泳ぐ。

だが幸いなことに歩きながらの会話だったので、その心の動揺は祐二に知られることは無かった。


「別にそう言う訳では無いのじゃが、最近七瀨と腰を据えて話す機会が無かったものじゃから、話しかけて居ったら母御が居らぬと言うでな。それならと話を持ちかけたのじゃ。そなたの母御も交えて女同士で話すのも楽しいものじゃしな」


 そう言いながら雨子様はくくくと笑う。

この三人本当に仲が良いのだ。祐二の母は、この二人のことを普段娘扱いしているのだが、いざ三人になってわいわいと姦しくお喋りし始めると、誰が年上なのか分からなくなる感じで、きゃっきゃうふふと話に花が咲く。

 あの中には絶対に入れないと思う祐二だった。


 家に帰ったところで先ず雨子様が風呂に入り、髪を乾かしているタイミングで七瀨がやって来た。冷えただろうと母のすすめで早速七瀨も風呂へと向かう。


 上がってきたところで早速二人は和気藹々とお喋りを始め、そのままの流れで母の手伝いの為にキッチンへと入っていく。

 だがさすがに三人は無理なので七瀨はダイニングに座らされていた。

だがその間も三人のお喋りの途切れることは無い。


 そうこうするうちに料理は完成し、タイミングを合わせたかのように帰ってきた父も含め、家族全員で夕食を始める。

 最近父は遅いことが多いので、この様に全員が揃うのは珍しいことだった。


 食事を美味しく頂くには、気の置けない者達が寄り集まって楽しく会話しながら、というのはその通りだなと祐二は思う。


 口数の少ない父はその会話の中には入らないものの、家族の者達が楽しそうにしている、そのことそのものが嬉しいらしく、ずっとにこにこしている。


 因みに七瀨と共にやって来たユウは、この家族においては周知の存在なので、堂々と姿を現し、いつものことながら大量の食材を消費している。と言うかそれに夢中でお喋りには加わらない。


 しかしそんな楽しい時と言うのはあっという間に過ぎゆくものだ。皆がお腹を一杯にして、後片付けを終えるとそれぞれの部屋へと散っていく。


 何でも今日ばかりは雨子様は祐二の部屋で寝ることも無く、葉子の部屋に行って七瀨と共に寝るらしい。


 たまには静かで良いかなと独り言ちしていた祐二なのだが、なぜだか七瀨にユウを押しつけられる。何故にと思うがその答えは返ってこない。

まあたまには女二人で話したいこともであるのではと思い、特に何も追求せずに、お邪魔虫を預かることにした。


 そう言えば以前彼女ら二人して祐二の部屋に押しかけてきて、合宿よろしく寝ていったことがあるのだが、これは大いなる秘密となっている。


 雨子様と同じ部屋で普段寝ていると言うことだけでも大した秘密なのだが、そこへ七瀨まで混じっていたとあっては、万一クラスの者達に知られた日には、何を言われるやら想像もつかない。


