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天露の神  作者: ライトさん
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初詣へ二

 世に男女平等をうたうことが多いけれども、それぞれがぞれぞれに大切にされていると感じられたら、そんなに目くじらを立てることには無いのになと思いつつ、今回はだめだめの祐二君が責められます

 さて初詣なのだが、この地域でもっとも大きなところと成ると、当然のことながら和香様が主神の宇気田神社と成る。

 なので僕を含めた一団はその神社に向かっているのだけれども、わいわいと話を交わすような状態に成っていくと、自然男子と女子に別れるように成ってくる。


 その男子達に混じって正月に有ったことなどを話しながら、楽しく時間を過ごしていたのだが、不意に背筋に何かの気配を感じて振り返ると、何となくだけれども七瀨の視線が向いていたように感じた。


 彼女は雨子様となにやら真剣に話し込んでいる。皆が藹々(あいあい)と楽しそうな話をしている中で、彼女らの醸し出すその雰囲気は少し異質だったが、何か有ったのかな?


 だが何かと話しかけてくる友人達との会話に紛れて、いつの間にか彼女たちのことはすっかりと忘れてしまっていた。


 宇気田神社の最寄り駅に着くと、大勢の参拝客が次から次へと神社目指して歩いて行く。綺麗に着飾っている人が多いせいか、その人混みがとても華やいで見える。


 そこに紛れて三々五々歩いているといきなり袖を引かれた、見ると七瀨だった。


「どうした?何か有ったの?」


 七瀨の背後には雨子様が知らん顔して歩いている、何かやっかいごとでなかったら良いのだけれども。

残念ながら自分の得に成るようなことにはとんと働かない勘なのだが、こう言う面倒ごとに対してだけは外れた例しがない。それはそれで有用なことなのかも知れないが、一気に憂鬱に成ってしまう。


「雨子さんのことよ」


 七瀨は口を尖らせながら言う。はて?七瀨が怒らなければならないようなことって何か有ったっけ?考えを巡らせるが何も思いつかなかった。


「呆れた、その様子だと何も分かっていないわね?」


 七瀨の声が高まる、二人の共通の友人達が遠巻きにしてそんな僕達のことを見守っている。


「おっ?また始まった?」


「あら、本当ね、もうここまで来たら夫婦げんかみたいなものよね?」


「あ、それそれ」


「うふふふ、言い得て妙って言う奴かしら?」


 皆好き勝手なことを言い合っている。

だが僕自身はそんなお気楽な状態でいることは出来なかった。


「祐二、あなた雨子様のあの着物姿きちんと見たの?」


 七瀨の言葉は僕にとって何とも唐突なものだった。一緒に家から出てきたのだ、見ていない訳が無いだろうに。


「何言ってんだよ、見てない訳が無いじゃ無い」


 すると七瀨は一気に機嫌を悪くした。


「じゃあ何で一言も褒めて上げないのよ?」


「…」


 まさかいきなり七瀨からそんなことを追求されるとは思っても見なかったので、ただ狼狽えるばかりでなんの言葉も返せなかった。


「女の子が一世一代の格好しているって言うのに、何にも言わないなんて最低よ?」


 まあ女の子とは言っても雨子様は神様なんだけれども、そんなことは関係ない?

僕自身としてはなんとは無しではあるが、神様の雨子様という部分が多いので、なかなかに浮ついた言葉を掛けにくいのは事実だった。


 だが周りの者達は誰もそんな風には見ていない。もっとも、七瀨自身は雨子様のことを神様だとしっかりと知っている。


 しかし普段の扱いを見ていると、七瀨にとっては雨子様は神様である前に女の子であると考えているみたいだった。


 僕の中では雨子様って言うのは、それはもう特別中の特別の存在、(そんなことを言いつつも泣きじゃくっている雨子様を慰める為につい抱きしめてしまうこともあったが)だからこそどうしても神様の女の子としてみてしまう訳で、女の子の神様とは何となく違うのだ。


 だが七瀨としてはそんな僕の心中を知ろうはずも無い。


「誰が褒めなくてもあなたがまず最初に褒めるものでしょう?」


 七瀨はすっかりお怒りモードだ。声のトーンがどんどん上がっていく。

お陰で僕達は徐々にでは有るが周りの注目を集め始めていた。


「お?喧嘩?」


「新年早々何やってんだか、だらしない彼氏だなあ」


「ほら、あんなの見てちゃ駄目!」


 なんだか酷い言われようだった。クラスメイト達はと言うと、触らぬ神に祟り無しとでも言うようにいつの間にか遠くに離れて様子見をしている。


「分かった、分かったから少し声のトーンを落としてくれよ」


 僕がもみ手をしてそう七瀨に頼むと、はっと気がついて周りを見回した七瀨は決まり悪そうに苦笑した。


「ごめん。ちょっと興奮してた」


 そう言って肩を落とす七瀨の背中を、どんまいとばかりにぽんぽんと叩く雨子様。

僕は大きくため息をつくと言った。


「僕も、僕もね、ちゃんと綺麗だねって褒めようと思って、その言葉を口から出そうとしていたんだよ?でもその矢先父さんに先手を打たれてしまって。おまけに雨子さんは雨子さんで父さんの言葉に照れ照れに成っているし、そう言うタイミングで何か言おうと思っても、難しいって思わない?」


