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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「ピロートーク」

 因みに我が家ではクリスマスに何かご馳走を食べるとしたら、大抵イブがその日になるのですが、皆さんのお家ではどうだったのでしょう?

 さて、クリスマスイブの豪華なディナーが終わって、頑張った人々がその疲れを癒やそうとし始める頃。彼らの会話は始まった。


「今日はお疲れ様、節っちゃん」


 二つ並んだベットの片方で、寝る前に本を読んでる妻にそう話しかけたのは祐二の父、拓也だった。


「どういたしまして。それでどうだった?」


 節子がそう言うと拓也は熱を込めて言った。


「元々君は料理が好きで、いつも最高に美味しい物を食べさせてくれるけど、今日のはまた神懸かっていたよ」


 そういうと節子は文庫本を置き、少し体を入れ替えると夫の方を向いた。


「あなたにそう思ってもらえるのなら頑張った甲斐があったわ。でも神懸かっていたのはその通りかも知れないわね?」


 そう言うと節子は静かに笑った。


「だって本当に神様のお手伝いが有ったのですもの」


 節子のその言葉を聞いた拓也は頭を掻きながら苦笑した。


「そう言われてみたらそうだな」


 彼も少しばかりその様を見ていたのだが、丸で節子の動きを全て見切ったかのように動く様は、何時しか共にシンクロしていって、何かの舞を見ているかのように美しかった。 寄れば引き、引けば寄る。高く舞い、低く流れ、時に視線を交わし、笑みを浮かべ、いつまで見ていても飽きが来ないくらいだった。


「何だかね、雨子ちゃんと一緒にお料理していると、楽しくて仕方ないのよ。不思議なことにいくら動いても全然疲れないって言う感じなのよ」


 そう言う妻の言葉に驚きながら彼は言う。


「それはやっぱり神が降りていたのかも知れないなあ。もしかするとその時節っちゃんは、雨子様にとってのシャーマンのような役割をしていたのかも知れないね」


「シャーマン?ほんと、そうかも知れないわね」


 節子はその時のことを思い出しながら言った。


「ところであなた、最近の雨子様のことを見ていてどう思う?」


「どうって?」


「家に来られてまだ間がない頃に比べて、随分変わってこられたと思わない?」


 そう言われた彼は暫し思案しながら、話す言葉を選んでいるかのようにゆっくりと話した。


「確かにそうかも知れない、いやまさにそうだね。家に来られた頃はもっと触れがたいような雰囲気をしておられたし、僕達の間に交ざること自体、何だかおっかなびっくりのようにされていたように思うよ。でも今は…」


「でも今は?」


 節子は黙って夫が言葉を継ぐのを待っていた。


「何と言えば良いのだろう、まるで普通の女の子、学校でわいわいやっているどこにでも居る女子高生かな?って思う時が有るね」


 夫のその言葉を聞いた節子はくすくすと笑いを漏らすと言う。


「やっぱりそうよね、そして何だかとっても初々しいの」


「だな、そう言われると僕は、初めて出会った頃の君を思い出してしまうよ」


「あら」


 そう言うと節子は顔を赤くした。


「あの頃の私、そんなに初々しかったかしら?」


 その言葉に今度は拓也の方が照れる番だった。


「いやその、何だな、うん、僕にとってはそうだったよ」


 この瞬間二人の脳裏には、まだ出会って間もない頃のお互いのことが、思い浮かべられていた。


 その頃とは色々なことが変わっていて、何もかもが良い物ばかりでは無かったのは言うまでも無い。だが二人で積み重ねてきた物はお互い掛け替えの無いものになっていて、ただの恋でしかなかったその思いは、何時しか尊敬を交えたような深い愛情へと変質しつつあった。

 故に節子は拓也のことを、拓也は節子のことを心から大切に思い、これから先無くせぬ片羽だと思うようになっている。


 人と人が出会い、恋に陥ることは少なくはない。だが恋という炎はとても燃え上がりやすくはあるのだけれども、燃焼し尽くすのにそうは時間が掛からない。


 後に残るのは燃え残った灰のような残滓ばかり、そんな物ばかりを見ていてはいくら仲の良かった者同士とは言っても、やがてには居づらくなってしまう。目を合わすことすらなくなってしまう。

 そしてその行き先と言えば破局…と言うことになってしまう。


 だがそんな恋の炎を燃やし合っている最中に、熱量に惑わされることなく、更に相手の本質を見つめ、そこに何か尊敬に値する物を見つけられた者達は幸いだ。


 尊敬というものは人の価値観の根本に近いものが多いので、なかなかに冷めにくく、壊れにくい。故にこれを見いだすことが出来た者達は、恋という大火が覚めたとしても、尊敬という熾火で長く互いを認め合っていけたりもする。 


 なかなかにそこまで至ることは難しいのだけれども…。


「それでねあなた、最近の雨子さんなんだけれども」


「最近の雨子様がどうかしたのかい?」


 夫のその言葉に、今まで話そうか話すまいかと逡巡していた節子だったが、思い切って自らの思いを打ち明けることにした。


「彼女、自身では気が付いていないのかも知れないけれども、もしかすると祐ちゃんに恋しているかも知れない」


「雨子様がかい?やっぱり君もそう思うのかぁ」


「やっぱりってあなたも思っていたの?」


「うん、君の言う通り本人はそうは気が付いていないみたいだね。多分神様である雨子様としては、自身のそう言う感情を知らないというか、理解出来ていないのじゃ無いのかなって思うんだよ」