 雨子様とのことは仕方が無いにしても、幼なじみと言うことで、男女の敷居が低すぎる七瀨にも困った物だと常々思う祐二だった。





 さておき今日の主役は祐二では無い、なのでここから先は放っておくこととする。


 今回に限っては葉子の部屋へと集合した雨子様と七瀨こそが、描かれるべき主役なのだ。





「あ~~楽しかった」


 と言葉を発したのは七瀨だった。母一人子一人の七瀨にとって、祐二の家のように多人数での食事の機会というのは余りない為、楽しくて仕方が無いようだった。


 もっとも、そうは言っても祐二の母、節子と雨子様の女三人での会話があるからこそなのだが。

 ただ、それを言うなら雨子様も同様であった。長年にわたる孤独な環境から離れ、こうやって人の家庭の中にいる雨子様は、この上無く幸せであると、今を実感していた。


 だが現実というのは、そう言ったふわふわとした幸せ感のみで構成されているのでは無い。

 既にそれぞれの布団に潜り込んでいる状態で、七瀨が雨子様に問うた。


「それで雨子さん、何か話があるって言うことだったんだけれども、なあに?」


 そもそも七瀨が祐二の家に来るきっかけになったのが、雨子様から相談事があると言われたことが始まりだった。


「むぅ~~~」


 珍しく歯切れの悪い状態の雨子様は、掛け布団に顔を半分隠して目だけで七瀨を見つめている。


 なにやら話しにくそうなこと?とっさにそう悟った七瀨は雨子様に言った。


「そっちに行って良い?」


 するとこっくりと目だけで頷く雨子様。

許しが出たと言うことで、本来は葉子のもので有るベッドにいる雨子様のところへ、ごそごそと潜り込んでいく七瀨。


 そして温もりにほっとして雨子様はと見ると、頭のてっぺんまで布団に隠れてしまっている。


「…?どうしたの雨子さん?」


 普段の彼女ではあり得ないような行動にいぶかる七瀨。

仕方ないので自分も布団に潜ると話しかけた。


「大丈夫?雨子さん?何か有ったの?」


 布団の中と言う暗闇の中でそう問いかけると、おずおずと雨子様が話し始めた。


「何か有ったというか、果たしてあったのじゃろうかな?」


 七瀨にしてみたら何が何やらである。

そして二人も布団に潜り込めばたちまち酸素が消費され、息苦しくなってくる。

 仕方が無いのでがばりと布団を捲ると、目の前の雨子様と目が合った、なんだか涙ぐんでいるようだ。


「一体どうしたって言うのよ?」


 心底心配になった七瀨は雨子様の手を取るとその目を見つめた。

雨子様がぐすりと鼻を鳴らす。そしてしゃべり始めた。


「七瀨はそのう…祐二のことを…どう思うて居るのじゃ?」


 七瀨にとっていきなり、青天の霹靂となる質問だった。

直ぐに言葉にすることが出来なくて、思わずむぐぐと口籠もってしまう。

 だが言葉には成らなくとも十二分に顔色には現れていた。


 七瀨は顔を真っ赤にしたまま、どう言葉を作れば良いかと暫く黙っていたが、やがておずおずと話し始めた。


「それって、多分今の雨子さんにとっても大事なことなのね?」


 そう言う七瀨の言葉に、雨子様は震えながらそっと首肯する。


「はぁ~~」


 七瀨は大きな溜息をつくと言葉を継いだ。


「まさかこんな形で自分の思いを表明しなくては成らないとはね」


「すまぬ」


 そう言う雨子様の言葉はとても小さな音で形作られていた。


「まあ良いわ。はぁ~」


 また一つ小さく溜息をつくと七瀨は話し始めた。


「小さな頃、ずっと独りぼっちだった私を救ってくれたのは祐二なの。母一人子一人、余り話し上手とは言えない母さんの血を引いていたのかしら?私もその頃は余り上手く友達を作ることが出来なかったの」


 そう話しながら七瀨は、初めて祐二と出会った時のことを思い出していた。

そう言えば私は棒取りの棒で祐二を叩いて泣かせていたっけ?何とも恥ずかしくも懐かしい思い出である。


「そんな私のことを祐二と彼のお母さんが見つけて助けてくれたの。多分今の私って、祐二が居なかったら存在していないと思う。だから多分なんだけれども、今の私にとって彼のことは誰よりも大切…かも知れない」


 七瀨が話すその言葉をうんうんと頷きながら聞く雨子様。


「だからその、かなうなら祐二とはいつも一緒に居たい。これからも支えて欲しいって思うし、その…彼のことは好きだと思う…」


 そう言うと七瀬は両の手で顔を覆った。自分自身でも顔が真っ赤になって居るであろうことが感じられる。


「そうなのじゃな…」


 雨子様がそんな七瀨に静かに言葉を返す。


「それで?」


 七瀨は顔を覆っていた手を下げると雨子様に言う。


「雨子さんがこのことを私に聞くって言うことは、雨子さんもまた祐二のことを好きになったのじゃ無い?」


 さすが七瀨と言うべきなのか?いきなり核心を突いて雨子様に問うてきた。

顔を赤くしてうなだれる雨子様で有ったが、七瀨がここまで勇気をふるって応えてくれたことに自分が応えない訳には行かなかった。


「そもそもに我は神じゃ。じゃから本来人の人ならではの思いとか、恋心とかについてはよう分からんかった。ただその、この人の身になってから、時折何か違和感を感じるくらいじゃったのじゃ」


 雨子様はそう言うと、ちょっとの間七瀨のことをぼうっと見つめた。


「じゃからたまに胸の内が切のうなっても、それが何で有るのかまったく知らなんだのじゃ。じゃが祐二と関わり、あやつが何度も我のことを救うてくれたり、守ってくれたりする内にどんどん胸が痛うなってくるのじゃ。じゃがそれでもそれが何なのか自分では分からんかった」


 そこまで言うと雨子様は言葉を紡ぐことを止めた、その目からは銀の滴となって次々と涙が溢れていく。


「それで余りにも切ないので、祐二の母御に相談したのじゃ」


「お母さんに?」


「うむ」


 そう良いながら雨子様は顔をくしゃくしゃにした。


「そうしたらの、それは我が祐二に恋をしているのじゃと言われたのじゃ…」


 溢れ出る涙が止まらない。しゃくり上げてしまう身体の揺れが収まらない。悲しい心を引き裂くような苦しみの音が押さえても押さえても漏れ出てくる。


「…おかしいじゃろ?常々神を称して居るこの我が、幾千幾万も年の離れて居る男の子に、恋してしまっているというのじゃぞ?」


 七瀨はそうやって打ち震える雨子様のことを見て思った。これは一体誰なの?いつも自信満々に振る舞っている、あの神様じゃ無かったのかしら?