 僕のその説明を聞くと七瀨は、理解の色をほんの少しだけ見せてくれた。

傍らの雨子様が、僕の言葉の一部に反応したのか耳を赤く染め、ふいっとあらぬ方に視線を向けた。


「まあその状況を聞くと情状酌量の余地が無い訳では無いわね?でもそれでも祐二が悪い」 


 声のトーンはすっかり落ち着いているものの、やっぱり依然として怒っている七瀨。


「どうしてお父さんが言う前に言わないの?とっとと言わないからこう言うことに成るのよ」


 こう言うことって何なんだ?そう思わないでも無いのだけれども、そんなことを言うほど僕だって馬鹿じゃあ無い。それに良い悪いじゃ無くって、論理を超えたところに答えが有ることもあるので、僕はあっさりと降参することにした。


「ごめん、僕が悪かった」


「分かれば宜しい」


 そう言うと七瀬はにっこりと微笑んだ。むう、確かにその笑顔はとびきりの笑顔には違いない、でも宜しいってなんだ宜しいって?僕としては尚も不満が残るところだったが、ここは世界平和を志して自身の心を納めることにした。


「皆から遅れちゃったみたいね、急がないと…」


 見ると友人達はだいぶ先に行っていて、人混みの中からちらちらとこちらの方を振り返っている。でも遅れたのは七瀨のお陰なんだけれどもね、とは思わない思わない…。


 急いで仲間のところに歩みを早める七瀨。その後から僕と雨子様二人も揃って急ぎ始めた。

そんな僕に向かって雨子様が小さな声で言う。


「すまぬの祐二、こんなつもりは無かったのじゃが、我がうかつに七瀨に言うた言葉のせいで…」


 申し訳なさそうにする雨子様。だが七瀨では無いが、元はと言えば僕の不手際でもある。


「いいえ、雨子さんのせいでは無いですよ、僕が最初に雨子さんに言っていれば…あの、その、着物姿本当に綺麗です」


 すると今度こそ顔を真っ赤にした雨子様は、はにかみながら下を向いてしまった。

でもそうなると皆からどんどん遅れてしまう、仕方が無いので僕はその手を握ると引いて歩き始めた。


 追いついてこない僕達のことが気になったのか、ふと振り返る七瀨。

その目が僕達の繋いだ手の上に落ちる。にこりと笑みを浮かべつつも、目に何かの影がふと横切る。


 親友二人の微笑ましい姿を喜びながらも、何故か痛みを感じる自分の心に、押さえるべきなのか、放置したままにするのかと迷い、決断を下せない七瀨。

 だが僕はそんな七瀨の心中を何も知らない。


 ようようにして追いつくと七瀨に言う。


「ごめん待たせたな」


「それでちゃんと言えたの?」


 僕は苦笑交じりに言う。


「なんとかかんとかね」


 僕がそう言うと七瀬は雨子様の様子をうかがった。


「本当になんとかかんとか、ぎりぎりの及第点のようね?」


「おま、そこまで言う?」


 僕がそう言うと七瀬がけらけらと笑った。楽しそうに笑うのだけれども、何か腑に落ちない笑い、僕はそう感じた。そこで僕はふと思い起こし、直ぐにも実行する。盛大な勘違いをしているとは知らずに。


「七瀨のその短コートも、暖かそうだし凄く可愛いな?初めて見るけど買って貰ったの?」


 僕のその言葉にわざと驚いてみせる七瀨。


「おお?祐二君はちゃんと学んだんだね?」


「おいおい誰様なんだそれは?」


 僕がそう言うと、七瀨は今度は本当に楽しそうに笑った。


 目の前に宇気田神社の鳥居が見えてくる、もう少しの道のりだ。和香様達、居られるのかな?そんなことをふと思ったのだが、直ぐに頭を横に振った。


 今日はクラスメイト達も居るのだ、そこに神様が現れる訳にはいかないだろう?

だが僕は直ぐに知ることに成る、神様達のしたたかさを。


 睡眠は大事です、はい。

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