「ああなるほど、そう言うことなのね」


「僕としてはある意味ティーンエイジャーの初恋を見ている気分だな」


「初恋?」


「そう、初恋」


「うふふふ、そう言っちゃうともの凄く甘酸っぱいわね?」


「確かにね」


 そこで節子は少し不安そうな顔をして言った。


「一方、祐二ときたら大丈夫なのかしらあの子?」


「あははは、確かにね。思うに祐二の中では雨子様は雨子様で、多分神様って言う位置づけのままなんだと思うよ。だから大切に思っては居ても恋という認識には進めないって言うか、恋に出来ないのだと思う」


「そっかぁ。ねえそこでなんだけれども」


 節子は不安に思っていたことを改めて拓也に相談した。


「今は雨子様の力の補充?そう言うことらしいのだけれども、その為にいつも一緒に居て、寝る場所まで共にしているんだけど、この先大丈夫なのかしらって思ったのよ」


 その言葉を聞いた拓也は暫くの間考え込んだ。雨子様のこと祐二のこと、そして自分があの年齢だった頃のことを思い出しながら、色々なことを考えたのだ。


「まあ、普通に考えたらあんまりよろしくないだろうな?」


「やっぱりそう思う?」


「ただね、雨子様の思いって言うのはより精神的な面が大きそうだし、祐二は祐二で、未だ雨子様のことを雲の上の存在のように見ているところがあるからなあ。多分だけれども…」


「多分何?」


「祐二が雨子様のことを様付けで呼んでいる間は、何となく大丈夫のような気がする」


「なるほどね」


「それにね、雨子様はともかく、祐二は僕達親が思っている以上に賢明だと思う。今暫くは任しておいても良いのじゃないかな?」


「ん、分かった」


「でもまあ、二人のことをもっとも身近に見ているのは君なんだから、しっかりと見守っていて上げて。勿論僕も努力するから」


「そうね、出来るだけしっかり見ているようにするね」


「そうだね、後付け加えるとしたら、君自身が今まで以上に雨子様と良く話をすることだよ」


「私が?」


 怪訝な顔をする妻に拓也は笑いながら言う。


「だって君の直感ときたら、昔から僕が何をどうしようとしてもかなわなかったじゃないか?その君が普段からしっかり頻繁に雨子様と接していたら、まずもってトラブルに発展するところなんて想像出来ないよ」


「なあに?あなた私のことそんな風に思っていたの?」


「そうさ、そしていつも頼りにしているんだぜ?」


「う~~~ん、仕方無いなあ、まかされました」


「うん、よろしくね」


「でもね、あなた」


 そう言うと節子は手を伸ばして夫の腕に触れた。


「あなたがそうやっていつも、漠然とした私の心の中を上手く整理してくれるから、私は安心して前に進めるの。ありがとうね」


「それを言うなら君だってさ、僕の穴だらけな部分をいつも先回りして埋めてくれる、ありがとう」


 そう言いながら拓也は、妻の伸ばして来た手に自分の手を重ねる。


「この先あの子達はどうなるのかしら?」


「さてなあ、こればっかりは僕にも想像がつかない」


「一つ気になることがあるの」


「なんだい?」


「もし将来あの子らが人生をともにすることがあったとして、神様の寿命って人間の物よりも遙かに長いじゃない?それが苦痛になったりすることが有りはしないかしら?」


「さてこればっかりは当人達で無いと想像出来ないところが有るなあ。でもね節っちゃん、僕達人間の夫婦でも、日々常に共に在れるというのは実は期待というか、一つの思い込みでしかないんだよ」


「それってどう言う意味なの?」


 拓也の手を握る節子の手に力が入る。


「それは人生の中で起こる全てのことが未来においては確定していないってことなんだよ。多分こうなるだろうって言うことは有るけれども、そう言ったことは全て思いの上に有ることでしか無い。でもだからと言ってその何もかもに対して不安に思うことは無いだろう?」


「確かにそうね」


「最善を尽くして目一杯楽しみながら未来に向かって生きるしかない、そう思うし、それで良いんだと思うんだ。彼らがそのことを悩むのならともかく、僕達が同じ目線で悩んでも仕方が無いというか、かなうなら一歩引いて見守って上げられたら…そんな風に思う」


「やっぱり拓ちゃんは頼りになるわね?」


「あははは、お互い様だよ。さてそろそろ寝ようか?」


「ええ、明日もあなたはお仕事ですものね」


「そうさ、クリスマスその日だというのにね。げんなりだよ」


「あらあら、いつからそんな敬虔なクリスチャンになったのかしら?」


「これは一本取られたな…お休み節っちゃん」


「おやすみなさい、あなた」


 さしたる間を置かず二人の静かな寝息が聞こえ始める。はたしてどんな夢を見ているのだろうか?素敵な夢で有りますように…。

 雨子様の内にある思いが徐々に周りの者達からも認識されつつあるようです。

ただ当の雨子様自身がもっともそのことに気が付いていない。案外そんな物かも知れないなあ

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