 なんて悲しい、なんて苦しい思いをしながら泣いているのかしら?


 こうして直ぐ側に、互いの温もりが行き来するような距離に居て、目の前でこんなにも慟哭している雨子様のことを、七瀨は捨て置くことが出来なかった。

 もちろん自分の思いだってある、でもだからと言って、こんな雨子様のことを抱きしめて上げられないなんて、そんなことって絶対に無い!


 そう思った七瀨はもう無我夢中で雨子様のことを抱きしめ、そして自分も泣いた。


 泣いて泣いて泣いて泣き尽くして、涙が涸れ果てるまで二人で泣いた。

やがてこれ以上泣くことが出来ない、そんな風に思えるところまで泣いたところで、二人の元に一時凪の時間が訪れた。


「すまぬのあゆみ」


 嗄れた声でぽつり雨子様が言う。


「どうして?」


 同様に七瀨も声にならぬ声で問う。


「我はそなたが祐二のことを好いて居ると知って居った」


「うん、ばれてた?」


「くふぅ、ばればれじゃぞ?」


「そっか」


「じゃから我のこれは横恋慕じゃ」


「横恋慕?」


「うむ、有っては成らぬ恋心じゃ…」


 軋るような声でそう言う雨子様に七瀨は首を横に振りながら言う。


「そんなことない!恋するのに早いも遅いも無いよ!」


「じゃが…」


 そう言う雨子様のことを七瀨は再びぎゅうっと抱きしめた。


「駄目、諦めちゃ。絶対に諦めちゃ駄目!」


「じゃがそれではあゆみの思いはどうなるのじゃ?我ならば、我ならばこの思い、記憶、消してしまうことも不可能では無い…」


 驚いた七瀨は思わず身を引き離して雨子様の目を見る。


「なんてこと言うの雨子さん、私怒るよ?」


 そう言う七瀨の目は、表情は本気になって怒っているもので有った。


「ど、どうしてあゆみが怒るのじゃ?」


 雨子様は分からないとばかりにいやいやをしながらそう言う。


「だって、だってね雨子さん。雨子さんもまた私の大好きな人なんだよ?その雨子さんが、雨子さんだけが辛い思いをするなんて絶対に嫌!もし消すんだったら私も消して!」


 そう言う七瀨の言葉に驚き目を見開く雨子様。

そして雨子様は知る、人の思いの本当に深きことを、人の思いの本当に優しきことを。


 なんと人と言う存在は愛おしく、輝かしいものなんだろうか?

ただ神として人から離れたところで座視するでは無く、人の身を得てその中に混じったことで初めて知り得た人と言う存在の素晴らしさ。


 くすりと雨子様は笑う。


「どうしたの雨子さん?」


 既に辛い思いから解き放されつつあることを、肌で感じていた七瀨が言う。


「人間という存在の素晴らしさに感動してしもうたのじゃ」


「そうなの?」


「うむ、のうあゆみ…」


「なあに雨子さん?」


「そなたも我にとって、本当に無くては成らぬ存在じゃ」


「うふふふ、嬉しい…」


「それと共にじゃな、神なんて大したものでは無いと痛感してしもうた」


 すると七瀨は優しい言葉でそれを否定した。


「ううん、そんなこと無い。私も祐二も雨子様が居たから救われていることが沢山あるの」


「そうなのかえ?」


 雨子様は驚きで目を丸くしながら言う。

すると七瀨はくすくすと笑いながら言う。


「手始めにもう少ししたら年末テストがあるからよろしくね?」


 一瞬、きょとんとする雨子様。

その様を見てケラケラと笑う七瀨。


 さて一体自分は七瀨にからかわれているのだろうか?それとも?

だが結局そんなことはどうでも良かった、今はただそんな風に言ってくれる七瀨のことが、ただただ無性に愛しかった。え?愛しかった?


「のうあゆみよ?」


「なあに雨子さん?」


「もしかすると我はそなたにも恋して居るかもしれん?」


「ええええええええ?」


 果たしてこれは雨子様の冗談なのか本気なのか?雨子様自身にも分からないことだった。ただその後、二人の中から溢れ出た笑いは底抜けに楽しく、底抜けに晴れ晴れとしたもので有ったことだけは間違いの無いことだと思う。




 さてさて、この先もどうなっていくのかなあ?

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